二話 バトルロワイヤル
「ん?どうしたの?」
あっけにとられていた真喜を現実に引き戻したのは、金色の髪が眩しいエレナの一言だった。
「いえ、大したことじゃないんですけど…」
いや大したことだ。大したことなんてもんじゃない。でもやっぱり大したことだ。この光景、そこらの高校生にはわからないかもしれないが、俺にはわかる。
ここにいる人たちは多分冒険者で、ここはそうゆう人たちが集まる場所のはずだ。だってアニメでいっぱいみたことある。ここから新たな冒険が始まるのだ。
「一応聞きますが、ここってどこですか?」
「ええ!ここがどこか!?君本当に大丈夫?頭打っちゃったの??」
「いや、正常運転ですが」
「変なのー。ここは冒険者ギルドだよ?君もここからあのダンジョンに潜ったんじゃないの??」
「いえ、違います。気づいたらあそこにいて」
「気づいたら?なにそれ?」
「俺にもわかりません。わかることは自分がなにもわからないということだけです」
ふーん、と言ってエレナは受付のおねいさんのところへ行ってしまった。
やはりここは冒険者ギルドだった。ここからクエストやら依頼やらを受けるのだろう。さっきダンジョンもここから潜るとか言っていたし。
そんなことをぶつぶつとつぶやいていると、肩をトントンと叩かれ振り向くと、そこにはアリエルがいた。
「ねぇ、あなた本当にここがわからないのですか?だとしたらなんであんなところにいたのですか?」
「それが俺にもさっぱり」
「となると、もしかして職業もないのですか?」
「職業?学生ですが…いやそれは職業と呼ばないか気が…そもそも学校行ってなかったし」
「何を言ってるんですか?ガクセイ?よくわかりませんが、やっぱり職業ないんですね?」
「確かにニートに近かったですけど、人に言われるとなんか嫌ですね」
「さっきからなにを言ってるんですか?自分の適正職業ですよ?」
「ん?なんですかそれ?」
どうやら日本の職業とはわけが違うようだ。何か勘違いしてたらしい。人の話はちゃんと聞こう。いやでもなんの説明も受けてない気がする。
「適正職業っていうのは、自分に適した職業、つまり戦闘スタイルのことです。これがなければ、クエストも受けられません」
「なるほど、異世界に転移した選ばれた日本人…職業は勇者だったりして」
「勇者?そんな職業ありませんよ」
「ないんですかー、そーですかー」
早速夢破れた真喜ががっくりとうなだれていると、重そうな袋をジャラジャラと鳴らしながらエレナが爛々と走ってきた。
「みんなー!がっぽり稼げたわよ!これでしばらくは安泰よ!!」
「おお、良かった」
エレナの反応を見て、大男が安堵の声を漏らし、隣にあった椅子にダラーっと座り込む。よっぽど疲れていたのだろうか。確かにこのメンバーじゃ無理もない気がするけど。
「なーに安心してんだよローガン、俺たちの冒険はまだまだこれからだぞ?」
「もっと安心できる橋を渡りたいよアースくん」
「危険があるから冒険だろ?」
「まぁそうなんだけど」
そう言って目線を伏せる。大男のローガン。このパーティーではやはり、苦労は絶えないようだ。
「まあまあ、上を向いていれば、いいことあるぜ?」
「うん、そうするよ」
後ろの机に寄りかかって、ふぅー、と疲れの混じるため息をついた。
それを横目にエレナとアリエルは大金をどうするか話し合っていた。話し合いが終わったのか、エレナが近づいてきて、
「いくわよ!」
「どこに?」
俺の質問なんて聞く気すらないらしい。手を引かれてどこかへと連れていかれた。
真喜がそろそろどこへいくか聞こうかと思っていた時、不意にエレナが立ち止まった。
「君、名前なんていうんだっけ?」
そういえば、まだ名乗っていなかったか。
「草子真喜です。草の子に、真実の真に、喜びです」
「なに暗号唱えてるの?それに変わった名前ね。うんわかったわ。真喜ね、よろしく」
「あ、はいよろしくです」
「それじゃー行ってきて」
「だからどこへ?」
「職業占いよ。適正職業ないんでしょ?」
そう言って真喜の後ろを指差すと、そこには受付のおねいさんとは正反対の、しわくちゃのおばあさんがいた。
カウンターには椅子が1つしかなく、横には大きな水晶玉が置いてある。どうにも胡散臭いが、仕方ない。
真喜はテクテクと歩いて行くと、おばあさんに話しかけた。
「あの…職業を見てもらいにきたんですが」
「ええ??」
耳が遠いのか、耳に手を当てて聞こえないというジェスチャーをする。
「職業を見てもらいたいのですか!」
今度は耳元で大きな声で叫んだら、「うるさいわい!聞こえてるわ!」と怒られてしまった。全くどこまでも理不尽である。
「職業ね、うーん。じゃーその水晶に右手を乗せて?」
「こうですか?」
