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「絶望の森」

今回は10話で終わる予定の作品です

とりあえず、言うとヒロインがかなりのド外道です

 腰にある剣以外の全てを失った少年アレンは既に目に込める力を失い虚ろな目をしながら当てもなく黒く深い森の道を歩いていた。


「何でだ……何でこうなったんだ……」


 少年は怒りや悲しみ、憎しみすらも失い、ただ力なき声で己の抱いた絶望に対して自問自答を呟くだけだった。


『アレン。本当にしつこいわよ。

 あなた、エドワードに嫉妬しているからって私たちの幸せにまで口を挟む気?』


 かつては将来を誓い合ったはずの幼馴染の冷たい軽蔑の言葉。


『義兄さん。

 結局、自分のことしか考えていませんよね?』


 幼い頃に孤児であった自分を拾い実の家族同様に愛してくれた育ての親の娘にして妹分からの決別の言葉。


『勇者様に敵わないからその栄光を陥れる……

 なんて浅ましい方ですの!』


『救国の英雄である勇者殿を妬む奸物よ!

 今回の旅の功績で死罪は免れよう!即刻立ち去れ!!』


『勇者様に嫉妬する情けない男!』


『おら!とっとと出ていけ!!』


『お主はこの村の恥じゃ!!』


 魔王を倒しその功績から既に王女を正妃として迎えられるにもかかわらず婚約者がいる女性をも側妃として迎えようとしたことにその婚約者である少年が難色を示した結果、王女と王は少年を勇者に嫉妬し不当に貶める逆賊として国から追い出した。

 そして、救世の英雄の一人であるその少年を関係のない人々どころか少年の生まれ育った故郷の人々すらもが勇者の功績を妬み、勇者とその恋人たちの愛を邪魔する悪人として罵声と石を投げながら追い出した。


 父さん……母さん……おじさん……おばさん……もう疲れたよ……


 少年は生まれた頃から存在を知らなかった実の両親とその両親に代わって深い愛情を注いでくれた育ての親たちに心の中で弱音を漏らした。

 少年が旅に同行した理由は己もまた女神に選ばれた英雄の一人であるが同時に聖女である将来を誓い合った幼馴染と魔物の襲撃で亡くなった育ての親の分も守ることを決めていた妹分を守る為だった。

 しかし、少年はその幼馴染と妹分、そして、生まれ育った故郷にまで拒絶されたのだ。

 少年は世界でたった一人になってしまった。


「おじさんも……おばさんも……いや、父さんも……母さんも……」


 既に多くの者に拒まれ、裏切られた少年は自らに無償の愛を教えてくれていた育ての親と未だ見ぬ実の親すらも信じられなくなった。

 生きていたら彼らすらも自分を拒絶したかもしれないという恐怖を想像してしまったのだ。

 それ程までに今の少年の心には絶望が渦巻いていた。


「グルル……!!」


「………………」

 

 そんな絶望の真っ只中にいるアレンの心の死を嗅ぎ付けたかの様に狼の様な魔物が群れをなして現れた。

 しかし、自らを死の運命へと導くその獣たちの姿を目にしてもアレンは動じることはなかった。


「……もう……どうでもいい……」


 全てに疲れた少年は簡単に蹴散らせるにも拘わらず絶望に誘われるままに眼前の運命に身を委ねた。


「ガルルルル!!」


「あがああああああぁぁあっぁぁぁぁああああああああ……!?」


 それを見て魔物たちは一斉に少年に襲い掛かり思いのままに肉に自らの牙を突き立てた。

 少年はその死に続く痛みに絶叫した。


 痛いなぁ……

 でも……これで……


 しかし、その断末魔に等しい叫びの後、少年はその先にあるであろう無を望んだ。

 既に苦しみと空虚から救われることを願って。


「へえ~。

 美味しそうな臭いがすると思ったら……

 これは本当にいいわね?」


 と凄惨な場にそんな少女の声が聞こえてきた。

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