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三話 初クエスト

 一晩経って冷静に考えてみた。いや、冷静とは程遠い精神状態なのは自分でもわかっている。しかし今の自分なりに考えてみた。


 昨日手に入れた地図を見るに、この世界には7つの大きな国家が存在しているらしい。狭くはないが、この世界は広くもないらしい。ずっと篭っていれば、別の転移者と出会う確率は低くなるだろう。


 しかしまずは同じ境遇の人を見つけて、話し合いたいところだ。さすがに同じ地球人出会った途端、殺しにかかってくる人なんていないだろう…たぶん。


 でも万が一ということもある。そう、万が一だ。万が一もしやばいやつがいたとなれば、抵抗できなければならない。つまり、俺は冒険者になり、魔獣を倒してレベルを上げておく。


 あの鳩が最後にさらっと言っていた能力はまだなんのことかわからないが、他の人がもうわかっていたのだとしたら不利になる。しかし見つける方法もないので、とりあえずはレベル上げだ。


 真喜はギルドの前にやってきた。そして昨日出会ったパーティーの元へと、足を運んだ。


「おお!真喜か!俺はお前がくるって信じてたぜ!男だもんな!」


 パーティーを見つけて駆け寄ると、いち早くアースがこちらは声をかけてきた。


「はあ」


「なんだよ浮かない顔して、今日から冒険者だぞ?シャキッとしろよ」


「わかったよアース。でも昨日はあまり寝られなかったんだ」


「なんだよそれ、意外と可愛いとかあるじゃねーか」


「うるさいな」


「まあリーダーの俺についてくればなんとかなるさ」


「ほんとかよ…」


 すると横でふふと微笑んでいるアリエルが、


「真喜さん、来てくれてありがとうございます。私も信じていましたよ。これからよろしくお願しますね」


「あ、ああ。よろしく。えっと、アリエル」


「はい」


 今度は後ろからガバッと何者かが飛び込んできて、首に腕を回された。


「マッキー!やっぱりきたのね!よろしくね!マッキー!!」


「よろしくって…ちょっとやめて、エレナ。色々と当たってるから」


 後ろから来たのはアリエルだった。しかし後ろから密着されると、絶対当たっている気がするが、あれが。


「当たってるって?装備のこと?」


「あ、装備…そ、そうだよ、装備装備」


「ごめんごめん。痛かった?」


「いや、大丈夫…」


「なんか元気ない?」


「そんなことないが?」


 胸が当たってなくて残念だとか、絶対言えない。


 なんだなんだ?とエレナにツンツンされているなか、1人の大男が真喜の前に立つと、


「真喜くん、よろしくね。来てくれてありがとう」


「そんな、こちらこそ、これからよろしく、ローガン」


「うん!」


 一通り挨拶を終え、


「それじゃ行くか!」


 アースの一言でパーティーはギルドに入った。


 しかし立ち止まり、振り返って言った。


「おい、真喜の装備は?」


「「「「あっ」」」」


 みんな忘れていたようだーー



 気を取り直して、真喜達はギルドに入った。


 真喜の装備は武闘家だから、装備は双剣、つまり二刀流だった。単純に言えばかっこいいのだが、本当に扱えるのだろうか。アースは「剣は一本じゃねえと、かっこ悪りぃ」と言っていた。たしかに二刀流はカッコつけとしか思っていなかったが、本当に大丈夫だろうか。防具は軽装備で、動きやすいものにした。もちろん、皆様のおごりだ。



 ギルドに入って、アースが真喜は初めてだからと、比較的簡単なクエストを選んでくれたらしい。真喜は依頼書を見てみると、こう書いてあった。


 [オーク討伐]


