6-6. 質問
※12/16
誤字を修正
「【乗法術Ⅰ】・ATK2、DEF2、INT2、MND2!」
そう唱える。
よし、これでステータス加算は完了だ。
「……やっぱり、何も起こらないのね」
クラーサさんは系統魔法のバフ魔法みたいな、派手なエフェクトをご所望のようだ。
でも申し訳ないが、【演算魔法】は魔力を『ステータスを計算する』のに消費するのでね。魔力を纏うみたいな感じにはならないのだ。
「クラーサさん、とりあえずステータスプレートを確認してみてください」
「先生の【乗法術Ⅰ】、絶対ビックリするよー!」
「あぁ、そうね……【状態確認】」
そう唱えると、半透明の青い板がクラーサさんの目の前に現れる。
「…………え!? 嘘でしょ!?」
と同時に、ステータスプレートに目を見開くクラーサさん。
まぁ、全ステータス2倍だ。そりゃ驚くだろうね。
……にしても、クラーサさんは一体どんなステータスになっているんだろうか。
「ちょっと見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ。貴方の魔法の効果、半端じゃないわね」
「じゃあ、拝見させて頂きます……」
横から見せて貰った彼女のステータスプレートは、こんな感じになっていた。
===Status========
クラーサ・マーク 27歳 女 Lv.43
職:火系統魔術師 状態:普通
HP 94/94
MP 156/156
ATK 40
DEF 78
INT 146
MND 104
===Skill========
【火系統魔法】【MP消費軽減Ⅴ】
============
……化け物じゃんか。
「はっきり言って、この魔法はヤバいわね。しかも、まだこれだけの効果でスキルレベルⅠなんでしょ?」
「そうですね。先週習得したばかりなので」
「それなら、もっともっとコレを使って鍛錬して、スキルレベルを上げるべきね。スキルレベルアップの近道は、基本的に沢山使う事だから」
「分かりました」
確かにな。
【乗法術Ⅰ】がⅡになれば、多分ステータス3倍ができるようになる。
同じようにⅢなら4倍、Ⅳなら5倍になるだろう。
しかし、今改めて思ったな。
僕の『武器』は近接攻撃でもなく、魔法攻撃でもなく、【演算魔法】。
そんな僕が強くなる最短の近道は、【演算魔法】を極める事だ。
【演算魔法】最大のウリである『ステータス加算』を極めれば、残念ステータスの僕だって十分に強くなる事は出来るハズ。
……それだけじゃない。僕の仲間、シン、コース、ダンだってステータス加算で強くさせられる!
強くなれるし、強くさせられる。最高じゃんか!
……それに、この先新しい【演算魔法】だってゲット出来るかもしれない。
[数学の参考書]はまだまだ沢山の単元が残っている。中学と高校の範囲なんて手もつけていないし。
もしかしたら、[参考書]を解き進めるうちに【加法術Ⅲ】や【乗法術Ⅰ】を上回るチートスキルが現れちゃったりしてね。
……まぁ、そんな願望は置いといて。
僕は僕の出来ることをやるだけだ。
そんな感じで、なぜかクラーサさんを化け物にしたら僕の意思が固まった。
しばらく僕の【演算魔法】をベタ褒めする学生達とクラーサさんを見たり、ローテーブルに置かれたMPポーションを頂いたりしながらそんな事を考えていたが、どうやら彼らの話も一段落ついたようだ。
「いやぁ、ケースケさん! あの時、貴方に出会えて本ッ当に良かったわ!」
「あ、ありがとうございます」
あらま。
クラーサさんの纏う雰囲気はあの時と同じものに戻ってしまったようだな。
この姿だと、落ち着きがない残念OLにしか見えない。
「……フゥ、じゃあ話を戻しましょう。質問を続けるわ」
おぉ、深呼吸一つで纏う雰囲気が変わった。
スイッチの切り替えが速いな。
やっぱり流石はギルドのお偉いさんになるだけの人だ。そういう所は弁えているのだろう。
「ケースケさんは冒険者であると同時に、数学者でもある。そうよね?」
「はい。一応、国王から一人の学者としての地位を貰ったんですけど」
「ほぅ、なるほど。だけど、『数学者』としての仕事はしてないのよね」
「…………そうですね。恥ずかしいですが、冒険者としての収入だけで糧を得てます」
「そうよね。分かってたけど」
じゃあなんで訊いたよ。
「フフッ。なんで訊いたんだよ、って顔ね」
「エッ」
ばれてら。
「教えてあげるわ。貴方、王国に学者が居ない、ってのは知ってるわよね?」
「勿論です」
そのせいで僕には先輩も配属先も無いんだからな。
「その理由は、全ての学者が帝国へ移ってしまったからよ」
それも知ってる。
……けど、何で学者たちは帝国へと移ったんだ?
