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5-10. ハードル

さて、無事入城手続も終わり、城門を潜って図書館へと城内を歩いている。


……しかし、図書館か。結構懐かしく感じる。

王城から旅立った直後は毎日のように図書館に通っていたのにな。


ちなみに、最後に来たのは【減法術Ⅰ】(サブトラクション)を習得した時なので、約2週間ぶりだ。

まぁまぁ時間が空いたな。

マースさん、元気でやってるだろうか。






「ここが図書館ですか」

「大きなドアだねー!」

「初めての図書館…………少し緊張するな」


図書館の扉の前に立ち、3人がそれぞれ呟く。

……なんでダンは緊張してんの? 何も緊張する事は無いんだけど。


「あ、あとコース。図書館の中では静かにな。大声出したり、騒いだりしないように」

「(分かりました!)」


僕がそう言うと、ヒソヒソ声で返すコース。


「よし、そんな感じでオッケー」

「(はい先生!)」


今は図書館外だから静かにする必要は無いんだけどね。



「じゃあ、入るか」

「「「はい」」」


そう言って、ドアノブに手を掛ける。


ガチャッ

キィィーー……


ドアをゆっくりと開く。

ドアが軋む音と共に、静かな空間が目の前に広がっていく。


「「「(おぉぉーー…………)」」」



僕からすればもう来慣れた空間だ。流石に感動しないが、彼らからすれば図書館は未知の領域だ。


「(広いですね……)」


天井は高く、横にも奥にも広い空間には無数の本棚が整列している。


「(ホントに静かなんだねー……)」


外の生活音や雑踏の音は完全に遮られ、聞こえてくるのはページをめくる音だけ。王都の中でも一番静かな場所だろう。


「(誰も、居ないのか……?)」


閲覧席には誰も居らず、また何も置かれていない。

いつも通り、今日も閲覧者は誰も居ないようだ。



そして、司書席にはマースさんが座り、作業をしていた。


「あら、数原さん。お久しぶりですね」

「お久しぶりです、マースさん」


マースさんが僕らの入室に気付いたようで、手を止めてこちらに挨拶してくる。


「図書館に来て下さるのは数原さんくらいでしたから、少し寂しかったですよ」

「あぁ、すみません。暫く狩りをやってたもので」

「フフッ、そうでしたね。確か、東門の方で狂科学者マッドサイエンティストをなさっているとか」

「……そ、そうっす」


マジかい。

僕の事がこんなにも広まってんのか。


「(先生、静かにしなくて良いのー?)」


マースさんとの会話が途切れた所で、コースにそう問われた。

……一番騒ぐと思ってたコースにこう言われるなんて、なんだか屈辱だ。


ともあれ、そう言ったのは僕だ。


「(あぁ、済まん済まん。そうだっ————

「いえ、良いですよ。今図書館にはあなた方しかいらっしゃらないので」

「す、すみません……」

「いえいえ。他の方が来られた時には、お静かに願いますね」


勿論ですとも。


「では、どうぞ読書の時間をお楽しみ下さいね」

「はい。ありがとうございます」



さて、じゃあそろそろ読書タイムといきますか。






「さて、君達は魔物の調べ物をしてもらおう。魔物の本がある棚は確か……466、だっけな。棚番号466に『魔物学』の本があるから、適当に気に入ったやつを持って来て読むように」

「「「はい」」」


そうして、彼らは466番の本棚を探しに行った。



「……よし」

あとは放置だ。

今日は調べ学習なのだ。彼らが勝手に調べて、知識をつけてくれるだろう。


って事で僕は僕のやりたい事をやる。リュックから紙とペン、[数学の参考書]を取り出す。


……久し振りに開くな、これ。

改めて表紙を眺める。



[これ一冊で算数から高校数学まで分かる本]



