表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/548

7-7. ボッチ

「皆、久し振り!」


ほぼ無意識に、同級生の集まりに駆け寄る。


「数原君、元気で良かった! クラス委員として、無事に再会できて良かった!」

「数原くん、お久しぶり!」

「おぅ、僕も皆に会えて嬉しいよ!」


神谷と可合が迎え入れてくれる。

久し振りに顔を合わせたが、神谷も可合も変わらないな。

他の同級生たちも装備や着衣こそ違えど、前とそう変わらない。


あぁー、なんだか安心するな。



「数原くん、久し振りね」

「こんな所で再会できるとはー」

「よぉ、計介。元気してたか?」


神谷と可合の後ろから火村と草津、強羅が声を掛けてくる。

相変わらず、本格的に魔女のコスプレやってんな。

きっと、憧れていたであろう魔法を使って満喫しているんだろう。


「おぅ、火村も草津も強羅も久し振り。皆も元気そうで良かったよ」



そんな感じで会話を交わしていると、視界の隅で何かが上下に震えるのが見える。

ふと視線を右に移すと、そこには手で顔を覆い俯く可合が。


……えぇ!?


「……っておい、可合、どうした!?」


可合の目が潤んでいる。

え、僕、何かしたっけ!?


「ど、どうしたんだい美優!?」

「う、うん……いや、数原くん、ずっと一人で辛かったんじゃなかったかなって思って……」


おいおい、マジかよ。

僕の事を思って、だったのか。

異世界に来ても可合の優しさは衰え知らずだ。


「ありがとう、可合。だけど僕はずっと一人って訳じゃなかったんだ」

「え……!? でも、王国に研究者は居ないって————

「研究者じゃないけど……実は、()()が出来たんだ」


そう言い、僕らの後ろに居た学生達を皆に紹介する。



「初めまして。シンと申します。私達はカズハラ先生を慕い、付いて来させて頂きました」

「同じくコースです!」

「俺はダン。俺らは出会ってからずっと、カズハラ先生と一緒に行動していたんだ」

「って事だからさ、可合。僕はずっと一人って訳でもなかったんだよ」


可合が潤んだ赤い目で学生達を見つめる。


「……この方々が……?」

「そう」


彼らをそれぞれ見ると、可合は何か安心したような表情を浮かべて一度涙を拭う。




……と、いつもの笑顔を全開にして学生達に向き合った。



「……うん。シンさん、コースさん、ダンさん。数原くんと一緒に居てくれて、ありがとうございます」

「いえ、気にしないでください」

「俺らは先生に付いて行きたい、そう思って来てるだけだからな」


そして、可合とシン、コース、ダンがお互いに笑い合う。




「初めまして御三方、クラス委員の神谷勇太と申します」

「あっ、どうも……」


可合との挨拶が終わると、次は神谷との挨拶だ。



「この度は、この世界で孤独だった数原君を救って頂き、深謝申し上げます」

「「「…………」」」


……けど、神谷は相変わらず堅苦しいなおい。



「……クラスメイトを纏め、安全を守る、これこそがクラス委員としての務め。しかし、私は戦士として行動せねばならず、配属先も先輩も居ない()()の数原君と一緒に居てやる事が出来なかった。この異世界に()()()()()ことしかできなかった。自身の役目をこなしつつも、私はずっと数原君の心配をしていたのですが…………今、貴方がたが数原君と共に居てくれたという事を聞き、私は安堵と感謝の念で一杯です」


そして始まる神谷の力説。

……いや、神谷が独りボッチだった僕を心配してくれてたってのは嬉しいんだけどさ。

そこまで力説されると僕の方が恥ずかしくなってくるんだよ。


……あとさ、地味に僕をボッチ扱いするのやめてくれない?




「「「…………」」」


余りにも熱い神谷の力説に、ドン引きの3人。

コースなんて僕に目で助けを訴え始めちゃってるよ。

……ハァ。




「神谷、気持ちは嬉しいんだけどもういいから」

「えっ……、いや、しかし数原君。世話になった人に感謝の気持ちを伝えるのは当然の事――――

「大丈夫だから。何とか今まで無事にやってこれたんだし」

「あ、あぁ……そうだな。済まない、王城を出た後から君と一緒に居ることが出来ず、また消息も不明だった。君の安全を守れなかったという後悔の念がつい溢れ出――――

「大丈夫だから」

「あ、あぁ、そうか」


このままだと神谷の『後悔の念・大放出会』が止まらないので強制終了させる。

真面目な性格は良いんだけど、変に真面目過ぎるからこういう時に暴走が始まるんだよね……。






「さて、来たようだな」

「アレが例の小僧だね」


なんとか神谷の暴走を抑えられたと安心した所で、僕らの背後から声がした。

振り向けば、そこにはドでかいオッサンが立っていた。

全身に鎧、腰にはぶっとい剣、そして背中にはマントを着けた剣士だな。


そしてその隣には黒いローブを身に着けた老婆が立っている。

纏った雰囲気はちょっとヤバめだ。もしこの老婆が緑に光る液体で満たしたツボをかき混ぜていても、違和感ゼロだろうな。



「君が数学者のケースケ・カズハラ殿で間違い無いな」

「あ、えーと、はい。そうです」


なんで僕の(ジョブ)と名前を知ってるんだ?


