第1話 橘花梨、入隊
ー只今より、貴方とシナプスの適合テストを開始します。
頭の中に声が響く。
直接脳に語りかけられているようだ、少女はそう思った。
真っ暗な部屋の中央に置かれた診察台のようなベッドの上に、
少女が1人、目を閉じ仰向けになっている。
ーこれから貴方にいくつか質問をします。その質問に対して嘘偽りなくありのままに正直に思うままに答えてください。
「は、はい…分かりました。」
(なんだか不思議な言い回しだなぁ)
少女は目を閉じたまま首を傾げた。
厳かに深き渡る声に耳を傾ける。
ー貴方の姓と名は?
「橘 花梨です。」
ー年齢は?
「16歳です。」
ーあら、四月生まれなの?
「は、はい…そうです…」
ー好きな食べ物は?
「えっ!?…うーん、あっ、カリンのコンポート!
小さい頃母がよく作ってくれたんです。」
ー好きなスポーツは?
「テニス…かなぁ…スポーツはあまり得意じゃないんです…」
それからうんざりするような、たわいなく感じられる質問が続いた。
少女、花梨は(これ必要なのかなあ)と質問に疑問符をつけながらも応えた。
多数の質問に応えながら、いくつ目の質問かも数えられなくなってきたころ、
ー今までで最も楽しかった思い出は?
「思い出…?そうですね…数年前に家族と一緒に水族館に出掛けた事…です。
あっ、少し年の離れた姉と母が居たんです。
母の仕事が休みで、珍しく家族みんなで遊んだんです。楽しかったなあ。」
ー…貴方は合成異質同体と闘い続ける覚悟はありますか?
「…はい。」
ーではその為に貴方の身体と心をシナプスに捧げ、世界の為に命を投げ出す事ができますか?
「…それで護れるものがあるのなら、私は何だって差し出します。」
ー最後の質問です。貴方は何の為に力を望みますか?
「私は…ーーー」
ニッポンの中央に構える街、
トーキョー。
歴史の教科書に載るくらい昔には昼夜問わず人で溢れかえり、
ニッポンで最も栄えた街だったと言われている。
今、トーキョーには合成異質同体が蔓延り、
人の気配は殆ど感じられない。
いつかのこと、どこからともなく現れた合成異質同体はトーキョーの街そのものを喰らい尽くした。
合成異質同体という生命体は未だ多くの謎に包まれている。
それらは旧世代の武器、兵器が一切通用せず、
唯一の対抗戦力として国家によって設立された自衛組織、
合成異質同体討伐隊が挙げられる。
合成異質同体討伐隊には満16歳以上、満18歳以下であり、特定の条件を満たした少女のみが選抜される。
合成異質同体討伐隊は未曾有の技術により開発された『シナプス』の力を用いて合成異質同体に対抗する。
この『シナプス』に適合出来るのが、満16歳以上、満18歳以下の少女にのみ確認されている。
「ここが…合成異質同体討伐隊の…根城??」
橘花梨はゆっくりと首を傾げた。
「アジトとか研究室みたいなものを想像してたけど…
これじゃあまるで…学校の教室だ…」
橘花梨は鉄製の引き戸を前に小さく呟いた。
扉の上部には「1-A」と表札のようなものが設けられている。
扉の横には1メートル四方程度の板ガラスが貼られている。
しかしマジックミラーになっており部屋の中の様子は伺えない。
外見は学校教室そのものだが、異様な雰囲気が内側から感じられた。
橘花梨は大きく息を吸い、一息つき、扉を開いた。
ガラガラっ
扉の擦れる心地の良い音を感じながらその部屋へと足を踏み入れた。
木製で板張りの床、コンクリートの壁と天井。
部屋の中央先端には縦1メートル、横3メートル程度の大きなホワイトボードが壁に埋め込まれていた。
部屋には等間隔に1人用の椅子と机が10個ほど等間隔に並んでいた。
各席には少女が着き、空席は1箇所のみ。おそらくそれは橘花梨用の机と席なのだろう。
「やっぱり教室だーーー!!!」
橘花梨は思わず声を挙げた。
きっと秘密組織のような何かを期待していたのだろう。
部屋ー教室の少女達はほぼ同時に目線だけを橘花梨に向けた。
「あ、ご、ごめんなさい…」
恥ずかしさを誤魔化すように頭をペコペコと下げながら後ろ手に扉を閉め、
空席に陣を取った。
最前列の1つ後ろ、2列目の窓際の席。
橘花梨は期待と不安に胸を高鳴らせていた。
これからここで合成異質同体討伐隊としての生活が始まるんだ。
きっと普通の女子高生には味わえないような日々が続くのだろう。
過酷な訓練や専門技能の講習が行われるのだろうか。
様々な想像を膨らませていた。
ガラガラっ
教室の扉が開く音が響いた。
「はぁ〜い!皆さんちゃんと集まっていますかぁ〜?」
思わず気が緩むような、テンポが遅く、
でも心が落ち着くような優しい声だった。
その女性は、長い髪が肩に掛からないよう後ろで結び、
丁度ポニーテールのようなヘアスタイルだった。
整えられた髪からは清潔感が感じられる。
膝上の黒いタイトスカートに白いブラウスとグレーのジャケットを羽織っていた。
なぜスカートとアウターの色がちぐはぐなのだろうか、橘花梨はそう疑問に思ったが口を噤んだ。
大きな瞳と自然に上がっている口角が特徴的だった。
女性は教室に入りスタスタと歩き、
ホワイトボードの前に設けられた…教室の最前に設けられた腰ほどの高さに横1メートル程度の机、教壇に手を掛けた。
「はじめまして!今日からこの1- Aの担任を務めます、江崎桃香です!よろしくお願いします!」
(え!?先生!?!?)
「それじゃあ…まずはホームルーム!みんなで自己紹介を始めましょう!」
江崎は笑顔を浮かべ顔の前で両の手を合わせた。
「やっぱり学校だーーー!!!」
花梨は思わず声を挙げた。
これから橘花梨の不思議なスクールライフが始まる。
始まりました!
少女達が異形の生物と闘うお話です。
マイペースで更新していきます。
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