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真っ暗な空の下で繰り広げられる物語   作者: buchi


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第47話 グラクイの変化の理由

 顔を上げると、会議室の中はしんと静まり返っていた。


 タマラ少将を始めとした彼ら将校達は、死んだ兵士たちを直接は知らないが、私達は違う。彼らは私たちを黙って見守っていた。


 パレット隊はこんな事態を全く予想していなかったに違いない。装備も不十分だったのだろう。だが、油断していたにせよ、この徹底した殺害振りは何なのだろう。


 明日は我が身だ。旧気象センターの捜索を命じられたのが、パレット隊でなくバルク隊だったら、この死亡者リストにはきっと私たちの名前が載っていたことだろう。


 痛いくらいそれは感じていた。


「気象データのほうはすでに回収した後の話だ。したがって、データを取られたくないという意図ではないと思われる。

 殺したいがために殺した。そんな感じを受ける。

 彼らの意図は不明だ。

 だが、今後、民間人も含めて、グラクイへの警戒を強めたほうがいいと判断する。 

 現在、軍のHPは更新を取りやめており、メディアへの発表も控えているが、たとえ軍が無能といわれても、警戒を強めたほうがいいに決まっている」


 タマラ少将が、普通の調子で、なんの変哲もない話をしているかのように、話を始めた。そして、付け加えた。


「従って、明日、この件について記者発表を行う」

  

 将校連中の間から、身じろぎするようなかすかな音があった。

 既に、この件についての協議は、済んでいたのだろうが、全員が賛成ではないのだろう。


 きっと、軍の評判はがた落ちになるだろう。隠蔽という言葉が、一瞬、私の頭に浮かんだ。

 

 隠蔽しようと思えば、出来ないわけではない。しかし、作戦部はバカではない。熟慮の上、公表の道を選んだのだろう。


「気象データについては、分析中だ。

 ずっと前から言われていたが、グラクイの呼気の中に、ある種の化学物質が含まれていて、それが太陽光線に当たると、触媒の役割を果たして、薄い膜のような、膜かどうかもわからないが、それを形成して、太陽光線を遮切っているという推測がある。 

 どの程度、効果があるのか、どれくらいの期間、持続するのか不明だったが、気象データの入手により過去のデータと比較が出来るようになった。化学と気象学とで、今、あわせて解析している。

 これについてはわからないことだらけだ。しかも地球規模だ」


 それは、以前からずっと言われてきていたことだ。

 グラクイを全滅させなければ、太陽が手に入らない。だが、今度の事件で、グラクイは、人間を意味もなく襲う気味の悪い生き物という評価を得ることになる。


「君たちを呼んだのは、君たち全員が、いままでずっとグラクイとの戦いでの最前線にいたからだ。

 なぜ、今、突然、グラクイが凶暴化したのか。その凶暴化になにか理由はあるのか。

 私たちはどんなことでもいいから聞きたいのだ。

 私たちは利用できることは、何でも利用するつもりなのだ。どうかね?」


 指されたオスカーは、まるで先生に指名された小学生のようにたじろいだ。


「グラクイの変化の理由ですか?」


「そう。理由だけではない。傾向とかそういったものでもいい」


「今回、初めて短銃を使ってきました。しかし、撃つことには全く慣れていなかった。ほとんど暴発状態といっていいくらいだ。パレット中佐の隊の死亡者のほとんどが、何発も食らっている。むちゃくちゃに撃っているんです。理由は訓練不足なのか、明るすぎて、狙いがつけられなかったのか、そこのところはわかりません」


