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一話 異世界転移

 勝者が正義


 それは世の常であり、勝者が絶対で、敗者は皆勝者を見上げて生きていく。


 ここ日本では、数が絶対の正義、つまり勝者となるのだ。たとえ1人が正しくとも、みんなが間違いだといえばそれはくるっと姿を変えて、瞬く間に異端児とされてしまう。


 だいたい人間という生き物は勝手なのだ。動物を食べてるくせに、絶滅しそうになったら保護する。増えすぎたら減らしてしまう。おかしな話だ。それなのに人間は増えすぎても、減らしはしない。


 だいぶ話はそれたが、そんな不条理な世界に牙を剥いた俺、草子真喜(そうしまき)は見事に打ち負かされ、今は俺だけの城塞国家。いわば自室に待機する日々が続いている。決していじめられていたわけではない。自分から引きこもったのだ。嘘じゃない。理由はもう述べたはずだ。


 それに俺は1人が好きだ。他人をあまり信じられない。信じられない奴らと一緒にいるなんて俺には無理だ。


 今日も真喜は自室で1人、小さい携帯画面の向こうで動く自分とは違う世界の住人を眺めていた。つまり、1日惰眠を貪って、暇なのでアニメという娯楽に興じていた。


 すると扉を2回、コンコンとノックする音が聞こえた。真喜はイヤホンをとって耳を傾ける。


「ご飯ここに置いとくわよ、あんた少しは運動しないと、不健康よ」


 母さんだ。俺はいつも通り返事をしないでいると、階段を降りていく音が聞こえた。どうやら行ってしまったようだ。


 これでも引きこもり生活はまだ3週間くらいで、まだ身体に異常はない。それに毎日キックボクシングの試合を、手に汗握りながら観戦している。だから大丈夫だ、うん。


「そういえば、昨日ネットでお勧めされたアニメ、なんていったっけな」


 携帯に移るアニメを消し、大先生に質問する。


「そうだ、これこれ」


 目当てのものを見つけ、即座にそれを見るべく、イヤホンをして、部屋をある程度暗くした。これが真喜のいつものスタイルだ。良い子は部屋を明るくしてみようね。


「おぉ…」


 オススメされただけはある。キャストも作画も素晴らしい。冒頭に続き、オープニングで真喜はもう心を奪われてしまった。そしてオープニングが終わり、


『これって……』


 日本生まれ日本育ちである設定の主人公が未開の地に、瞬きしたほんの一瞬で飛ばされた。世界観が180度違う世界。人型の動物や、羽が生えたドラゴンが家屋のはるか上空を飛行している。そう、これはーー


