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真っ暗な空の下で繰り広げられる物語   作者: buchi


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第22話 成功したけど、どこかがおかしい

 少佐は私の目を指差した。


「目の能力だ。光度を落とすと、ギルもシンも命中率がガタガタに落ちてしまった。この距離だと、もう当てることが出来ない。

 ほかの誰もが、皆、そうなのだ。

 あんただけが残った。

 腕じゃない。

 あんたは、野戦と同じ明るさしかなくても、命中させることが出来る。だから、もう、あんたしかいなかった。オーツ中佐がしつこく粘って説得した」


 私は何も言わなかった。少佐はさらに続けた。


「おれもあの実験を思いつくまで、なぜ、少尉だけが実戦で好成績なのか、理由が全然わからなかった。まるでグラクイのような目だ。暗闇でも見えるのだろう、あんたの目は」


 私は、そんなことは考えたことがなかった。




 そのあと、二人で簡単な打ち合わせをした。それから狙撃ポイントへ行き、じっと監視し続ける生活を送ることになった。


 夜間は、グラクイの攻撃を警戒して、交互に寝たが、グラクイは全く来なかった。


「グラクイは来ないだろう。

 反対側のエリアで、囮作戦を続けているしね。卵を囮にして、グラクイをこことは離れたエリアに釘付けにしているんだ。

 グラクイだって、数が相当減っているはずだ。こっちにまで出て来れないだろう。

 それと、軍のホームページに、軍はグラクイへの対応で手一杯で、ほかのことは何もできないと載せている。

 ジャニスが、この記事を読んだら(多分、軍のことは気にしているだろうから、必ず読むと思うが)、彼の家に軍が注目しているとは、思わないはずだ。

 油断させて、日向ぼっこをしてもらわないといけないからね」


 交互に睡眠を取らなければならないので、少佐と一緒の時間帯は、最も日当たりのよい数時間のみだった。


 昼飯は付き合ったが、彼はそう口数が多い方ではないので、たいてい二人とも黙っていた。


 私は、常に銃をセットして、時々腹ばいになって照準を合わせていた。そんな時は光るといけないので、銃には上から袋をかぶせていた。二人とも双眼鏡で常に家の様子をうかがっていた。


 意外に豪華なつくりで、テラスになっていて、寝椅子がひとつ置かれていた。サイドテーブルらしいものが右隣に置かれていて、ジャニスが右利きなことをうかがわせた。


 驚いたことに、黒尽くめの小さなものが昼間でも出現することがあり、GPSで見ると、それはどうやらグラクイが日の光を遮断する着物をまとって仕事をしているらしかった。彼らにとっては苦痛だろう。

 夜間、GPSで監視すると(裸眼では全く見えないのだが)、彼らは何人も狭いテラスに集まってきて、何事かやっているようだった。


「掃除だろう」


 私もそう思った。夜、グラクイが多い日は、翌日、ジャニスが現れるかもしれなかった。

 もっとも、出現数が多いのか少ないのか、少佐も私もまるで見当が付かなかった。





 夜の監視は気楽だった。

 いつものように、暗いような薄明るいような夜空が広がっていた。少佐は寝ていたし、そのほかには誰もいなかった。

 

 夜空を眺めながら、私はジャニスのことを考えていた。

 私の標的である。

  

 軍が欲しいのは、グラクイが空を暗くしている証拠だ。

 状況証拠でもよいので、昔の気象データを欲しがっている。

 だが、データが残っていそうな旧の気象センター一帯は、ジャニスとグラクイが陣取っていて、危なくて踏み込めない。ジャニスは本当に邪魔だった。


「ジャニスを始末すれば……グラクイは武器を手に入れることができない。武器を持たないグラクイは、人間の敵じゃない。荒野は安全になる。立ち入り禁止区域だってなくなるんだ」


 ジャニスは明らかに敵だった。

 彼は、グラクイに武器を与え、軍を襲撃させている。

 ジャニスがグラクイの銃の供給源なのは、グラクイの銃の部品が、町の雑貨屋がジャニスに売りつけた部品と合致した時点で、ほぼ間違いなかった。

 しかし、そこまでわかっているのに、立証できないので、彼を止める手段がないのだと言う。


ジャニスを止めたかったら、まず、生き返らさねばならなかった。


 本人が出頭して、何種類かの証明を提出して申請し、調査し、承認が正式に行われる。これで、ようやく(法的な意味で)人格が復活できる。

 その後、銃を作成、グラクイに渡し、襲撃するよう命令した証明をしなくてはならないが、銃を作ったところで罪にはならないし、グラクイに渡したのと襲撃命令の方は、立証が不可能だった。本人がやっていないと言えば、それまでである。反証のしようがない。


 こういった手続きが簡単なら、とっくの昔に電力会社が、電力の不正使用と電力料金の請求をしているだろう。

 電力会社が何もしていないのは、手間なくせに割が合わないからだ。

 問題の大きさと切実性から言うと、軍の方が、はるかに深刻だったが、軍だって、多分無理だろう。


 ジャニスは、大抵抗するに違いない。生存証明の提出なんて、ありとあらゆる手段で阻止するだろう。死んでたって、今まで、なんの不都合もなかったのだから。


 よろしい。そんなに死んでる方が都合がいいなら、現実化してしまったらいいのだ。


 要はそういうことだ。


 条件はいろいろと整っている。ジャニスとグラクイの関係の証明が難しいのと同じくらい、死人のジャニス殺害の立証も難しかった。

 それに、ライフルを使えると言うのは、なかなかよかった。



 だが、消えない疑問は残った。


 一体なんだって、軍を襲撃するのだろう?



