6-12. バグ
「【水線Ⅳ】!」
「【強斬Ⅴ】!」
「ぅおらぁ! 【硬叩Ⅳ】!」
「「「「キャイン!」」」」
周りから3人のやる気漲った声と、カーキウルフの弱々しい鳴き声が聞こえてくる。
昨日はひたすら歩き続けただけだった。2日ぶりの狩りだ、3人とも色々溜まっていたんだろう。
こんな獰猛な獣と化した3人に蹂躙されるウルフの群れもご愁傷様だな。
……あぁ、そうだ。
僕もコイツをさっさと倒さねば。
延々と馬乗りになって僕の腕を噛み噛みしているのだが、いつステータス加算が終わって本当に喰い千切られるか分からないからな。
腰から逆手でナイフを抜き、ウルフの眉間を目掛けて突く。
カンッ!
ナイフが刺さらない。
傷すら付かない。
あぁ、そうか。
ウルフのATKが足りないように、僕のATKもウルフのDEFに及ばないか。
開きっぱなしになっている僕のステータスプレートを確認する。
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.4
職:数学者 状態:普通
HP 46/46
MP 39/42
ATK 19
DEF 28
INT 18
MND 19
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化I】
【演算魔法】
===Equipment========
冒険者のナイフ(ATK +15)
===========
ATKは19。
……相変わらず初心者冒険者レベルのステータスだ。我ながら泣けてくる。
『4頭でLv.12』推奨のカーキウルフじゃ、思い通りには行かないだろう。
まぁ、そんな事は今始まったんじゃない。
僕の本当の武器はナイフではなく、【演算魔法】だ。
「【加法術Ⅲ】・ATK30…………あっ」
やべっ、また【加法術Ⅲ】使っちゃった。
たまにやるんだよね、コレ。
【乗法術Ⅰ】を習得するまでずーっと使っていた【加法術Ⅲ】が妙に頭に残ってて、時々魔法を唱え間違えてしまう。
どちらもATKは上昇するんだけど、魔力の消費効率が全く違うからな。
片や30、片や2だ。結構な倦怠感も感じるし、【加法術Ⅲ】を誤って使うのが馬鹿馬鹿しい。
そんなプチ後悔をしつつも、ステータスプレートはATKをプラス30した値を示している。
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.4
職:数学者 状態:普通
HP 46/46
MP 9/42
ATK 49
DEF 28
INT 18
MND 19
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化I】
【演算魔法】
===Equipment========
冒険者のナイフ(ATK +15)
===========
よし、ステータス加算完了。
ATKが49になった。
ナイフを握り直し、再びウルフの眉間を突き刺す。
でもこの体勢だと力を入れづらいな……。
ザクッ
「キャン……」
ナイフの切っ先が刺し込まれた。
が、僅かに刺さっただけでナイフの動きは止まってしまった。
まだATKが足りない。
「ウォンウォン!!」
しかもその傷が却ってウルフを激昂させてしまったようだ。
ヤバい。僕のDEFが貫通されるかもしれない。
早く倒さねば。
とりあえずこの上から【乗法術Ⅰ】を掛けて、ATKをもっと上げよう。
ATKが49の2倍、つまり98だ。
それだけATKが有ればウルフも一突きだろう。
「【乗法術Ⅰ】・ATK2」
そして直ぐにステータスプレートが書き換えられる。
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.4
職:数学者 状態:普通
HP 46/46
MP 7/42
ATK 68
DEF 28
INT 18
MND 19
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化I】
【演算魔法】
===Equipment========
冒険者のナイフ(ATK +15)
===========
……え、あれ? 68ですか?
98じゃないの?
僕はちゃんと『ATK2』って唱えたし、となるとステータスプレートの計算ミスかな。
ステータスプレート、バグったかもしれない。
……まぁいい、そんな事より馬乗りウルフだ。
改めてナイフを持ち直し、三度ウルフの眉間に突き刺す。
ブスブスブスッ
「キャゥン……」
今度の突きは先程までと異なり、刃がウルフの頭部へと吸い込まれていく。
ウルフは弱々しい鳴き声の後に一瞬ビクッと大きく震えた後、動かなくなった。
……どうやら馬乗りウルフを倒せたようだ。
フゥー、なんとか腕を喰い千切られなくて良かった。
緊張が少し和らいだ所で周りを見渡せば、20弱ほどのウルフの死体が街道に散らばり、スッキリした表情の学生達が立っている。
「いやぁー、とんでもない数のカーキウルフの群れでしたね」
「狩りごたえアリだな」
「久しぶりに楽しかったよー!」
……そうっすか。それは良かった。
「先生もお疲れ様でした。 怪我はありませんか?」
「あぁ、大丈夫だよシン。ありがとう」
「まあ先生はウルフとじゃれあってただけだもんな」
「……」
いや、そんな事言うなよダン。
傍から見ればそうかもしれないけどな、僕だって結構頑張ったんだぞ。
……まぁいいや。とりあえずひと段落ついた所だし、ここで彼らに色々聞いてみるか。
気になる点が幾つか有るんだよね。
「……ま、まぁそれはさておき。カーキウルフってこんなに大きな群れを成すものなのか?」
気になった事その一、『異常な頭数の群れ』。
カーキウルフは『4頭でLv.12』推奨であるだけに、平均的な群れの大きさは4頭前後のはずだ。
なのにも関わらず、今回の群れは20頭弱の大きさ。
何かおかしいんじゃないか? まさか、魔王の仕業なのか?
「えーと、あることはありますね。群れのリーダーが異常なまでの強さやカリスマ性を持った個体であれば、群れは自然と巨大化し得ます。その結果、こういう群れになったりもしますね」
「なるほど」
確かに、ウルフの死体を眺めると、その中に妙なヤツが一頭居る。
妙に体格が大きく、毛皮の色が明るい緑だ。
コイツが例のリーダーなのだろう。
「じゃあ、次に魔物って街道に近づかないモンじゃなかったのか?」
気になった事その二、『街道での襲撃』。
何処で見聞きしたかは忘れたんだけど、街道には魔物が近づきにくく、あまり襲われることは無いらしい。
それなのにどうして今回、こんな街道のど真ん中で襲われてしまったんだろうか?
「あぁ、それだな。よくある勘違いだ。街道であれば安全、って言えるのは町から日帰り出来る位の範囲だ。人の往来が多く、狩りに出る冒険者も多いからな」
「ですが、こういう町と町の間まで来ると普通に街道でも襲って来るようになります。人通りも減りますしね」
「そうそう。こーんな所だと中々気が抜けないんだよねー」
「……マジか」
そうだったのか。知らなかった。
いや、もしかしたら僕の見落とし・聞き落としだったかもしれないな。
「あぁ、それと僕の【演算魔法】が調子悪くってな、計算ミスしたんだよ」
そして気になった事その三、『【演算魔法】のバグ』。
さっきステータスプレートが初めて計算ミスをやらかした。
今までそんな事なかったんだけどな。どうしたんだろう?
「そうなんですか!?」
「うん、今までで初めてだよ、こんな事。だけと確か【演算魔法】は『魔力を消費して数値の加算を高速且つ正確にこなせる』ハズなんだよねー……」
「そうですか…………。ですが、魔法は一般にそういうミスは起きません。何かそうなった原因があるんじゃないですかね?」
そうかなー……。
ちょっと後で調べてみるか。
 