『異世界転生ってやつーーー!?!?』


 そんな驚きと歓喜が入り混じった叫び声を主人公の男が出したと思ったら、直後携帯画面が真っ白に光り出した。


 それに疑問を持つ間も無く、その真っ白な光が画面を飛び出し、3D技術の進歩なんかはるかに超えて、真喜の部屋全体を包み込んだ。


 あっという間の出来事。


 そして今は何も見えないし、何も聞こえない。目を瞑ってしまったからか?でも何も聞こえないのはおかしい。


 真喜は思わず瞑ってしまった目を、開けようと思ったが、


「痛っ!」


 直後アスファルトに叩きつけられたような痛みが右足から右肩まで襲う。いや、これはようなじゃなくて、本当に、


 ゆっくり目を開けると、そこには赤茶色の地面と、薄暗くてよく見えないが、おそらく同じ色であろう壁が視界に入ってきた。


 まだ痛みが治まらなくて顔を歪める。真喜は土を払いながら立ち上がった。


「ここは…」


 薄暗い空間だ。洞窟のようにも思える。どうやら何かの空間の中らしく、左右どちらも進めるような空間が奥まで広がっていて、果てが見えないくらい奥は真っ暗だった。


「どう…なったんだ?俺は確かアニメを見ていて、あれ?これってもしかして…」


 …てやつーー!?と言おうと思ったが、そんなの現実的じゃないし、ここただの洞窟っぽいし。


「ないな…うん。」


 ひとまずここを調べることにした真喜は、洞窟内をしばらく歩きまわってみるが、あるのは土と、石と、それだけだ。つまり何もない。


「よくできた夢なのか?にしては記憶も鮮明だし、意識もしっかりしてる」


 ほっぺをつねってみても、いつも通りの自室の天井は姿を現さない。これってやばいやつなんじゃ…


「監禁か?でも気絶もしてないのにいつの間にここへ来たんだ?」


 わけもわからず軽く絶望感に苛まれて、その場にへたり込んでいると、天井の土がポロポロと落ちてきて、鼻に当たる。


「ん?そういえばなんだか地面が揺れているような…」


 真喜は何か嫌な感じがして、立ち上がろうとしたその時、


「グヴァァァアア!!!」


 突如目の前の壁が突き破られて、代わりにそこにはけたたましい咆哮を上げながらこっちに突っ込んでくる、


「なっ!?」


 巨大な亀?いやサイか?どっちつかずだが恐ろしい怪物が真喜めがけて一直線に向かってくる。


「逃げて!!」


 声?いやそんなことどうでもいい。なんなんだよこれ、わけわかんねえよ。こいつは一体、夢だろ?そうなんだろ?


 しかし目の前の怪物はなおも猪突猛進。スローモーションに見えるのは、これが現実での処理が追いついていないからか?だとすると本当におれは…このままだと死ぬのか?わけもわからず、このまま…


 恐怖のあまり腕で顔を覆い隠す。もうダメだ。ここで死ぬんだ。くだらない人生だった。学校にも行かなくなって、親にも口聞かなくて、二次元に逃げて……。




「こんな人生、送るはずじゃなかったのにな」





『ゼツボウ』





 もうすぐあの怪物が俺を食べて、俺は痛みも感じないまま丸呑みにされて。いや、もうされてるのかもしれない。もしかしてここはもう天国だったりするのか。


 しかしいつまでたっても何か起こった様子はない。


 真喜はゆっくりと目を開けてみる。


 するとそこにはーー


「いや…わからねーよ」


 驚きが先行して、たった今自分がなんて言ったのか、もう自分でも覚えていない。頭が混乱して、目の前の現象を理解できない。


 真喜の視線の先には、まるでファンタジー映画やアニメや漫画などに出てくる謎の怪物が、分厚い氷に囚われていて、まるで雪像のようになっていた。


 その怪物は動く気配もない。どうやら生き絶えているようだが、何がどうなってそうなった?理解できなさすぎてあれそれだのと、曖昧な表現でしか言い表すことができない。


「ちょっと君!大丈夫!?」


 すると氷漬けになった怪物の後ろから慌てた様子で人が走ってきた。その人は日本ではあまり見ない、というか真喜は人生で一度も見たことがない金髪だった。日本人とは明らかに違う特徴のその人は、テレビで見たことがあるような女優顔負けのスタイルと美貌であった。


