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第28話 バルク少佐の告白

 注文を取りに来たウェイターに、少佐は、少しいいものを頼んでいた。


 妙な顔をする私に、彼は言った。


「遠慮しないで。

 私も別に君に話したいような内容ではないから、細かいことは言わないけど、私はその個人的な事情から、例のジャニスに相当な恨みを抱かせてしまっていたらしいんだ」


「へええ……」


 意外なような、どこかで聞いたような話である。


「彼は、私のことを付け狙っていたらしい。

 以前に二人で、グラクイに囲まれたことがあったよね?

 最初に卵を発見した時のことだ。

 あれは、ジャニス式の発想から行くと、どうやら絶好のチャンスだったらしい。

 彼は私に個人的な復讐をしようともくろんでいたのだろう」


 ジャニスは、余程恨みがましい、世をすねた性格の持ち主に違いない。めんどくさい奴だ。少佐は話を続けた。


「オーツ中佐は、たくさんのGPSを持たせたからだなんて言ってたが、そんな理由でグラクイが集まって来たんじゃない。

 私に対する私怨を晴らすために、ジャニスが指示したんだろう。そのために思いがけず、大漁になったんだと思う」


 少佐が憂鬱そうに説明した。


 GPSでたくさんのグラクイが釣れたと言う中佐の話には、最初から何か違和感を感じていた。

 たくさん仲間を殺されたのなら、そんな危険なハンターは避けられるはずだと、私は思っていた。

 少将の推測の方が正しいのだろう。きっとジャニスが襲撃を命じたのだ。

   

 「今回のスナイパーの件もそうだ。

 少将が言ってたが、なぜ、スナイパーがグラクイに見つかるのだ。

 たった一発の銃弾で、普通は場所を特定できはしない。だからこそ、スナイパーなんだ。

 たぶん、我々はそれ以前に発見されていたのだろう。

 ジャニスは、私の居場所を執念深く監視し続けていたらしいからね」


「でも、それはおかしすぎる」


 私は思わず指摘した。


「それなら、なぜあの射殺が成功したのかさっぱりわからない」


 少佐は憂鬱そうに頷いた。


「確かにその通りだ。

 だけど、まあ、それはいいんだ。とりあえず、成功したからね。

 ジャニスは本当に邪魔だった。特に恨みを抱いて復讐を計画していたなんて聞かされたら、余計、もう、うんざりだ。いっそ、死んでくれてありがたいよ。まあ、殺したんだけど。

 だが、私が気になったのは、君だ。

 ジャニスの私個人に対する恨みつらみがなければ、君が撃たれることはなかったんじゃないかと思ったのさ。

 基本的に悪いのは、ジャニスであって私ではないけれど」


 私は黙っていた。

 ジャニスが死んだことに何の不都合もない。

 ただ、あのグラクイの卵と同じく、引っ掛かりとして心に残る問題だった。



 それに、実は、私も似たような境遇だ。ただ、少将は、ジャニスは私より少佐の方をより強く恨んでいたと言っていた。

 少佐が気に病んでいるのは気の毒だったが、あまり言いたいような話ではない。



「それとね、もうひとつ。これは私が本当に悪かったんだけど」


 なにやら、少佐が殊勝そうに言い出した。


「前、私が君を背負って帰ってきた時のことだけど」


「あ、あの節は本当にお世話になりました」


 私はあわてて言った。


「いや、違うんだ。

 あの時、君が気絶したのは、ショックじゃないんだ。

 つまり、君だって、レーザーで撃たれて火傷したほかの連中が、誰も気絶なんかしてないのに、何で自分だけ意識をなくしたのか、おかしいと思ったろ?」


 私は素直にうなずいた。

 私だって、それはおかしいなといつも思っていたのだ。火傷のショックで気を失うだなんて聞いたことがない。

 余程、意気地がないようで、かなり面目ない気分だった。


「すまない。あれは、私が悪かった。

 つまり、あわてていたので、振り向きざまにライフルの銃床で君の後頭部をぶん殴ってしまって……」


「なんですって?」


 思わず、私は少佐の顔をきっとなって見た。


「いや、そう怒るな。すまん。いわば不可抗力だ。あれは単なる脳震盪だ。君をノックアウトしちまったんだ。」


 私は、実にかっこ悪い思いをしてきていたので、さすがに恨みがましくなった。少佐もこれには気がついたようだった。


「いやー、大丈夫だよ。オーツ中佐には真相を話してあるから」


 考えてみれば、起きたとき頭痛がした。後頭部にこぶもあったような気がする。だが、火傷のほうが大変で、それどころではなかったのだ。


 これは、さすがにむくれた。


「実にかっこ悪かったですよ。なんで私だけ、気を失ったのかと思うと。よほどヤワなのかと」


「違うんだ。まぁ、これで勘弁してくれないかな?」


 頼むように少佐は言って、ワインをついでくれた。

 そのあと、自分にも手酌でついで飲んでいた。大丈夫かな?

 確かにいいワインだった。明日、仕事がなければ、もっとご馳走になりたいところなのだが。


 明日、ジェレミーとオスカーに、この話はしておこう。名誉挽回をしたい。

 ふくれてはいたが、もう済んだ話なので、仕方が無いから私も言った。


「タマラ少将の話によると、ジャニスは私のことも恨んでいたらしくて、少将は私も狙われていたに違いないと言ってました」


「え? 同じ内容なの?」


 少佐はまさかと言った顔をした。同じ内容かどうかなんてわからない。


「恨みを持たれた経緯は全然違うんだろうと思いますが、とりあえず、復讐の機会を狙ってはいたようです。」


「復讐? あんたにか?」


 少佐は目を丸くした。


「ジャニスは、私には関係のない理由で、勝手に恨みを持ったようです」


「へえー」


 ワイングラス越しに少佐は感心したように言った。何を思っているんだろう。


「学生のころに、ストーカーに追い回されたことがあったのですが、そのストーカーが、どうやらジャニスの息子だったらしいのですよ。教授の計らいで何事もなくすんだのですが、そのストーカーは、その後、事故死したらしいです。ジャニスは自殺じゃないかと疑って、逆恨みをしたのだろうと少将は言っていました。」


「へええ? それはまた、ずいぶんもててたんだね。」


「ストーカーって、もてるのとはワケが違いますよ。」


 私は少し不愉快になってきて言った。大体、軍隊生活以外の話はしたくないのだ。


「怒るなよ。おれなんか、少将に、すごい話を聞かされたんだから。

 まあ、あんたの話を聞いて少しは気が楽になったよ。巻き込んだんだじゃないんだな。お互い様って部分があるんだな。」


「銃の台尻で殴った件は……」


 思わず言ってしまった。


「意地悪だな。それはあやまってるだろ。

 あんなことはよくあることだ。まずかったけど、ちゃんとかついで帰ったろ。

 結構重かったんだぞ、君は。細そうに見えて体重のある女だ。

 そのあと、ガウプ大佐に殴られて、災難続きだったな。おれは一緒に入院できて楽しかったけど。」


「看護師に叱られてたじゃないですか、素行がどうとかで……」


「素行? おれなんか、離婚したはずの妻が日記を残していたんだ。君に撃たれた女だ。ジャニスと一緒に暮らしていたらしい。やりきれないよ。ジャニスといとこ同士らしいんだ。全然知らなかった」


 君に撃たれた女? 

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