7-2. 血統
「はい次の人どうぞ~」
10箇所ある獲物買取カウンターの左から3番目、そこから妙に聞き覚えのある声で僕達を呼ぶ声が聞こえる。そして、そのカウンターから挙がるムキムキな腕。
そして白いタンクトップを着て、イカツイ顔をしたギルドの職員さんだ。
マジかい。
「先生、この声って……」
「聞き慣れた声なんだけどー……」
「もしやあの人……?」
「皆、奇遇だな。僕も多分同じことを考えてるよ」
カウンターで僕らを待ち構えていたのは間違いなく、マッチョ兄さんだった。
別に怖いわけじゃないのだが、驚きで足が止まる。
「これも先生の呪いですか……?」
「……うん、僕も認めざるを得ないな」
まさか王都を出てテイラーまで来ても、マッチョ兄さんに会うなんて。
考えもつかなかったよ。
……ん? でも、前にもこんな機会あったよな。
「……あ、でもそういえば王都中央ギルドでもこんな事がありましたよね」
「あぁ、そういえば」
そうだ。王都中央ギルドでも、クラーサさんに会う前にカウンターで『マッチョ兄さんの兄さん』に出会った事があったような――――
「早く来いよ」
「す、すみませんっ!」
眉間に皺を寄せ、僕達を睨むマッチョ兄さん。
……やべっ。モタモタしてたら怒られちゃった。
すぐさま4人でカウンターへと走って向かう。
「はいこんにちは。獲物買取で良いな?」
「「「「ハイッ!」」」」
「じゃあ早速獲物出して」
「「「「ハイッ!」」」」
怒られてビビる僕達。
背筋ピンのままリュックからカーキウルフを取り出す。
その後すぐ、時間が経たずしてカウンターにはカーキウルフの山が出来た。
そして山の一番上に君臨|(?)するのは薄い緑の体毛を持つリーダー格のウルフだ。
「お、リーダー級のウルフじゃん。コイツらを狩ってくるとは……お前ら、中々の腕前だな」
「ありがとうございます」
やっぱり腕前を褒めてくれるのは純粋に嬉しいな。
でも……今の発言、このマッチョ兄さんは僕達の事を知らないようだな。この人も今までに会ったマッチョ兄さんと違う人のようだ。
「……あのー、ちょっと気になることがあるんですが」
「ん、何だ?」
「貴方って王都東門ギルドの職員さんじゃ――――
「あぁ、俺はアイツのいとこだ。俺の親父の兄の三男だな。知ってるのか?」
「はい。結構お世話になりまして」
「ほぅ、そうか」
オレノオヤジノアニノサンナン、って……もう途中からよく分からなくなったので、理解を諦めた。
ってかマッチョ兄さんの血統凄いな。王都東門、中央、テイラーと3人会ってるけど顔の似てる度が半端じゃない。
「あぁー、ところで。その白いロングコートって……もしかして、『ロクに鎧も着けず狩りに興じる白衣姿の冒険者がそろそろ来る』ってウチのギルドでお達しがあったんだが、それってお前か?」
……あらま、もう既に情報が行っていたのか。
流石は冒険者ギルド、情報網は侮れない。
「非戦闘職の数学者とかいう識者の職を持っていながら冒険者やってるとか、どんなミス犯したらこうなるんだか」
……ボロクソ言ってくれるなオイ。
冒険者やってて済みませんでしたね。
「まぁ……それが『数原計介』っていう数学者であれば、僕ですね」
「あー、それそれ。確かケースケって名前だ」
「じゃあ僕ですね」
「オッケーオッケー、了解。そんなら……うちのギルド長から到着次第お前に渡すモンがあるらしいんで、後で渡すわ」
ほぅ、テイラーギルド長からの届け物か。
なんだろう?
「さて、じゃあこのウルフの査定と、ついでにギルド長からの預かり物を持ってくるから。ステータスプレートを水晶にかざして、少し待ってろ」
と言ってマッチョ兄さん(テイラー)、カーキウルフ15頭を一気に抱えて裏へと入っていった。
そして、数分後。
マッチョ兄さん(テイラー)が、買取金の小袋と手紙を持って帰ってきた。
「はいじゃあまず買取金額ね。お前らの獲物…………えらく奇麗だったな。一見じゃ傷がどこか全く分からなかったわ。ってことで、買取金は減額無しで一頭銀貨8、リーダーは銀貨20。合計で金貨1に銀貨40だ」
「「「「おぉ!」」」」
マッチョ兄さん(テイラー)のベタ褒めを頂戴しました。
そう言われるとちょっと嬉しい。
「それと、これがギルド長からの手紙だ。後で読んどいてくれ」
「あ、はい」
マッチョ兄さん(テイラー)から買取金の入った袋と手紙を受け取る。
「あんな質の良い獲物、中々入らねえからな。また期待してるぜ」
「ありがとうございます。それでは」
「おう」
最後にそう挨拶して、マッチョ兄さん(テイラー)のカウンターを離れた。
「それでは、次は宿探しですね」
「そうだな」
「精霊の算盤亭みたいに居心地のいいところ、見つかるかなー」
いやー、もう歩き疲れてクタクタだ。さっさと宿に入りたい。
……とは言っても、わざわざ宿探すの面倒だ。
何かオススメの宿でも無いか————
「お前ら、宿探しすんのか?」
っと、僕らの後ろから声が掛かった。
さっきのマッチョ兄さん(テイラー)だ。
「あ、はい。これから探しに行こうかなー、と」
「それなら良い宿があるぞ。俺のイチオシだ」
そう言い、ニヤリと白い歯を見せるマッチョ兄さん。
「「「「おぉ!!」」」」
それは良いじゃんか!
マッチョ兄さん(テイラー)のオススメなら信頼できる。
ちょっと期待しちゃおう。
「是非、教えて下さい!」
「おう!」




