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7-16. 岩

目が覚めた。


合宿2日目の朝。

歩き旅の時と同様、視界に入るのはテントの幕だ。

洞窟の中は勿論陽の光が入らないので真っ暗だが、テントの幕を通して仄かな光が入ってくる。


あぁ、きっと盾本の魔力ランプだな。

可合もずっと【光源Ⅱ】(ライト・ソース)で光の球を出し続ける訳にはいかないので、可合が休憩・睡眠している間には一時御役御免となったランプが役に立っているのだろう。



さて、テントを出る準備だ。

毛布を畳み、白衣(ロングコート)を羽織る。


そういえば、今何時だろう?

……といっても、大体予想はついている。

この世界に召喚されてから僕の生活リズムはとても健全なものになり、余程夜更かしでもしなければいつも7時前後には目が覚める。

しかも寝覚めは良く、毎朝スッキリだ。



そんな事を考えつつ、準備を進める。

よし、着替えオッケー。リュックも背負った。

テントの口を開いて外に出よう。






「「「おはようございます」」」

「あぁ、3人とも、おはよう」


うぉっ。

シンもコースもダンも起きてたか。

しかもテントセットを半分程片付け終わっている。

早いな、君達。



「あ、おはよう数原くん」

「数原君、お早う。君にしては珍しく、今朝は早いんだな」

「おぅ、ナメんな神谷」

「うっす。オメェの事だから、どうせ今日も遅刻だと思ってたけどな」


クソッ。

コイツら、僕の事を完全に遅刻魔扱いしてるじゃんか。召喚後は毎日早起きだってのに……


もしかして、これが『日頃の行い』ってヤツか?



……まぁいいや。

高校時代に始業ギリギリで登校していた僕が悪い。

って事でテントの片付け、やっちゃいますか。


支度して、朝食食べたら2層目に出発だ!






