7-5. 魔物除け
大風車の展望台で素晴らしい光景を堪能した僕らは、螺旋階段を降りていた。
いやー、やっぱり下りは楽だね。
山下りは膝が笑うと言うけれど、体力的な面からすれば比較にならないな。
「ところで、先生はこの風車群が何のために作られたかご存知ですか?」
「ん?」
風車の役割?
えーっと、確か中学社会とか世界史の授業でやってたんだけどなー…………。
「確か、水を汲みだすポンプ……的な何かだっけ?」
「違います」
まぁ……確かに、この辺には川も池も無いし。
「じゃあ……発電だっけ?」
「違います」
発電でも無いのかよ。
「じゃあ……もう分かりません」
キッパリ諦めてしまった。
「なぁ、コースとダンは知ってるか?」
「私も分かんなーい」
「俺は聞いた事あるぞ。確か……『魔力を吸収する』とかだったよな」
「半分正解です」
魔力を吸収?
「それって……それこそ、水を汲み出す的な感じの?」
「そうです。ここテイラーの風車は、風の力で空気中の魔力を吸収する魔道具を動かし、街周辺の空気から魔力を掻き集めてるそうですよ」
「「「へぇー……」」」
頷く3人。
「えっと、じゃーさじゃーさシン! 魔力を吸収するとなんかイイことが有るの?」
……確かに今の質問、僕も気になるな。
「よくぞ聞いてくれました、コース!」
『エッヘン』っと胸を張るシン。
ちょっと嬉しそうな表情のまま、シンの解説が始まった。
「その理由としては2つ。その一、魔力を回復させられる『MPポーション』を安価に量産するため。テイラーはMPポーションの名産地で、ここで作られたMPポーションは世界中へと運ばれ、魔術師や冒険者の手へと渡っていきます。先生もお世話になっていますよね」
「なってるなってる」
……へぇー、ここがMPポーションの名産地だったんだ。
「まあ、これは飽くまで副産物的な感じなんですけどね」
副産物? って事は、本当の理由は別にあるんだな。
「そして目的その二。こちらが本来の目的ですが、魔物をテイラーに近づけないため。テイラー周辺は年中風が吹いており、酷く風を妨げるような建物は風の力で倒されてしまうので建てられません。テイラーの建物が全て2階建てまでになっていたり、頑丈な外壁が無いのもこのためでしょう。そこで、魔物の襲撃対策は外壁の代わりに『魔物は魔力が多く漂う場所を好み、魔力の少ない場所を避ける』性質を利用し、テイラー周辺の空気から魔力を抜いているのです」
「…………」
……なんか途中でよく分からなくなったので、理解を諦めた。
「………………ナルホド」
適当に返事だけしといた。
「……先生、分かってないですよね?」
……バレた。
「まあつまり、纏めると『強風のせいで大きな外壁が建てられない。その代わりに、街の周りの魔力を抜いて魔物除けにしてる』って事ですね」
「成程」
凄く分かりやすかった。
最初からそれで良いじゃん。
という事で。
風車を後にした僕達はその後、市街地の外側に広がる牧場に寄ったり、市街地に戻って適当に街ブラを楽しんだりして過ごした。
牧場では『ソフトクリーム』らしきアイスが名物らしく、4人で食べてきたな。
味はそのまま、日本でよく食べたバニラのソフトクリームだった。
……ただし、溶けるのが異常に速かった。
楽しむ余裕が無かったけれど、久し振りに食べたソフトクリームもどきは結構美味しかったな。
テイラー市街地に戻ってからは屋台のグルメを食べ歩きだ。
プレーリーチキンの焼鳥をはじめ、様々な料理を堪能してきたぞ。
割とお腹いっぱいになったし、これなら今日は夕食もいらないな。
そんな感じで自由時間の二日目は丸々観光に充てて、エンジョイしてきた。
ん? 食べてばっかり?
