エメラルドの瞳
一人称で久しぶりに書きました。
後半、力尽きましたが読んでいただけると嬉しいです。
すこしでも誰かの活力になれば嬉しいです。
15円を手にしてお賽銭に入れる。古めかしい紐を引っ張って、鈴を鳴らす。2礼をして2回手を叩く。掌を合わせたまま目を閉じた。
渡辺 真と言います。おばあちゃんが長生きしますように。どうか、結婚相手が見つかりますように。いや、せめて彼氏が出来ますように。
合わせていた手を離して、ゆっくりお辞儀をする。
「伴侶が欲しいのか?」
男の人の声がした。声がしたほうを見たら、たぶん男性と判断していい人がいる。神主が来ているような物を見につけ、顔が真っ赤で鼻が長い。
嘘つきと射撃が得意な人気のある漫画の登場人物と同じくらい鼻が長い。あと、上に掛けてある大きなお面と似ている。
「えっと……。人ですか?」
言葉にすると可笑しいが、これは聞いておかないと駄目だろう。
「わしのことは気にするな。伴侶が欲しいなら、この奥にある屋敷にいるのに願えばいい」
一番に聞きたいことはスルーされた。気にするなと言われても気になる。この人の顔は天狗だった。コスプレかと思ったが、コスプレだったらハリウッドで特殊メイクの仕事で大活躍ができるだろう。
どうした?と首を傾げる天狗にこっちがどうした。と言いたかったが、我慢した。怪しいとしか思えない人の話を聞くのもどうかと思ったが、好奇心の方が勝った。
天狗の言われた所に行くと昔話に出てきそうない家があった。
天狗が出てきたから、この家には山姥がいるのかな。妄想に苦笑しながら引き戸を開ける。
「こんにちは!!」
中は外見とギャップが激しい。休日に行った蚤の市でみたような空間が広がっていた。グリーン色のソファと黒いソファが向かい合わせに置いてあり、その真ん中に木目調のローテーブルがある。その奥にテーブルと同じ色のデスクが合った。
そこに人が座っている。背中しか見えない。肩まであるパーマのかかった真っ黒な髪。同じような黒色のパンツにワイシャツ。その上に落ち着いたグリーン色のベストを着ている。猫背なのでよくわからないが、広い背中など、トータルして男性だろう。
「あの……。」
男性の背中に声を掛けると、びっくりしたのか男性は肩を持ち上げる。すごい勢いで振り返った。
「まことちゃん!!」
切れ長の瞳は瞳孔が開いている。ベストと同じグリーン色だ。
こんなイケメンの知り合いはいない。だが、男性の様子から顔見知りらしい。こんなインパクトのある顔を忘れるはずはない。
あれか? 婚活パーティーか? 男性はイケメンであるがタイプじゃない。つい最近、行った婚活パーティーでは自分はクリエイティブだから。と延々と話ししていた男と系統は似ている。クリエイティブという言葉を聞きすぎてクリエイティブが何なのかよくわからなくなった。それを笑顔で、男の話に相槌を打っていたからえらかったと思う。だが、思い出そうとしても男性の顔は見たことない。初めましてだ。
「あの? 会ったことありましたっけ?」
問い掛けると男性の目尻と眉が下がる。
「いっいや……。会ったことないです」
寂しそうな顔から私と顔見知りだと言っているようなものだが、やっぱり誰かわからない。首を捻っていると男性にソファに座るように促された。
ちょっと持っていてください。と奥に消える。帰ってきた男性の両手には黒いマグカップが合った。一つを私の目の前にどうぞと置いた。会釈しマグカップに手をつける。中を覗くとカップとは対照的に白いものが入っている。口をつけると、思った通りにホットミルクだった。ほのかに甘いのは、はちみつだろう。
美味しいがこういう状況で初めてコーヒーや紅茶ではなく、ホットミルクを出された。
男性を盗み見ると、カップに息を吹きかけ必死に冷まそうとしていた。あまり熱くはなかったが、猫舌なのかも知れない。カップから湯気が、消えると舌を出してミルクを舐めた。
真っ赤な舌に白いミルクが付く様子は何か見てはいけないモノを見てしまった気分になる。その気分を誤魔化すために疑問を口にする。
「あの……。ここってどういうところなんですか? 天狗ぽい人にここに行けって言われて」
「天狗……。太郎様か」
男性は、頭を抱えるが私も訳がわからない。
「太郎様?」
