6-2. 届物
ふー、やっと東門に到着した。
最近の狩場は結構遠くだから、王都との往復も割と時間が掛かるんだよね。
「お、狂科学者さん、それに学生さん達、お帰り。今日も皆してエラく楽しんできたようだな」
いつもの如く門番さんに挨拶して行く。
「ただいま帰りました、門番さん」
「ウルフ狩り、楽しかったよー!」
「今日も大漁でした!」
「……おおぅ。見りゃ分かるが、良かったな」
そう。
門番さんが言ったように、ウルフが大漁だったのは文字通り見りゃ分かるのだ。
僕らはそれぞれ、肩に獲ったカーキウルフをぶら下げているのだ。
ダンに関しては両肩に二頭。
しかも、学生達は『急所』を狙う方法を覚えているので、ウルフは傷跡も目立たないキレイな死体となっている。
ハタから見れば、まるでウルフを生け捕りにして来たように見えるかもな。
東門の辺りに居る人は僕らを見てザワザワしているが、そんな事は気にしない。
『(狂科学者が被験体を誘拐して来た)』とかいう囁き声が今聞こえたが、気にしないったら気にしないのだ。
「まぁ、獰猛な魔物を減らしてくれるんなら、こっちとしても有難いぞ。街道も安全になるしな」
「じゃあ、皆でウィンウィンでハッピーだね!」
「そうだな、ウィンウィンでハッピーだな嬢ちゃん」
さて、なんかコースと門番さんの話も纏まってきたし、そろそろ行こうか。
「じゃあ門番さん、僕達はこれで」
「おぅ、また明日な」
さて、ギルドに到着した。
建物に入り、買取を待つ列の最後尾に並ぶ。
相変わらず買取カウンターは並んでおりますな。
列の先を見ると、そこにはカウンターが二つ。
そこで対応しているのは、どちらも可愛い女性職員さんだ。
……お、今日はマッチョ兄さんが居ない。
「今日のウルフも高く売れますかね?」
「だろうな。君達もだいぶ急所を狙うのが上手くなったしね」
「エヘヘッ、先生に褒められちゃったー」
「俺の【硬叩Ⅲ】も【硬叩Ⅳ】にスキルレベルアップしたしな」
そうなのだ。
この一週間でダンのスキル、【硬叩Ⅲ】がⅣに上がった。
ついでに、コースの【水弾Ⅴ】もⅥに、【水線Ⅲ】もⅣに上がった。
特にダンのスキル、【硬叩Ⅳ】は有用だ。やっぱり刃を用いない『打撃』なので、死体がキレイに遺せるね。
そしてやっぱり、『気絶』の状態異常を与えられるのが大きい。スキルレベルアップによって状態異常を起こさせる確率が上がったように見えたのは、気のせいではないだろう。
そうこうしているうちに、僕らは列の先頭までやって来た。
フゥー、買取までもうすぐだ。
そう思うと、今まで忘れていた肩への負担がどっと返ってくるな。
やっぱりウルフは結構重い。身体が大きいのでディグラットやプレーリーチキンのようにリュックには入らず、こうやって肩からぶら下げるしか手が無いのだ。
時々ウルフをぶら下げる肩を左右チェンジしたりもしているが、それでもやっぱり疲れるものは疲れるな……。
「はい次の人どうぞー」
やっと僕らの番が回って来た。
空いているカウンターから手を挙げてるのは……マッチョ兄さん!?
あれ、さっきは居なかったのに。いつ替わったよ?
