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7-9. 洞窟

「諸君、迷宮(ダンジョン)に到着したぞ」


テイラーを出てから歩くこと6時間弱。

途中、街道を抜けて草原地帯に入り、そこからも結構歩いた所で、僕らは合宿地の迷宮(ダンジョン)に到着した。


「「「「「おぉ……」」」」」」


同級生達がどよめく。



起伏が大きい草原の中、部分的に岩肌が露出して草がハゲた所。

その岩肌にぽっかりと穴が開き、下に向かう傾斜が洞窟の奥へと続いている。

洞窟の入口は、かがんだ人が丁度二人並んで入れるくらいの大きさだ。


「これが迷宮(ダンジョン)か……」

「でも、見た感じ普通の洞窟っぽいわね」

「って言っても、日本でもこんな洞窟見たことねえけどな」

「確かに」

「それな」


僕も見て思ったんだが、皆の言う通りそこにあるのはただの洞窟の入口だ。


「真っ暗だね……」

「こわーい……」


女子が洞窟の中を見て、ザワザワしている。


僕も同級生達に混ざって洞窟を覗き込むと、こちらに向かって口を開く洞窟の内側は真っ暗だ。

まぁ、洞窟の中が真っ暗なのは当然と言っちゃ当然なんだが、現代日本に生きる人間からすれば中々見慣れない光景だ。



日本にある洞窟やトンネルはしっかり管理されており、オレンジのナトリウムランプや白い蛍光灯、水銀灯で照らされているもんな。

地下鉄のトンネルとかも『暗い』とはいえ、一定間隔で蛍光灯が付いているので真っ暗じゃないよね。


だが、ここにある洞窟はナトリウムランプや蛍光灯といったライトは勿論存在せず、松明で照らされているような事も無い。

本当に『真っ暗』なのだ。

吸い込まれるような真っ暗闇に、僕も自然と恐怖心を覚えたな。



「真っ暗な洞窟……中に入ったら、お化けが出るぞ~!」

「「「「「ヒィッ!!」」」」」


斉藤が洞窟を覗いていたクラスの女子達を怖がらせている。

後ずさる女子達。


その後ろから芳川が近づき…………


「ゥワッ!!!!」

「「「「「キャーーッ!!!!」」」」」


芳川が後ろから大声で驚かせる。

散り散りになって逃げる女子達。

中には涙目で逃げ惑う子も居る。


「「ハーハハハハハッ…………」」


そして酷くご満悦の斉藤と芳川。



「芳川君と斉藤君は、何度言っても止めないな……。一体どうすればいいものか」

「アイツら、本ッ当に最悪ね」

「全くだ。クソだな、アイツら」


斉藤と芳川の行動を白い目で見つつ、僕の所にやってくる神谷と火村。

コイツら、男女問わずターゲットにするいじめっ子だからな。

一体、どんな魂胆してるんだか。






「小僧、アンタが数学者のケースケって奴だね」


斉藤と芳川が馬鹿笑いしているところを見ていると、例の黒ローブの老婆がやって来た。

連合の会長、コレレさんだ。


相手は要注意人物とはいえ、魔術師連合の会長だ。

挨拶はしておかなければ。


「はい、数原計介です。よろしくお願いします」

「……ふーん、そう。まあ、数学者なりに頑張るんだね。あたしゃ小僧の参加には反対だけど、あのギルドの女の紹介じゃ蔑ろにはできないからね。但し、足を引っ張るんじゃないよ」

「……はい」


コレレさんはそう言って、どこかへ行ってしまった。



……なんだあの老婆。

コレを言うためだけに僕の所にわざわざやって来たのか。


テイラーギルド長からの手紙のお陰でそれなりの心構えは出来ていたけど、『僕を認めてない』って感情が余りにもあからさま過ぎるだろ。

予想のだいぶ上の酷さを行っていた。


これはマジで要注意人物だな。

出来るだけ触れないようにしよう。

触らぬ神にはなんとやら、だ。






さて、そんな感じでコレレさんをやり過ごしてから少し経った所で、プロポートさんが話を始めた。


「勇者諸君、これから迷宮(ダンジョン)に入り、合宿を始める。だが、その前にこの合宿のゴールやルール等を確認しておく。よく聞いてくれ。サイトー殿、ヨシカワ殿、良いか?」

