オルカとミササギ
オルカ・エコーについて紐解くと、なるほど悪人ではないが取り立てて名が知られた人間でもなかったことがわかる。それこそ、“選定者”になったからこそ名が知られることになったと言えるだろう。
大きな怪我もなく、実績を積み重ねていったとされている。従えていた魔物と、判断と動きの速さが武器だった。
相方と称されるミササギという女人は、テイマーであり、符術師という、呪符を使って術を行使する術者であった。どうやら同じ師に習った同胞であったらしく、兄妹のような関係であったと記録が残っている。後に生まれるミササギの子どもの名付け親はオルカであった。
☆
「やぁ、賑やかだ」
「浮き足立っているね。さて、どこへ向かうんだい? オルカ」
カクロウの言いつけでオルカについてきたミササギは、浮ついた雰囲気に首を傾げながら問いかけた。王都のほうが気になると言っていたものの、具体的な目的地は聞いていない。
「どうしようか」
「どうしようか、ではなくて。なんだ、君、方角しかわかっていなかったのか」
「王都、は間違いなさそうだけと。さて」
まったく、と呟いたものの、腹が立っているわけではない。実の親より付き合いの長い相方だ、そんな事であろうと思っていた。
オルカが神様に、なにやら役目を授けられた。その事で昨日は混乱しきりだったが、オルカときたら昨日も今朝も様子がまったく変わらない。自分の調子を崩さないのは強みだが、はたから見ているとなにも考えていないようで心配になる。
「人が集まるところに行こうか。王都に立った光の柱についても聞けるかもしれない」
「それしかないかぁ。ううん、便利なようで、不便だなぁ」
「……オルカ、なに見てるんだい?」
つう、っと、オルカがなにもないところを指でなぞるような、そんな仕草をしていた。ミササギの目にはなにも見えない。
「ああ、昨日から、なんだか光の筋みたいなのが見えていて」
「は」
「これじゃないかなぁ、と思うんだけど。強い光のやつもあれば、朧げなのもあって、追いかけにくくてね」
「……君それ、視界は大丈夫か?」
「気にしなければ気にならないよ」
「なら、良いけれど。目の良さは君の武器だろう。あんまり凄くなるようなら、カクロウに相談だな」
傭兵ギルドの仕事は、酒場の用心棒から魔物退治、商人要人の護衛と、戦えることが前提だ。戦闘の時に不利になるようなら、仕事の選び方も変えなければならないだろう。
「どうだろう。多分、選出すれば見えなくなると思うよ」
「わからないことが多いな。昨日までなかったことが他にも見つかったら、私にだけでもいいから話してほしい。後から知らされるのは臓器に良くない」
「肝に命じておくよ」
その日は結局、なんの収穫もなく“ぎるどのまち”に帰ることになった。
そしてその翌日、ユファリリア皇国全土に御触れが出される。
【その役目の力となるよう、皇国は助力を惜しまない。選定の力となるためにも、来るべき日に“選定者”の式典を執り行う】
国により“選定者”の存在が公言されたのは、このユファリリア皇国の御触れが最初とされている。
移動は馬でした。