育ち盛りはそんなもんです。気にしちゃダメだ。
さて、観光を楽しんだその翌日。
明日から合宿が始まるので、自由時間の3日目にして最終日だ。
僕は合宿前日くらい、のんびりしたかったんだけどね。
フカフカベッドで英気を養っておきたかったんだけどね。
「【水弾Ⅵ】ー!」
「ハアァァッ! 【強斬Ⅴ】!」
「【硬叩Ⅳ】!」
三人に連れられて、テイラーの東平原で絶賛狩りのお供中だ。
いや、今朝も一応宿のロビーで何をやるか話し合ったんだよ。
で、学生3人の意見が揃って『狩り』だった訳で。
彼らの言い分がこちら。
シン曰く、『歩き旅が長く、狩りの感覚を取り戻そうと思いまして』。
流石はシンだな。先を見ている。
ダン曰く、『久し振りに魔物を狩りたくなっちまってな』。
戦闘狂かよ。凄い発言が出たな。
まぁ、それを聞いた上で『狩りに行くなら行ってていいぞ。僕は宿でのんびりしたいな』って言ったんだが。
ここでコースからの直接攻撃。
『えー、先生来てくれないの? 先生の【演算魔法】、楽しみだったのにー……』
そう言われちゃうと弱いんだよねー……
まぁ、そんな訳で僕はバフ役兼見守り役として彼らの後を着いていきました。
そしてテイラーの東平原、現在に至る。
「ぅわっ!」
「おっと! 【硬壁Ⅵ】っ!」
「あぁ、危なかったー……ダン、ありがとー!」
「おう、気をつけろよ」
「うん!」
やっぱりシンが言った通り、久し振りの狩りなので感覚が鈍っているようだ。
王都に居た時より動きの鋭さが無かったり、連携に幾らかミスが生じたりしている。
そんな事を考えていると、シンがこちらに向かって走ってきた。
「先生、ステータス加算お願いします!」
「分かった」
シンのバフが切れたようだな。
「【乗法術Ⅰ】・ATK2、DEF2」
「……おっ、来ました! ありがとうございます!」
バフが掛かったのを感じると、シンはそう礼を言ってフィールドへと再び走っていった。
元気で宜しいな。
「せんせーい、こっちにもステータス加算くださーい!」
「俺にも頼む、先生!」
お、コースとダンもバフが切れたか。
「【乗法術Ⅰ】・INT2、DEF2」
「……先生、ありがとー!」
「【乗法術Ⅰ】・ATK2、DEF2」
「……サンキュー!」
そして彼らも再び狩りに勤しむ。
よし、これで暫く僕も日向ぼっこだ――――
ピッ
どうした今度は。
===========
【状態操作Ⅱ】が【状態操作Ⅲ】にスキルレベルアップしました。
【乗法術Ⅰ】が【乗法術Ⅱ】にスキルレベルアップしました。
===========
そして目の前に浮かぶ横長のメッセージウィンドウ。
「おぉっ」
久し振りのスキルレベルアップだ。
最近全然来てなかったからな、ちょっと嬉しい。
まずは【状態操作Ⅲ】《ステータス・オペレーション》だな。これはステータス演算の効果時間が20分から25分に延びたのだろう。
ますます使い勝手が良くなった。
そして、どっちかというとこちらが本命。【乗法術】が『Ⅰ』から『Ⅱ』にアップしたが、どのくらい性能が上がっただろうか。
とりあえず僕のステータスで確認だ。
「【状態確認】」
ピッ
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.4
職:数学者 状態:普通
HP 46/46
MP 22/42
ATK 19
DEF 14
INT 18
MND 19
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化I】
【演算魔法】
===Equipment========
冒険者のナイフ(ATK +15)
===========
相変わらず残念なステータスだな……
まぁそんな事は置いといて。
さて、ここで【乗法術Ⅱ】を試してみよう。
『Ⅰ』でステータス2倍までだったので、『Ⅱ』なら3倍かな。
「【乗法術Ⅱ】・ATK3……」
ATKにノイズが走る。
そして数秒後。
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.4
職:数学者 状態:普通
HP 46/46
MP 19/42
ATK 57
DEF 14
INT 18
MND 19
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化I】
【演算魔法】
===Equipment========
冒険者のナイフ(ATK +15)
===========
「うぉっ」
ATKが軽く50越えしてしまった。
しかも、『3倍』したので消費MPも3だ。
たったのMP3消費だけでATKをベテランの域にまで持っていけるなんて……。
我ながら、もはや壊れ性能だな。
ちなみに、ステータス4倍も試してみたが、失敗だった。
やっぱり『Ⅰ』なら2倍、『Ⅱ』なら3倍なんだな。
その後も暫く学生達は狩りを、僕は草原で日向ぼっこを楽しんでいた。
自由時間の最終日はそんな感じで終わった。
さて、ついに明日からは勇者養成迷宮合宿だ。
頑張ろ。
 




