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6-7. 合宿

※1/4

『勇者錬成迷宮合宿』と『勇者養成迷宮合宿』と表現が重複していたので、後者に統一

「貴方、戦士団・連合主催の勇者養成迷宮(ダンジョン)合宿に行かない?」


迷宮(ダンジョン)に合宿と、なにやら面白そうな単語が現れたぞ!



「戦士団や連合が付き添って、初心者向け迷宮(ダンジョン)を踏破する! っていうイベントなんだけど。どう?」


行く行く。

そんな楽しそうなイベント、無論行くしかないだろ!



「是非行かせて下さい!」

「おぉ、やる気あるわね。分かったわ」


「……ん? クラーサさん、少し良いでしょうか?」


クラーサさんが微笑んで頷いていると、横からシンが話しかけてきた。

何か聞きたい事でもあるんだろうか。


……もしかして、シン達も行きたいとか?

勿論、一緒に行こうぜ。


()()()()()主催って仰いましたよね」

「えぇ、そうよ」

「先生は『勇者』ですが、戦士団にも連合にも属していません。それでも大丈夫なんですか?」


あぁ、確かに。

でもアレじゃないのか? 『勇者』ならだれでも参加できるとか。


「あぁ、それね…………確かに、原則としては戦士団・連合が主催するイベントに参加できるのは所属しているメンバーだけ。組織外の人に万一の事があった際、責任問題とか色々と面倒な事になるからね」


なるほどな。こういう責任問題とかってこの世界にもあるのか。

日本でも『預かった子どもが怪我をした』とかだけでもオオゴトになりかねなかったし。


「じ、じゃあ……僕は参加できないんじゃ――――

「まさか、また違反するの!?」


いや、コース。その言い方やめとけ。


「いえ。貴方を合宿に参加させるよう、私が王都戦士団長に直接お願いするわ」

「え、そうなんですか!?」


えぇ……わざわざお願いしてもらうとか、なんだか申し訳ないな。

クラーサさんに面倒をお掛けしてしまうようで。


「なんだか申し訳なさそうな表情をしてるけど、そうでもないわ。実は私も『貴方に行って欲しい』って思っているの。貴方の【演算魔法】はこれから先、絶対に伸びると思うの。そのためにも経験を積んでほしいわ」

「なるほど……」


そうなのか。

だけどクラーサさんがそんなに僕に期待してるなんて。

……応えられるか不安だな。


「戦士や魔術師の一人二人を鍛えるのと、えげつないステータス強化を掛けられる数学者一人を鍛えるの、どちらが有効だと思う?」

「……まぁ、そう言われると」

「ね? だから、自信もって! それに、『所属してるしてない』の件は気にしなくていいわ。私は王都戦士団や連合に対して大きな()()があるし。それこそ、貴方を参加させるようにお願いしても返済しきれない程のね」


貸し、か。

流石は王都中央のギルド長やってるだけの事はあるな。


「貸しって、一体クラーサさんは戦士団や連合に何をされたんですか?」

「この前の襲撃の件、戦士団も連合も来なかったでしょ? ああいうのは、本来戦士団や連合が率先して出撃・統率したり、また戦いの記録や後始末をしなきゃならないの」


あぁ、そういえば襲撃の時、南門の門番兵長モードさんが『戦士団も魔術師連合も来ない』みたいな事言ってたな。


「だけど、戦いが終わっても結局彼らは来なかったし、その後も全然来なかった。だから、わざわざギルドの職員を動員して始末・記録してやったのよ。それを考えちゃ、それこそ百人くらい参加させなければこの貸しは消えないわね。一人や二人参加させるなんて、苦でもないわ」


そう言ってフフフフッと笑うクラーサさん。だが目がちょっとヤバい。

……ちょっと彼女の黒い部分を見てしまったかもしれない。




「そういう訳なの。だから計介さんを参加させるくらい、私がお願い(恐喝)すれば何の問題も無いわ」


……クラーサさん、お願いをして頂けるのはありがたいんですが、諍いの種を蒔かないように願いますね。


「戦闘職じゃないから『足手纏いになるなよ』みたいな事を言う奴も居るとは思うけど、無視して大丈夫。【演算魔法】でステータスを強化すれば、ケースケさんは勇者養成迷宮(ダンジョン)合宿で後れを取ることは無いと思うわ」

