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真っ暗な空の下で繰り広げられる物語   作者: buchi


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第42話 死体

「ジェレミー、人員はまだ? これ以上気象センター内に踏み込むのは危険だ。投光機をがんがん使えば、危険性がぐっと低くなるが、この人数だと使える数が制限される」


『中佐にOKを取った。ブラックとシルバーを派遣する。君の指揮下においてくれ。少佐と中佐は対応に追われている』


「ありがとう。いつ来れる?」


『すぐだ。すでに召集されている。準備が整い次第、発つ』


「ジェレミー、食料の準備は要らない。ここは、思った以上に危険だ。滞在することは出来ない。ディーゼル発電機と投光機のほか、手で持ち運べる強力なライトはないか。ドリルも頼む。建物を壊す必要が出てくるかもしれない。その準備をしてくれ」


『よし、わかった。ライトとドリルは、見つかり次第、人をつけて送る』




 こんなグラクイは見たことがなかった。


 陰に潜み、機敏に動く。


 そして、短銃を使い、人を狙う。



 だが、明るくすると目は利かないらしく、我々が暗闇で狙いをつけるのと同様、うまく当たらないようだった。


 流れ弾に当たる可能性は残るが、光の中にいさえすれば大丈夫だろう。


 銃の撃ち方もどこか妙だった。訓練不足なのと、やはり四、五歳の子供が撃つのと同じで、力がないのだ。


 威力がない銃でも、至近距離から撃たれれば被害をこうむる。グラクイとの戦いは、違うステージを迎えたのに違いなかった。




 ロウ曹長とバーグ曹長は、いずれも緊張した様子で現れた。


 警戒はケムシアやギルに任せ、ふたりの曹長が新しく連れてきた部下の連中は投光機の組み立てをさせた。とにかく投光機がないと危険なのだ。


「光の中から出たら絶対にダメだ。危険だ。投光機の組み立てを、まずやろう」


 オスカーが、新しく来た連中に大声で指示していた。


「地下からも上の階からも、彼らは今度は銃で狙って撃ってくる。レーザーじゃない。今までのようじゃない。人を殺す気まんまんだ」




「まずいな」


 オスカーの説明を聞いて、バーグ曹長が言った。彼は、背の低い握り締めたような体つきの男で、柔道が出来た。背が高くて赤毛のロウ曹長とは好対照だ。

 私を含めた三人は、投光機の組み立て班の隣で打ち合わせを始めた。


「まずい。 気象センターの中を照らして見て、状況は大体把握できた。たぶん、パレット中佐隊は全滅だろう」


 二人はうなずいた。絶望的だが、事実だ。


「だが、中に入れば、GPSが使えることがわかった。気象センター内部には、グラクイは十匹しかいない。すでに、四匹、処分した。残りは六匹だ」


 私は作戦を説明した。


「中に入るのは危険だ。今、中に入らず、外から投光機を使って中の様子を探っている。我々、人間がいるのがわかったら、グラクイは人を襲いに来る」


 私は真剣に聞いている二人の顔を見た。


「そこを撃ち殺す。中に少しだけ入ればGPSが効く。残りの数がわかる。グラクイを全部、殺したら……」


「一応、安全というわけか」


「そうだ。グラクイのGPS反応がなくなったら、投光機と一緒に探索に入る。もし、誰かが生きていたら……」


「救出できる」


不愛想にバーグ曹長が言った。


「そうだ。それを期待している」




突然、銃声がして、続いてなにかがどさりと落ちてくる音がした。


全員がギクリとして振り返った。


「見えたので撃った」


 ベックが当たり前といった様子で説明した。ナオハラが、投光機一台を器用に動かして、隅から隅まで、二階部分も照らしていた。


「見えたらすぐ撃つ。今のやつは撃たれて二階から落ちた」


 また続いて銃声が続き、グラクイは倒されていった。



「だが、おそろしい。殺されることがわかっていても、襲いに来る。盲目的だ」


 ロウが嫌そうに言った。


「ちょっと、助かるけどね」


 私は肩をすくめて言った。こんな連中とは、一刻も早く手を切りたかった。




 ロウには、玄関ホール周りと外を任せることにした。


 旧気象センターの床はコンクリートで固められていたので、いきなり地下からグラクイがわいて出ることはない。その点は、安心だ。


 でも、外から歩いてやってくるかも知れなかったので、警戒担当は必要だった。

 

 

 GPSの反応を確かめる。ベックとギルは、すでに合計で十匹、グラクイを倒していた。


「GPSで確認したところ、中にはもうグラクイはいません」


 私はバーグ曹長と顔を見合わせた。


「中に入ろう」


 私たちは、煌々と内部を照らしながら、進んだ。

 

 もうグラクイはいないので、危険はなかったが、真っ暗なところはイヤだった。 何しろ、探し物が人間の死体だ。やりきれない話だった。

 


「二十人いるはずだ。各人の持ち物も見つかれば全部ホールへ集めよう。」


 先の五人はレスキューに運ばせた。入り口近くの三人は確認できている。


 三人を運ぼうと投光機で照らし出したとき、バーグ曹長が口の中でなにか叫んだ。全員が一斉にバーグ曹長の視線を追った。


 それは、パレット中佐とキム少佐だった。


 パレット中佐はうつ伏せに、キム少佐は仰向けで倒れていた。二人とも間違いなく死んでいた。

 なぜなら二人は首を切られていた。二人の周りは血の海だった。

 うつ伏せの中佐の顔は見えなかったが、少佐は固い表情のまま、バラバラな黒髪をべっとり血でぬらし、自分の血で床材に固まっていた。考えられないくらい大量の血だった。


 誰もが押し黙った。


 人間はこうやって死ぬのか。次の瞬間、この死体が次は自分自身かもしれないと感じ、足が震え、気分が悪くなりかけた。目を逸らした。だめだ。これは気分の問題だ。今はダメだ。


「むごいことを。なぜ」


 バーグ曹長は、唇を噛み締めていた。隊全員が静まり返った。


「救急を呼べ。ナオハラ、遅いぞ」


 あわてて、ナオハラは無線を入れた。


「こんなまねしやがって、ただで済むと思うな。こいつら、全員、殺してやる」


 私は奥歯を噛み締めて言った。隊員が、私の顔を見た。


「やつらに容赦するな」


 恐怖と怒り。どちらがマシかと問われれば、怒りをとる。怒りは正常だが、恐怖は狂気だ。ほとんど無言で、みんなが探し回った。


 救急隊は着いたが、彼らも、この三人の様子には絶句し、いそいで白いカバーの中に三人をそれぞれ封じ込めていた。


 地階に三人、二階で三人、三階で二人、四階で二人見つかった。


 もう、冷たくて固くなっていた。絶望が胃の中に溜まっていく。命は切れたら、後がない。


 ギルがあっと言った。


 同時入隊のモンゴメリを見つけたのだ。


 唇を噛みすぎて切って紫に腫らしたバーグが、ギルの肩を掴んで、首を振った。


 どうしても残りの二人の行方がわからない。


「後は五階だけだな」


 もう時間がない。

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