首を傾げると、男性は顔を上げる。グリーンの瞳と目が合う。その綺麗な色はどこかで見たことがある気がする。
じーっと見つめていると男性は耐えられなかったのか、斜め上を向いてしまった。気のせいだと思うが、頬が赤いように見える。その様子に10年前にどこかに行ってしまったペチャに似ていた。思わず笑ってしまうと男性は、視線を戻してきた。
「すみません。飼っていた猫と同じような反応だったので」
口に出してから気が付いたが、買っていた猫に似ていると言うのは初対面の人に言うのは失礼だ。
だが、男性の表情はよくわからない。
綺麗なグリーンの瞳は潤んでいる。鼻をすする様子から泣きそうなのはわかる。だが、どういう感情か読み取れない。
「大切な猫でしたか?」
絞り出すような声に、はい。と頷く。
ペチャは大切な猫で大事な家族だ。
9才の時に家に帰る途中に大きな毛玉が落ちていた。不思議に思って近づくと真っ黒な猫だった。瞳がどこにあるかわからないほどの長い毛。三角の耳があるからだいたいの瞳の位置がわかった。何回か突くと、予想していた位置にグリーンの瞳が現れた。だが、すぐに目を閉じてしまう。黒い毛をよく見ると赤黒いところがあり、血で汚れていた。今まで猫を抱っこしたことがなかったのに、傷つかないように腕の中にしっかりと抱いて走って帰った。腕の中のあたたかさが消えないように祈りながら、着いた家にはおばあちゃんがいてくれた。泣いて猫を抱いてかえって来た私を見て状況を理解したのか、すぐに動物病院に連れて行ってくれた。
命に別状はなかった猫は、家族の一員となった。潰れたような鼻はペチャっとしていたのでペチャと名付けたが、おばあちゃんは、猫はタマでしょ? とタマと呼びお母さんはクロと呼び、お兄ちゃんとお父さんは、ネコと呼んでいた。皆、好き勝手呼んでいたが可愛がっていた。
みんな、好き勝手呼んでいたけど私が呼ぶときだけニャーと答えてくれた。本当はおばあちゃんの指輪と同じ瞳の色だったからその宝石と同じ名前にしたかったが、ブサカワイイ顔だったためつけなかった。
「ペチャという名前で、人の言葉がわかっていたのか私の愚痴にも相槌を打ってくれて、嬉しかったです。10年前に行方不明になっちゃって。猫って死に際を見せないって知っていましたけど、諦められなくて何日も探しました」
「ごめんなさい!!」
男性の瞳から涙が零れる。
「大丈夫ですか?」
慌てて、鞄からハンカチを出して渡すと、男性は手で制して豪快に涙を拭う。
気まずい。
この状況をどうにかしようと、天狗に言われたことを聞いてみることにした。
「ここって願いを叶えてくれるところなんでしたっけ?」
男性はもう一度、手で涙を拭うと頷いた。
「そうです。遅れましたが、僕はコノハと言います。ちょっと、待っていて下さい」
コノハさんは、入って来た時に座っていたデスクに戻ると手にノートパソコンを持って帰ってきた。
「いつもは、ネットで願いを聞いています」
パソコンの中を覗いてみると、私もやっているSNSだった。
コノハさんのアイコンは後ろ姿の本人の写真だ。プロフィールには、あなたの願いを叶えます。という怪しいとしか言えない言葉。だが、フォロワー数は1万を軽く超えている。
コメントのところを見ると、願いを叶えてもらった人たちの感謝の言葉が溢れていた。内容は、嫌いな上司が転勤。彼氏からプロポーズされた。大好きなアイドルのチケットが当たった。など色々だが、なんというか小さい幸せが多い気がする。
「まことちゃんの願いは、何ですか?」
「結婚相手が欲しいです。無理なら彼氏が欲しい!!」
思わず握ってしまった拳と大声にコノハさんは目を見開いていた。
「良斗くんが好きでしょ?」
良斗? 誰だっけ? 首を傾げているとコノハさんが、サッカーが上手なと付け加えてきた。
「えーっと。良斗くんって同級生の良斗くんのことか!! もう結婚しているし子供もいるよ。それに好きだったのは小学生の時だし」
小学生の時の友だちにも言わなかった。恋心だった。いや、我慢出来なくてペチャにだけぎゅっと抱きしめながら話をした気がする。
今さらだが、コノハという人物が不思議になってきた。祭られている天狗と知り合いで人の願いを叶えているということは、神様ということなのか? 神様がどこまで人のことを知れるのかわからないが、私の小学生の頃までわかるものだろうか?
