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第41話 全員死んだのかもしれない

 建物内は暗いから、投光機がなければ中へ入れないだろう。


「ジェレミー、パレット中佐の隊は、気象センターのどこにいるんだ?」


『中央の入り口から入ろうとしていたらしい。気をつけろ。どこから湧いて出るかわからないぞ』


「ボムの用意をしている。湧いて出たら、すぐにボムをたく。彼らと連絡は取れないのか?」


『取れないんだ、ノッチ』


 ジェレミーの声が苦しげだった。


『さっきから、いや、昨日からずっとトライしているんだ。全滅かもしれない』


 さすがに全員が黙った。全滅? グラクイは不気味だ。どこから湧いて出るかわからない。やつらは声も立てない。


「投光機は?」


『もう着く。今、君たちがいる場所に届けたい。OKか?』


「場所的には最適だと思う。もう入り口のまん前だ。早くしてくれ。我々も危険だ。投光機があれば中に入れる」


『ノッチ、ベッグ、シン、すぐ行くぞ。』


 オスカーの声がGPSに割り込んだ。


 数分後、投光機もろともに残りのブルー隊が届いた。


「おお、待たせたな、ノッチ。なにしろ投光機を探し出すのに時間がかかって。ハハハ、心配するな。足つきの代物だ。光を放ちながら移動も出来る優れものだ。今、組み立てる」


 砂埃とともに、オスカーは陽気に笑ってやってきたが、他の面々はさすがに相当に緊張した顔つきだった。オスカーの笑いも、実は少しこわばっていた。正直、ギルやベッグを中心とした我々の表情も非常に硬いものだったに違いない。


 これは容易ならぬ事態だった。建物の中は真っ暗だ。電気の配線などわからないし、修理する時間も無い。投光機だけが頼りだろう。


 あのナオハラが黙って、組み立てに入っていた。ゼミーとシェリも黙って、ディーゼル式の発電機の稼動を始めていた。


 十分後、もっと長い時間に思えたが、投光機は仕上がり、ディーゼル発電機につながれた。あっという間にまぶしい光が満ち、同時にディーゼル発電機に付物の騒音と重油のにおいが立ち込めた。


 我々は、ほーっとため息をついた。このあまりにも、おなじみの音と匂いは、我々をなんとなく安心させ、同時に慣れ親しんだ現実へ引き戻す役割を果たしてくれた。


「次を組み立てる。全部で五台ある」


 ナオハラが言った。


「よし、ベッグ、投光機の組み立てを手伝え。これだけ光があれば、一応安心だ」


「安心だが、GPS赤外線が効きにくくなっている。いきなり地中から出現されたら怖い」


 オスカーが言った。


「だが、内部を確認しないでは帰れないのだ、オスカー。出来るだけ早く組み立てて、中に入ろう。時間がない。我々だって数時間以上は活動できない」


「少しづつ稼動しているほうの投光機を動かしてくれ」


 のろのろと作業を続けながら、入り口に向かって進む。


 気象センターへ入って、我々は何を探したいというのだろう。


 パレット中佐の死体か。誰かまだ生きているのか?


「早く行こう」


 私は口の中でつぶやいた。


 入り口は、昔は立派だったろう大理石だった。投光機を向けると中に誰かが倒れているのがすぐわかった。誰かが小さく叫び、息をのむ様子がわかった。


「中を照らせ」


 パレット中佐の隊は、一緒に入った研究者もいれて、全員で二十人くらいいるはずだった。


 投光機の向きを変えると、パッと床が明るくなり、惨憺たる状況が目に飛び込んできた。


 入り口のホールには、五人が倒れていた。誰だかわからなかった。生きているのか、死んでいるのかもわからなかった。目立った外傷は無かったが、身動きひとつしなかった。


「全員、基地に送り返そう。ジェレミー!」


『発見したか、ノッチ』


 ジェレミーの蒼白な顔色がうかがわれるような声だった。


「旧気象センターの建物の地下はコンクリートだよね?」


『え? ああ。そうだ。』


「下からいきなりグラクイが現れることはないな?」


『一応』


「それなら、救急隊をよこしてくれ。この人数で、送り届ける手数を割くことは出来ない。我々が警護しているから、地上からの攻撃は安全だ。五人発見した。」


『生きているか?』


 ジェレミーの声が震えていた。


「死んでいる。おそらく。」


 私は無慈悲に言った。ジェレミーが嘆息しているのがわかった。


「少尉、奥にあと、3人います。」


 ベッグが叫んだ。


「待て。行ってはダメだ。投光機の光の中にいろ。ジェレミー、聞こえるか? 増援を頼んで欲しい。」


『わかった。ノッチ、了解した。』


「少尉、二台目の投光機を動かしましょう。中に光を入れましょう」


 ナオハラが提案した。


 我々は苦労して、投光機を一台、建物の中に入れることに成功した。投光機は華奢な姿をしていたが、五十キロくらいはあるらしい。光の中に、ちらりとグラクイが見えた。とたんに、ベッグの銃が火を噴いた。


『ノッチ、今、救急隊が行く。』


 連絡が入ってすぐに、ものすごく緊張した顔つきの救急部員が現れた。


「すぐに運んでください」


 オスカーが救急隊に簡単に命じた。


 こちらは、運搬作業には目もくれず、投光機の光の先を見つめていた。

 見える。グラクイの姿が。ギルが狙って撃った。グラクイは崩れ倒れた。


 光だ。もっと光がいる。


「ナオハラ、これ以上光を強くすることは出来ないか?」


「やってみましょう。」


 こいつに、こんな芸があるとは知らなかった。ディーゼルの音がやかましく響き渡り、空気が臭くなったが、光は強くなった。


「上も照らしてくれ。上から攻撃される可能性もある」


 いきなり短銃が撃ち込まれた。救急隊がふいの攻撃に驚いてひっくり返りそうになっているのがわかった。


「めくらめっぽう撃っている。心配するな」


 ケムシアが彼らに言った。彼はすでに撃ってきたグラクイを倒していた。


「あれじゃあ、当たらん」


 当たるか当たらないかは誰にもわからない。ケムシアは慰めに言っただけだ。


「ナオハラ、一台を上向けにセットしろ」


 私は怒鳴った。

 ナオハラがすばやく一台の投光機の向きを上向けに変えた。

 銃弾は二階から撃ち込まれた。光が下から来れば、やつらは目をやられて、階上から攻撃できなくなる。

 救急隊は長居は無用とばかり、見たことがないくらい手際よく病院に戻る手配をしていた。

 彼らは最後に、簡単に手を振って合図すると移動していった。なかなか要領のいい連中だ。


 中に半分入って、ひとつだけ有利なことがわかった。GPSが使えるのだ。シールドは、建物の外か境界に設置されているに違いない。


 全員がこの事実を確認した。

 平面ではないので、実際にはどこの階にいるのかが、よく分からなかったが、グラクイはだいぶ外へ出て行ったようで、建物内に残っているのは十匹だけだった。すでに四匹は始末した。残りは六匹だ。


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