言われた通り右手を水晶に乗せる。すると水晶が光り出して、途端に体の中の細胞が踊るような、未知の何かが酸素と一緒に体に入ってくるような、なんともいえない変な感じがした。まあそんな感覚味わったことないんだけど。つまり初めての感覚ということだ。
「終わったよ、もう手を離してもいい」
「「それで??」」
気づいたら後ろにアースとアリエルが今か今かと待機していた。しまいにカウンターに乗り出して、結果報告を待ちわびている。
「魔法使いでしょ?絶対そうでしょ?あんな魔法それしかありえないわ!」
「いやいや剣士だろ?あれは伝説のフローズンクラッシュだ!」
「なによそれ。そんなスキルないでしょ」
「伝説だって言ってんだろーが!どっかの誰かはきっと使えるんだよ」
そんな会話をうるさそうに聞いていたらおばあさんがとうとう痺れを切らして荒々しく言い放った。
「武闘家!」
「ぶとうか?ですか?」
なんだろう武闘家って。名前からしてバリバリの攻撃型だろうか。それともサポート?なんか新しいカードパックを買うときのようなワクワク感があるな。
陽気に構える真喜と違って、アースとアリエルはその場に固まっていた。それに少し遠くでこちらを見ていたローガンとアリエルさえもが戸惑いの表情を見せていた。
「え、なに?なにこの反応」
真喜はわけもわからず、困惑するみんなを見て、困惑した。
真喜たちは広場の下の階にある酒場にきていた。まだ昼間だというのに、顔を真っ赤にした冒険者が騒いでは飲んでいる。さすが異世界、日本では見れない光景だ。
「かんぱーい」
真喜も流れでジョッキを持たされ、これまた流れで乾杯をした。
「まさか生きているうちに職業武闘家が見られるなんてなー。本当に実在したんだな」
「てっきり魔法使いかと思いましたよ」
「初めて見たよ」
「ならあの魔法はなんだったのー?」
大金が入ったことで浮かれたらパーティーが口々に真喜へ驚きの言葉をぶつける。続けざまにエレナは質問が止まらないようで、
「なんなのその服?見たことないわ。それになんであそこにいたの??てかどんな魔法使ったの???なんでなんで????」
「そんな一度に答えられませんよ。というか一個一個でも答えられませんよ」
散々と言われている服装だが、日本では別に変わった服装じゃない。高校のジャージだ。あそこにいた理由はさっぱり。魔法と言われてもピンとこない。
するとアリエルが、
「でもあの魔獣をあなたが倒したのは間違いないですよ。ギルドカードを見ればわかるはずです」
そう言われ、さっき見たのだが、ポケットからギルドカードを抜き出す。そこには職業名武闘家と書かれている横に、名前が書いてあり、下にはレベルという欄があるのだが、これが問題なのだ。
「なんでこんなにレベルが上がってるんですか?」
そう、真喜のレベルは45だった。普通1からで、ダンジョンやクエストで魔獣と呼ばれる化物を倒すと、レベルが上がるらしい。
「そりゃー、お前があの魔獣を倒したからだろう?あいつ相当強敵だったから、その分レベルが上がったんだよ」
アースはそういうと酒をぐいっと全部飲んで、机にガタンとジョッキを叩きつけた。
「俺たちはみんな20後半ぐらいだから、羨ましーぜ」
顔を真っ赤にして隣にいるローガンに「なぁ?」と腕を絡ませていた。
真喜は職業武闘家と言い渡された後、冒険者に必要なギルドカードを発行して、レベルの確認をしたところ、こんなにレベルが高かったのだ。
「まー細かいことは置いといて、明日からよろしくね!マッキー!」
「マッキー?それって俺のこと?てかよろしくってなんのことですかエレナさん」
「エレナでいいわよ、真喜だからマッキーね」
「じゃーエレナ。それでよろしくって?」
「だーかーら、私たちもうパーティーでしょ?だからよろしくって、そうでしょみんな?」
エレナが目線を配ると、納得したかのようにみんなが頷く。アースに至って机に足を乗っけて、「その通りだ!お前は今日から俺たちの仲間だ!」と言って剣を抜いて上に突き立てている。
「ちょっと待て!俺は帰らないといけないところがあって…」
でも、帰る方法なんて全く見当もつかない。異世界もののアニメで主人公が日本に帰るところなんて、果たして俺は見たことがあっただろうか。
「そうなの?真喜くん」
ローガンが心配そうにこっちを見つめてくる。この人は人の話をまともに聞いてくれるらしい
「ああ、まだ帰る手段は全然わからないんだけど」
「ならいいじゃない!それが見つかるまで!ね!」
「でも…」
パーティーって言ったら、クエスト受けて、モンスターを倒すあれだろ?帰る前に死んでしまったら元も子もないし。
「なぁ兄弟!お前ならできるさ。上を向いていれば、いいことあるぜ?」
わからない。ここで何をするために俺は転移したのか。何かやるべきことがあるのか?それとも偶然なのか。今はわからないことが多すぎるから、
