6-5. 再会
マッチョ兄さん(中央ギルド)がギルド長室の扉をノックする。
「はい」
「ギルド長、ケースケ殿御一行をお連れしました」
「どうぞ、お通しして」
「承知しました」
そして、マッチョ兄さん(中央ギルド)は扉を開いた。
開いた扉からは日の光が溢れ出す。
逆光に目が慣れてくると、そこには広い部屋があった。
部屋の左右には大きな本棚があり、様々な色や大きさの本が所狭しと並べられている。
床にはカーペットが敷かれている。談話用のソファとローテーブルも用意されている。
部屋の端には、上着掛けに紅いとんがり帽子とローブが掛かっている。
正面には大きな窓が広がり、3階からの王都の風景が眺められる。
そして、大きな窓の手前には沢山の書類が積まれた執務机、それとそこに座るクラーサさんが居た。
服装は黒のスーツだ。OLさんみたいだな。
「久しぶりね、ケースケさん。コースさん。」
「お久しぶりです」
「また会えて嬉しいですー!」
「ありがとう、こちらこそ嬉しいわぁ。それと戦士のお二人さんもよろしくお願いするわね。私は冒険者ギルド・王都中央ギルドのギルド長、クラーサ・マークよ」
「「……よろしくお願いします」」
シンもダンもド緊張じゃないか。ガチガチだぞ。
まぁ、とりあえず落ち着いてくれ。
「わ、私はシン・セイグェンと申します。お会いできて光栄です……!」
「……ダン・セーセッツです」
「フフッ、よろしくね。そんなに緊張しないで、気楽にいきましょ」
普段あまり感情に起伏がないダンがこんなに緊張する姿、珍しいな。
スクショして頭の中に保存しておこう。
しかし、今日のクラーサさんはあの日と違って落ち着いてるな。
「さて、立たせてお話しするのもなんですから、座ってお話しましょ」
「「「「はい」」」」
そう言って、クラーサさんは談話席に僕らを座らせた。
「さて、今日は中央ギルドまで来てくださってありがとう。手紙を出した翌日に早速来てくださるなんて、嬉しいわぁ」
「いえいえ、こちらこそ特に予定も定まっていませんでしたし」
「最近は毎日狩り三昧でしたしね」
「そう」
あぁ、手紙といえば。
一つ疑問に思う事があった。
「そういえば、僕の居場所ってどうやって調べたんですか? なんで僕らが東門に居るって分かったんですか? 僕らは宿暮らしなので、住所も持ってないですし」
住所だけでなく、電話番号もメールアドレスも無い。フレンド機能みたいな物も知らない。
どうやって調べたんだろうか。
……まさか、密偵が僕らに付いてるとか!?
「あぁ、それね……」
何その沈黙!? え、もっとヤバい状況なのか!?
怖さ倍増なんですけど…………
「実は、冒険者ギルド内のネットワークを使ってね。ケースケさんとコースさんの獲物買取記録を見せてもらいました」
なんだよ! そんな事かい!
良かった、安心したよ。
「いえ、実は獲物買取記録とかはそう簡単に見ちゃいけないのよね。個人情報に当たるから、外部に漏れたりすると面倒なのよ」
「え……じゃあクラーサさん、違反をして――――
「そういう訳でも無いわよ。それこそ、ギルド長くらいの権限があれば特に問題ないわぁ」
そう言ってフフフッと笑うクラーサさん。
……この人、その気になれば職権濫用しまくるだろ。
「そういう訳で、ケースケさんを検索したら『王都東ギルド』で毎日のように買取しているって分かったの。だから王都東ギルドに手紙を渡すようお願いした、って感じね」
おぅ、なんだか凄い情報網じゃないか。
日本にも匹敵するんじゃない?
「コースさんも毎日、ケースケさんと同時刻、同ギルドでに買取記録があったわね。……あ、あと確か剣術戦士と盾術戦士のお二人もコースさんと同じだったわね。……あ、そうそう。お三方とケースケさんの買取時刻が揃い始めたのが……確か11日前くらい? でしたっけ。そこで貴方がたが出会われたのかしら?」
……おいおい、個人情報ダダ洩れじゃんか。
こんなんで良いのか、ギルド長。
それと、学生達と出会って11日、か。
『11日前』が合ってるか間違ってるかは面倒なので数えない。
どうでも良いんだが、もうそんなに経ったんだな。
長いようで短く感じるな。
「さて、そろそろ本題に移りましょうか」
学生達に出会った時の事とかを思い出していると、話の切れ目が出来たからかクラーサさんが話を進めた。
そうだそうだ。忘れてた。
クラーサさんは訊きたいことがあるんだったな。
「手紙にも書きましたが、ケースケさん、貴方に訊きたいことがあります」
「はい、私で良ければ」
「そう言って頂けると助かります。あぁ、でも不都合な事にはお答え頂かなくても結構ですからね。流石にこれにはギルド長権限は使いませんので」
「……はい」
いや、黙秘権があるってのは良いんだけどさ。
逆にコレ以外にはギルド長権限を使うのか?
……ギルド長、恐ろしや。
「じゃあまず。唐突だけど、貴方って『勇者』よね?」
「そうですね、一応。でもどうして分かってたんですか?」
ステータスプレートには『勇者』とは書いてないはずなんだけど。
「まず、Lvね。17歳でLv.4は低すぎるわ。次に【自動翻訳】というスキル。それと最後に『名前』ね。ケースケという名前もカズハラという苗字も、王国や周辺諸国では見かけないわ」
「なるほど」
……いや、凄い推理力だなって思ったけどさ。
見た目は子供な名探偵みたいだなって思ったけどさ。
やっぱり個人情報ダダ洩れじゃんか!
「じゃあ続けるわ。確認だけど、貴方の職って、識者の分類である『数学者』なのよね?」
「そうです」
「貴方があの時使っていた、【加法術Ⅲ】っていうステータス強化魔法、それは『数学者』由来の魔法なの?」
「多分。【演算魔法】の中にある魔法の一つです」
「【演算魔法】、かぁ……。名前からして数学者っぽいわねぇ。多分特殊魔法の一つだけど、そんな魔法聞いたことないわ!」
……あ、あれ? クラーサさんのテンションが少し上がってきている。
さっきまではあの時と違って落ち着いてると思ったのに。
「ちょ、ちょっとアレもう一回やってくれないかしら? あの魔法、普通のステータス強化魔法とは何か違うのよねぇ」
「あぁ、じゃあ新しく習得したスキルがあるので、そっちを掛けてみますね」
「えぇ、そうなの!? ぜひ掛けて頂戴! MPが足りないなら、このMPポーションも使っていいわよ!」
お、おぅ。
クラーサさんの喰い付きが凄すぎる。
そしてローテーブルの上に続々とMPポーションを出されていく。
まぁ、新たな魔法はステータスの上昇率だけでなく、MPの消費量も格段に減ったからな。
多分MPポーションは要らないけど。
「ありがとうございます。じゃあ、行きますね」
「宜しく!」
よし、新入り【乗法術Ⅰ】の出番だ。
クラーサさんは火系統魔術師だからINTを2倍に……いや、もうこの際ATKからMNDまで4ステータスを一気に2倍にしちゃおうか。
折角だからクラーサさんの驚く姿を見てみたい。
じゃあ行きますか。
「【乗法術Ⅰ】・ATK2、DEF2、INT2、MND2!」
 




