1-5. 職
「それでは……皆様には、今日の本題でもある職に就いて頂きましょう」
さて、ついにこの時がやって来た。
本日のメインイベント、お待ちかねの職だ!
「会場は、城内の聖堂です。それでは参りましょう」
そう言うと、席を立ちあがる王女様。
彼女に連れられ、僕達も食堂を後にした。
「儀式の間へと向かう間に、簡単に職のお話をしましょう」
食堂を出て廊下を歩きつつ、王女様が職について教えてくれた。
――――職。
それは、神様から人生で一回だけ授かることのできる、一生モノの自分の職業だ。
けど……自分で好きなモノを選ぶんじゃなく、あくまで『神様が決める』。授かったらそれっきり、変更不可能な文句無し一発勝負のガチャガチャみたいな物なのだそうだ。
とはいっても、本当のガチャガチャみたく『完全ランダム』ではない。神様もそこまで酷じゃないそうだ。
授かる職にも方向性はあり、例えば親の職、趣味・特技、これまでの経験、門地によってある程度定まっている。
そして、勇者の場合には――――『重要物が何であるか』も。
「…………っ」
重要物……。
その言葉に思わず頭に蘇る、『数学の参考書』。嫌な予感に身震いしてしまった。
……まぁ、その件は今は良いとしてだ。
得られる職は、大きく分けて4種類。
武器を持って戦う『戦士』と、武器を持たず魔法で戦う『魔術師』。
経済を支える『産業人』、そして知識を使って活躍する『識者』だ。
剣術戦士・斧術戦士・斥候戦士といった『戦士』や、火系統魔術師・召喚魔術師といった『魔術師』が魔物を狩り、街を守る。
そんな彼らを支えるのが産業人。武器職人が彼らの武器を作り、輸客商人が人々の足となり、農業人が食べ物をつくる。
そして識者は、領主や国王として街や国を治め、学者や研究者として人々の生活を裏から支える。
どれも欠かせず、どれも必要不可欠。こうやって『この世界』は出来上がっている。
そして、僕達がそれぞれ授かる職も4種類のどれかなのだ。
「……そうだなー」
王女様の職の話に、思わず想像が膨らむ。
僕達に選択権が無いとはいえ、どんな職が欲しいかくらいは考えちゃうよね。
……まぁ、まず『非戦闘職』は無い。異世界まで来て産業人とか識者とかやってられるかよ。
だとすれば戦士か魔術師だよな。やっぱり魔法には憧れるけど……――――
「……大剣使いなら『剣術戦士』だぜ」
「やっぱそれがロマンだよね…………ってアキ?!」
僕の心が読まれただと!?
何なんだコイツは!
「……なんで分かった?」
「計介お前、某狩りゲームでいッつも大剣しか使ってねぇだろうが」
「成程。……ちなみにアキ、【読心術】なんてスキルお持ちじゃ?」
「持ってねぇわ。そんなん無くともお見通しなんだよ、お前の考えてる事なんざ」
……さ、さすがはうちのアキさんだ。
もう僕の心の声なんて筒抜けなのかもしれない……。
そんな事を話している間にも階段を上がり、廊下を歩いて聖堂に到着。
「「「「「おおぉ…………」」」」」
扉を開けば、そこはまるで大きな教会だった。
真っ直ぐの通路を進んだ先には、1段上がった所に祭壇。
その奥には綺麗なステンドグラスが広がり、様々な色に色づいた朝陽が聖堂を鮮やかに照らし出す。
長椅子が通路の左右にズラっと並び、所々に鉢植えで花が飾られている。
そして、正面の祭壇の上には……白くぼんやりと光る水晶玉が紫色のクッションの上に鎮座していた。
「あの水晶に触れれば、勇者様方も職を授かる事が出来るでしょう」
王女様がそう言うと、同級生達は恐る恐る祭壇へと歩み寄り……徐々に列が出来ていく。
……よし、僕も列に並ぼう。
様子見も兼ねて、順番は丁度中間あたりにしようかな。
「王女様、初めても宜しいでしょうか?」
列が纏まると、先頭から王女様へと声が掛かる。
この声は……神谷だな。
「はい、勿論。どうぞ」
「承知しました」
王女様から返答が返ってくると……――――神谷を先駆けに、職の授与が始まった。
「…………フゥ」
神谷が目を瞑り、大きく深呼吸。
「……それでは皆、始めさせてもらおう」
「「「「「…………」」」」」
静まり返った聖堂に、神谷の声がこだまする。
「…………」
神谷が水晶に手を伸ばし――――触れる。
「「「「「…………」」」」」
黙って様子を眺める同級生。
「…………」
「「「「「…………」」」」」
変化が無いまま、無言の時間が過ぎる。
――――すると。
「…………ッ!」
突然、ビクッと神谷の身体が震える。
「……オープン、ステータスっ」
目を見開いた神谷が、ステータスプレートを呼び出す。
すぐさま青透明の板が神谷の目の前に現れる。
「…………」
ジッと眺める神谷。
そして、コチラに振り返ると。
一呼吸置いてから、口を開いた。
「…………私は、剣術戦士を授かったようだ」
「「「「おおおぉぉぉ!!!」」」」
神谷の報告に、聖堂内が沸き上がった。
……初めて同級生が職を手にした瞬間。まるで東大合格を発表したかのように、全員が祝福と興奮で声を上げていた。
その後、神谷が職を授かったのを皮切りに続々と職を授かっていった。
僕の前には10人居たけど、だいたい皆満足な顔で職を得ている。数人は少し首を傾げるようにも見えたけど、頷いたり、狂喜乱舞していたりして列を抜けていく。
そして僕の前に並んでいた人も減っていき……祭壇の水晶玉が見えてきた。
……さて、もうすぐ僕の番だ。