「……先生と一緒に居ると、毎回この職員さんが相手なんですね」
「うん。召喚されて以来、マッチョ兄さん以外の職員さんに相手されたこと無いからな」
ホントに一体どうなってんだか。
別にマッチョ兄さんは嫌いじゃないけどさ……。
「お、狂科学者さんじゃん。待ってたぜ」
「どうも。今日もよろしくお願いします」
いつも通りの挨拶だ。
お互い、一昨日・昨日と変わらないな。
そんな感じで挨拶を交わしながら、獲物をカウンターに置いていく。
「お、またカーキウルフか。お前らも大分やるようになったな」
「はい! 結構慣れてきました!」
「俺らなら、6頭や7頭なら余裕だぜ」
「だが、気を付けろよ。その慢心、命取りになりかねないからな」
「……はい、気を付けます」
マッチョ兄さんにそう言われてショボンとするシン。
しかし、マッチョ兄さんの言う事もゴモットモだ。
慣れて来た頃の油断が一番危ないっていうからな。
まぁ、そんな感じで会話を交わしつつ魔物を並べ終えた。カウンターの上には、大量のラット、チキン、そしてウルフが並べられている。
「まーたお前さん達、凄い数の魔物を狩ってくるよな。普通の4人グループじゃ丸一日狩り続けないと無理だぞ、この量」
それを半日で狩ってくるのだ。
かなりハイペースな狩りである。
「先生の【乗法術Ⅰ】のお陰だからな」
「先生が居なかったら、私達こんな沢山狩れてないのー!」
「お、狂科学者先生、学生さん達に慕われてんじゃねえか」
「嬉しいですね」
まぁ、君達が居なければ僕もそう沢山狩れないからな。
「はぁ……しっかし、こんだけの魔物の査定するの面倒なんだよな。傷が少ないから楽だとはいえ、時間掛かるし」
……ここでマッチョ兄さんの本音が漏れる。
申し訳ないです。
「んじゃ、査定してくるから少し待ってろ」
そう言って、マッチョ兄さんはウルフを肩にぶら下げ、残りの獲物の山を両手で一気に抱えて奥へ入っていった。
そして、査定を終えて帰ってくるマッチョ兄さん。
その手には買取金を入れた袋が一つ。
もう最近じゃ僕らの分を纏めて一袋にされているのだ。
まぁ、【除法術Ⅰ】を使えば簡単に買取金を4人で割った金額が出せるので問題はない。
「はいじゃあ買取金です。お前達の魔物、本当にキレイだな。血抜きも良くできてるし、特に減額は無しだったぞ。えーと……カーキウルフが5頭、ディグラットが60頭、プレーリーチキンが50頭。合計で金貨1枚に銀貨70枚だ」
よしよし、金貨1枚に銀貨70枚、一人当たり銀貨42.5枚か(【除法術Ⅰ】使用)。
「ありがとうございます」
挨拶をしつつ買取金が入った袋を受け取る。
「じゃあ、またよろしくお願いします」
「おぅ」
そして、4人で建物の出口へと向かう。
さて、ちゃんと帰り道に散魔剤を買って————
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
後ろから声を掛けられる。
「ん? 僕ですか?」
「あぁ、そうだ。狂科学者さんだ。渡すモンがあるんだった」
渡す物? なんだろうか。
そう思いつつ、カウンターに戻る。
「これだ。中に入ってる手紙、ちゃんと読んでおけよ」
そう言って、カウンターの中から『手紙』を取り出した。
「ありがとうございます」
マッチョ兄さんから受け取る。
手紙か……。送り主は誰だろう。
というかそもそも、僕はこの世界に来てまだ1ヶ月程だ。
そんな手紙でやり取りするレベルで仲が良い人なんて居るかね?
「……ん?」
手紙を裏に返すと、そこには宛先と差出人が書いてあった。
===========
数学者、冒険者
ケースケ・カズハラ様
冒険者ギルド
ティマクス王国 王都中央 ギルド長
クラーサ・マーク
===========
差出人はクラーサさんだった。前に南門の襲撃の際に、派手な火系統魔法をブッ放した魔法使いのお姉さんだ。
……しかし、突然だな。
南門の襲撃で会っただけの関係なので、そんな手紙をやり取りする程の仲でも無いのに。
何か用でもあるんだろうか。
……っていうか、クラーサさんってギルド長だったの!?