「少し考えさせてくれ、それでもいい…か?」
ここで切り捨てられてもおかしくない。ここは異世界で、日本の常識も何もかも通じない。
せっかくできたつながりを無下にしてしまうかもしれないと、真喜は不安で俯く。
「いいですよ。当たり前じゃないですか。命の恩人ですよ?いつまでも待ちますとも」
アリエルがそっと肩に手を置いて、優しく微笑んだ。他を見てもみんな、うんうんとうなずいている。
「明日の朝、ギルドの前で待っていますね。心が決まったら、ぜひあなたの選択を聞かせてください」
「わかった。ありがとうアリエル」
「はい」
そして真喜は酒場を後にして、アリエルから銀貨が5枚受け取り、アースに案内された宿に泊まることにした。
「また明日な真喜、俺はお前が男だって知ってるぜ?」
などと言って一足先に宿へ入っていった。全くくさいセリフをああも簡単に言ってしまうと、逆に様になっているように思える。
真喜も宿に入り、硬いベットに体を預ける。途端に疲れが身体中を駆け巡って、魔法をかけられたかのようにそこから動けなくなった。
「魔法…異世界…冒険…か」
いまだに信じられない。夢ではないかと疑う自分がいる。それでも現実で、これからどうするかも全くわからなくて、
「不安だ」
誰もいない部屋で、そんなことをこぼしていると、開かれた窓の淵に、一羽の、あれは鳩?がとまっているのに気がついた。
1、2分ずっとそこにいてじっと俺を見つめている。かと思ったらあろうかとかこの鳩は話し出したのだ。
「これから、この世界に関すること、お前たちの今後について、手短に説明する」
「鳩が喋った!!」
驚きで思わず起き上がってしまった。それに今、確かに言った。世界に関すること、つまりこれは、今真喜に起こっている現象を、説明するものだ。
「お前ら?」
確かにそう言った。しかし真喜の言葉を無視して、その鳩は続ける。
「まずは先日の無礼を詫びよう。何も言わずに連れてきてしまったことを」
そこじゃないだろ、と思ったが、話を聞き逃したくないので、流すことにした。
「この世界に転移したのは総勢7名。この国のどこかへと散りばめられている。そしてこの伝言も、7名全員が聞いていることだろう。
それでは本題に入ろう。なぜ君達をこの世界に招待したのか…理由は1つ。君達に『殺し合い』をしてもらうためだ」
「殺し合い!?」
「そして、その戦いを生き抜き、生き残った勝者だけが、日本に帰る手段を得る。敗者は当然、もうこの世に残ってはいないだろう。
期限は無期限。最後の1人以外全員が死ぬまで、殺し合い永遠に続く。
暗殺、真っ向からの勝負。なんでもありだ。どんな手段でも相手を殺し、生き残ればそれでいい。
しかしこれだけでは君達は互いに見つけられない可能性が出てくる。それではいつまでたっても、どうにもならない。そこで、今から配布するものにはある機能が付いていてね。君達日本人同士が近ずくと、反応を示してくれるはずだ。だから安心してくれ」
安心?ふざけているのか?より一層恐怖を煽っているだけじゃないか。
「君達の死闘を望んでいる。くれぐれも易々と殺されないよう、自分を鍛えておくんだ。この世界ではレベルというものがあって、それを上げることで君達は肉体的にも精神的にも強くなれる。
それと、君達には君達しか持っていない能力がある。もう気づいている人もいるかもしれないが、それを有効活用してくれ。
これにて説明は終了だ。それでは始めようか…
『異世界バトルロワイヤル』を!!!
君らの活躍を、心から祈っているよ」
「待て!お前は一体なんなんだ?何がしたいんだ?どうしてこんなことするんだ?」
真喜の質問に最後まで応じず、最後に締めくくると、鳩がボンッ!と白い煙なって破裂した。代わりに床に何かが落ちた。
「これは…」
赤い宝石のようなものが付いているペンダントに、横にはこの世界の地図と思われる厚い紙。
「くそっ!」
ペンダントを壁に向かって思い切り投げつける。もちろん、ペンダントはびくともしないで、ベットにポトンと落ちる。
深呼吸をして、一旦落ち着く。
今の鳩の説明で、わかったことは、
この世界の何者かによってここは転移させられたこと。転移者は俺以外に6名もいること。
そして…
最後の1人になるまで、帰る手段がないということだ。
「馬鹿げてる」
俺以外の転移者が全員日本人だとしたら、こんな話のるわけがない。
それにここは異世界。あの鳩?を操っている奴がいるはずだ。
ここに来た転移者で話し合って、狂った首謀者を探し出す方が先決だろう。
真喜はポケットからギルドカードを取り出して、再度レベルを確認する。
「でも…一応な」
万が一に備えて、真喜は決意した。
「明日はギルドに向かおう」
と。