「よし、皆準備オッケーかな?」

「「「おう!」」」

「「「はい!」」」

「今朝お寝坊した盾本は準備オッケーかな?」

「くそっ、よりによってそのセリフを計介くんに言われるなんて……」

「準備オッケーかな?」

「オッケーだよっ!」

「「「「ハハハッ……」」」」


はい。

起こしても起こしても盾本は全く目覚めなかったので、敢えて放置して寝坊させてみました。


盾本は結局全員が出発準備を済ませた所で目覚めた。

準備完了した僕らを見て、朝から青ざめていたな。

僕らを見回してからの一言、『あ、あれ…………俺、遅刻?』は全員が大爆笑だったな。


その分出発が遅れちゃったけど、まぁ30分位なら問題無いだろ。



って事で、まぁ朝から色々あったけど全員準備完了だ。


「2層目、行くぞ!」


その掛け声と共に、僕達は2層目へと階段を下りた。






8人で階段を下りた先には、1層目と変わり映えしない洞窟が続いていた。


「ここが……2層目?」

「あぁ、そうだろうな」

「見た感じ1層目と同じだな、全く」

「恐らく、この洞窟の造りは迷宮(ダンジョン)を通して一定なのだろうな」


洞窟は、1層目と同じくライトや松明といった照明の部類はなく、上下左右の壁面は岩で出来ている。

表面はゴツゴツしており、人の手は加わっていないようだな。


そういえば、さっきの階段だけは人工物な感じがしたな。

あの坂道、階段があったとはいえ結構傾斜がキツかったからな。

この迷宮(ダンジョン)を合宿会場にした騎士団か連合の方々が作ってくれたのだろう、きっと。



「では、カミヤさん。2層目のマッピングも始めましょうか!」

「応、そうしよう!」

「シン、新しい紙だ。2層目もよろしく頼むよ」

「あ、先生、ありがとうございます。頑張ります!」

「数原君、済まないな。助かるよ」

「いやいや、神谷もマッピング宜しくね」

「勿論。任せてくれ」


そして僕達は2層目の探索を開始した。






「ッハァーー……」

「うん? ダン、どうかしましたか? 珍しく大きな溜息をついて」

「あ、あぁ……」


そういえばダンが溜息をついたり、怒ったりする所って出会ってから見たことが無かったな。

我慢の良くできる、いい子なんだろう。


だが、そんなダンさえも精神的に参らせ、そうさせるのがこの迷宮(ダンジョン)だ。


「昨日からずっと同じ風景、突然来るバットの奇襲、行き止まっては戻るの繰り返し…………、もう参っちまうな……」

「成程……私はマッピングを楽しんでいますが、ダンの気持ちも確かに分かります」

「あれだけ苦しめてくるバットを自分の手で倒せないってのも辛いですよね、ダンさん」

「おう、本当だよ。タテモトさん」



未だに頭上から襲って来るバットに対しては、コースと可合の魔法で対応して貰ってる。

勿論、(ジョブ)的に相性が悪いからってのは皆分かっている。

だけど、こう言っちゃいけないかもしれないが『女の子達に頼り切っている屈強な男共』ってのもまた精神的にやられるんだよね。僕達からすれば。


「でもダン、きっと大丈夫です。出番はいずれ回ってきますよ」

「分かっちゃいるけど……まあ、そうだな。よし、我慢だ、俺!」

「その意気です!」



そんな感じで、ダンが再びやる気を取り戻すと、探索は進む。


分岐に差し掛かり、左に進み、行き止まり、引き返し、右に進む。

コウモリの奇襲を退け、進むと分岐に差し掛かり、左に進み、また分岐に差し掛かる。

左に進み、行き止まり、引き返し、右に進む。

行き止まり。

分岐を2つ分引き返し、右に進む。


今日もずっとこんな繰り返しだ。

あぁ、今日も昨日と全く同じになるのかな……



なんて事をボーッと考えていた時、()()は起こった。






「ん? アレは……」

「なんでしょうか、カミヤさん?」


グループの最前を歩く2人が、何かに気付いたようだ。

僕も気になったので、列の横から顔を出して前を覗く。


「あの……岩、と言えば良いだろうか? 岩の球のようなものだ」

「あ、本当ですね。通路の真ん中に同じ物が2つも置いてあるなんて」

「見るからに怪しいな……」


可合の創った光の球に照らし出されたのは、洞窟の通路に置かれた、2つの『岩の球』だ。

まだ遠くにあるので細かくは分からないが、言葉で表すなら『表面が軽くゴツゴツした、岩製のバランスボール』だな。


「もう少し近づいて見てみようか」

「そうですね。何か文字でも彫ってあるかもしれませんし」


そして、少し歩調を上げて岩球へと歩み寄るシンと神谷。

後ろにいる僕達も付いて行く。



段々と僕達と岩球の距離が近づいていき、岩球が少しずつ鮮明に見えて来た。

その時。


ピクッ

「ん?」


岩球が動いた?



「どうしたの、計介くん?」

「あぁ、いや、なんかあの岩の球がピクッて動いたような気がして。盾本は見えたか?」

「いや、見えなかった。後ろからだと拳児くんとダンさんが壁になって前が見えないんだよね……」


あぁ、ガタイの良い人のせいで前が見えないやつね。

背の低い奴が苦労する、学校あるあるだよな。

ちなみに僕の身長はずっと平均をキープしているので、それに悩まされた事は無い。


「済まねぇ、タテモトさん。多分、俺の大盾が視界を遮っちまってるな」

「盾本、じゃあオメェ前行けよ。チビなんだし」

「強羅くんに比べればうちのクラスの殆どはチビだよ!」


身長も僕と同じ位で平均だというのに、チビと呼ばれる盾本。可哀相に。

そして、盾本はそう言いつつも最後尾から走り、シンと神谷の後ろ、強羅とダンの前に着く。


「おぉ、見える!!」


そう盾本が叫ぶ。

うん、良かったね。



列の後ろでそんなコントみたいな事をしている間も、シンと神谷は初めて見る謎の物体に惹かれるように歩み寄っていた。


のだが。



ピクッ

「「あっ」」


また動いた。反応したのは僕と盾本。


「計介くんのいう通り、あの球、動くね」

「本当ですか!?」

「私には動きが感知出来なかったのだが……動くという事は、アレは生物だろ————


神谷がそう述べている瞬間。



ゴロゴロゴロゴロッ!!!


「うぉっ!」

「何ッ!」

「ぅわっ!」

「なッ!」


突然、バランスボール大の岩球が僕達に向かって凄い勢いで転がり始めた。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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