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5-9. 調べ学習

王都南門の襲撃があった日、それと宿(精霊の算盤亭)のオバちゃんの過去を聞いた日の翌日。


更に強くなると意志を固めた僕は、シン、コース、ダンが朝食を摂り終えてから集合をかけた。

その目的は第2回講義。

既にやる事は決めてある。

……まぁ、昨日やろうって思ってた事を今日に回しただけなんだけどね。


ちなみに、僕がやる講義は『僕がやりたい事』『彼らにやらせたい事』を思いつくままにやっていくだけだ。

なのでカリキュラムとかシラバスとかいうものは存在しない。

こう言うのもなんだが、僕自身こそがカリキュラムやシラバスなのである。



コンコンコン


「先生、学生3人揃いました」



そんな事を考えている間に、学生達がやって来た。

ドアの奥から聞こえてくるのはシンの声だ。


「はーい、どうぞー」

「失礼します」


相変わらずシンは真面目だね。

誰に対しても礼儀を欠かさない、いい心がけだ。


「先生、何でしょうか?」

「もしかして講義やるのー?」

「先生の講義は素晴らしかったからな。楽しみだ」


3人は部屋に入るとそう話し始める。

ほぅ、一昨日やった初講義は思いの外評判が良かったようだな。

良かった良かった。



という訳で、そろそろ本題に戻ろう。


「今日皆に集まってもらった目的はコースとダンが言った通り、講義だ。楽しみにしていてくれて嬉しいよ」


そう話すと、彼らの顔が真剣になる。


「第2回講義は、調()()()()だ」

「「「調べ学習……?」」」

「そう、調べ学習。今日は狩りをせず、王城の図書館に行って調べ物をしよう」

「前みたいに実地じゃねえのか?」

「あぁ、実地じゃない。『生き抜く』為には、()()が全てじゃない。身体を動かせば良いってもんじゃない。頭、つまり()()ってモンも必要だぞ」


そうだ。今回の講義のテーマは『知識』だ。

僕がそれに決めた理由は彼らの『知識の無さ』。




昨日の敵襲時の魔法斉射直前、外壁上でコースと僕が2人で話していた時、コースはこう話していた。


()()()()()()()()()()()……やれるかな?』


コースは、南の森ではメジャーだといわれるウッドディアーを『見た事のない魔物』と言った。

また、彼らは昔からいつも3人で居た。


つまり、コースをはじめシンもダンもウッドディアーを見た事が無かったはずだ。




「知識は、場合によっては強さより力になり得るんだ。例えば、昨日の敵襲、シンとダンは初めての相手だっただろう?」

「……はい、実は」

「あぁ、そうだ」

「昨日は2人とも初見の相手に対して良くやってたな。僕も外壁の上で感心してたよ」


そう言うとシンは少し照れ、ダンは腕を組んで胸を張る。


「だけど、もしウッドディアーが見た目に反して激強だったらどうなっていた? 例えば、剣が通らない毛皮だったら。衝撃に耐性があったりしたら」

「もしそうだったら……私は手も足も出ませんね」

「俺も、ただ防戦一方になっちまうな」


2人が少し苦い顔をする。

頭の中で自分が詰んでしまう所の想像でもしたんだろう。


「そうだ。そんな魔物、相手にしちゃいけない。逃げるしかないんだよ。魔物が自分の力で倒せるのか倒せないのか、それを見分けられる『知識』は必要だろう、ダン?」

「そ、そうだな……」

「それに、知識は幾らあっても困りはしないだろ? 『南は行かないから知らなくても良い』とか言ってると、昨日みたいな万一の時に対応ができなくなる」


ダンだけでなく、シンもコースも大きく頷く。

よし、知識の重要さを分かってもらえたようだ。


「こういう情報って、普通なら先生役の僕が教えるべきなんだろう。だけど、皆も知ってる通り僕は日本人なので、魔物の知識は余り有りません。って事で、皆で王城図書館に行って調べよう! ってのが今日の流れだ。いいかな?」

