5-11. 加減乗除
よし、『かけ算』の練習問題、A・B合わせて20問を解き終わった。
……ふぅ、ちょっと疲れたな。
目を閉じれば即寝れそうだ。
この感覚も久し振りだな、魔力枯渇。
ちょっと今のステータスを確認しておこう。
「【状態確認】」
ピッ
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.4
職:数学者 状態:普通
HP 46/46
MP 1/42
ATK 4
DEF 14
INT 18
MND 19
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化I】
【演算魔法】
===========
……っておいおい、残りMPが1って。
だいぶ危険じゃないか。
あぁ、気をつけないとな。
久し振りにスキルを習得した事で、調子に乗って【乗法術Ⅰ】を使い続けてしまった。
ちゃんとMP残量を気にしながらやらないと、またマースさんにご迷惑をお掛けしてしまうからな。
よし、じゃあちょっと休憩しようか。
リュックからMPポーションを取り出し、図書館の外へと向かう。
図書館内は飲食禁止だからな。
大きなドアを開け、王城の廊下に出ればMPポーションをゴクゴクだ。一気に飲み干す。
……ふぅ、MPチャージ完了。
出しっぱにしていたステータスプレートにも、MP欄が『42/42』と示されている。満タンだ。
さて、じゃあ席に戻って勉強の続きと行きますか。
次の単元は……まぁ、これくらいは目次を見なくても分かる。
数学嫌いといえども、足し・引き・掛けと来れば次に来るものくらいは察するさ。
ページを捲ると、そこには予想通り『わり算』の世界が広がっていた。
よし、やりますか。割り算。
●わり算
割り算とは、『÷』という記号を用いて2つの数字の商をとる計算方法だ。
……と言っても訳分からないよね。ぶっちゃけ言うと『掛け算の逆』である。
足し算の逆が引き算、ってのは分かって頂けるだろう。同じように考えれば、『掛け算の逆は割り算』なのだ。
……まぁ、説明だけじゃ訳分かんないよね。
僕もそうだ。
はっきり言って、割り算は言葉で言っても伝わらないだろうから、例題を使って教える。って参考書に書いてあった。
例えば『15÷3』という式があったとしよう。
この意味は『15個のチョコを3人兄弟が同じ数ずつ貰うなら、1人何個貰える?』と言った感じだ。
考え方としては、実際に紙に15個の丸を描いて、3グループに分けてみると良い。
それをやれば、1人5個貰えると分かる。つまり、答えは5だ。
また、『15は3を何倍すれば出来る?』という風にも考えられる。
これは掛け算を用いて『3×△=15で、△に当てはまる数字は何?』っていうの同じだ。
これが『掛け算の逆』と呼ばれる理由だ。
また、新たに『余り』という概念も登場する。
例えば、『16個のチョコを3人兄弟が同じ数ずつ分ける』とした時の式は『16÷3』だ。
この時、チョコが1人当たり5個だと1個余り、6個だと2個足りない。
つまり、『チョコは1人5個貰えて、1個誰の物でもないものが出る』ということだ。
この1個こそが『余り』だ。
ちなみに、余りは人数以上になる事は無い。
今回なら3人兄弟なので、幾つチョコがあろうと、余りが3以上には絶対にならない。余りは0、1、2のどれかになるのだ。
後は割り算の筆算の方法が描いてある。
逆『て』の字みたいな線を引くヤツだな。
そんな感じで説明は終わりだ。
という事で、説明の下にあるA問題に挑戦。
A問題は『二桁÷一桁』、余りなしの単純な問題になっている。
これならイケるな。
(1)は『28÷7』。
…………『これならイケる』の発言を撤回します。
最悪だ。なんでよりによって1問目から七の段なんだよ。
やる気失せるだろ!
