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真っ暗な空の下で繰り広げられる物語   作者: buchi


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第23話 病院送りになった

 次に目を覚ましたときは、病院だった。


「大丈夫ですか?」


 付いていてくれたのは、ギルだった。彼は真剣に心配そうな顔をしていた。


「え? どうなっちゃったの?」


「大丈夫ですよ。どこも痛くないでしょう。確かにレーザーを右肩に数本受けていますが、火傷だけです。あと、肋骨が折れています。でも、大丈夫。少し休めば元通りですよ」


「少佐は?」


 ギルが顔を曇らせた。


「大丈夫。少佐のおかげです。少尉を担いでつれて帰ってきてくれた。彼の方がちょっと重症でした。背中を派手に火傷してます。命に別状はないけどね。当分、痛むんじゃないかな」


「あの現場はどうなったの?」


「オーツ中佐とパレット中佐が大活躍しています。すぐに隊が派遣されました。本来、少佐の管轄エリアですが、彼もダウンしているので、パレット中佐が代わりに戦場に出ています」


 看護師が、顔を出した。私は看護師の顔を見た。


「起きて、立ってもいいですか?」


「今日はダメです。それにもう九時です。一晩寝て、明日の朝、考えなさい。鎮痛剤が切れるから、それでも起きられるというのならね」


 フフンといった感じだった。つまり、かなり痛むだろうということか。


「ダメですよ。じっとしててください」


 ギルが言った。


「付いてますから」


「ダメです。面会の方は、九時までです」


 看護師が鋭く突っ込んだ。

 ギルは振り返り、看護師を情けなさそうな顔で見た。

 これには笑った。鎮痛剤が効いているはずの右肩が鈍くうずき、やはり肋骨は相当痛かった。それでも腹がヒクヒクした。ギルには非常に申し訳なかったが。


「睡眠薬を入れてますから、すぐに寝られるはずですよ」


 看護師は、ギルをなんとなく追いやるようにして、病室から追い出した。




 翌朝はやはり厳しかった。肋骨はたいしたことはない。やはり火傷が痛む。バルク少佐の背中は大丈夫だろうか。


「痛いでしょう」


 看護師が無慈悲に聞いた。


「起きられますから、出ます」


「相当に痛むはずですよ」


「痛くても出ます」


「使い物にならないと思います」


 情け容赦ない回答だった。さすがにここまで頑固に言われると、笑わないではいられなかった。笑うと肋骨が痛かった。


「使い物にならなくても、出ます。でも、包帯を替えるときに特に痛くしないでください」


 看護師は、私が笑い出したのが意外だったらしく、あまり意味はわからなかったらしいが、とりあえず鎮痛剤の使い方と風呂について説明してくれた。それから、必ず毎日通院するよう説得して、退院を許可してくれた。


 実をいうと、相当に痛かった。看護師の言うとおりだ。当分、使い物にならない。


 真新しい制服が置いてあった。ギルかマイカが気を利かせて、新しいものを持ってきてくれたのだろう。ジャケットは、肩をはずして着た。確かに肩は動かすと猛烈に痛んだ。袖を通すことができなかった。



 出口でギルとあった。彼は手に何か持っていた。


「なんだ、少尉、もう大丈夫なんですか?」


 ちょっとがっかりした調子が混ざっているのを私は聞き逃さなかった。


「大丈夫じゃない方がいいみたいな言い方だね」


 私は笑った。


「大丈夫じゃありませんよ」


 例の看護師が、看護師ステーションからわざわざ顔を出してきた。


「あんたがた軍人は、どうしてそう体を粗末にしたがるんです。ノルライドさん、きちんと消毒しないと膿みますよ。ちゃんと定期的に来て下さいよ。それから、あなた」


 ギルのことだった。


「この人の彼氏なら、きちんと病院に来るように見張っといてくださいね。化膿されたら、命にかかわるんですから」


 それから、引っ込んだ。


 彼氏ならと言われて、複雑な顔をしたギルだったが、化膿したら命にかかわるというフレーズに、心配そうに


「ちゃんと行ってくださいよ、少尉」と言った。


「行きますよ。心配しなさんな。基地はどんな様子?」


 ギルの手持ちの荷物は、どうやら二人分の朝食らしかった。熱いコーヒーがいい匂いをさせていた。


「コーヒーがいい香り。基地で食べる? どっかいいとこある?」


 結局、基地ではなく、病院のロビーみたいなところの隅っこで食べる羽目になったが、ギルが知り合いのいないところを希望しているのを私は知っていた。


 ふたりで食べたかったのに違いない。


 一緒にいるだけで、楽しい気持ちになれる、そんな時もある。


 ギルによれば、基地はてんやわんやの大騒ぎで、バルク隊は、今、ブルーが一日だけ休暇になっているが、他の隊は、光ボムで撃退したグラクイを退治する非戦闘部員の護衛として活躍しているらしい。


