6-14. 計算順序
さて、真夜中のリュックを机代わりにした青空教室ならぬ星空教室、二日目の始まりだ。
目次のページを眺めつつ、考える。
えーと、今日の昼間に起こった『【演算魔法】の計算ミス』については何処を見ればいいかなー……
目次のページには、上から順に『●すうじ』、『●足し算』と見覚えのある項目が並ぶ。
『●ひき算』。
『●かけ算』。
『●わり算』。
『●計算の順番』。
『●割合』。
……ん!?
『●計算の順番』!? そんな項目あったっけ!?
やべっ。多分、昨晩見落としたんだな。
よし、ちょっとこの項目を読んでみよう。
●計算の順番
複数の四則演算子を含む計算式での演算は、まず乗除算、次いで加減算を、それぞれ前から後の順で行う。
これを簡単に言えば次のような感じだ。
これまでに『+』、『-』、『×』、『÷』の4つの計算方法を学んだが、実はこれらには計算をする上で『順番』が決まっている。
その順番は、①×÷、②+-だ。
+-×÷が混ざった計算式では、前から順にただ計算すれば良いって訳じゃなく、式の全体を見てまず×÷を先に計算し、その後に+-を計算しなきゃいけない。
……簡単に言うといっても難しいよね、結局。
[参考書]に載っている例題とともに説明しよう。
例題1:
3+2×4-1
答えが『19』となったら、それは間違い。
この問題を正しく計算できれば、答えは『10』だ。
では、この問題の正しい計算の過程を見ていこう。
『正答』
3+2×4-1
=3+ 8 -1
= 11 -1
=10
まず中央の×を計算し、その後に残った+-を計算していけば、正答が得られる。
次に、よくある誤答の計算過程だ。
『×÷を優先して計算する』ルールを無視して前から順に計算してしまうと、こうなる。
『誤答』
3+2×4-1
= 5 ×4-1
= 20 -1
=19
では、他の例題も正しい計算過程と共に見ていこう。
例題2:
8-6÷3×4
=8- 2 ×4
=8- 8
=0
例題3:
9÷3+2×4
= 3 +2×4
= 3 + 8
=11
例題4:
1+2×3-8÷4
=1+ 6 -8÷4
=1+ 6 - 2
= 7 - 2
=5
×÷と+-の計算順序については、こんな感じだ。
しかし、どうしても+-を先に計算しなければいけない時もあるだろう。
そういう時には『()』を使えばいいのだ!
()とは『この中を先に計算せよ!』という意味を表していて、計算式に()が有れば計算順序は次のようになる。
①()内の×÷
②()内の+-
③×÷
④+-
という訳で、これについても同じように例題を見ていこう。
例題5:
3×(2+4)
=3× 6
=18
例題6:
1+(6÷2)×3
=1+ 3 ×3
=1+ 9
=10
例題7:
(7+9÷3)÷5+2
=(7+ 3 )÷5+2
= 10 ÷5+2
= 2 +2
=4
こんな感じだ。
また、時には()が{}で括られているという風に、『カッコの中にカッコ』状態が必要な事もあるだろう。
そういう時には『内側のカッコ』から順に計算し、順々にカッコを外していけば良い。
さて、それじゃあ計算練習いこうか。
A問題の(1)からスタートだ。
「(……フゥー、やっと終わった)」
計算問題20問、結構疲れるな。
基本は加減乗除の計算であるとはいえ、割と時間も掛かった。
「(先生、お疲れ様でした)」
「(あぁ、ありがとう。シン)」
実は時間が掛かり過ぎて、シンが既に起きて来ているのだ。
見張り番の交代時間もトックのトーに過ぎている。
「(今回も『割合』と同様、【演算魔法】は習得できなかったな。ちょっと残念……)」
「(仕方ないですね)」
最近、[参考書]で勉強しても【演算魔法】が習得しづらくなってきた。なんでだろう?
アレだろうか。
『【演算魔法】目当てに勉強すんじゃねーよ』、っていう神のお告げだろうか?
現代日本で存在が噂されていた『物欲センサー』なる物のせいだろうか?