「はい」



「「「あの……」」」


会話がひと段落ついた所で学生達が声を合わせる。


「どうした? シン、コース、ダン」

「……俺らも迷宮(ダンジョン)合宿に行かせてくれないか?」


そういえば、今まで僕一人で行く前提で考えていた。

彼らも『強くなりたい』のだ。この機を逃す事はしないだろうな。


「クラーサさん、学生達も連れて行けないですかね?」

「うーん……勇者じゃない3人も参加させるようお願い(恐喝)する分には問題ないんだけど、なんと言われるかは分からないわね。飽くまで『勇者養成』合宿ですから」

「……で、でも! 先生一人より私達4人組になった方が強いです!」

「なるほどねー……。確かにそうね。一理あるわ。この子達にも【演算魔法】を掛けておけばステータス的には問題ないし、それにケースケさんの強さを一番理解しているのはあなた方だと思う」


そしてクラーサさんは目を瞑り一瞬の沈黙すると、目を開いてこう言った。


「よし、分かったわ。貴方がた4人を勇者養成迷宮(ダンジョン)合宿に参加させるようにお願いしておきます」

「よろしくお願いします」

「「「ありがとうございますっ!」」」


僕の後に続いて3人も頭を下げる。

そしてお互いにハイタッチで喜ぶ3人。


「彼らは仲が良いわね。貴方の事もよく慕ってるようだし」

「はい。良い子達ですよ、彼らは」


良かった良かった。

だけど、僕としても皆が来てくれて嬉しいよ。

こちらの世界に来て、僕だけ同級生から離れてずっと1人だったのだ。


合宿に参加したけど流れに乗れず独りぼっちとか、辛すぎるもん。






さて、参加を確定した所でクラーサさんが内容を教えてくれるようだ。


「じゃあ、合宿についての話をするわね。合宿は丁度2週間後、王国の西部最大の都市、『風の街・テイラー』で行われるわ。目的の迷宮(ダンジョン)はテイラーから歩いて少しの所よ」

「へぇー……」


風の街、か。

オシャレな二つ名を冠した街だな。

観光都市だろうか。気になるな。



「テイラーまではここから歩いて10日くらいね。明日出発しても間に合うわ。」

「徒歩で一週間ですか!?」

「えぇ、そうよ。この世界じゃ驚く程じゃ無いし、むしろ近いくらいよ」

「……そうっすか」


えー、徒歩10日かー……

現代日本じゃ考えられない概念だ。

10日間歩き続けるのはちょっと嫌だな。



「馬車とか、無いですかね?」


という事で、さっさと代替手段に頼ることにした。


残念ながら僕は日本から来たアマちゃんなのだ。

新幹線もある、夜行バスもある、リニアだって夢じゃないような世界から来たのだ。

徒歩に拘るプライドは無い。


「あるわよ、乗合馬車。都市や町、村の間を繋ぐ乗合馬車を乗り継いでいけばテイラーまで行けるわ」

「おぉ!」


それしか無いじゃん。


「それなら何日で行けますか?」

「王都・テイラー間に町が3つ、乗合馬車は各町の間を1日で繋ぐから……4日ね」

「おおぉ!!」

「ただ、その分金も掛かるわよ。テイラーまでだと片道金貨1枚弱くらいかしら」

「うぅっ……」


金貨1枚弱かー……



「徒歩にします」


即決でやめた。流石に運賃がシャレにならない。

これが4人分……片道で金貨4枚は厳しいだろ。


「そうでなくちゃね。それに、歩きつつ出てきた魔物を倒して進めば修行にもなるわ。野宿も経験してみると良いわよ」


クラーサさんがそう言うと、学生達は金欠時代の野宿の思い出が蘇ったのか3人して俯いていた。

俯くのを見たクラーサさんは『あら、貴方たちどうしたのかしら?』という表情をしていた。


それらを見た僕は苦笑してしまった。






こんな感じで、僕らの勇者養成迷宮(ダンジョン)合宿の参加が決まり、話も一通りしたので、お暇することにした。

準備もしなきゃいかんしね。


「じゃあ、今日この後は買い出しでもして、明日の朝には王都を出発できるようにしておきます」

「そうね、それが良いわ。まだ午後3時、店はどこでも開いていますからね」


「じゃあ、買い出しして明日に備えます。ありがとうございました!

「「「ありがとうございました」」」

「いいえ、こちらこそありがとね」



そう挨拶を交わし、僕らはギルド長室を出た。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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小説を愛する皆様の心に、
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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