5-7. 戦士
「門番、開門! 戦士部隊、出撃! 無理をせず、確実に各個撃破!」
「「「「「オオォォォーーー!!!」」」」」
シンとダン達、戦士部隊の戦闘が始まった。
さぁ、2人とも怪我なく頑張ってくれよ。
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南門が開き、僕らの出番が始まりました。
門番兵長のモードさん曰く、1万だった敵は外壁上の魔術師達のお陰で1000程まで減ったようです。
コース、お疲れ様です。
でも、それって……もう殆ど倒し切ってしまったようなものですよね。どうせなら魔法部隊が全部倒し切っちゃっても良いと思ったのですが。
周りの戦士さん達に混じって王都南門を潜り抜けます。
やっぱり周りは大人が多いですね。
私とダンはまだ14歳なので少し浮いてないか不安です。まぁ、ダンは大人並の体格なので大丈夫でしょうけど。
あぁ、そういえば、王都の南門を抜けるのは今日が初めてですね。
王都に来てからもう2ヶ月が経っていますが、ずっと王都の東側でコース、ダンと狩りをしていました。
なのでディグラットやプレーリーチキン、それとカーキウルフしか狩った経験はありません。
ウッドディアー、でしたっけ? ちゃんと狩れるか少し心配ですね。
門を抜けると、周囲の冒険者さん達が続々とウッドディアーに向かって掛けていきます。
ウッドディアーは見た目普通の鹿ですね。ただ、角が沢山枝分かれしており、まるで頭から2本の大木が生えているかのようです。
あれ重くないんですかね。ウッドディアー、絶対肩凝り持ちですよね……
おっと、そんな事は置いておきましょう。
私も仕事を果たさねば。
門から少し走り、一頭で居るウッドディアーを狙います。
複数を相手にするのは、僕にはまだ荷が重いですからね。
一昨日と昨日に受けた、数原先生の『講義』では非常にタメになるアドバイスを頂きました。
先生から教えて頂いたのは『首を狙えば毛皮が傷つかない』というもの。多分、先生は私達の財布事情を鑑みて買取金額を上げる為に教えてくれたと思うのですが、私からすれば『急所を狙う』事の重要さを改めて教えて頂きました。
ラットもチキンも身体が小さいので、どこでも斬りさえすれば倒せる、と考えていました。しかし、いずれ倒す魔物が強くなっていけば、その考え方のままではいずれ詰んでいたでしょう。
よし、腰から長剣を抜き、中段の構えでウッドディアーの前に立ちます。
私も戦士部隊の一員。仕事を果たさねばコースやダン、先生に顔を上げられません。
ディアーが私に気付いたようで、お互い正対します。
「うっ……」
大木のような角の大きさにプレッシャーを感じ、無意識に足が少し後ずさりします。
大丈夫だ、落ち着け、落ち着け……。
狙いは首元。
先程、先生が掛けて下さったATKとDEFの【加法術Ⅲ】もあります。
それに、万一の事があっても外壁にはコースが居ます。【水線Ⅲ】でなんとかしてくれるでしょう。
怪我はしても、死ぬ事は無い。
————よし、行きましょう!
「ウオォォォ!」
中段を崩さず、ディアーに向かって真っ直ぐ駆けます。
ディアーも角を前に向け、私に向かって一直線に突進して来ます。
私の長剣とディアーが触れる直前。
剣の切っ先を下げ、左角の太い枝の下に剣の腹を滑らせます。
そのまま剣の腹で角を弾き上げ、腰を下げます。
ディアーは角を剣で弾き上げられ、右上を向いたまま突進の勢いで駆け抜けます。
その隙に私は左角の下を潜り抜け、ディアーとすれ違います。横目で左に見えるのはディアーの左腹。
すぐさま足を踏み込んでスイッチバック、振り返って駆け抜けるディアーの左首元を視界に捉えます。
「【強斬Ⅴ】ッ!」
そのまま長剣を首元へと振ります。
スキルを使用し、振るスピード・強さ共に増した長剣の刃はディアーの左首元に接触。
そのまま、吸い込まれるかのようにディアーの首を斬り進み————右首元から刃が出て来ました。
その瞬間、噴き出る鮮血、それと地に落ちて転がるディアーの頭部。
————よし、やりました!
∠∠∠∠∠∠∠∠∠∠
南門が開かれる。
モードの話によれば、コース達の魔術師組がだいぶ頑張ってくれたようだ。
先生も俺とシンに【加法術Ⅲ】を掛けてくれた。
先生とコースが頑張ったんだ。
俺らも負けられねえ。戦士組の力、見せてやろうじゃねえか!
門を抜ければ、そこに居るのは大量のウッドディアーの死体。
体に風穴が開いた死体や、焼死体、巨岩に潰された肉片もある。
なんだ、殆ど魔法組が倒しちまってるじゃねえか。
最後までやっちまえばいいとも思ったんだが、ここまで頭数が減ってマバラになりゃ、魔法で倒すのも効率が悪い。
やっぱりここからは各個撃破の俺たちの方が向いてるんだよな。
さて、やるか。
近くのディアーはあらかた他の戦士達に取られちまった。
少し遠くの奴を狙うか————
「うわああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ん、何だ!?
悲鳴の聞こえた方を向く。
すると、そこには俺より少し若いくらいの子ども戦士が腰をついていた。
そいつの右手からは棍棒が離れ落ち、目を見開いて全身でガクガク震えてやがる。
そして、そいつの少し先には角を下げて突進をし始めたウッドディアー。
「クソッ、腰が抜けたか!」
アレはヤバい! あのままだと————!
無意識に足がそっちへと動き出す。
気付いたら俺は背負った大盾を右手で掴み、全速力で駆けていた。
ウッドディアーも突進を始め、トップスピードに乗りつつある。
————よし、これならギリ間に合う!
腰抜けの前に滑り込み、腰を下ろして盾を構える。
左足を引き、右手で盾を斜め上向きに支える。
「……え!?」
腰抜けがそう間の抜けた声を上げた直後、ディアーの角と盾が接触。
「【硬叩Ⅲ】!」
その瞬間、盾を上向きに叩き上げる。
ディアーは角を上に弾き上げられ、その衝撃と突進の勢いで俺らの頭上を飛ぶ。
俺が上を見れば、そこにはウッドディアーの首から腹までが無防備に晒されている。
よし、ここしか無え。チャンスだ!
そこで俺は左手で腰から小型ナイフを抜く。
見上げれば頭上には丁度ディアーの首元。
相手の急所だ。
俺は右手で盾を退け、左手でナイフを首元に向かって真っ直ぐ突き付ける。
「ぅらああぁぁぁ!!」
ナイフは切っ先が首に触れ、そのままブスリと入っていく。
小型ナイフの刃が全部入った所で俺の手からナイフが抜け、ディアーが突進の勢いのまま俺らの頭上を通過して行った。
その直後、ディアーは俺らの背後で大きな音と共に豪快にヘッドスライディングで墜落した。
俺のナイフが首の神経まで届いたのだろうか、その後ディアーが起き上がる事は無かった。
「おぃ、大丈夫か?」
「あ、ありがとう、ございます……」
「腰が抜けたんだろ? ダメなら無理無謀はするな。俺らが助けてやる」
「……分かりました。一緒に着いてって良いですか?」
「あぁ」
∀∀∀∀∀∀∀∀∀∀
「シンもダンも、ちゃんと頑張ってんな」
「えー、どこどこー?」
よしよし、僕の学生達は皆ちゃんと成長しているようだ。
 