……まぁいいや。
貰えないものは貰えない。さっさと諦めるが吉だ。
「(それで、今朝の『【演算魔法】の計算ミス』の件、原因は分かりました?)」
「(あ)」
忘れてた。
そうだったそうだった。本来の目的は『【演算魔法】の計算ミス』の原因探しだった。
でももしかしたら、計算ミスの原因は今勉強した『計算の順番』に在るかもしれないな。
ちょっと試してみよう。
さて、状況の整理だ。
【演算魔法】を掛ける前、僕の元のATKは19。
そこに【加法術Ⅲ】・ATK30を掛けてATKは49に上昇。
ATKはプラス30されている。ここは問題ない。
更に【乗法術Ⅰ】・ATK2を掛けてATKが68に上昇。
ATKを49から2倍にすれば98になるはずだ。おかしい。
うーん、分からない。
…………いや、待てよ。
『式の全体を見て、まず×÷を先に計算し、その後に+-を計算しなきゃいけない』
こんなルールが有ったな。
となれば、先に発動したのは【加法術Ⅲ】・ATK30だ。だけどコイツは+。
【乗法術Ⅰ】・ATK2は後に発動したけれど、コイツは×。こっちを先に計算しなければいけない。
とすると、計算式は……
19 ×2 +30
こうなるな。これなら………………うん。68だ。
そうか、そういう事か。
【演算魔法】が計算ミスしたわけじゃなかったな。寧ろしっかり計算してくれていた。
僕が間違えていただけだったな。
さて、【状態操作】の特性が分かった。
【加法術Ⅲ】や【減法術Ⅰ】、【乗法術Ⅰ】や【除法術Ⅰ】をステータスに掛けた後の結果は、どれをどの順番で使っても同じになる。
重ね掛けが起こると、ステータスの計算はまず×÷を行う【乗法術】【除法術】が発動。
続いて、その結果に+-を行う【加法術】【減法術】が発動。この順番で演算され、ステータスが変わる。
こんな感じだ。
……いやぁー、なんだか原因が分かってスッキリした。
僕のミスだったとはいえ、気持ちが良いな。
「(なるほどなー)」
「(分かったんですね、原因)」
「(あぁ。結局、僕のミスだったよ)」
「(そうでしたか。でも良かったですね。勉強が役に立ったようですね)」
あぁ、そうじゃん。シンの言った通りだ。
『●計算の順序』の勉強がそのまま解決に役立ってくれた。
勉強って、【演算魔法】を習得するだけじゃないんだね。生活にもこんなに役立つなんて、初めて実感したよ。
「フヮァー……」
なんて少し感動していると、気が緩んだからか眠気と疲れがドッと押し寄せてくる。
無防備にも大欠伸をしてしまった。
「(フフッ。先生、そろそろ夜更かしは止めて寝られては如何ですか?)」
「(そうだな、確かに。今晩は少し頑張り過ぎたかな)」
「(睡眠不足は明日に響きますよ)」
それは僕も知ってます。
某ひと狩り行くゲームで夜更かしした翌日は、1限から7限まで居眠りのオンパレードだったからな。
「(そうだな。じゃあ僕はそろそろ寝るよ)」
「(はい)」
そう言って紙とペン、[参考書]をリュックに仕舞い、僕のテントへと向かう。
「(じゃあシン、後は宜しくな。おやすみ)」
「(はい、お任せください! 先生もおやすみなさい)」
そう言ってテントへと入り、毛布にくるまって意識を落とした。
計介が計算して『98』と言っていたATKの計算式は……
( 19 +30 ) ×2
となります。
偶然、()を使った計算をしていた訳ですね。
これを計算すれば98となり、決してこの式に間違いがある訳ではありません。
ですが、【加法術Ⅲ】と【乗法術Ⅰ】が重ね掛けされた時点でステータスの演算方法が書き直され、
19 ×2 +30 = 68
となりました。
ややこしい文章とは思いますが、『加減算と乗除算が混在する際には乗除算が優先される』というイメージを受け取って頂ければ幸いです。
 




