「絶望の福音」
「早く済ませてくれよ。
まあ、俺が今度も勇者なのは当然だと思うがな」
「ええ!そうですわ、エドワード様!!」
「エドワードがいる限り、この国は、いいえ、この世界は平和よ!」
「うん!」
本来ならば厳格さが求められるべき女神の神殿の聖域。
その中にも拘わらず十年前の勇者と彼の妻たちは女神への畏怖や敬意を知らず、勇者は踏ん反り、妻たちは囃し立てる。
女神が寛容で害を与えぬが、その不信心な姿に僅かながらの良識を残している貴族や神官たちは内心、不快感を感じていた。
しかし、この後に待ち受ける「絶望」という名前の運命はそんな彼らに例外なく降り注ぐことになる。
「はあ……わかりました……
では……」
神官長は神殿と教団、そして、女神への威光を感じていない彼らに眉をひそめていたが、それでも救いを求める人々と自らに課せられた義務のために女神による選定を受ける為に祈りを捧げた。
しかし、彼こそが最初に絶望を知ることになるとは誰も想像できなかった。
それも彼にとって、彼の人生の意味を無に帰するなるのであった。
「なんと……!」
神官長は最初、その宣託を知った時、喜びを抱いた。
何故ならば、それは彼、いや、この国生きる一部を除いた全ての人々にとっては最も望ましい形の内容であったからだ。
そう、本来ならば。
「……え」
「……?」
しかし、運命は、いや、女神は二つの理由で彼らにその様な都合のいい「現実/夢」を見させなかった。
「なっ!?あの者ですと!?何故……
いえ、ですが……!!?」
「神官長殿……?」
「どうしたのだ」
「……そんな馬鹿な……」
女神からの宣託を聞いた神官長の狼狽えぶりに周囲に不安が生じていった。
何と憐れだろう。
女神は悲しみのあまり、自分たちを見ていないことにも人々は気付けていない。
「お待ちくだされ!?
どうして我らを見捨てる様なことを……!!?」
「!?」
神官長は縋った。
しかし、もし女神に人間としての負の感情があるのならば、彼らに対してこう言うだろう。
『先に見捨てたのはあなた方でしょう』と
女神の救済の報せを受け取った神官長は告げられた深刻に焦りと共に絶望を抱いた。
誰もが望んだ希望は既に既に存在しないことを知り、彼はこの中で最初に絶望を知ったのだ。
希望は絶望へと姿を変えたのだ。
「我々の……私の人生の意味は……」
選定の儀式を終えて神官長は放心気味に呟いた。
ああ、無理もない。
彼は信じていた存在に見捨てられたのだ。
それを見て絶望は最初の味に満足した。
そして、彼女はこれと同じ質のものが続いていくと理解し、さらに心を躍らせた。