6-7. 合宿
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『勇者錬成迷宮合宿』と『勇者養成迷宮合宿』と表現が重複していたので、後者に統一
「貴方、戦士団・連合主催の勇者養成迷宮合宿に行かない?」
迷宮に合宿と、なにやら面白そうな単語が現れたぞ!
「戦士団や連合が付き添って、初心者向け迷宮を踏破する! っていうイベントなんだけど。どう?」
行く行く。
そんな楽しそうなイベント、無論行くしかないだろ!
「是非行かせて下さい!」
「おぉ、やる気あるわね。分かったわ」
「……ん? クラーサさん、少し良いでしょうか?」
クラーサさんが微笑んで頷いていると、横からシンが話しかけてきた。
何か聞きたい事でもあるんだろうか。
……もしかして、シン達も行きたいとか?
勿論、一緒に行こうぜ。
「戦士団・連合主催って仰いましたよね」
「えぇ、そうよ」
「先生は『勇者』ですが、戦士団にも連合にも属していません。それでも大丈夫なんですか?」
あぁ、確かに。
でもアレじゃないのか? 『勇者』ならだれでも参加できるとか。
「あぁ、それね…………確かに、原則としては戦士団・連合が主催するイベントに参加できるのは所属しているメンバーだけ。組織外の人に万一の事があった際、責任問題とか色々と面倒な事になるからね」
なるほどな。こういう責任問題とかってこの世界にもあるのか。
日本でも『預かった子どもが怪我をした』とかだけでもオオゴトになりかねなかったし。
「じ、じゃあ……僕は参加できないんじゃ――――
「まさか、また違反するの!?」
いや、コース。その言い方やめとけ。
「いえ。貴方を合宿に参加させるよう、私が王都戦士団長に直接お願いするわ」
「え、そうなんですか!?」
えぇ……わざわざお願いしてもらうとか、なんだか申し訳ないな。
クラーサさんに面倒をお掛けしてしまうようで。
「なんだか申し訳なさそうな表情をしてるけど、そうでもないわ。実は私も『貴方に行って欲しい』って思っているの。貴方の【演算魔法】はこれから先、絶対に伸びると思うの。そのためにも経験を積んでほしいわ」
「なるほど……」
そうなのか。
だけどクラーサさんがそんなに僕に期待してるなんて。
……応えられるか不安だな。
「戦士や魔術師の一人二人を鍛えるのと、えげつないステータス強化を掛けられる数学者一人を鍛えるの、どちらが有効だと思う?」
「……まぁ、そう言われると」
「ね? だから、自信もって! それに、『所属してるしてない』の件は気にしなくていいわ。私は王都戦士団や連合に対して大きな貸しがあるし。それこそ、貴方を参加させるようにお願いしても返済しきれない程のね」
貸し、か。
流石は王都中央のギルド長やってるだけの事はあるな。
「貸しって、一体クラーサさんは戦士団や連合に何をされたんですか?」
「この前の襲撃の件、戦士団も連合も来なかったでしょ? ああいうのは、本来戦士団や連合が率先して出撃・統率したり、また戦いの記録や後始末をしなきゃならないの」
あぁ、そういえば襲撃の時、南門の門番兵長モードさんが『戦士団も魔術師連合も来ない』みたいな事言ってたな。
「だけど、戦いが終わっても結局彼らは来なかったし、その後も全然来なかった。だから、わざわざギルドの職員を動員して始末・記録してやったのよ。それを考えちゃ、それこそ百人くらい参加させなければこの貸しは消えないわね。一人や二人参加させるなんて、苦でもないわ」
そう言ってフフフフッと笑うクラーサさん。だが目がちょっとヤバい。
……ちょっと彼女の黒い部分を見てしまったかもしれない。
「そういう訳なの。だから計介さんを参加させるくらい、私がお願いすれば何の問題も無いわ」
……クラーサさん、お願いをして頂けるのはありがたいんですが、諍いの種を蒔かないように願いますね。
「戦闘職じゃないから『足手纏いになるなよ』みたいな事を言う奴も居るとは思うけど、無視して大丈夫。【演算魔法】でステータスを強化すれば、ケースケさんは勇者養成迷宮合宿で後れを取ることは無いと思うわ」
