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真っ暗な空の下で繰り広げられる物語   作者: buchi


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第30話 作戦が無限ループ化

 翌朝、基地に出るとブラック隊が戻ってきたところと鉢合わせした。ロウ曹長と会った。ベッグほか、ブラック隊は疲れきった様子だったが、私を見て、合図してよこした。


「ロウ! 久しぶり」


「ああ、ノッチ。もう大丈夫? 入院してるのは知ってても、見舞いにも行けなかったよ。大変だったね」


「そっちが、ものすごく忙しかったの、知ってるよ。見舞いなんかとんでもない。来てくれなくて、ある意味、助かったよ。むちゃくちゃ痛かったんだ」


 ロウは私の肩のへんをじろじろ見た。


「どっかの馬鹿が、景気づけに殴ったんだって?」


「ああ、それで、傷が割れちゃって。まあ、元々退院するにはすごく無理があったらしいけど」


「バルク少佐を見ましたか? 亀みたいだよ」


 ベッグが、埃と汗でしわになった顔をニコニコさせながら口を挟んだ。


「見た見た。妙なものを背中に入れてるらしくって、軍服が盛り上がってるんだ。

 まあ、少佐も大変だったな。元気よく作戦に参加してるよ。タフなおやじだ」


 ロウが笑った。


 今日、少佐が元気なのかどうか私は知らない。普通に考えると、元気じゃないはずだ。

 だが、彼は、今頃、二日酔いを抱えながらだろうけど、仕事に没頭しているだろう。私だってそうだ。


 ロウ曹長が、今度は、私に向かって聞いてきた。


「今日から参戦かい?」


「そう。いつもどおりだ。どこへでも行くよ」


 すぐに移動して戦線に加わった。オスカーもギルも、みんなびっくりしたようだったが、喜んで迎えてくれた。


「助かったよ、人手が足りないんだ」


「さっそくで悪いが、すぐに入ってほしい。卵地帯にグラクイが進入しかかってるエリアがあるんだが、手が足らないんだ」


 オスカーと綿密に打ち合わせて、人員配置を見直し、私は出かけた。

 一人で荒野に立つと、どうしても夕べのことを思い出さないではいられなかった。


 もう、過ぎてしまったことだ。どうにもならない。少佐の心が痛んでいるにせよ、私には何も出来ない。だから、知らん振りして過ごすことになるのだろう。


 私は少佐が元の妻に対して、どんな感情を持っていたのかわからないので、彼の気持ちの推測ができなかった。

 思い返してみると、一度だけ、だいぶ前に離婚したと話していた。あの時の感じだと、気持ちの整理はついているように見えたけど、内心、まだ大事に思っていたとしたら、どうしたらいいんだ。



 グラクイたちが近づいて来た。私は、ライフルを構えた。


 こういう時、仕事はありがたかった。頭の切り替えができる。 


 少佐のことは気にしないようにしよう。私には、どうすることも出来ない。

 それに、もしかすると彼は酔っ払い過ぎて、何も覚えていないかもしれなかった。その方が良かった。


 昼間だったので、視界が良く、遠距離からでも弾が届く。次々に倒れていくグラクイたち。灰色の砂交じりの風が吹く。


 彼らはなぜやってくるのだろう。もう、ジャニスは死んだはずだ。

 なぜ、卵の回収をまだ続けているのだろう。 

 ジャニス本人が死んでしまったので、いったん出された卵回収命令を撤回することができない状態なんだろうか。


 オスカーの、人が足らなくて困っていると言った言葉が実感できた。


 ジェレミーも不思議がっていた。


「いままで、隠れてばかりいたのに、なぜだろう。不気味だよ」


「だが、穴から出てきてくれるなら、大助かりだ。それだけ減ってくれるわけだから」


「そうはいかないんだ。回収するのが間に合わなくて、卵の一部はグラクイの手に渡ってしまっている。グラクイが命がけで回収していくなんて、卵になにか余程まずい理由があるんじゃないかと心配だよ」


 ジャニスを油断させるために、人手不足で卵の回収が間に合わないと広報しているそうだったが、現実になってしまったのか。

 