「ねぇ!?これって君がやっ、イタっ!?」


 足元の氷に滑ってどてんと転んでしまった。恥ずかしそうに顔を赤くするが、すぐ気を取り直し立ち上がり、駆け寄ってくる。


「いたた、それで…これ君がやったの!?」


「えっと、その…」


 これとはこの世にも奇妙な光景のことだろう。一面氷だらけ、突如として真喜の目の前に氷山がそびえ立ったのだ。しかし覚えもない。


 それを伝えようとするが、女の子どころか人とすらしばらく話していなかった真喜が言葉に詰まるのは当然のことだ。


「すごいや!君は魔法使いなんだね!!」


「魔法…?いやこれは俺じゃなくて」


「君杖は?ていうか何その服装?他の人は?どんな魔法なのこれ?」


 駄目だこの人。人の話を聞かないタイプだ。それに顔が近い。普通に…緊張する。


「ちょっとエレナさん、そこまでにしてください」


「でもねアリエル、この人が私達を助けてくれたんだよ?」


「なら先に言うことがあるでしょう?」


「そうだった」


 金髪美女のエレナが真喜の方を向いて、


「助かったわ!ありがと!」


 元気いっぱいにはにかんでみせた。


 こんな無邪気な笑みを向けられたのは久しぶり、いや初めてかもしれない。でも今はそれより。


「その…これやったの、俺じゃない、です」


 衝撃の事実を打ち明けるも、


「まったまた、謙遜謙遜」


「そうですよ、ここはあなた以外に誰もいないですよ?」


 2人して俺がやったと決めつけているが、本当に俺じゃないんだが…


「アースくん、ほらこっち来て、お礼言わないと」


「わかった、わかったから離せよ」


 さらに2人、今度は男が2人真喜の方へと近づいてくる。1人はとても体格が良く、でかい。そして連れてこられてきた方は、この人もまた金髪で、一言で言うと…イケメンだ。


「こいつが魔獣を倒したってか?信じられない…」


「アースくん、助けてもらったんだよ?その態度は」


「あーわかってるよ。助けてくれてありがとうな。ていうか本当に、助かった」


 最初はふて腐れたような態度だったが、仲間?なのかわからないが、この場にいる人を大切に思っているのか、最後は真剣にお礼を言っていた。


「うん、ありがとう、助かったよ」


 隣の大男も、見た目に似合わない優しげな声と表情でそう言った。


「あ、いえ。本当に俺じゃないんですよ。俺も気づいたらこうなっていて」


 しかし誰も聞いてやしない。


 さっきまで氷の彫像だった怪物はパッと黒い粒子のようなものが出現したと思ったら黒光りする石に変わってしまった。金髪二人組はそれを取り合っている。


 大男とアリエルという青髪の女性は真喜のほうを不思議そうに眺めている。するとアリエルが、


「あなたほかのパーティーメンバーはどうしたんですか?まさか1人でこのダンジョンに潜ってきたわけじゃないでしょう?」


「パーティー?ダンジョン?すみません。俺自分でもなんでここにいるのかわからなくて、気づいたらここにいたんだです」


「気づいたらって、転移魔法ですか?」


「魔法?」


 魔法っていったら、異世界ファンタジーには欠かせないあの!?


「いや、でも転移魔法はだれでも使える魔法ではないですし、となるとあなたは一体何者なんです?」


 それは俺が一番知りたいところなんだが、


「アリエルさん、まずはここから出ることを考えようよ」


 大男が真喜に気を使ってくれたのか、まずはここから出ることを提案した。


「そう…でしたね。すみません」


「出口がわかるんですか?」


「ええ、あなたがあの魔獣を倒してくれましたから。転移装置が出現しているはずです」


 前後の文が繋がらないと思うのは俺だけなのだろうか。


 その後黒い石を取り合っている2人をアリエルが引き剥がし、出現したという転移装置の元へと向かった。


「あのアースさん」


「やだな、アースって呼んでくれよ。命の恩人なんだからな。気軽に接してくれ」


「わかったよ、アース。それで聞きたいことがあるんだけど」


「いいぜ、俺の知っている範囲ならなんでも答えてやる」


 アースは頼りになる男らしいことを言って、歯を出してニカッと笑った。そんな笑顔を女性に向ければ、きっとイチコロだろう。


「ここってさ、いったいどんなーー」


「着きましたよ」


 真喜が質問をする前に、どうやら目的地へ着いてしまったらしい。しかし着いたといっても、行き止まりにしか見えないのだが。あ、いや、目の前の大男のせいで見えなかっただけだった。


 真喜は目線を斜め下に移動すると、そこに青白い淡光を放っている星型のマークの絵?が地面に描かれていた。どうやらこれが転移装置らしい。そこそこでかくて、大人8人くらいは一度にそこに立てそうだ。


「行きましょう」


 アリエルの言葉を合図に、みんな一斉に転移装置に乗る。真喜も遅れないように慌ててアースについていく。


 みんなが乗るのを待っていたかのように、真喜含め5人が魔法陣の上に立った直後、輝き出して、体がふわっと浮くような感じがした。視界は真っ白で何も見えない。この感覚さっきも体験した。もしかしたらこのままあっさり自室へ帰れたりするかもしれない。




 そんな真喜の希望はあっさり砕かれた。次に真喜の眼に移ってきたものは、部屋は部屋でも、何もない部屋だった。灰色の石出てきたような一室で、部屋の中央にダンジョンで見たときと同じような魔法陣がえがかれている。


 アリエルやその他は次々と部屋の扉を開けて外へ出ていく。真喜もそれに従って扉の外へと出てみるとーー


「やっぱりこれって…」


 まず印象に刻まれたのは、大きな広間の中央にある石像だった。仮面を被った女性?が杖を掲げている石像だ。そして紙がたくさん貼ってある、あれは多分掲示板で、それに群がる屈強な肉体を持つ、武装した人達。広間を出入りする、腰に剣を帯びている人、軽装備な人。露出の多い装備の女性。大勢の冒険者であろう人達がひしめき合っている。


 ドラゴンやトカゲ人間などはいないが、ここは日本じゃない。ようやくここではっきりした。でもアニメなんかではあんなに驚いていたけど、実際そんなとんでもない場面に直面してみるとあんまり言葉は出てこなくて、


「マジかよ」


 その四文字の言葉を発するのが、精一杯だった。















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