 オスカーが言い終わると、ロウ曹長がついで言った。


「そう。でも、私たちが不思議だったのは、なぜ、短銃を使い始めたのかということです。最近、短銃を手に入れたからなのでしょうか?」


 言うことを思いつかなくなったロウ曹長の目顔で、バーグ曹長が後を引き取った。


「私たちが、今回、非常に身の危険を感じた理由は、グラクイが私たちを殺すつもりだったということです。目的は殺害でした。それまでとは違う」


「これまでは殺害する意図がなかったというのかね」


 タマラ少将が物柔らかに聞いた。


 タマラ少将を囲む何人かの人々は、話す兵士たちの顔をじっと見つめていた。ときどきメモを取っている者もいた。


「結果的に殺害することになる場合はありました。

 しかし、我々が感じていたのは、殺害は目的でなかったということです。

 ある時は卵を守るため、ある時は偶然人間に出会ってしまって、自分の身を守るために応戦してきた、単にそれだけのことでした。

 彼らは出来れば人間に出会わないように逃げ回っていました。

 今回は違う。

 明らかに殺意があります。殺害するために、人間を探し出してきて襲っている」


 順番が回ってきて、私がしゃべる番になった。


「私がもっとも不思議だったのは、短銃の出どころです。買ったのでしょうか。それなら、そのお金はどこから出たのか。

 グラクイが銀行口座を開いたり、現金で買い物できるはずがありません。

 でも、現実には、短銃を相当数、所持していました」


「誰か、お金を出した人間がいると言うことかね?」


 タマラ少将が尋ねた。


「それに、グラクイの行動に、なんというか矛盾があります。

 全員が同じ行動を取っていました。人間を探し、撃って、首を切る。でも、目的が殺害なら、死亡を確認するべきなのに、していませんでした。でなければ、重傷とはいえ、生き残ることは絶対に出来なかったはずです。決まったことだけをしていたような印象を受けました」


 ひどい決まり事だ。人々はため息をついた。その気持ちは私も同じだった。


「短銃の使用も、強制されたのかもしれません」


 バーグ曹長が慎重に言い出した。


「彼らは、今まで新しいものに手を出すことを、好まないと思っていました。その彼らが、あれほどまでに不慣れな武器を、なぜ使わねばならなかったのか、理由がわかりません。

 そもそもグラクイの体格では、短銃を撃つこと自体、非常に無理があると思います。反動のないレーザーガンの方がずっと楽なはずです」


 オスカーがぽつんと付け加えた。


「ただ、レーザーガンより短銃の方が、野外では脅威です。特に、夜間は、我々は視界がききません。どこで闇討ちにされても、撃ち返すことが出来ない」


「夜間の外出は禁止せねばならない」


 タマラ少将が言った。


「まあ、最前線のこのエリアでは、夜間の外出どころか、昼間でも荒野へ出ることはないだろうが。君たち軍の人間以外は」



 私には気になることがあった。聞かないではいられなかった。


「ここ一週間くらいに、グラクイが旧気象センター以外の場所で、出没したことがあるかどうか、わかるでしょうか。報道が何もないので知らないのですが?」


「さあ、それは……ベルファスト、君は知っているかな?」


 タマラ少将は振り返って尋ねた。ベルファストと呼ばれた男は、低い声で返答した。


「あります。たった三件ですが。場所は、旧気象センターとは離れた場所ばかりで、いずれも日時は異なります。軍のパトロールと出会っています」


「彼らは銃を持っていたのでしょうか。そして、人間を襲ってきたのでしょうか?」


「特に報告はありません。短銃の所持はなかったようです。彼らは逃げてしまい、処分することが出来なかったということだけです」


「旧気象センターのグラクイだけが人を襲ってくるのなら、そのグループにだけジャニスがついているのかもしれません」


 全員が黙った。


「よろしい。他に特筆すべきことを思い出した場合には、オーツ中佐を通じて随時報告してくれたまえ。いつでも、どんなことでもかまわない。私たちのほうも、君たちを呼び出す場合があるかもしれない。よろしく頼む」


 ジェレミーは、実際には、戦闘に参加していなかったので、発言はなかったが、タマラ少将はジェレミーにも丁寧に感謝の意を表した。


 文官がやってきて、パレット隊の消息を書いたコピーを回収した。彼は几帳面に枚数を勘定して、合っていることを確認後、バルク少佐に合図した。


 厳しい顔をしたバルク少佐が、文官の代わりに我々を外へ連れ出し、ドアを静かに閉めてから、連絡事項を付け加えた。


「この件に関しては、許可が出るまで他言無用だ。それから、今ここにいる全員、五時に基地集合のこと。バルク隊の今後について、知らせることがある」


 それから少し顔を和らげて彼は言った。


「よく無事で帰ってきた。さすがはお前らだ。あの修羅場へ出向いたやつら全員に、そう伝えてくれ。だが、こっそり言え。余計なことは話さないように。それまでよく休め」

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