「はい」
「「「あの……」」」
会話がひと段落ついた所で学生達が声を合わせる。
「どうした? シン、コース、ダン」
「……俺らも迷宮合宿に行かせてくれないか?」
そういえば、今まで僕一人で行く前提で考えていた。
彼らも『強くなりたい』のだ。この機を逃す事はしないだろうな。
「クラーサさん、学生達も連れて行けないですかね?」
「うーん……勇者じゃない3人も参加させるようお願いする分には問題ないんだけど、なんと言われるかは分からないわね。飽くまで『勇者養成』合宿ですから」
「……で、でも! 先生一人より私達4人組になった方が強いです!」
「なるほどねー……。確かにそうね。一理あるわ。この子達にも【演算魔法】を掛けておけばステータス的には問題ないし、それにケースケさんの強さを一番理解しているのはあなた方だと思う」
そしてクラーサさんは目を瞑り一瞬の沈黙すると、目を開いてこう言った。
「よし、分かったわ。貴方がた4人を勇者養成迷宮合宿に参加させるようにお願いしておきます」
「よろしくお願いします」
「「「ありがとうございますっ!」」」
僕の後に続いて3人も頭を下げる。
そしてお互いにハイタッチで喜ぶ3人。
「彼らは仲が良いわね。貴方の事もよく慕ってるようだし」
「はい。良い子達ですよ、彼らは」
良かった良かった。
だけど、僕としても皆が来てくれて嬉しいよ。
こちらの世界に来て、僕だけ同級生から離れてずっと1人だったのだ。
合宿に参加したけど流れに乗れず独りぼっちとか、辛すぎるもん。
さて、参加を確定した所でクラーサさんが内容を教えてくれるようだ。
「じゃあ、合宿についての話をするわね。合宿は丁度2週間後、王国の西部最大の都市、『風の街・テイラー』で行われるわ。目的の迷宮はテイラーから歩いて少しの所よ」
「へぇー……」
風の街、か。
オシャレな二つ名を冠した街だな。
観光都市だろうか。気になるな。
「テイラーまではここから歩いて10日くらいね。明日出発しても間に合うわ。」
「徒歩で一週間ですか!?」
「えぇ、そうよ。この世界じゃ驚く程じゃ無いし、むしろ近いくらいよ」
「……そうっすか」
えー、徒歩10日かー……
現代日本じゃ考えられない概念だ。
10日間歩き続けるのはちょっと嫌だな。
「馬車とか、無いですかね?」
という事で、さっさと代替手段に頼ることにした。
残念ながら僕は日本から来たアマちゃんなのだ。
新幹線もある、夜行バスもある、リニアだって夢じゃないような世界から来たのだ。
徒歩に拘るプライドは無い。
「あるわよ、乗合馬車。都市や町、村の間を繋ぐ乗合馬車を乗り継いでいけばテイラーまで行けるわ」
「おぉ!」
それしか無いじゃん。
「それなら何日で行けますか?」
「王都・テイラー間に町が3つ、乗合馬車は各町の間を1日で繋ぐから……4日ね」
「おおぉ!!」
「ただ、その分金も掛かるわよ。テイラーまでだと片道金貨1枚弱くらいかしら」
「うぅっ……」
金貨1枚弱かー……
「徒歩にします」
即決でやめた。流石に運賃がシャレにならない。
これが4人分……片道で金貨4枚は厳しいだろ。
「そうでなくちゃね。それに、歩きつつ出てきた魔物を倒して進めば修行にもなるわ。野宿も経験してみると良いわよ」
クラーサさんがそう言うと、学生達は金欠時代の野宿の思い出が蘇ったのか3人して俯いていた。
俯くのを見たクラーサさんは『あら、貴方たちどうしたのかしら?』という表情をしていた。
それらを見た僕は苦笑してしまった。
こんな感じで、僕らの勇者養成迷宮合宿の参加が決まり、話も一通りしたので、お暇することにした。
準備もしなきゃいかんしね。
「じゃあ、今日この後は買い出しでもして、明日の朝には王都を出発できるようにしておきます」
「そうね、それが良いわ。まだ午後3時、店はどこでも開いていますからね」
「じゃあ、買い出しして明日に備えます。ありがとうございました!
「「「ありがとうございました」」」
「いいえ、こちらこそありがとね」
そう挨拶を交わし、僕らはギルド長室を出た。