「そうなんですね。結婚してしまったのは残念ですね」
コノハさんは残念と言いながら言葉と顔が合っていなかった。嬉しそうに見える。
「あの、コノハさんって神様なんですか?」
「僕がですか!? 僕は違いますよ」
コノハさんは、全力で手を顔の前で振る。すごい勢いのせいで、風が起って寒い。
「僕はコノハナサクヤ姫様の神使? になるのだと思います」
首を傾げるコノハさんに、一緒に首を傾げる。なぜ、疑問形。
「何も出来ずに迷っていた僕にサクヤ姫様はチャンスをくれたんです」
いまいちよくわからないが、神様もどきの修行中ということか。
「だから、僕はこのチャンスを逃したくないです。大切な人を守るために、怖がらせないために力を付けます」
歯を見せて笑う姿にイケメン!! となりたかったが、口が何故か曲がっている。
その歪な笑い方を見たことがある気がする。でも、こんなイケメンを忘れるはずはない。
「どうしました?」
「いえ……。あの、コノハさんと私って会ったことありますか?」
「えっ会ったことないです!!」
全力でまた顔の前でコノハさんは手を振った。その必死さが逆に嘘っぽい。疑いの目を向けているとコノハさんはわざとらしく話題を変えてきた。
「まことちゃんは、伴侶が欲しいんでしょ? どういう人がいいとかは?」
「どんなか……。難しいです」
「ん? 条件が多いってことですか?」
「条件ですか……」
半年間、結婚相手が欲しくて婚活をしている。
婚活パーティーに行ってみれば、質問用紙を埋めない男性。婚活アプリをしてみれば一言しか返してこず、面接かと思ってしまう男性。メッセージで話が盛り上がって実際に会ってみれば、アイコンの写真が何年前の写真だったんだ!! と頭を抱えたくなるほど、頭が寂しい男性。会ってみればダメージジーンズのダメージがそんなにいる? と言ってしまいたくなるほどで、使い古したパーカーで来る男性。
私は前日、いや会う約束をしたその日から肌の手入れを念入りにして男性の好みなメイク、服装だ。
ありのままを愛して欲しい。そんな幻想を抱いていない。私だってありのままを本当だったら愛して欲しい。でも、少し話したくらいで中身がわからない状況で外見をある程度、よく見せる努力をしないと駄目だろう。私自身が可愛くないから、ましになれる努力をするのは当たり前だと思っている。その価値観が合わないと言われればもう終了だが……。
「人間って大変ですね」
遠い目をした私にコノハさんが心配そうにこっちを見ている。
「もう婚活も疲れちゃいました」
「疲れることをどうして続けているんですか?」
「どうしてって……」
どんどん細くなるおばあちゃんの顔が浮かぶ。しわくちゃだけどあったかいおばあちゃんの手。さらにしわくちゃにさせて笑うおばあちゃんの顔が見たい。あの手でまた頭を撫でて欲しい。