「帝国は『学園都市』を作って、世界中から学者を集めたの。最新鋭の設備や最高の環境、待遇を用意してね。それが出来たのが半年前」
半年前、か……。
僕がこの世界に召喚されたのが1ヶ月弱くらい前だから……結構前の話だな。
「で、王国の学者達も完成と同時に引き抜かれた。王国はなんとか引き留めようとしたんだけど、結局学者達は学園都市の待遇には負けたわ。そして、貴方を引き受ける立場であった『総合学会』は消滅したの」
「…………そうだったんですか」
「そして今現在、帝国が魔王に襲われているという状況。……貴方には言いづらいんだけど、学者達が生きているかどうかさえ把握できていない状況なの。『総合学会』が復活するような事は無いかもしれないわね」
「……そうですか」
王国の学者達、やってくれたな。
……でもまぁ、今更そんな事を言っても仕方ないし。
「でも僕は大丈夫です。なんたってコイツらも居ますから。先生が『先輩いない』とか言ってられませんしね」
「「「先生……」」」
シン、コース、ダンの方を見てそう言い切る。
もう『先輩がいない件』に関しては僕の中でも整理がついているしな。心配無用なのだ。
……あぁ、そうだ。
「ところで、クラーサさん。『総合学会』って何ですか?」
「『総合学会』ってのは、識者の職を授かった人々が集まった組織ね。『王都戦士団』はご存知かしら?」
「はい、知ってます」
王都戦士団なら、神谷や強羅の配属先だ。
「戦士の職を持った人々の組織なら王都戦士団や各街の戦士団ね。略して『戦士団』。魔術師は魔術師連合、略して『連合』。産業人なら商工組合、略して『組合』。で、最後に貴族や領主が参加する王国議会、それと学者達が集う総合学会、略してそれぞれ『議会』『学会』って感じね」
「成程」
結構ちゃんとしたシステムが出来上がってんだな。
「で、我らが神エークスによって勇者召喚がなされたときは、各組織が責任をもって勇者様方のサポートをするの。だけど『勇者が一人行方不明になっている』という噂を聞いた時は驚いたわね。勇者様を行方不明にさせるなんて有り得ないからね。『戦士団・連合・組合・議会、一体どこの組織がヤラカシた?』って思ったわ」
……良く言うよ。
召喚した勇者を配属もさせずに放っぽり出しておきながら。
「いやぁ、でもまさかそんな行方不明者、数学者で冒険者なケースケさんを抱えているのは私達ギルドでしたー、っていうオチね。フフフフフッ」
……とはいえ、僕の知らぬ間にそんなことになっていたのか。
それはご迷惑をお掛けしました。
「まあ、それは置いておきましょう」
……置いといて良いのか? 『勇者様を行方不明にさせるなんて有り得ない』って言ってたけど。多分、笑い事じゃ済まないレベルだよね?
「私がしたい質問は以上よ。お陰様で色々と分かったわ。ケースケさんが勇者であるという事が確認できたし、行方不明の勇者の件も解決した。それにケースケさんの【演算魔法】も私が思っていた以上に強力だったわね」
そうか。それは良かった。
クラーサさんのお役に立てて光栄です。
「そこで、今ふと思いついたんだけど……」
クラーサさんが姿勢を改め、真剣な表情になる。
ん? 何だろうか。
「何でしょうか?」
「……貴方、戦士団・連合主催の勇者養成迷宮合宿に行かない?」
……迷宮!?
 




