6-3. 開封
手紙を受け取った僕は、その後学生たちと共に精霊の算盤亭に戻った。
勿論、途中にご飯と散魔剤を買うのも忘れなかったぞ。
そして各々シャワーなり着替えなりを済ませ、今は僕の部屋に4人が集まっている。
今から手紙の開封式だ。
「俺ら、こんな人と会ったことないよな?」
「先生、いつの間にこんな凄い人とコネを持ったんですか!?」
あぁ、そうだ。
シンとダンはクラーサさんを知らないんだったな。
「南門の襲撃の時に、外壁の上で僕とコースが会ったんだ」
「二人は下に居たからねー」
「あの時は、単なる魔術師の一人だと思ってた。まさかギルド長だったとは……」
単なるとかいうのもなんか失礼だが、当時は本当にそう思っていたのだ。
仕方ないでしょ?
「クラーサさん、物凄い魔法使ってたしねー!」
「あぁ、あの【溶岩領域Ⅵ】だっけ? あの威力半端なかったなー!」
「ちょちょっと、二人だけで話を進めないでくださいよ!」
「【溶岩領域Ⅵ】……まさかあの時のドでかい溶岩の湖は、そのギルド長が作った魔法ってことか!?」
「そうだよ!」
ふと、頭に【溶岩領域Ⅵ】発動直後のシーンが蘇る。
赤熱した溶岩が一点からブワッと凄いスピードで広がり、大量のウッドディアーを巻き込みながらほんの数秒で半径100メートルくらいの円い溶岩湖が出来てしまった。
あれは凄い光景だった。地獄と言っても過言ではなかったな。
そうそう、100メートルといえば、野球場のホームベースから両翼までが大体そのくらいだ。
半径100メートルの円ならば、野球のグラウンドをホームベース中心に4つ円状に並べたくらいだろう。
その大きさの草原が一瞬で溶岩に覆いつくされてしまったのだ。
どんだけ魔力が必要なんだよ。
「あの一撃で確か……6000頭くらい倒したんだったな」
「6000…………おいおい、それって群勢の半分以上じゃねえか!?」
「やっぱりあのお姉さん、タダモンじゃないな」
「そりゃ、ギルド長ですからね」
あぁ、そうだった。
「しかも、『王都中央ギルド』のギルド長ですよ。ティマクス王国のギルドの中でも、かなりお偉いさんじゃないですか?」
「確かにそうだな」
あれか。日本で言えば、『東京本店の店長』みたいな感じか。
上には上が居るが、少なくとも各道府県に散らばる支店の店長よりは上の位だろうな。
「しかし、そんな人からダイレクトメールを頂くとは……」
「用件はなんでしょうかね?」
「……もしかして僕、何かやらかしちゃったのかな……? ギルド長権限で闇に葬り去られるとか」
「えー! 先生、殺されちゃうの!?」
「いやいやいやいや、流石にねえだろ」
「無名であればまだしも、それなりに名が売れていれば難しいですからね」
……まぁ、軽い冗談で言ったんだけどね。
本当にそうなってしまわない事を祈ろう。
「じゃあ、とりあえず手紙を読もうか」
「そうですね」
……フゥ、いざ開けるとなると緊張するな。
手紙をリュックから取り出す。
表面には宛名と差出人が書いてある。
ひっくり返して裏面を見ると、赤い封蝋で封がされている。
おぉ、なんか本当に中世な雰囲気を感じるな。
SNSやメールが普通だった日本の生活に慣れてしまっているので、こういう手紙でのやりとりってのも新鮮だね。
「よし、読むぞ…………」
「「「はい……」」」
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ケースケ・カズハラ様
突然のお手紙、失礼致します。
私は冒険者ギルド、ティマクス王国王都中央ギルド長、クラーサ・マークです。
先日の南門でのウッドディアーの襲撃で貴方にお会いした、紅いローブを着た女魔術師です。
覚えていて頂ければ嬉しく思います。
あの時は、ろくに名乗りもできず、申し訳ありませんでした。自分で言うのもなんですが、この手紙で私の肩書を知り、驚かせてしまっているかもしれませんね。その気は無かったのですが、もし驚かせてしまっていたらすみません。
さて、本題ですが、私は貴方にお尋ねしたいことが幾つかあります。
冒険者ギルドのそれなりの立場に在る者として、貴方に幾つか質問をさせて頂きたく思っています。
なお、回答に不都合な事があれば、答えて頂かなくても結構です。無理に聞き出そうとは致しません。
つきましては、王都中央ギルドまで足をお運び頂きたく思います。
こちらがお願いしている身でありながらご足労をお掛けさせてしまい、大変申し訳ありませんが宜しくお願い致します。
私は大体いつでも王都中央ギルドに居りますので、ケースケ様のご都合の良い時にお越し下さい。
また、襲撃時にケースケ様のお連れの方も一緒にお越し頂いて結構です。
ギルドのカウンターにこの手紙を見せて頂ければ、ケースケ様をお通しするように手配しておきますので、よろしくお願い致します。
クラーサ・マーク
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「以上だな。なんか、長文で殆ど頭に入らなかった」
「……ざっくり言うと、用件は『幾つか訊きたい事がある』って感じですかね」
「なるほど」
シンのお陰で文書の要約が掴めた。
なるほど、クラーサさんは質問をしたいのか。いやぁ、実に面倒でなくて分かりやすい。
っていうか、こんな長々と書いておきながら本題はそれだけなの?
「私も一緒に行って良いのー?」
「大丈夫でしょうね、この文を読んだ限り」
「でも、俺とシンは行けるのか? 俺らはこの人に会ってねえし」
「うーん、まぁ大丈夫でしょ、きっと」
というか、呼び出しておきながらシンとダンをお断りするようなギルド長なら、僕も失礼させて頂くよ。
「で、『僕らの好きな時に来ればよい』って書いてあったっけ?」
「そうですね」
「そうか、じゃあ明日行こうか」
面倒事はさっさと片付けてしまうに限るな。
どうせ後回しにした所で、いずれはやらなきゃいけないのだ。
「そうですね。特に予定は無いですし」
「またあの魔術師さんに会えるんだねー!」
「王都中央ギルドのギルド長……凄え人なんだろうな」
という訳で、明日の予定が決まった。




