6-10. 割合
さて、[数学の参考書]を使って勉強をすることにしたんだが、今日は普段とはちょっと違う。
現在時刻は午後9時半。
床はカーペットではなく、草原。
見上げれば天井は無く、そこにあるのは明るい月が浮かぶ星空。
その月が図書館の蝋燭に代わって僕らを照らす。
壁や本棚は無く、涼しく心地良い風がそよぐ。
辺りは静かではあるが、図書館の様な全くの静寂ではなく、リーリーリーという虫の音が小さく聴こえる。
そして、リュックを机代わりにして紙とペン、[数学の参考書]を置いた。
よし、やるか。
えーと……前回は割り算を勉強して【除法術Ⅰ】を習得したんだったな。
という訳で、次の項目に進もう。
目次を開き、『わり算』の下にある項目は……『割合』だな。
小学校の算数の中でも、特に苦手になりやすい分野だな。
●割合
割合とは、『ある数字が基準に対して何倍か』を表す方法である。
ぶっちゃけ言えば、パーセントの考え方が分かれば『パーセントの数字を100で割る』と、それが割合となる。
……と言っても、よく分かんないよね。
ある数字だの、基準だの、何倍だの言い連ねられてもピンと来ない。
という訳で、[参考書]に載っている例を挙げながら、『割合』のポイントを押さえていこう。
Point①
『割合とは、計算じゃなく”比較“だ』
今までやってきた算数の『足し算』『引き算』『掛け算』『割り算』というのは、言ってみれば『計算のルールを学んでいる』だけなのだ。
『割合』からは、覚えた掛け算や割り算を使って『問題を解く』のがメインになる。
これをスポーツで言いかえれば、今までやっていた加減乗除の計算は『準備体操』であり、その後に始める『サッカー』とか『野球』が割合に当たるのだ。
準備体操が終わって、その後も準備体操をするって事は無いよね?
という訳で、そもそも論として、割合の計算方法を覚える時には、『計算方法を覚える』という風に考えるよりも『比べる』と考えると良いんじゃないかな。
Point②
『割合には、2つの数字が必要』
割合を扱う上では、2つのデータが必要になる。
その名も『比べる量』と『比べられる量』だ。
と言ってもよく分からないので、例を挙げよう。
例えば、僕がとあるゲームで『4点』を取りました。
この結果って、良い方? 悪い方?
考えてみよう。
この答えは、『不明』だ。
この文からだけでは分からない。
問題文から『ある情報が抜けている』からな。
じゃあ、どんな情報があれば、『4点』が良いか悪いかを判断できる?
考えてみよう。
正解は人によって変わると思うけど、例えば『満点が幾らですか』だ。これが一番メジャーなんじゃないかな。
5点満点なら4点は結構良い方だな。
100点満点なら全然ダメだ。
例えば『平均はどのくらいですか』というのもある。
平均が2点なら、結構頑張ったよね。
平均が70点なら、低くて心配になってしまう。
あとは『ライバルの得点は?』というのもあるかもしれない。
絶対に負けたくないライバルが居て、3点ならギリで勝ったし、20点ならボロ負けだ。
こんな感じで、『基準にする得点』によって僕の得点の良し悪しはガラッと変わる。
『僕の得点』と、『基準にする得点』の2つの数字が無いと割合は求められないのだ。
Point③
『割合は、割り算を使って求める』
さて、じゃあここでは例のゲームで『僕の得点』が4点、『満点』が20点とし、『満点に対する僕の得点の割合』を求めよう。
公式は、ズバリこれだ!
(僕の得点)÷(満点)=(割合)
分数で書くならば、次のような感じだ。
『
(僕の得点)
—————— =(割合)
(満点)
』
それぞれに数字を当てはめると、こんな感じになる。
『4 ÷ 20 = 0.2』
そして、この0.2こそが『割合』なのだ。
これで『満点に対する僕の得点の割合』を求められた事になる。
ちなみに、『割るのが逆じゃない? 20を4で割るんじゃないの?』と思う人も居るんじゃないだろうか。
だけど、順番はこれで合っている。問題ないのだ。
こう思う人は、『割り算は大きい数を小さい数で割るものだ』という考えに固まっている可能性が高い。
割合は、一般に0から1の小数で表すのが基本なのだ。
この意味としては、『比べる量を1とした時、比べられる量は幾つである』という感じだな。
半分であれば割合は0.5だ。十分の一なら割合は0.1。
比べる数と同じなら割合は1となる。
Point④
『割合は原則0〜1の小数で』
さて、もうお気付きかもしれないが、割合は基本的に0から1の間の小数を使って表すことが多い。
なんでわざわざそんな事をするのか、説明しよう。
例で示すなら、満点が20点のゲームで僕が4点しか取れなかった時の割合は0.2だ。
これの出来はパッと見であまり良くない方だと分かるだろう。
では、『761点満点のゲームで僕は185点を取りました』としよう。これの出来は良い? 悪い?
はっきり言って、こんな数字が現れたら、ピンと来ないだろうね。
10点満点や100点満点なら分かりやすいだろうけど、こーんな数字が現れたら話は別だ。
だが、これも割合を使えば一発。
185を761で割れば、あーら不思議。
185÷761 = 0.24310…… となる。
割り切れないが、0.24くらいの割合だ。
こう考えれば、割合が0.2だった20点満点のゲームより割合が大きい、つまり出来が良かった、って事が分かる。
割合の説明はこんな感じだ。
……説明するのって難しいな。
参考書も、結局は『百分率の考え方を理解できれば可』って書いてるし。
あぁ、そうそう。割合を100倍して『%』を付けたものが『百分率』、俗に言うパーセントってヤツだ。
これが日常で使えてれば、割合はパーセントの百分の一だと覚えれば十分だな。
さて、じゃあ練習問題に進もうか。
A問題、B問題合わせて20問。
頑張りますか。
フゥー、B問題の(10)、終了っ!
だけど、今回は【演算魔法】に追加は無かった。
ちょっと残念な気持ちはしなくも無いけれど、まぁ仕方ないよね。
この世界に『割合』の魔法が無いのなら仕方ないし。
静かに[参考書]を閉じ、紙とペンと一緒にバッグに仕舞う。
さーて、今何時か————
「(先生、おはようございます)」
「(あぁ、シンか。おはよう)」
時刻を確認しようとした所で、ガサゴソという音と共にシンが起きてきた。
ちなみに、現在時刻は午後11時25分。
交代5分前である。
「(シン、お前……よくこんなピンポイントで起きられるな)」
「(なんだか、勝手に目が覚めるんですよね)」
「(マジかい)」
いいなー、その機能。
体内に目覚まし時計でも埋め込んでるのかね。
「(魔物、出ました?)」
「(いや、全くと言って良い程にな)」
「(そうでしたか、それは良かったです。では先生、明朝までゆっくりお休みになられてくださいね)」
「(あぁ、ありがとう。おやすみ)」
「(おやすみなさい)」
まぁ、[参考書]を読んでいたお陰で眠気がほぼ無いんだけどね。
とりあえず、シンの言う通りテントの中で横になっておこう。いずれ寝るしな。
さて、じゃあおやすみ————……
 