真ちゃんには大切な人の太陽で、あってほしいわ。おじいちゃんの太陽がおばあちゃんであったような? と聞くとおばあちゃんは少し恥ずかしそう笑った。おばあちゃんの口癖だった。だが、おじいちゃんが亡くなるまで本当におばあちゃんとおじいちゃんは仲良しで幸せそうだった。そのおばあちゃんが癌と申告された。おばあちゃんは自然な形がいいと手術も抗がん剤も選ばなかった。死ぬのは怖くない。おじいちゃんに会えればいい。笑うおばあちゃんに誰も何も言えなかった。
そのおばあちゃんに私も誰かの太陽に慣れることを伝えたかった。1年と決めた婚活のタイムリミットは2ヶ月。何人かに会ったが、一緒に居たいと思えなかった。友だちを婚約者と偽っておばあちゃんに会せようとしたが、男友達なんて小学校からの腐れ縁か部活仲間しかいない。おばあちゃんと顔見知りだからすぐにばれるだろう。
「僕でよかったら力を貸しますよ」
声に顔を上げると、エメラルドの瞳に優しさを交えたように笑うコノハさんと目が合った。その瞳を懐かしく感じたが、その違和感よりいい案を思いついた。
「まっまことちゃん、やっぱり辞めましょう」
おばあちゃんの病室の前でコノハさんが私の腕を引っ張る。病院に着くまで何度も聞いた言葉だ。
「了承してくれたじゃないですか」
「それは真ちゃんが、僕が断ったら道を歩いている人に声を掛けて誘うって言ったからです。それに嘘をつくなんて……」
「誰も悲しまない嘘ならいいじゃないですか」
触れていた手が離れたので、コノハさんを見ると泣きそうな顔をしていた。
「僕は悲しいです」
なんで? と口を開く前におばあちゃんの病室の扉が開き、看護師が出てきた。どうぞ。と促されたので、コノハさんの表情は気になったが、コノハさんの手を握り中に入った。
ベッドの頭の方を上げて寝るおばあちゃんは、この前より細くなっていた。ぞっとする白さからも、このまま目を覚まさないのでは? と思ってしまい、いつもより大きな声で声をあげていた。
「おばあちゃん!!」
くぼんでしまっている目がぴくっと動きゆっくりと目を開けたおばあちゃんと目が合う。
「……。あら、真ちゃん? いらっしゃい」
「寝ていたのを起こしてごめんね」
「大丈夫よ。真ちゃん、隣の……。あら、いい子を連れて来たわね。でも、可哀想なほど顔が真っ赤になっているわよ」
いい子? 不思議に思い、おばあちゃんの視線を追ってみるとコノハさんの顔は真っ赤になっていた。
「なんで!? 熱いの?」
口をパクパクさせているコノハさんに首を傾げる。何か言っているが聞き取れない。耳を口元に近づけるとコノハさんは距離を取ろうとした。手を握っているため離れることは出来ないのに。髪を耳にかけて、どうにか聞き取った言葉は手だった。たしかにコノハさんの手汗はすごい。
婚約者って言うつもりだったが、これは無理だ。彼氏ということにしよう。
「本当にコノハさんって恥ずかしがり屋だね」
腕を組むとコノハさんは首まで赤くなり体は強張った。
打ち合わせ通りにしてくれないと困る。コノハさんの腕を引っ張るとコノハさんは壊れたおもちゃのように話し出した。
「ハジメマシテ。コノハデス。マコトチャント、オツキアイシテイマス」
まあ、落第点か。
「真ちゃんは、ミケちゃんと本当に仲良しね」
嬉しそうに笑うおばあちゃんの顔を久しぶりに見た。でも、ミケって?
