表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
540/548

24-10. 嘴

「みっ……」

「ミミズク……ですか?」



私とクーゴと2人して、肩透かしを喰らったようでした。

不穏な声、魔王軍や青鬼の襲撃かと振り返れば……そこに居たのは1羽のミミズク。

本来ならば可愛さすら覚えるハズの存在だったのですから。


――――しかし、奴は違う。

そんな見た目とは程遠く、怖い。というか不気味でした。




「しねよ」

「「……」」

「しねよ」

「「…………っ」」



たじろぐ私とクーゴ。


置物のようにピクリとも動かない身体を包む、黒と焦茶の羽。

たっぷり籠った怨念の炎のような、橙色に輝く瞳。

しかめ面に拍車を掛ける、逆ハの字形に伸びた羽角。

黒く鉤形にとがった嘴だけが唯一パクパクと動き、不吉な単語を呟くんです。


まるで呪いのように何度も何度も。それも棒読みで。

恐怖を感じないワケがありません。




「なっ……何者なんですか、貴方は」

「しねよ」

「答えてください」

「やだ」

「誰なんですか」

「やだ」

「答えてください!」

「やだ」


恐怖をおして尋ねてみたものの、『やだ』の一点張り。

無駄な努力でした。



「……黙秘」

「みたいですね……」


不気味な姿に、不気味な呟きに。誰なのかも、どこから来たのかも分からない。

一層の不安感が私とクーゴを(さいな)みます。




「おい。おまえら」

「……何ですか」

「しねよ」

「嫌です」

「しねよ」

「嫌です」

「しねよ」

「死にません」


今度はすかさず反撃に出るミミズク。どうやら私達の怒りや動揺を誘うつもりのようです。

……が、歯には歯を。私も淡々と切り返します。



「おい」

「何ですか」

「きけよ」

「嫌です」

「は?」

「質問に答えてくれない奴の話なんて聞きません」

「しねよ」

「嫌です」

「めざわり」

「嫌です」

「じゃま」

「嫌です」

「きえろよ」

「嫌です」

「しねよ」

「だったら教えてください。誰なんですか」

「やだ」

「答えてください」

「やだ」

「答えなさい」

「やだ」

「答えなさい!」

「じゃあしねよ」

「嫌です!」

「きえろよ」

「嫌です!」

「きえろよ」

「嫌です!」



灯台の頂上と展望回廊を往復する、まるで生産性の無いやり取り。

……ですが、今までのやり取りで1つ分かった事があります。


邪魔だの目障りだの死ね消えろだの。

正体不明・喋るミミズクの魔物、少なくとも奴は私達に相応の敵意を持っている。




魔王軍かどうかはこの際構いません。

こんな奴を、フーリエに放っておく訳にはいかない。



「……クーゴ。準備は」

「万端」


ミミズクの魔物、奴は今ココで私達が――――











――――そう私が悟ったのを、奴には見抜かれたのかもしれません。

今までピクリともしなかったミミズクも、ついに動きを見せました。






「……おまえら」

バサッ!!