「君の合宿への参加、それと王都を襲撃から救ってくれた件、王都中央ギルド長から話は聞いた」


あぁ、なんだ。

クラーサさんから聞いたのか。


「先日は王都騎士団が不在の際に王都を襲撃から救ってもらい、ありがとう。王都騎士団を代表して団長の俺、プロポート・クラフが感謝する」


そしてドでかいオッサン改め王都騎士団団長、プロポートさんが深々と礼をする。

あぁ、この人が団長さんだったか。

一応、挨拶しておかなきゃな。クラーサさんの紹介とはいえ、外部から参加させてもらう身なのだ。


「王都騎士団の団長さん、でしたか。あの件(王都南門の襲撃)については気になさらないでください。僕らがすべき事をやっただけです。貴重な体験にもなりましたし」

「そう言ってくれると気が楽になるんだが……済まなかったな」


団長、プロポートさんが苦笑を浮かべる。

堅い雰囲気が一瞬、緩んだ気がした。


「改めてですが、数学者で冒険者の数原計介です」

「シンと申します」

「コースです!」

「ダンだ」

「うん……ケースケ殿、シン殿、コース殿、ダン殿だな。勇者養成迷宮(ダンジョン)合宿、共に頑張ろう。宜しく!」

「「「「はい! こちらこそよろしくお願いします!」」」」






「さて、合宿参加者は全員集まった。勇者養成迷宮(ダンジョン)合宿を始めよう」


団長、プロポートさんが話を始めた。

同級生達はお喋りを止め、プロポートさんと老魔術師の方を向く。


「まずは私達の自己紹介から行こう。戦士の(ジョブ)を授かった諸君は皆知っているであろうが、魔術師連合の皆とはお初にお目にかかる。王都騎士団団長、プロポート・クラフと申す」

「あたしゃ魔術師連合の会長、コレレ・ルーだよ。騎士団の皆は初めましてだね」


あの老婆、黒ローブの魔術師が魔術師連合のお偉いさんか。

テイラーギルド長の手紙にもあった『要注意人物』だ。気をつけなければ。

名前はコレレさん、ね。よし覚えた。


「今回の合宿では王都騎士団と魔術師連合が合同で迷宮(ダンジョン)に潜る。お互い、協力していこう」

「と言っても、あたしゃアナタ達勇者様は元々知り合いだって聞いている。その辺は問題無いだろうけどねぇ」


知り合いというか、同級生です。

毎日顔を合わせていた仲です。


「次に、この合宿の目的についてだ。今まで戦士の(ジョブ)を授かり、騎士団に所属していた諸君は、今までステータスの強化を中心に鍛錬していた」

あたしの所(魔術師連合)で預かった魔術師の勇者様もそうだね」

「しかし、強くなって魔王を討伐するためには、幾らステータスが高かろうと歯が立たない。そこで必要なのは、()()()()だ。そこで、今回の合宿では、各自が魔物を手助け無く自分の力だけで倒す事で、魔物との実戦経験を多く積んで欲しい」

「慣れない時はボロボロにやられる事もあるだろうね。でも大丈夫、連合の中でも高いレベルの治癒魔術師を連れて来たから、怪我を恐れずにどんどん立ち向かうんだね」

「コレレの言う通りだ。ここの迷宮(ダンジョン)は初心者向けであり、死ぬ例はまず無い。万一危ない時も、付き添いの俺達が守ってやる。だから、恐怖に負けずどんどん実戦練習を積んでくれ」


へぇー。

今までって騎士団と連合はステータス上げに勤しんでいたのか。

そういえば、僕の元々のステータス……未だに残念なんだよねー……。


まぁ、そんな事は置いといて。

()()は実戦を積む事のようだな。


でも、そういえば合宿っていつまでなんだろう。

結構重要な情報だけど、聞くの忘れてたな。

『Lv.が2アップするまで帰れない』とか、『スキルを習得するまで帰れない』とかかな。

『100頭狩るまで帰れません』なんてあるのもあるかもしれない。


「合宿の目標は、迷宮(ダンジョン)の最奥まで到達する事だ。最奥に到達するまでに、数多くの魔物に遭う事は避けられない。最奥まで行ければ、諸君も多くの経験を積んでいるであろう」

「「「「「おぉー……」」」」」


同級生からどよめきが聞こえる。

やっぱり異世界転移して『迷宮(ダンジョン)』は外せないよな。

しかも『迷宮(ダンジョン)を踏破する』ってのもロマンだよね。



「最後に合宿の付き添いについては、俺達の他に王都騎士団と魔術師連合からそれぞれ3人ずつ付き、合計8人で行く。安心して合宿に取り組んでくれ」


付き添いですか……

きっと、配属先の先輩とかが付き添ってくれるのだろう。

『配属先も先輩も無い』って事には一応頭の中で整理がついていたとはいえ、いいなーって思ってしまう僕が居る。


「合宿の目的や概要はこんなものだな。他、詳しい事は迷宮(ダンジョン)に着いてから改めて説明する。潜る迷宮(ダンジョン)はここから歩いて半日だ。それでは諸君、行くぞっ!!」

「「「「「おぅ!!」」」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