「「「はい!」」」


よしよし、いい返事だ。

……実は僕は魔物図鑑を読みまくった魔物博士であるのだが、それは適当に誤魔化しておく。



という事で、今日は王城図書館に行くことに決まった。


「じゃあ、各自用意を済ませたら1階のロビーに集合で。解散!」


そう言うと、学生達は準備をしにそれぞれの部屋へと戻って行った。






……さて、実の話をしよう。


僕からすれば、図書館に行くのが『講義』の為だってのは建前だ。


本音は、単に僕が図書館に行きたいからだ。

図書館で[数学の参考書]を読み、何か【演算魔法】のヒントを得られないか探そうと考えている。


わざわざ図書館行かなくてもいいじゃん、とも思うんだが…………冒険者になる前に図書館通いをしていたからだろうか、『本を読むなら図書館で』っていうマイルールが僕の中で出来てしまっていた。

その為か、宿の自室で読んでも直ぐに眠くなってしまう。ベッドダイブ直行なのだ。



って事で、久し振りに図書館に行って、【演算魔法】のヒントを得てこよう!


さて、僕も出発の準備準備、っと。

白のロングコートを羽織り、机上から勉強セット(紙、ペン、[参考書])と入城許可証を持ってリュックに仕舞う。


あぁ、武装は解除しておこう。ナイフは机上に置いて行く。


リュックを背負って、よし。準備完了。

部屋から出てドアの鍵を掛け、1階のロビーに向かおう。






精霊の算盤亭から歩いて10分。

僕らは城門前の噴水広場に到着していた。

僕からすれば、城もこの広場も見慣れた光景。

久し振りだな、という感じなのだが————


「……ティマクス城、初めてこんな近くで見ました」

「すっごーい! こんなに大きいんだね!」

「遠くで見るのとは全く違う印象だな」


学生の3人は凄く感動していた。

アレだな。この盛り上がりって日本の修学旅行みたいな感じだよな。


「さて、そろそろ王城に入るぞ」


ある程度感動タイムを与えてやった所で、僕はさっさと今日の講義会場へと向かう。

続きは今度にしてくれ。早くしないと置いてくぞー。


「あ、先生! 待ってくださーい!」


まぁ、僕が居ないと君達は王城に入れないからな。

本当に置いて行ったりはしないから安心してくれ。






「衛兵さん、どうも。お久しぶりです」

「あ、あぁ。久し振りだな。最近顔を見ないから、少し心配したぞ」


そう軽く話しつつ、前にやっていた通りステータスプレートと入城許可証の提示を行う。

もはや顔パスだ。衛兵さんも軽く目を通すだけだし。


「所で、後ろの子ども達はどうしたんだ?」



……あっ、ヤバい。

僕は入城許可証が有るので城にはフリーパスで入れるが、彼らはそんなモノ持っていない。


あぁ、クソッ! しまった!

僕が普通に王城図書館に入れていたせいで、彼らも王城図書館に入れるものだと思ってた。


まず城に入れなければ本末転倒じゃないか。



「え、えーと……この3人は僕の連れなんですけど、一緒に図書館に入れますかね……?」

「あぁ、そうだったのか。図書館の閲覧希望は、王国の住民であれば申請すれば可能だ。許可までに3日程掛かるが」

「……成程。3日かー……」


あー、マジか。

今日申請しても、図書館に入れるのは明々後日……。

下調べしておくべきだったか。やっぱり思い付きは危険だな。


「だが、入城許可証を持つ者の『連れ』であれば、ステータスプレートの提示だけで一緒に入れるぞ」



……え!?


「マジっすか!?」

「あ、あぁ。入城許可証は、国王マーガン・ティマクス様が認められた者にしか発行なさらない。つまり、許可証を持つ者は国王様が信用・信頼する人物であるという事。連れを入場させるくらいなら、その信頼に免じて許されるぞ」


おぉ……

それはとても助かるよ……。


「あ、ありがとうございます!」

「おぅ、でもそれは俺じゃなくて国王様に言わないとな」

「確かに」


そう安堵し、僕の頭の中で国王様株を上昇させていると、後ろからコースの声が聞こえた。


「先生ー、どうしたのー?」

「あ……あぁ、何でもない。君達の入城手続をしていた所だよ。シン、コース、ダン、ステータスプレートを衛兵さんに提示してくれ」

「「「はい!」」」


衛兵さんは、僕のホントともウソとも言えない誤魔化しに苦笑しつつ、3人のステータスプレートを確認していた。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
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現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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