「「は~い」」


大事な話が始まるな。よーく聞いておかないと。

特に僕は戦士でも魔術師でもない、外部からの参加だからな。聞き逃しが命取りなんて事もあるかもしれないし。


……っていうか、斉藤と芳川、プロポートさんに目をつけられてるじゃないか。

騎士団でも色々と悪事を働いていたんだろうな、どうせ。



「まず、この合宿の目的は先程も伝えたが『実戦経験を積む』事だ。そのために、我ら騎士団や、連合の魔術師達の力を借りる事無く魔物を倒す事を沢山行ってもらいたい。そこで、勇者諸君に課す課題は『自分達の力だけでこの迷宮(ダンジョン)の最下層に到達する』事だ。諸君らの力だけで魔物を倒し、最下層まで到達してくれ」

「「「「「え……」」」」」」


一部の同級生から驚きの声が上がる。


「騎士団や魔術師の皆さんと一緒に行動するんじゃ――――

「いや、今回は飽くまで我々は戦わない。付いては行くが、危険が差し迫った時のみだ。本合宿では怪我をしたくらいで我々は動かない」

「じゃあ寝る時や食事も――――

「あぁ、そうだ。我々は諸君に干渉しないし、質問や願いも受け付けない。各自の力と判断で行動するのだ」

「「「「…………」」」」


そして黙り込む彼ら。


……え、今までそんなサポートを受けていたの?

結構大事に育てられてたんだな、勇者。


「では話を進める。迷宮(ダンジョン)内は全6階層であり、6層目がダンジョンの最下層、大きな広間がある。そこが本合宿のゴールだ。1階から5階までの各階層は通路が迷路のように複雑に広がっている。その中を探索し、各階層に一つ存在する下り階段を見つけ、最下層へと向かって行ってもらいたい。また迷宮(ダンジョン)内では不規則に魔物が現れるので、ソイツらも倒しつつ下を目指してくれ」


んー……、話が難しくなってきた。

つまり、魔物を倒し、各階で下り階段を見つけて下っていけば良いんだな。

で、ゴールは最下層っと。


よし、スッキリした。

分かりやすくて宜しい。



「尚、ここから最下層までは全員で集まって進むのではなく、各自で好きに行動してもらう。()()()進むも良し、また気の合う仲間と()()()()()()()()進むも良し、結果として()()()()()進むことになっても構わない。いつどこで食事を取っても良いし、休息を取っても良い。我々の力に頼ることなく、勇者諸君の力だけで動くのだ」

「「「「「え……」」」」」


同級生から再び驚きの声が上がる。


んだけど、僕もこれには驚いた。

合宿って、皆で一緒に行動して寝るって行事だと思ってたん――――



「先生、『合宿』とは、参加者全員が共に活動し、食事をとり、睡眠をとるというものでは無いのでしょうか?」


あ、ここで神谷がピシッと手を挙げてプロポートさんに質問する。

神谷は僕と全く同じ事を考えてたようだ。


「ん? 皆で迷宮(ダンジョン)に入り、迷宮(ダンジョン)内で食べ、迷宮(ダンジョン)内で寝て、迷宮(ダンジョン)の下を目指す。一緒じゃないか」


そう言ってドヤ顔を決めるプロポートさん。


えー……

その理屈、間違ってはないけどさ……

ちょっと無理があるだろ。



そして眉をひそめる神谷。

何か考えてるのかな。


「……………………成程!」


いや、神谷。

『成程』って言って納得したように見せてるけど、全然納得してないよな。

成程って言うまで微妙な表情してたし。

それに、そう言うまでの微妙な間が全てを物語ってるよ。



「分かったのであれば宜しい」


え、プロポートさんもそれで良いの?

神谷の今の反応は完全に分かってないやつだ。

絶対『異議アリ』だったよ。



……まぁいいや。結局、誰かとグループを組もうが、ソロで進もうが、最下層へと辿り着けば良いんだな。


「話は以上だ。それでは一度ここで解散し、最下層にて集合だ。勇者諸君の健闘を祈る。では、合宿開始!」



ついに合宿が始まった。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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小説を愛する皆様の心に、
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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