 オークか。ゲームやアニメの世界でも、初歩のモンスターとして名を馳せていたな。この世界でも弱い方の魔獣なのか。


 真喜達は転移装置のある部屋に向かう。初めて転移装置の部屋から出た時は気づかなかったが、同じような部屋がズラリと並んでいて、1つ1つドアに名前が書いてある。


 これから俺たちが行くのは、森林地帯の、マグニヒコ大森林というところらしい。早速その部屋を見つけ、転移装置の上にのる。転移装置というのは、床に魔法陣が描かれているだけだが、この魔法陣に空間魔法が施されているらしく、これを作れる人は世界に1人しかいなかった。今その人の行方は誰も知らないだとか。


 視界が真っ白になる。次の瞬間、真喜の目に緑の木々が広がっていた。どうやら着いたようだ。


「冒険…」


 初めてで緊張する。しかし大丈夫だ。頼りになる人たちがついているのだ。


「そういえば、みんなの職業聞いてなかったな」


 不意にそんなことを呟いてみると、クエスト中だってのに待ってましたと言わんばかりにアースがこちらを向いてニカっと笑った。


「よく聞いてくれたな!俺の職業は剣士だ!将来伝説の冒険者になる男だ」


「伝説?」


「そうさ!魔獣王を倒した伝説の勇者のようにな」


 剣を空に突き立てて高々と宣言するアースに、エレナが首を横に振りながら、


「魔獣王を倒したのは魔法使いでしょ?あんたじゃならないわよ」


「なんだとエレナ!気持ちが大事なんだよ気持ちが」


「へー、きもちねーえ」


 またガミガミと喧嘩しだした。この2人はよくいがみ合うようだ。この前ギルドでもなんか言い合っていた気がするが、本気ってわけでもないのは見ていればわかる。


「エレナは?随分軽装備だけど」


 エレナはアースと取っ組み合いながら顔だけこっちへ向けると、


「私は盗賊よ。基本サポートやお宝の収集ね」


「そんな職業もあるのか」


 盗賊か…戦闘向きではないらしいが、サポートはありがたい。


「へっ、お似合いだぜ」


「そーゆーこというんだ、はーん。今度お宝見つけても分けてあげないんだからね」


「ちょっと待てよ、それは話が違うじゃねえか」


 再びいがみ合い出したアースとエレナをほっといて、ローガンとアリエルの職業も聞いとこう。


「アリエルとローガンは?」


「私は僧侶です。ヒール役と言った方がわかりやすいですかね」


「僕はアースくんと同じ剣士だよ」


 回復もできるのかこの世界は。本当に便利な世界だ。ローガンはガタイが良くてとても強そうだ。


 ここで少しパーティーメンバーや説明をしよう。


 まずはこのパーティーのリーダーである、アース・レイル。


 短髪で暗めのブランド、真喜より頭一つ分背が高く、もともとこの世界の人の平均身長は日本人のよりはるかに大きい。しかし男らしいを凝縮したような顔立ちで、男でも思わず惚れてしまいそうなくらいかっこいい。いや惚れないけど。職業は剣士で、腰に帯びたロングソードを持つ姿はすごく様になっている。あと右手の人差し指にはまた指輪が気になるが、今度聞いてみよう。


 次に何かと明るいエレナ・ベルクブーテン。


 性格と一緒で髪色も明るいブロンドで、アースとエレナで金髪コンビである。金髪が良く似合う端正な顔立ちで、いかにも無邪気そうで、双眼も金色に爛々と輝いている。職業は盗賊で、本人も金好きなようで納得している。


 そして綺麗な紺碧色の髪が特徴的な女性であるアリエル・ホテイ。エレナがロングに対し、アリエルは肩までのショートの髪型だ。


 アリエルやアース、ローガンが背が高いせいか、アリエルが比較的小さく見えるが、そうでもない。真喜も日本では高い方であったが、アリエルは真喜より少し小さいくらいだ。丸顔で優しい目をしていて、落ち着いている人だ。落ち着いていないのは大きく実った胸部だけ…こほんっ。職業も僧侶ということで、この人なら背中を任せられる。