 そして、グラクイについて言えば、人を襲わなかったとしても、同情の余地はなかった。

 その害悪を証明出来ないので、おおっぴらに退治できず、保護費ならとにかく研究費など出る可能性がまるでなかった。退治するための研究費など、もっての外だ。

 彼らさえいなくなれば、空は明るくなるのに、手をこまねいているしかなかった。

 何でもいいから、議会や団体を説得できる証拠を掴みたい気持ちは、よくわかった。

 ジャニスはそのための第一関門だった。



 


 翌朝、遅番の私が起き出すと、少佐がいつになく緊張していた。夕べ、グラクイの動きが妙に多かったそうだ。


「今日のような気がする」


 黒尽くめのグラクイが数匹テラスに上がっているのが見えた。


 最も日差しの強くなった、十二時頃、奥の大きなガラスのドアが開いた。上半身裸の男が現れた。大きな男だった。


「多分、あれがジャニスだ」


 私は、少佐の緊張ぶりがおかしくて、にやりとした。ジャニスは何事か周りのグラクイに命じている様子だった。


「行きますよ、少佐。楽勝だ」


 光学スコープをのぞいた。だが、ダメだ。


「やつら寝椅子の場所を変えたな」


 少佐があわてて双眼鏡を覗き込んだ。


「そうなのか、ノッチ」


 私は、銃の設置を変えるのに大童だった。足場が岩だから、水平でない。狙撃銃はウェイトが違う。足がないと私には打てない。


 だが、しかしその間に彼は寝椅子に横たわってしまった。足の裏を狙うわけには行かない。高度はこちらとほぼ同一だ。銃に布をかぶせたまま、設置に万全を期した。


「少佐、GPSに注意してください。次に、グラクイが出てきたときがチャンスだ」


 約半時間経過後、少佐がグラクイが3匹地下から近寄ってきたと言った。


「きっと昼食だ」


「上半身を起こすだろう」


 グラクイがサイドテーブルにいろいろ並べている様子がわかった。少佐は黙って家をにらんでいた。彼も私も視力はとてもよかった。


 寝椅子は電動だったらしく、ゆっくりジャニスが、いすの背もたれごと起き上がってきた。なにかしゃべっているが、体はだらりとしている。


 いまだ。息を詰める。世界中が静まり返る瞬間。



 空を突く音が響き、一発で、ジャニスは、肩と頭が飛んだ。


「命中」


 スコープを見ていた少佐が冷静に確認した。

 次を詰めなおした。


「2発目の必要があるのか?」


「ありません。一発、体のどこであっても、あたってさえいれば必ず死ぬ。」


 私は答えた。


 その間にも、黒装束のグラクイは続々とテラスへ上がってきていた。



 その時、誰も予想していなかったことが起きた。


 長いブロンドのスカートをはいた女が、ジャニスが出てきた入り口から、走りこんできた。多分、つんざくような悲鳴を上げたのだろう。身振りからも想像できた。


「あれは? 誰?」


 少佐はかなりあわてて再びスコープを覗き込んだ。


「全然わからない。聞いていない。女が一緒にいたのか。一人だと思っていた」


「どうしますか? 殺しますか? このまま放っておきますか?」


 少佐は、双眼鏡をのぞいていた。その手が少し震えていた。


「殺せ」


 私は、スコープをのぞき、狙いを付け直した。


 七百を切る距離だ。私は再度撃った。


 音が荒野に響き渡った。

 双眼鏡をのぞき続けていた少佐が言った。


「命中だ」


 私は何も答えなかった。人を撃ったのは初めてだ。


 何の感動も覚えなかったことに、むしろ驚きを感じていた。

 遠くの的に当てただけのような気がした。子供が射的遊びをするような感触。

 当たったらうれしいだけの単純な遊び。

 本当は、私は何かを感じるべきだったのかもしれない。


 もう弾は詰めなかった。狙撃は、単発で行うものだ。でないと、発射地点を突き止められてしまう。狙撃が狙撃にならない。テントなどの片付けを始めた。帰る用意だ。用は済んだ。


「ノルライド、すごい腕だな。なぜ、射撃場より、ここの方が腕がさえるんだ」


 少佐がつぶやくように言った。それから、GPSに向き直って連絡を取った。


「ジェレミーか? 作戦は成功した。オーツ中佐に言ってくれ。それから……」


 いきなり、少佐が反対側を向いた。私も振り向いた。


 後ろからグラクイが迫ってきていた。


 私は至近距離から撃った。だが、1匹や2匹ではなかった。すごい数だ。少佐がライフルを振りかぶって叫んだ。


「逃げろ! ノルライドッ……」


 レーザーを十本以上当てられれば……


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