7-11. 黒
さて、僕達のグループも洞窟に潜入しよう。
って思ったんだが、そういえばこのグループのリーダーが誰なのか分からない。
順当に行けば神谷なんだが……
神谷はシンと行動する。
同様に、可合はコースと行動する。
強羅は神谷・可合と行動する。
盾本はダンと行動する。
そしてシン、コース、ダンは僕と行動するので、結局僕が動けば皆も僕と同じように動く。
……って事は僕がリーダーか。
まぁ良い。
それなら、僕は僕なりにグループのリーダー務めてみますか。
「よし、じゃあ皆、迷宮入るぞ!」
「はい!」
「はーい!」
「おう!」
「了解!」
「うん!」
「よっしゃ!」
「分かった!」
……各自が思い思いの返答を返す。
七人居れば返答も七様ってか。
まぁ良いや。
いちいちそんな事気にしてたら、多分今後キリが無いのでこれくらいにしておく。
洞窟に入ろう。
「うわー、真っ暗だねー……」
「足元すら見えねぇな……」
コースと強羅がそう呟く。
「あぁ、そういえば俺、魔力ランプ持ってきたんだった。使う?」
「いや、大丈夫だよ盾本くん、ありがとう。ここは私が」
「分かった。可合さんもランプか何かを持って来たの?」
「えーと、まあそんな感じかな。じゃあ……【光源Ⅱ】!」
可合がそう唱える。
すると、ポワッという音と共に、可合の前に宙に浮く光の球が現れた。
「「「「「「「おぉ!」」」」」」」
「発光する球が出現したぞ!」
「ミユちゃんすごーい! これって『光系統魔術師』の魔法?」
「ありがとうコースちゃん。そう、これが私の魔法、【光系統魔法】だよ」
「やるじゃんか美優。カッコいいぜ!」
「これなら洞窟の中も見渡せますね! カワイさん流石です!」
「ランプ要らなかったかな……可合さん、ありがとう!」
「エヘヘ……」
褒められてデレる可合。
可合のこんな姿、初めて見たな。
可合の魔法で現れたバスケットボール大の光る球は、宙に浮いて僕らの周囲を照らし出している。
これで足元もハッキリ見えるな。安心して歩ける。
という訳でなんとか洞窟内の視界も確保でき、僕らは快調に洞窟の中へと進み始めた。
のだが。
「…………ね、ねぇ計介くん」
「ん? どうした盾本?」
「う、上……」
ガクガク震えた盾本が洞窟の天井を指差しながら、僕にそう伝えてくる。
何かあるのだろうか。
「うん?」
盾本に言われた通り、天井を見上げる。
僕達の会話が聞こえたメンバーもつられて見上げる。
「げっ……」
「ぃや……」
「うっ……」
「ぅゎ……」
僕を含め、メンバーの口から溢れる恐怖の声。
洞窟の天井は、大量の『真っ黒な何か』に覆われていた。
よーく見ると、それぞれはネズミ程の大きさで、全身を黒いフワフワに覆われている。
天井には鳥の足のようなものでしがみ付き、コースの作り出した光が反射して眼を浮かび上がらせる。
そして、折り畳まれた翼がその身体を覆う。
……どうやら、可合の作った光の球は、要らないモノまで照らし出してしまったようだ。
「これって……」
「まさか……」
そう。洞窟の天井を埋め尽くしていたのは。
「コウモリだ!!!」
「「キャァァァァァァ!!!」」
「「ィヤアアアァァァァァ!!!」」
その正体、そしてその数を認識してしまった僕達は、揃ってパニックに陥る。
バサバサバサッ!!!
「「「「「キーキーキーキー!!」」」」」
そして、僕らの悲鳴に反応して周囲のコウモリが一斉に飛び立つ。
「うぉっ! クソッ、寄るんじゃねぇ!」
「「いやああぁぁぁぁっ!」」
「チッ! どうすりゃいいんだ!」
周囲からはコウモリの鳴き声と羽音に紛れ、悲鳴や怒号が飛び交う。
洞窟の中を乱れ飛ぶコウモリで、視界が真っ黒に埋め尽くされる。
その合間から見えるのは、全身をコウモリに集られる強羅、しゃがみこむ可合とコース、為す術なく大盾を振り回すダン。
あぁ、クソッ。
僕もパニックだ。頭が回らない。
コウモリだらけの真っ黒な視界に対して頭は真っ白だ。
どうすれば良い……!
コウモリ、コウモリ、コウモリ————
その瞬間、頭の中に『魔物図鑑』のあるページが蘇る。
あぁ、そうだ!
「おお落ち着け皆! こ、コイツらはケーブバットっていう魔物だ!」
「数原君! まずは君が落ち着いてくれ! この魔物について何か知っているのか?!」
あ、あぁ、その通りだ。
僕も一旦落ち着こう……
よし、落ち着いた。
ケーブバットのページを必死に思い出す。
倒し方は確か、見開きの右上……
よし、あの方法だな! 系統魔術師はここに2人、どちらかが使えれば問題ない!
「あぁ! コース、可合、範囲攻撃魔法は使えるか?!」
「ゴメン数原くん、私まだ覚えてない!」
「え、えぇと……一応使えるよ、先生ー! だいぶ弱いけどー……」
可合とコースから返事が返ってくる。
コース、お前、範囲攻撃魔法持ってたのか! 使うのを見た事が無かったから、使えるって知らなかったぞ!
「よし、じゃあコース頼む! 威力は低くて良いから、バット達を蹴散らしてくれ!」
「はーい! かなり久しぶりだから自信無いけど……行くよーっ!」
さて、頼むぞコース!
MND、つまり魔法防御が紙なケーブバット達をなんとか出来るのはお前だけだ!
「【大波領域Ⅰ】っ!」
コースが魔法を唱える。
その瞬間、ザーッという音と共に洞窟を埋め尽くす程の青い水の塊が現れた。
水は洞窟の入口の方から僕たちの方へと押し寄せ、乱れ飛ぶバットを次々に呑み込んでいく。
MNDが低いバットは水に触れた途端に撃墜され、瞬く間に数を減らしていく。
「やったー! 成功したよー!」
「良くやったぞコース!」
「これが『範囲攻撃魔法』……。コースちゃん、凄い!」
「おぉ! 凄え魔法だな!」
「久しぶりにコースの【大波領域Ⅰ】を見ましたが、相変わらず流石ですね!」
フゥー、これでなんとかバット地獄から解放されるよ。
良かった良かった。
って思ったのも束の間だった。
「お、おいコース。この波、止まんないけど……」
続々とバットを蹴散らしてくれる大波だが、そのスピードは落ちる事なく、一向に止まる気配を見せない。
「えーと、先生……魔法は発動したんだけど、まだ波のコントロールを上手く出来ないんだよねー……まだスキルレベルも低いし」
その瞬間、歓喜に沸いていたグループ全員の時間が止まった。
「……ってことは、つまり?」
「私たちも、波に呑まれまーす!」
「「「「「「「エーーーッ!!?」」」」」」」
メンバーが驚きの声を上げる間にも容赦なく波はどんどん近づき。
そして、大量のケーブバットを含んだ大波はグループの全員をも呑み込んで洞窟の奥へと流れていった。