「おばあさん……」
「いいのよ、ミケちゃん!! 私は真ちゃんが楽しそうで幸せならいいの。それにミケちゃんにとって真ちゃんは太陽でしょ?」
コノハさんにミケって言っているの? おばあちゃんは、どの猫でも何故かミケって呼んでいた。ペチャのことだって、ミケって呼んでいた気がする。
ずっと合った違和感が確信に変わりそうだったが、コノハさんのせいで血が沸騰したように暑くて何も考えられなくなってしまった。あのコノハさんが、突然に腰に手を回してきた。
「真ちゃんは僕の大切な人です。真ちゃんが居てくれたから生きようと思えました。まだ、生きたいと思いました。僕の太陽です。許される限り真ちゃんを守っていきたいです」
「そう。私がこれから出来なくなっちゃうから私が居なくなっても真ちゃんが寂しくないように真ちゃんの傍にいてあげてね。それにしても真ちゃん、熟れたトマトみたいよ」
「たしかに、トマトみたい。可愛い」
「本当にミケちゃんは、真ちゃんの事が大好きね」
声をあげて笑うおばあちゃんにコノハさんが、はい。と大きく頷き歯を見せて口を曲げて笑った。
熱い顔を掌で冷やそうとするがどうにもなりそうにない。
歪な笑みとミケという言葉で、コノハさんとペチャが重なった。信じられないことだが、出会い方があれだったのだ。人が猫でも可笑しくはない。
長く話をしても、おばあさんを疲れさせてしまうので、名残惜しいが病室を後にした。
自然と繋がれたままの手は安心感があった。
「ペチャ、ありがとう。おばあちゃんも嬉しそうだった」
「僕も久しぶりにお会いできて嬉しかったです。えっ今、ペチャって!?」
突然に止まったペチャに手を引っ張られる。目を見開いているのがさらに猫っぽい。
「ペチャでしょ? どうして人間に慣れるの?」
「ペチャです。変化の術を頑張って覚えたんです」
エメラルドの瞳が揺らぐ。猫の時はわからなかったが、泣き虫だったのかもしれない。
「ペチャが生きていて嬉しい」
「僕はマコトちゃんと出会う前は人間が嫌いだった。生きることが辛くて、何日もゴハンが食べられなくて死を覚悟していた時にマコトちゃんに会えた」
いつもの学校の帰り道でお気に入りの花が咲いているところで黒いモップを見つけた。それが、ペチャだった。低い声で鳴かれた時は怖かったけど、動かない猫に命がつきそうになっていることを子どもながらに理解して猫を触ったこともなかったのに必死に抱えた。胴体を持った時に体が伸びて怖かったのも覚えている。
「マコトちゃんと過ごせた日々は、幸せだった。もっともっと、マコトちゃん過ごしたいって毎日、思った。そう思うと尻尾がよくムズムズした。その理由を知っていたけど認めたくなかった。マコトちゃんの前から姿を消した時は、尻尾が分かれそうになるときだったんだ」
「尻尾?」
長い毛のせいで、尻尾があるかないかわからなかった。毛をかき分けて見つけた尻尾は丸がちょっと伸びたくらいの黒い小さな毛玉だった。
あの尻尾が分かれるのか?
「そう、尻尾。僕は猫又になるところだったんだ。猫又になれば、マコトちゃんともっと一緒に居られたけど、マコトちゃんに怖がられるのは嫌だった」
ボロボロと泣くペチャを見て申し訳なくなる。ペチャが真剣に話をしているときに、あの尻尾がどうなって分かれたのか気になってしまっていた。
ハンカチはさっき使ってしまったが、頬を伝う涙が気になる。
手で涙を拭う。
「マコトちゃん、怖くないの」
「今さらだしね。ペチャならどんな姿でも怖くないわ。また、会えて嬉しい」
「マコトちゃん……」
さらに涙が溢れてくる。
「泣き虫だったんだね。今度、にぼし持って行っていい?」
「ぜひ、来てほしい」
「あと、猫の姿になれるの?」
頷くペチャに思わず笑みを浮かべてしまう。あのほわほわの毛並にされるのが嬉しい。
「じゃあ、チュール持っていくから尻尾も見せてね」
尻尾!? 目を見開くペチャにうん。と頷く。
黒のほわほわの毛並の中に輝くエメラルドの時と同じような表情に笑ってしまった。