「卵があれば、彼らは出て来るのですが、ジャニスが死んで以来、出て来る数が増えてしまったんです。壊滅作戦が軌道に乗り始めたといわれています。それから少佐と少尉はニュースに出ました。ほら、新聞」


 ギルは、GPSに、そのページを開いたままにして、見せてくれた。病院のロビーの中にも、紙の同じ新聞を広げている人たちがいるところを見ると、関心が高いのだろう。


『壊滅作戦、軌道に乗る』


 見出しはそれで、中身は、ジャニス殺害の記事ではなかった。

 少佐と私の最初のグラクイ集めの成功と、その後のグラクイのおびき寄せ作戦の話を、うまくまとめた構成になっていた。

 

 確かに、ここ数週間の成果は大きかった。


 今、プレスリリースしたのは、ジャニスの殺害が成功して、これからの作戦が容易になり、今後大きく期待されても、大丈夫と考えたのだろう。


 写真は私を背負ったバルク少佐だった。

 基地へ帰ってきたところらしい。どう見ても、私は気絶している。


「うれしくないよね、これ」


「えっ、そうですか?」


 ギルが妙な顔をした。


「なんか弱っちい感じ。バルク少佐が強そう」


 ギルが大声で笑い出した。病院の中で、のんびりと四方山話に興じていた人たちが何人か振り返って、体格のいい軍服姿の若者を見た。


「ちゃんと記事を読んでくださいよ、グラクイ狩りの名ハンターとして、取り上げられてます。顔、写ってないけど」


「写ってなくて、よかった」


「そうかなあ、美人で評判になると思うけど」


 ギルは調子に乗ってうれしそうだった。


「この前、ハンスにも褒められたよ、女装したら、本当におきれいですねって」


 私は陰気そうに言った。


 ギルは、意味がわかった途端、笑い出した。


「いいじゃないですか、女装。似合ってましたよ」


 私は漠然と微笑んで見せた。コーヒーを飲み終えたので、基地へ行こうとギルを促した。




 基地へ行く途中、あまり人には会わなかった。ほぼ全員が駆り出されている感じで、非戦闘部員だけが忙しそうに歩き回っている様子だった。


 基地には、マイカとブルー隊以外の誰もいなかった。


 私を見ると、ブルー隊は全員立ち上がった。


 オスカーが急いで近寄ってきて、珍しく握手しに来た。


「見事にヒットさせたそうだな。さすがだ」


 つい、照れた。オスカーはその様子を見て笑った。


「これで、グラクイも襲ってこなくなるだろう。本当によかった」


 そう、それが最大の問題点だった。ジャニスがいなくなれば、誰もあいつらに武器を渡したりしない。



「ジェレミーは?」


「交代で休んでいる。休まないと死ぬよ。こないだから、こき使われっぱなしだもの。怪我はどう?」


「痛むよ。でも、たいしたことないと思うよ」


「少尉、必ず消毒に行ってくださいね。化膿するって看護師が脅していました」


 ギルがちくった。


「怖い看護師だった」


 私は笑った。


「少尉、記事、見ました?」


 シェリが興奮した様子だった。


「見たよ」


「美人ハンターだ」


 オスカーが、からかった。


「本当は違うよね、これ」


 私はGPSの記事を指した。記事にはジャニスのことなど、一言半句も載っていなかった。


「そうだ。だが、発表したかったんだろう。そして、成果をアピールしたかったんだろうな」


 オスカーは冷静だった。


「でも、かっこよく書いてあります」


 ゼミーたちは素直に喜んでいた。


「イメージをよくする必要があるからね。ところで、少佐は?」


「うん、病院にいる。火傷が、ちょっとまずいらしい」


 その場にいたマイカに聞くと、基地には当時、オーツ中佐を始め、幹部連中が詰めていたらしい。


 彼らはイライラしながら続報を待っていた。


 そこへ、狙撃が成功したと連絡が入り、全員で歓声を上げていたところへ、背中からグラクイに襲われた二人がGPSで突然戻ってきたそうだ。

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