……算数から数学まで、ね。

まさか、数学嫌いだった僕がこうやって自主的に数学の本を読むとは。人生分からないもんですな。


だが、この本のお陰で僕は()()()()()()()()を習得出来たな。【加法術Ⅲ】(アディション)とか、【減法術Ⅰ】(サブトラクション)とか。


そう考えれば、僕からすればこの本は『この世界で生きる為の』参考書なのかもね。



まぁいいや。とりあえず勉強を始めよう。


えーと、前回やった所はー……引き算だ。

って事で今日はその次、『かけ算』からスタートと。






●かけ算


掛け算とは、二つ以上の数字の積をとる計算方法だ。

一つ目の数を二つ目の数だけ用意し、それらを全て足したものが掛け算の答え、つまり積となる。

例えば『5×3』ならば5()3()つ、つまり『5+5+5』と同じ答えになる。


子どもの頃は、掛け算を難しく感じるかもしれない。だけど、単純に言えば『掛け算』とは『足し算の繰り返し』なのだ。

例えば、『ボールを2個持った子が9人居ます。全部でボールは幾つ?』という問題があったとしよう。これを足し算で書けばこうなる。


『2+2+2+2+2+2+2+2+2+2』


……これ書くの面倒だよね。じゃあ、2が9個で『2×9』って書こう!……って感じだ。



参考書には数直線に同じ長さの矢印を幾つか並べたり、数個の丸の組を数グループ描いたりした図で説明されているな。


そしてページの中程には、僕の数学人生で最初のハードルとなったあの忌々しき()が描かれていた。

その名も『九九』。僕の算数嫌い、ひいては数学嫌いを発現させた全ての元凶。

81個の呪文は、覚えるのが苦手だった小2の僕の脳に軽いトラウマを残していった。


あれを覚えるのには途轍もなく苦労した。いや、苦労()()()()

未だに七の段は正答率が半分程なのだ。

まぁ、そんなんでよく高校に入れたなって自分でも思っているよ。


あぁ、あと掛け算の記号についても書かれているな。

掛け算として習う記号は『×(クロス)』がポピュラーだが、その後気付いた時には『(ドット)』を使っている事が無いだろうか。

先生は『わざわざ×(クロス)を書くのが面倒だから、簡単な(ドット)にします』っていう説明をして教える事があるだろう。

まぁ、実際どっちを使っても違いは無いし、どちらも正しい。()2()()()()

高2の『ベクトル』という項目からは×(クロス)(ドット)で意味が変わるが、それまで両者に違いは無いのでご安心下さい。って書いてあった。


そして、説明の下側には筆算の方法が描いてあった。

足し算・引き算と同じ形だが、2段目が左下に向かってどんどん数字が増えていくヤツだ。



……しかしやっぱり、[数学の参考書]を読んでると全く眠くならないな。

普段、これだけ本を読めばもう既にベッドダイブの域なんだが。

なんでだろうか。数学者だから? それとも重要物(キーアイテム)だから? それとも偶然か?



まぁいいや。

って事でページ下側のA問題に挑戦。

A問題は九九と同じく、一桁×一桁の掛け算の問題だ。


(1)は『7×3』だ。

ゲッ、よりによって一番最初から七の段かよ。


……と、とりあえず右手でペンを持ち、左手で(1)に指を当てて書き写すと。


キタキタ、いつもの()()。指から魔力が吸い取られるような感触だ。


もう慣れたものだな。

流れに逆らわず、指から魔力を流す。


それと同時、頭の中にイメージが浮かび上がる。

白背景に、黒文字で『21』。


そしてその瞬間、目の前に横長のウィンドウが現れた。



===========

アクティブスキル【乗法術Ⅰ】(マルチプリケーション)を習得しました

===========



よしよし、思った通りだ。

取れると分かっちゃいても、やっぱりスキルを習得する瞬間って嬉しいよね。


さて、少し上機嫌になりつつも紙にA問題の(1)の答え、『21』を書く。


さて、(2)に進もう。(2)は『9×4』だ。

流石にこのくらいならパッと答えられるが、折角習得したスキルだ。早速使ってみますか。


【乗法術Ⅰ】(マルチプリケーション)


そして頭の中に浮かぶ白いイメージ。

黒字で浮かび上がるのは『36』。

よし、オッケーだ。合ってる。


そんな感じで【乗法術Ⅰ】(マルチプリケーション)を使いつつ、A問題とB問題をハイスピードで解いていった。

B問題は二桁×一桁の問題だったが、【乗法術Ⅰ】(マルチプリケーション)は問題なく使えたな。



まぁ、加法・減法と続けば乗法もあるだろうな、というのは薄々感づいてはいた。

というと、残った一つもあるんかね……?

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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