「卵は渡したくない。ところが卵のために出て来るグラクイを殺すと、回収しないといけない卵が死体とセットでまた発生する。そうすると、またグラクイがやって来る。この繰り返しだ。いい加減殺すのは止めて、いったん作業を止めたい。ずっと休み無しで、働き続けるわけには行かない」


 ジェレミーは憂鬱そうだった。


「殺すのではなく、レーザーで気絶させるのはどうだ。要は殺さなければいいんだろ。卵の回収の時間を稼ぐだけなら、動かないでいてくれれば十分だ」


「どういうこと?」


「卵を取りに来たグラクイを殺さなければ、回収するべき新たな卵は発生しない。

 そこらに転がっている卵は、グラクイが気絶してる間に、こっちが回収してしまう。気絶から起きても、卵がなかったら、グラクイは巣に帰るだろう」


「ふむ。確かに、もう出て来なくなりそうだ」


「そう。殺すチャンスが減ってしまうが、次善の策というヤツだ。

 次からは、卵を囮に、好きな時に奴らをおびき出せばいい。光ボムを準備し、効率的にやっつけることが出来る。

 いつでも呼び出せるのなら、今、一匹や二匹逃げられてもたいしたことにはならない」


「そうだな。気絶させる作戦か。とりあえず、どこかで休止を入れよう。でないと、こっちが過労死しそうだ」


「今は、光ボムは使えないよね?」


 念のため、期待を込めて確認した。


「レーザーでいちいち撃つより、あれだけまとまってるんだから、光ボムの方が……」


「全然、だめだ」


ジェレミーが残念そうに答えた。


「足らないんだ。わかっちゃいるんだ。でも、これだけ出てくると、利用要請が結構あって、結局、使い切った。なんかの時用に、数発はどうしても残しとかなきゃならないし……。予算がね。タマラ少将が頑張ってくれてるんだが……。

 光ボムが使えないと、レーザーで一匹づつ撃つしかない。時間と手間が余計にかかる。そのせいで間に合わなくなっている。悪循環なんだよ」


「……了解した。とりあえず、この作戦を提言するか」


 これは簡単にOKが出た。


 これまで、グラクイは、余程のことがないと、なかなか外へ出てきてくれなかった。グラクイが自分から、外へ出てきてくれるので、卵囮作戦は大儲けだったのだが、儲かりすぎてこっちの方が、へばってきた。


 作戦がエンドレスになってしまい、どこかで立て直しが必要なのは、誰の目にも明らかだった。


 一週間、病院にいた私はとにかくとして、ほかの連中の疲労は顔を見ても、すぐわかるほどだった。現場に出ていないジェレミーにしたところで、毎日十四時間は、必ず基地に詰めていた。幹部連中や非戦闘員も似たような体制に違いなかった。


 我々はレーザーを微弱にして、気絶させる作戦に出た。


 危険は伴うが、その間に卵は始末してしまう。卵の始末がつくとやつらは出てこなくなった。そこで、そのエリアは空っぽとなり撤退完了だ。




「たぶん、すべてのエリアで撤退が完了するのは、今週末だと思う」


 私はこの作戦を説明した。


「ああ、この作業が永遠に続くのかと思うとうんざりだった……」


 ナオハラが、ぐったりしながら意見を述べた。説明を受けたほかの連中も、少しほっとした顔を見せた。ただ、ジェレミーが注意した。


「だが、ブラック隊とレッド隊から、負傷者が出ている。近寄りすぎたんだ。十匹くらいから、同時にロックオンされてね、集中砲火を浴びた」


「どうなったの?」


「軽い火傷さ。すぐに病院に搬送した。きちんと防火スーツを着ていたから、大したことにはならなかった」


「やつらは新しい戦法を覚えたんだな。一対一だと完敗だから、集団で一人を狙うことにしたのか。だが、誰に集中するかは難しい問題だ。判断できないんじゃないかな?」


「なにか、彼らなりの法則があるんだろう。とにかく気をつけて」


 攻撃性の低かったグラクイたちだったが、最近は、さらに凶悪化していた。個体数が激減してしまっているからだろうか。


 ジャニスは死んだはずなのに、さっぱり訳が分からなかった。

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