6-16. 西街道Ⅱ
プリム村で老夫婦の家に泊まった翌朝。
僕達は夜明け前に目を覚まし、出発の準備を始めた。
のだが、僕らが起きた頃にはお爺さんとお婆さんは既に起きてたな。
流石農家さんだ。朝が早い。
そんな感じで陽が昇った頃、僕らはお爺さんとお婆さんに感謝と別れの言葉を述べてプリム村を出た。
『テイラーから王都に戻るときには、また来てくださいな』
『はい、こちらこそ、またよろしくお願いします』
村を出て林を縫って進む街道を歩いていたのだが、しばらくすると周囲の木が徐々に減っていき、視界がどんどんスッキリとしていく。
そして昼前には右も左も広大な草原に戻り、街道は草原の中をまっすぐ進む状態に戻っていた。
そこからは特に何もなく、王都を出て5日目の昼過ぎ。
僕らは経由地その二、ファクトに到着した。
プリム村からは1日半で着いたな。
ファクトは王都とテイラーの丁度中間辺りに位置しており、中々栄えた町だ。
街道の左右には、石造りの建物が街道に沿って綺麗に並んでいる。王都の乱雑な感じとはまた異なった雰囲気だ。まるで『駅前の区画整理』でもしたみたいな感じだな。
そこそこの人や馬車が街道を往来し、街道沿いのお店に出入りしている。
王都とテイラーを行き来する冒険者や産業人達の馬車もよく見られるな。ここで食糧や水の購入や、積荷を売ったりもしているんだろう。
さらに進むと、街の中を流れる大きな川を発見。
西街道とは石造りの橋で交差しており、結構広い幅を持つ石橋は荷物を山積みにした馬車や多くの人が渡っている。
『へぇー、これがファクト川ですか……』
『トリグでも名前は良く聞いていたがな』
『初めて見た!』
学生の3人が川を見て感動する。
そんな記憶に残る程の何かがあったのだろうか。
その後、適当に宿をとって部屋に入り、ファクト川と彼らに何か関係があるのか聞いてみた。
どうやらファクト川の水源が王国北部の山岳地帯であり、たっぷりの雪融け水がファクト川に流れている
らしい。
王国北部のトリグ村の出身である彼らはその名を知ってはいても、見たことは無かったらしい。
尾根が違うとか、村から遠いとかなんとか言ってたけど、よく分かんないからいいや。
で、この度初めてファクト川を彼ら自身の目で見て、感動したようだ。
ちなみに、ここの町・ファクトは川と同じ名前を冠しているが、それはこの町の成り立ちと関わりがあるらしい。
一般的な街道は、大きな街と大きな街を繋ぐように作られるが、一直線に伸びているわけではない。
『街道』はある街から始まり、元から存在する町や村を繋ぐように『点つなぎ』の要領で進み、別の街へと向かっていく。そのため、決して最短ルートで出来ているわけではないのだ。
勿論、山や川、湖を避けたりするようにもなっているが。
しかし、この町は西街道が作られる前から存在していたわけではない。寧ろ、街道が出来てから栄えた町なのだ。
ここに町が興ったその理由は、『人の流れ』と『水の流れ』が交差する場所だから。
この世界には水系統魔法があり、地球よりも水を手に入れるのが比較簡単ではあるが、結局は豊富に水が有る場所が住むのに適している。
そして、人が流れるところには食事や宿泊などといったサービスの需要が高まる。
その結果、ここに村ができ、次第に栄えてこのようにソコソコ大きな町となったわけだ。
ってな訳で、名前の無い町は川の名前を借りて『ファクト』となったらしい。
王都から徒歩3日のプリム村からは僅か1日半というバランスの悪い立地、街道沿いに建物が整列するような整った町の外見、そして町の名前にはこういう経緯で出来たようだ。
ファクトには小さいが冒険者ギルドの支部もあり、そこで血抜き済みのカーキウルフの群勢を買い取ってもらった。
リーダー格であった例の薄い緑の体毛を持つカーキウルフは銀貨20枚で買い取ってくれた。驚きの金額である。
普通の個体なら銀貨8枚なので、なんと通常の2.5倍だ(割合の計算利用: 20 ÷ 8 =2.5)。
その後は宿をとり、夕食も適当に取ってフカフカのベッドで就寝だ。
いやぁー、プレーリーチキンの羽毛さまさまだな。王都だけでなく、草原地帯の町村ではどこでもフカフカのベッドが出迎えてくれる。
サンクス・トゥー・プレーリーチキン。
あぁー、気持ち良い…………――――
ってな訳で翌朝。王都を出て6日目。
僕らは日の出直後にファクトを出発。
ファクトを出ると、そこには再び右も左も大草原。
そして道は経由地その三、リーゼ村へと向かう。
ファクトからリーゼは徒歩2日、そしてリーゼから目的地・テイラーへは徒歩3日のようだ。
えーっと、ファクトからリーゼの間には…………なんかあったっけなー……?
————あ、そうそう。
カーキウルフの襲撃があったな。
2度目の襲撃は15頭と数こそ少ないものの、1度目よりも統率が素晴らしかったな。
また大柄で薄い緑色の体毛を持つリーダー格が存在する群れで、いつでも僕達を囲い込むようにウルフが動いていた。
包囲から抜け出せない状況に、水系統魔法で遠距離攻撃を主とするコースは厳しい顔をしていたな。
しかし、流石は学生達。伊達に冒険者をやっていた訳ではないようだ。
近接戦に弱い僕とコースをダンが盾で守り、その背後はシンがカバー。2人とも、【強斬Ⅴ】や【硬叩Ⅳ】をフルに使っていた。
2人の手が回らない所はコースが後ろから【水線Ⅳ】で対応。
そして僕は学生達に【乗法術Ⅰ】・ATK2やINT2、ウルフ達に【除法術Ⅰ】・DEF2やMND2で支援。
結果、特に危ないシーンも無く、群勢を一掃することが出来たな。怪我も無くて良かった良かった。
そして血抜きをしたウルフ達は今、リーダーも含めて全部僕達のリュックに収まっている。
明日テイラーに着いたら買い取ってもらう予定だ。
あ、そうそう。またこの世界の常識を学んだな。
狩ったウルフ達は獲物だが、所詮は死体だ。とはいえ、狩ってから数日経つが腐敗する様子は見えない。
勿論、冷凍保存やら塩漬けやらレトルトなんてしていない。血抜きのみでリュックに入れただけなのだ。
これについては、シン曰く『水やらタンパク質から形作られている動物とは異なり、魔物の身体は魔力から形作られています』なんだって。
そういえば、そんな設定もあったなぁ。
なので、魔物は腐敗する事は無く、時間を掛けて魔力が分解して空気中に放出されていくらしい。体が空気中に溶けていくといった表現が良いらしい。
さて、王都を出てから9日目夜までは以上の感じだ。
夕食も食べ終わり、そろそろコースが船を漕ぎ始めるタイミングだ。
じゃあ今日もこの辺でお開きにして、見張り番と寝る準備を始めますか。
徒歩10日という、日本では考えられないような旅も明日で終わり。
勇者養成迷宮合宿の会場、風の街・テイラーまではもう少しだ!