 そして最後の砦、ローガン・ダンテモリス。


 屈強な肉体が目立ち、大きな体を持っている。背中に背負った大剣と相まって貫禄を感じさせる。比較的重装備で、大砲役だろう。そんな見た目とは打って変わって、タレ目で、人がとてもいい。優しくて、日本でいうギャップが激しい人だ。


 そして昨日入った新人草子真喜、この世界風だと、ソウシ・マキだ。職業は武闘家で、二本の剣を扱う。日本だけに?……


 今流行りのツーブロックとかいう髪型にしてみてはいるが、部屋に引きこもっていたため披露する機会がなかったが、思わぬ機会が与えられた。それは置いといて。


 まぁ特に特出した特徴はない、よく目つきが悪いと言われるが、そんなもん仕方ない。生まれつきだ。運動神経は悪くはない。勉強はあまりできない。以上だ。


 そんな烏合の衆のようなパーティーは、大森林で魔獣退治のクエストを受けているが、なかなか魔獣が見つかんなくて、みんなして木の日陰で魔獣を待っていた。


「いないわね」


「そーだな、俺を見てみんな逃げちまったか?」


「それはないわね、アース」


「なんだとエレナ」


 もはや恒例行事。出会って二日でこの2人の喧嘩に慣れてしまった。


「静かにしてください…何か聞こえます」


 アリエルが目を瞑って耳をすます。


「エレナ、敵察知を」


「もうしてるわ。どうやら来たようね、オークが三体、東の方からきてるわ」


「よしお前ら!戦闘準備をしろ!」


「…」


 初めての戦闘、真喜に緊張が走る。それを察したのか、いや真喜の顔がこわばり過ぎていてそれに気がついたアースが、


「ビビんなよ!俺がついてるからな!」


「アース…」


 なんと頼もしい。でも何故だろう。不思議と恐怖心はない。それに昨日服を脱いだ時、自分の体が一回り大きくなっているような気がした。筋肉もついている。レベルと身体能力や精神はこの世界では関係が深いようだ。


 森の奥から三体の黒い影がこちらへと近づいてくる。向こうとこっちに気づいているようで、一歩の槍を構えて息を荒くしている。だんだんその姿がくっきりと見え、真喜は想像とオークと違わないことを確認した。


 豚のような顔に、牙が鋭く伸びていて茶褐色の肌が汚らしい。胴体に防具を身につけて、槍を持っていることから、戦いに慣れているのだろう。その醜悪な姿に、日本にいた頃の真喜なら恐怖で震え上がっていただろう。が、今は違う。


「怖くない…?」


「なんか言ったか?真喜」


「いや、なんでもないよアース」


「さあ、初クエスト、かっこいいとこ見せてやんよ」


「ああ」


 真喜とアースとローガンが前衛で、エレナとアリエルが後方支援。特にローガンは最前衛で敵の攻撃を食い止める盾役も担っている。


「いくぞッ!!」


 アースの合図で前衛の3人が一斉にオークに向かって走り出す。1人1体ずつオークの相手をする。作戦とは言い難いが、最も効率の良い戦略だろう。


 一体のオークを前に、真喜は迷いなく突っ込んでいく。自分が思ったより速く走れたようで、一番最初にオークと刃を交えたのは真喜だった。


 真喜は腰から日本の剣を抜いて、オークの槍を受け止めた。オークとの距離はほぼゼロ。オークの荒い息遣いが伝わってくる。くさい…。


「どりゃッ!!」


 思い切り力を込めてオークを後方へ押し切る。少し怯むもまた槍を振りかざしてくる。しかし隙だらけだ。真喜はオークの伸びきった腰を背中めがけて切り裂いた。そして残った片方の剣で腰から肩にかけて深々と斬りつけた。


