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「狂気との会偶」

まさか……自分の作品がランキングに乗るとは思いもしませんでした!

読者の皆様の為にも頑張らせていただきます!

(え……?)


 最早半死半生などという領域を超えて死が既に目の前までに見えている捕食の光景が繰り広げられる中、その声の主は現れた。

 突然の乱入者に捕食されている少年だけでなく、人の言葉を解さないはずの獣たちも反応した。


(女の子……?)


 既に視力も失いかけているアレンはそのぼやけた視界と遠くなっている聴力から入ってくる僅かな情報からこの場に現れたのは自分よりも少し年下の少女だと判断した。

 しかし、少女の格好はとてもこの場所には不釣り合いのものだった。

 少女が来ている服はレース、フリルやリボンによって飾り付けられた黒を基調とした華美なものであり、少なくともこんな人が寄り付かないような森に着てくるものではなかった。

 いま、この場においては異質な存在だった。

 何故こんな所に少女がいるのか、アレンはわからなかったがただ呆気に取られるだけだった。


「グル……」


(え……)


 少年は自分の身体から魔物たちの牙が抜けていくことを感じ、そして、魔物たちが後退り、いや、少女から距離を取ろうとしていることに気付いた。


「ねえ?魔物さんたち。私、そこの彼とお話がしたいの。

 いいかしら?」


 少女は誰もがその表情を見れば心を奪われそうなニッコリとした無垢な笑みを浮かべながら魔物たちに丁寧なお願いごとをした。

 外見からして非力な少女が人食いの魔物にそんなことをするのは明らかに自殺行為に等しく、傍から見れば少女もまた少年と同じく魔物たちの餌食になるだろうと想像するだろう。

 だが


「ガルル……ギャン!!?」


(えっ!?)


 結果は全くの逆であり、魔物たちの方が何か恐ろしいものを感じ取って言葉通りに尻尾を振って逃げだしていった。

 その様子に少年は理解が追い付かず、少女は相も変わらず微笑みを浮かべるだけだった。


「………………」


「!」


 周囲が静まり返って沈黙が流れてしばらくして少女は既に半ば死骸と化している少年の方にゆっくりと歩を進めた。

 魔物たちが去り捕食という名前の介錯が訪れなくなったことで少年の身体から失われていく命を表すかのように血がドクドクと流れ出していた。

 魔物たちが与えた傷は既に致命傷であったが、少年に死という安楽を即座に与えず苦しみを与え続け絶望の中にいる少年を更に苛ませている。


「………………」


「……っ」


 既に息も絶え絶えとなり一刻もいや、刹那でもいいから早く全てが終わって欲しいと願う少年の前に少女はようやく傍に立った。

 その表情はとてもだが、死の苦痛に襲われる人間を前にするには不自然なほどに穏やかだった。


「いいわ」


「……ェ……?」


 そんなあと少しで森に打ち棄てられた名も無き死骸へと成り果てようとしている少年を目の前にして、少女はそれだけでは一体、何を考えているのか分からない呟きを発した。

 そして、次の瞬間


「いいわ!!あなた、いいわ!!!」


「……え……?」


「久しぶりにいい臭いがしたと思ったら最高のものを見付けられたわ!!!

 あぁ……なんていい日なのかしら!!!」


 少女は目を輝かせゾッとする様な無邪気な笑顔浮かべながら大はしゃぎした。

 それは決して常人が目の前に死を迎えようとする人間を目の前にしていい言動ではなかった。

 まさに狂気とはこれのことだと言わんばかりに彼女は喜んだ。


(なんだ……この子は……)


 アレンは先程まで何事にも無関心であったにもかかわらず、目の前の少女に得体の知れないものを感じて恐怖した。

 死という人に、いや、全ての生命あるものにとって普遍的な最大の恐怖すらも薄れていたのに、少女のそれはアレンに恐怖というものが何であるのかを思い出させるものだったのだ。


「あ~!!いいわ!!!

 あなた、さらによくなったわ!!!」


「……ィ!?」


 アレンが恐怖するとそれに比例する様に少女の狂喜はさらに増した。

 アレンは既にかすれた声で悲鳴を上げるしかなかった。


「ねえ?あなた、今、苦しい?」


「………………」


 続けて少女はまるで相手が何事もない人間に声を掛けるようにアレンに訊ねた。

 その言葉の意味はまるで病人や怪我人を労わる様にも聞こえる。

 だが、少女の表情は楽しそうに遊び相手の友達に話し掛けるものと同質のものだった。


(早く……早く……早く!!?)


 アレンは最早、絶望からではなくこの恐怖から逃れるために死を望んだ。

 死よりも悍ましい破滅が迫っていると自らの知性と感情、本能の全てが警鐘を鳴らしているのだ。


「逃げちゃだめよ?」


「?!」


 少女は少年の逃げたいという渇望をまるで見抜く、いや、知っているかの様に自然に窘めた。

 多くの魔物と戦い、魔王という恐怖の具現を制した一人にもかかわらずアレンは目の前の少女の形をした何か心の底から恐怖し逃げたい(死にたい)と願った。


 何で……何で死ねないんだ!?


 だが、本来ならば後数分、いや、数十秒もしないうちに死ねるはずの状況なのに少年は死ねなかった。

 少年は恐怖と苦痛の自らの感覚が狂い時間を遅く感じているのではと考えた。


「もう……逃げちゃダメって言ってるのに……

 でも、もう関係ないけど?」


「……ェ……」


 少女は無邪気な笑みを深めながら少年に語り掛けてきた。

 その直後少年を更なる絶望へと突き落とす言葉を掛けるのだった。


「だって、あなた()()()()()()()()()()


「ェ……?」


 少年は今度はまるでこの世の理を壊す何かに遭遇したかのような意味で彼女の言葉の意味が分からなかった。


「あなたには魔法をかけたの。

 あなたにはもっと苦しんでもらうためにそのまま生きてもらって私がいいと言うまで死ねないようにしたの……

 ウフフ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


 少女は遂に我慢できなくなったのが狂ったように大きな声で遠慮なしに大笑いした。


「……ァ……ェ……?」


 既に血が失われ呼吸困難に陥り思考が定まらなくなったアレンではあるが、目の前の少女の言葉の意味はわかった。

 その言葉は少年を絶望の奈落にあるそこに落ちたものを蝕む闇へと放り投げるものであった。

我ながらこのヒロイン、外道かつ鬼畜。というか悪役じゃないのかと思いながら書きました

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