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7-15. 階段

フゥー。

なんとか洞窟内を飛び回るケーブバットを【水線Ⅳ】(ウォーター・レーザー)【光弾Ⅱ】(ライト・バレット)で一掃し終えた。

それでもまだ階段を発見した興奮は冷めやらないようで、メンバーが思い思いに話をしている。


「念願の下り階段、発見ですね!」

「マッピングした甲斐があったな、シン君!」

「はい、カミヤさん!」


「これで2層目に突入出来るね!」

「といっても、まだ5層の内の1層目が終わったトコロなんだよねー……」

「……それを言っちゃダメだよ、コースちゃん」


「ダンさん、やったな! 俺、こんなに嬉しいって思ったの久しぶりだよ!」

「おう、そうか」

「この調子なら、時間こそ掛かるかもしれなけど迷宮(ダンジョン)の最下層までラクラクだな————

「いや、タテモトさん、それは違うぞ」

「え? ……と言いますと?」

迷宮(ダンジョン)ってのは、一般に階層が下がるほど出てくる魔物も強くなるんだ。もしかしたら2層目からはバット以外の魔物も現れるかもしれねえ」

「な、成程! それじゃあ、俺たちもそうウカウカしてらんないな。サンキュー、ダンさん!」

「おう!」


うんうん。皆嬉しそうだ。

この調子なら2層目や、その先も突破できるだろうな。






メンバーを眺めつつそんな事を考えていると、視界の隅から強羅が歩み寄ってくるのが見えた。


「か、数原……」

「ん? どうした?」

「さっきの事なんだけどよぉ……」


強羅が妙に気まずそうに話す。

さっきの事…………あぁ、あの喧嘩ね。

階段が見つかった興奮と喜びで頭から吹き飛んでたよ。

頭に血が上ってた割には、()()()()ちゃんと覚えてんじゃんか。


「……さっきは、済まなか————

「いや、謝るのは僕じゃない」

「……え?」


強羅が間抜けな表情で、間抜けな声を出して一瞬止まる。

約束をちゃんと覚えてたのは凄いが、謝るのは()()じゃないんだよ。


「学生3人、集合!」

「「「はい!」」」


グループのメンバー達の方を向いて、そう叫ぶ。

その直後、体育会よろしく鋭い返事と共にこちらへ駆けてくるシン、コース、ダン。



「何でしょうか、先生?」

「あぁ、えーと……シン、コース、ダン。強羅から話があります」


さて、強羅。禊の時間だ。

お前の放った発言、しっかり償いなさい。



「えーと…………シン、勘がどうとか邪魔者とか言って、済まなかった」


そう言うと、シンにゆっくりと頭を下げる強羅。

流石は武道家であろうか、腰から直角に身体を曲げて深く礼をする。


少し間を空けて、次にコースとダンの方を向く。


「コース、ダン……シンを庇ったとか、こっちの世界の人とか差別したりして、済まなかった」


そして同様に深々と礼。



「ゴーラさん、そうお気になさらないで下さい」

「気にしないでー」

「俺も大丈夫だ」


学生達が頭を下げる強羅に一声ずつ掛ける。

そして、頭を上げる強羅。

その顔には反省の色が鮮やかに映っていた。


「今考えりゃ、俺はオメェらと出会ってまだ1日だ。そんな俺が言った『根拠も無え勘なんて信じねえ』より、十何年シンと一緒に居るダンが言った『シンの勘は当たる』の方が信頼できるなんて、当たり前だよな。俺の頭がどうかしてたぜ」

「いえ、ただ洞窟内を歩き回るだけというあの状況です。ストレスが溜まって短気になるのは仕方ありませんよ」

「……そうか。そして、オメェの勘は見事に当たった。本当にダンの言った通りだったな。凄えよ、シン」

「いえ、私も突然、皆さんに希望を与えてしまうような事を言ってしまった事、反省しています。これでもしも階段が無ければ、皆さんを落胆の底に突き落とす所でした」

「いや、オメェの勘が告げた事はどんどん言うべきだ」

「……そう言って頂けると助かります。ありがとうございます」

「いや、こちらこそ済まんかったな」

「いえいえ」


そしてシンと強羅は微笑み合い、お互いに握手を交わした。


フゥー、良かった。

2人は仲直り出来たようだ。

横目でグループのメンバーをチラッと見てみると、皆も2人の方を見て微笑んでいる。

これでさっきの喧嘩、一件落着だな。






グウウウゥゥゥー……


と、シンと強羅が握った手を離した直後、僕の右から物凄い効果音が聞こえた。

一体何の音だよ、と思いつつ右を振り向くと。


「先生、お腹減ったよー……」


そこには、お腹を抑えて眉を八の字にしたコースが居た。


「いや、コース。やりたくてやった訳じゃないだろうけどさ……このタイミングで腹が鳴るかよ!?」

「え、えへへへ……」


そうして、笑って誤魔化そうとするコース。

お前のメンタル、本当にどうかしてるよ。



「フフフッ……」

「オメェのその胆力、見習いたいぜ、全く。ハッハッハ……」


コースの方を見ていたシンが笑い、強羅がそう呟く。


「「フフッ」」」

「「ハハハッ……」」


それにつられ、他のメンバー達にも笑顔が移る。


それから暫く、周囲の雰囲気は温かいものに包まれていた。






「で、お腹すいたんだけどー……」

「あぁ、そうだったな」


忘れてた。

言われてみれば、僕も結構空腹だ。

そろそろご飯タイムにしようか。


「皆もお腹空いてないか? そろそろ夕食にしよう」

「言われてみれば、そうですね……」

「俺も腹減ったぜ」

「私も。あ、ところで勇太くん、今何時か分かる?」

「応。ちょっと待ってくれ……」


可合からそう言われ、リュックに手を突っ込んでガサゴソする神谷。

取り出したのは……懐中時計だ。

……懐中時計ってポケットに入れたりして使うんじゃなかったっけ? リュックに入れてたら不便じゃないのかな?



「現在時刻は……もう夜の9時じゃないか!」


マジか!

意外と時間が進んでいた。時が経つのって早いな。


「昼の1時過ぎに迷宮(ダンジョン)に潜入したので、私達は8時間歩きっぱなしだったという事ですね」

「そりゃお腹も減るし、疲れるわな」

「それに、ずっと洞窟の中だから俺たちの時間感覚が無くなるのも仕方ないよね」

「確かにー」


えー、もう夜の9時かよ。

この時間なら夕食だけと言わず、ここで野宿にしても良さそうだな。

丁度階段が見つかった所だ。キリもいいし。


「よし、じゃあ今日はこの階段の辺りで野宿にしようか」

「そうだな、数原君。皆疲労も溜まっているし、そうしよう」

「コウモリ達も居ないしな」






って事で、合宿初日が終了した。


今日は迷宮(ダンジョン)に潜入したらコウモリに襲われ、大波に流され、探索を続けてたら喧嘩が起こり、その後下層への階段を発見して仲直りした。


いやー、探索を始めてから1日……というかまだ半日なんだが、色々あったな。


それに、僕も結構疲れた。

夕食の缶詰を食べて、見張り番のローテーションもチャチャっと決めて、さっさと寝よう。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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