 オークから大量の血が噴き出し、一瞬でオークは原型を失い1つの黒光りする石へと変わってしまった。


「勝った…」


 戦闘経験皆無だったのだが、戦闘中体が軽く、思い通りに体が運べた。これもやはりレベルが関係しているのだろうか。


「やりましたね、真喜さん!見事です」


「やったねマッキー!さすがだよ!!」


 アリエルとエレナが賞賛の言葉を真喜に浴びせる。横を見ると、「負けてらんないな!」とアースがオークにとどめの一撃をオークに加えていた。ローガンも強烈な大振りでオークを吹き飛ばして、見事に勝利した。


 素早くエレナが魔獣石を袋に入れていた。この魔獣石がクエスト報酬を受け取るために必要なのだ。


「初討伐おめでとう真喜くん」


「ありがとう、ローガンもすごかったよ」


「へへ、そんなことないよ」


「俺もすごかっただろ??なぁ真喜?」


「ああ、さすがリーダー」


「まーこんなもんよ」


 2人とも褒められて嬉しそうにしている。まぁかっこよかったのは事実だが、単純だ。


「それにしても、初めてとは思えない身のこなしでしたね真喜さん。あなたは一体何者なんですか?ダンジョンの魔獣を倒したあのスキルといい、謎ですね」


 アリエルが不思議そうに真喜をまじまじと眺める。


「あれは俺にもわからない。でも今回はなんだか体が軽くて、うまく倒せたな」


「レベルが高いからでしょう。武闘家という職業の戦い方を初めて見ましたが、見事なものでした」


「そんな褒めないでくれよ、大したことないって」


 自分でもどうやってあんな動かしたのかわからない。ただそう動くべきだと思っただけなのに、体がそれについてくる感じだった。


「エレナさん、一応敵察知スキルを」


「わかったわ…って、なにこれ…」


「どうしたエレナ」


 アースがエレナに問いかける。エレナはそこから固まって動かない。


 そういえば、やけに静かだ。まあ最初から静かといえば静かだったのだが、なんか嫌な予感がする。


「やばいよアース、大量のオークがこっちに向かってきてる。しかも四方八方から」


「なんだって!?なんでそんなこと」


「わからない!でも危険だわ!速く逃げないと!!」


「オークごときいくらでも倒せるだろ!」


「違うの!中でも5体、普通のオークとはわけが違うわ」


「わけが違う?」


 真喜はなんのことかわからなくて、思わず聞き返してしまった。


「そう、この反応はーー」


 エレナが最後まで言い終わる前に、真喜はその異質なオークをその目で捉えた。


 さっきのオークより一回り大きく、盾と剣を構えた5体のオーク。明らかにオーラが違う。赤い目が血走っていて、皮膚がどす黒い。殺気立っているのが見てわかる。


「あれは…」


「オークリードです」


「オークリード?アリエル、なんだそれは」


「オークリードは、オークの亜種、いわば進化版とでも言いましょうか。稀に生まれるもので、滅多に姿を現さないのですが…」


 付け加えるようにエレナが、


「最近オークを狩ろうなんてパーティーは少なくて、無駄に増殖してしまったのね、でもその中から5体もオークリードが生まれるなんて」


「どうしますかアースさん!ここは一旦逃げるしか…」


「逃げるってどこに?もう大量のオークが迫ってきているんだろう?だったら迎え打つしかねぇ!」


「そうですが…」


 ゆっくりと距離を縮めるオークリードを前に、パーティーに緊張が走る。しかし真喜にはまだ恐怖心はない。どこかで負けないと思っている自分がいる。


「すまねぇなー真喜、簡単なクエストのつもりだったが、間違いだったようだ」


「そのようだな、俺は大丈夫だ、やれるぞ」


「頼もしいこった」


 アースが額に汗をたらして苦々しくニカッと笑う。どうやら今はあれが最大限の笑顔のようだ。それでも笑えるだけの余裕はまだあるのだろう。


「大丈夫だ、今の俺ならやれる」


 しかしそんな慢心は、すぐに砕かれる事になることを、真喜は知る由もない。











































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