7-1. テイラー
王都を出て10日目の午後。
僕とシン、コース、ダンは王都から徒歩10日という、現代日本じゃ中々考えられない旅を終えて風の街・テイラーに到着した。
テイラーは、街の周りに建つ『大きな風車』が特徴の、且つ有名な都市だ。
また、ティマクス王国西部で最も栄えている街であることもあり、『風の街』『西の都』等の別名でも呼ばれている。
さて、テイラーの東門に着いた。
……といっても、まるで門とは呼べない。というか、王都のような石で組まれた高くて頑丈な外壁は無く、ちょい強めな木のフェンスが申し訳なさげにテイラーの外壁をやっている。
そんなフェンスと西街道が交差した場所に設置されているのは、もはや『門』ではなくゲートだ。
牧場とかでよく見るあのイメージのゲート。正に四角い木の枠がただ開閉するだけのアレだ。
テイラー東門ならぬ、テイラー東ゲート。なんだがチャッチイな。
「(これが門……?)」
「(『西の都』のクセして、こんなにショボくて良いのか?)」
「(いや、そんな失礼な事言わないで下さい、先生、ダン。門番さんに聞こえたらマズいですよ)」
まぁ、そうだな。
あまり人の心を害するような言動はすべきじゃないよね。
はい、この会話終わりっ。
とはいえ、シンの言う通り門番さんが左右に2人ずつ、計4人が槍っぽい武器を持って往来を監視している。
一応これでも門は門の扱いなんだな。
往来の流れに従って僕らもそんな門を潜り、風の街・テイラーに入る。
王都でもそうだったんだが、テイラーでも街の出入りはフリーだ。検問とか身分証明とか必要無いんだね。
「話には聞いていたが、想像を超えるデカさだな」
「本当ですね。近くで見ると怖いくらいです」
門を通ってまず出迎えてくれたのは、大きな風車だ。
ダンとシンの言う通り、間近で見るとかなりのプレッシャーを感じるな。
羽根の回転もそれなりの轟音が伴っており、怖さ倍増だ。
また、風車を横から見れば、ズラリと並んだ風車群が見られる。
日本の山岳部でよく見られる、鉄塔の行列みたいな感じだな。
これはこれで壮観だな。
「おぉ、懐かしい」
「牧場ですね」
「うちの村のよりすごく広ーい!」
そして、風車を通り過ぎて次に出迎えてくれたのが、牧場だ。
牛や羊、馬っぽい動物が放牧されている。
彼らは魔物ではなく、動物のようだ。
のんびりした雰囲気だな。
テイラーの街の構造は、円が幾つも重なったような感じだ。
まず、テイラー市街地は王都と同じく草原の中に位置している。
市街地の外側は草原をそのまま牧場として使っており、牛や羊っぽい家畜が放牧されている。
そして、牧場を囲むように大きな風車がが円状に並んでおり、その更に外側、一回り大きな円で例の外壁が組まれている。
そんな訳で、20分ほど掛けて牧場が広がるエリアも通り抜ければ、やっとテイラー市街地だ。
街道は踏み固められただけの土から石畳へと舗装され、左右には平屋か2階建ての建物が並ぶ。
王都なら4階建てとかも割と普通だったが、テイラーは全体的に建物が低めなんだな。
そのお陰か、街中でも心地良い風がよく通っている。
建物の感じはヨーロッパの田舎って感じかな。
ヨーロッパの田舎をよく知らないんだけど、三角屋根で、壁は割とカラフルで、煙突が付いてて、そんな感じのイメージだ。
「さて、まずは何からしましょうか、先生?」
「うん? そうだな……」
えーと、やる事やる事……
僕個人の意見としては、さっさと宿をとって横になりたい。
もうクタクタだ。足もパンパンだし、今なら一日中寝ていられる自信がある。
んだけど、やる事はやらなければならないな。
まずテイラーの冒険者ギルドに出向き、到着を報告。
そうすれば、合宿について色々と教えてくれるようだ。
「よし、とりあえずギルドに行こう」
「「「はい!」」」
という訳で、冒険者ギルド・テイラー支部に向かおう。
と言ってもギルドがどこにあるか分からないので、街の人に道を尋ねて歩く。
の……だが、どの人に聞いても指差して『あっち』程の簡単な案内と『見ればわかる』という意味を成さない補足ばっかり。
見れば分かるのか……本当に? 心配なんですけど。
「……これ、全部ギルドの建物なんですか?」
「……だろうね」
どうやらそんな心配も杞憂に終わったようだ。
今、僕らの目の前には巨大な建物がある。
巨大、と言っても上ではなく、横に。
窓が縦に2つ並んでいるので、多分階数は他の建物と同じ2階建てなんだろうな。
ただ、建物の幅が半端なく大きい。
100メートルは優にある。200メートルくらいだろうか?
昔野球場に行ったことがあるけど、野球のグラウンドよりもあるな。
階数がそこまで高くなく、しかし縦横にクソ広い。
まるで地方や郊外のショッピングモールみたいだな。
「確かに『見れば分かる』だねー……」
テイラーの皆様、意味を成さない補足とか言って申し訳ございませんでした。
すごく分かりやすい道案内でした。
「さて、じゃあ入るか」
という訳で入口を4人で潜るのだが。
建物がデカければ、入口もデカい。4人が横に並びながらでも、他人と触れることなく入れてしまった。
……これこそが『門』だな、って先程のゲートを思い出しつつ考えてしまった。
そして、ギルドの建物の中も広い。
体育館とかの比ではなく、それこそアリーナという言葉が良く当てはまるんじゃないかな。
それぞれの壁際にはカウンターがずらりと並んでおり、総合案内、登録、依頼申込・受領、獲物買取の全カウンターを合わせれば40程だ。
フロアの真ん中にはベンチが用意されており、そこに座って居る人々も多い。
単純に休憩していたり、順番待ちの列が減るのを待ったりしているようだな。
流石は『西の都』と言ったところか。
「到着の報告はーっと……総合案内のカウンターで良いかな?」
「ウルフの買取ついでに到着報告をするのは如何でしょうか?」
「あぁ、そうだな。そうしようか」
いっけね。ウルフの群勢を狩ったの忘れてた。
どうせなら用事は一緒に済ませられれば良いしね。
という事で、獲物買取のカウンターに並ぶ。
「今回はウルフが16頭でしたよね」
「そうだな。丁度一人4頭ずつ持っているはずだからな(【除法術Ⅰ】利用: 16 ÷4=4)」
「しかもリーダー格が1頭いたよねー!」
「確かファクトで俺らが売った時は銀貨20枚だったもんな。確か薄い緑の毛皮が珍しいとかで」
「さて、今回はいくらになるだろうかね?」
そんな会話をしているうちに、気付いたら買取カウンターの列の先頭に。
やっぱり獲物買取カウンターが10箇所あれば回転が速いな。
そして、僕達の番が回ってきた。
「はい次の人どうぞ~」
……妙に聞き覚えのある声だ。
イマイチやる気が入っておらず、しかし低くて深いボイス。
これってもしかして…………
マッチョ兄さん!?