……まぁいいや。とりあえず右手にペンを持ち、左手で(1)に触れ、半ばヤケクソ気味に問題を書き写す。
そして左手に感じる、吸い付かれるような感触。
逆らうことなく、魔力を流す。
わずかな倦怠感と共に頭の中に現れるのは、白い背景の中に浮かぶ黒い文字。
『4』だ。
……よし、『シチシ・ニジュウハチ』の呪文は間違っていなかったようだな。
そう安堵している所に、横長のメッセージウィンドウが現れる。
===========
アクティブスキル【除法術I】を習得しました
===========
よし、割り算スキルもゲット。
という訳で、【除法術I】を使って練習問題をどんどん解いていきますか。
A問題の(2)は『18÷2』。
いつも通り、問題を書き写して頭の中に『18÷2』とイメージする。
それだけで『9』という答えが返ってくるのだ。【演算魔法】スキルって楽でいいね。
さて、じゃあ(3)はー…………
……よし、B問題の(10)、『7余り2』っと。
フゥー、終わった。
途中に休憩を入れたのでMPには余裕があるが、やっぱり疲れるな。
あぁ、そうだ。ここで一つ、【除法術I】だけの変わった仕様があった。
【除法術I】を使った後のイメージは、『余り表示』と『小数表示』があるようだ。
17÷4の答えとして『4.25』と『4余り1』の二つが表示された。
【除法術I】、親切仕様だな。
という訳で、割り算の【除法術I】を習得した。これで、【加法術Ⅲ】、【減法術Ⅰ】、【乗算術Ⅰ】と合わせて加減乗除が揃った。
これで僕の数学者ライフも安泰だな。
そんな感じでボーッとしていると、学生達が帰ってきた。
「先生、すみません。遅れました」
「色んな魔物の本が見つかったよー」
「おぅ、そうか」
彼らはそれぞれ、魔物関連の本を手にしている。
シンは『魔物辞典』だ。
よく見る国語辞典みたいな外見の本である。中身も活字なんだろうなー……。
コースは『図解・魔物の生態1』だ。
あー、それね……それって、僕が初めて魔物について読んだ本やん。
その本、絵が沢山書いてあるから見ていて楽しいよ。
ダンは『魔物の仕留め方1・草原編』だ。
あぁ、それも読んだヤツだな。これに『対ディグラット・グルグル戦法』や『対プレーリーチキン・殺気隠蔽戦法』が書いてあった。
コイツのお陰で冒険者、ひいては狂科学者として生活出来ていると言っても過言では無い。
「にしても、本を持って来るのに随分と時間が掛かったな。何かあったのか?」
「……あ、えぇ、えーとですね————
「シンが道に迷いました!」
「……なっ!」
ほぅ、シンが道に迷うのか。珍しいな。
「シンは方向音痴なので!」
「……はい、実はそうなんです……」
シンの弱点が発覚した。
真面目でしっかりしているシンの弱点とは中々イメージが出来ないが、方向音痴だったとはね。
完璧な人間なんてそうそう居ないってヤツだな。
「所で、先生は何を読んでいたんだ?」
「あぁ、僕? 僕はこれだ」
そして割り算のページを閉じ、表紙を見せる。
「……何だこれ? 読めないぞ……」
「ん? 読めないのか?」
「うん。見た事ない文字だねー」
……あぁ、そういう事ね。
この本は日本語で書かれているので、日本語が無いこの世界では謎の暗号となってしまっているって事か。
ちなみに、僕は【自動翻訳】のお陰でこの世界の文字や言葉も日本語として読み、書き、話すことができる。
「あぁ、これは僕の世界、日本の言葉だ。日本語で数学について書かれているんだよ」
「なるほど。という事は、この本は数学者である数原先生の教科書という訳ですね」
「そうだな」
まぁ、正しくは参考書なんだけどね。
「ねぇ、先生って、その本でどんな事を学んでんのー?」
「ん? 僕か?」
コースから数学者の内容を問われた。
……そうだな。よし、丁度今学んだヤツを披露してあげようか。試運転ついでに。
 