両翼を開く。

首を前に出して前傾。

羽ばたく瞬間の構え。


身体を何倍にも大きく見せる、威嚇のポーズ。



「しねよ」

「「……っ」」


そして一層の恨みを籠めた言霊。

いつでも飛び立てる体勢。


……奴の敵意が剥き出しになった瞬間でした。




「クーゴ!」

「分かっている!!」


抜刀。長剣の先を天辺のミミズクに合わせます。

クーゴもピンと耳を立たせ、四つ脚を開き狩人の構えに。




「手加減はしません! 少しでも動けばこの長剣で――――

「しるか」


私の警告をも無視するミミズク。

橙色に輝く猛禽の眼をカッと見開き――――翼をはためかせました。




「しねよ」

「……嫌です!」


私の顔面めがけて突進するミミズク。

まるで砲丸か弾丸のように……それでいて無音。


瞬く間に距離が詰まります。




「しねよ」

「嫌ですッ!!!」


猛禽の鋭い両脚を向ける。防御を捨てた特攻。

私の顔面をガシと掴む気のようです。






――――しかし、私もそんな甘くありません。




「……警告はしましたからね」




かたや鳥類の脚、かたや長剣。

リーチの差は暴力的なほどでした。



迫るミミズクに合わせていた剣先を、右上に軽く振り上げ。

そのまま、力強く左下へ振り下ろし。



【強斬Ⅹ】(ストロング・ブレード)!!」

「ぶぎゃ」




叩き落とすかのような袈裟斬り。

ミミズクを真っ二つに斬り伏せました。
















何だったんでしょうか。

あまりにもあっさり終わってしまいました。




「「……」」



白亜の灯台、その展望回廊に撒き散った真っ赤な血痕。

2つに斬り分けられた残骸。

長剣から滴り落ちる鮮血。

光りを失った暗褐色の瞳。

それを黙って見つめる私とクーゴ。


……本来なら、とっ捕まえて尋問に掛けるのが得策だったでしょう。

奴は何者で、なぜ私達を襲ったのか。色々聞き出せれば最良でしたが……あの状況、手を抜けば私が怪我を負っていました。

仕方ありません。




「……クーゴ」

「む」


残されたままになってしまった、様々な謎。

クーゴの目を見て問いかけます。



「……何だったんでしょうか。今のは」

「我にも終始不明」


心にモヤモヤが残ります。

……魔王軍の諜報や遣いだったのか。それとも単にフーリエに迷い込んできただけの、野良の魔物だったのか。




まあ、いいです。

敵味方はともかく、殺めたのは他でもない私。せめて供養は手厚くしましょう。

願わくば、この灯台の下で安らかに。
















そんな多少の罪悪感を感じつつも、クーゴから視界を外した時でした。




「無い?!」

「……ッ?!」


ミミズクの残骸が……無い!?

それもスプラッタに飛散した血痕まで、洗い流したかのように……!?



「ウソ、ウソ……なんでッ!?」

「何時の間に!?」



何が起きたのか、全くわからない。

目を丸くして硬直する私とクーゴに――――頭上から声が掛かりました。






「しねよ」






見上げれば、灯台の天辺に例のミミズクが止まっていました。



「しねよ」

「「えっ……?!」」


どうして……奴はさっきブッ倒したハズじゃ?!

一体何が起きて……?!


混乱する頭。一気にショート寸前に到達する脳。

何が起きているのかさっぱり分かりません。




「シン殿! 用心せよ!」

「はっ、はい!」


頭に響くクーゴの声。

欠いていた冷静さを取り戻し、ミミズクに視界を合わせると……丁度、奴が飛び立つ瞬間でした。




「しねよ」

「いっ……嫌ですッ!!」


砲丸のごとく、再び特攻を仕掛けるミミズク。

すかさず長剣を突き出して応戦しました。




【強突Ⅸ】(ストロング・スラスト)ォッ!!!」

「ぐぼぉ」


串刺し。

腹から背中へ、長剣がミミズクを貫きました。


傷口からは鮮血が滴り、展望回廊の床には血の池が。

橙色の瞳は光を失って暗褐色に――――






スッ……

「消えた!?」


串刺しになっていたミミズクが消えました。

足下の血の池もろとも、まさに文字通りのフェード・アウト。




「ばーか」

「ッ!?」


そして見上げれば何故か復活しているミミズク。




「何!? 何が起きてるんですか一体!?」

「分からぬ!!」


私もクーゴも混乱する中、灯台の天辺から飛び立つミミズク。

もう訳が分からないまま、半ば無意識に長剣を振り下ろします。




「奴は倒したハズなのに! 【強斬Ⅹ】(ストロング・ブレード)!!」

「ゔぉべ――――


左右に真っ二つに斬り分けた瞬間には、既にその体はフェードアウト。

次のミミズクが頭上から飛び掛かってきます。




「しねよ」

「ちょっと待ってください! 何、何が……【強斬Ⅹ】(ストロング・ブレード)!!!」

「んごぃ――――


左右に真っ二つに斬り分けた瞬間には、既にその体はフェードアウト。

次のミミズクが頭上から飛び掛かってきます。




「しねよ」

「生き返……いやでもそんな! 【強斬Ⅹ】(ストロング・ブレード)!!」

「ぎぢぁ――――


左右に真っ二つに斬り分けた瞬間には、既にその体はフェードアウト。

次のミミズクが頭上から飛び掛かってきます。




「しねよ」

「何! 何なんですか!! 【強斬Ⅹ】(ストロング・ブレード)!!」

「ぎぢぁ――――


左右に真っ二つに斬り分けた瞬間には、既にその体はフェードアウト。

次のミミズクが頭上から飛び掛かってきます。




「しねよ」

「なんで! なんで!! なんで!!! 【強斬Ⅹ】(ストロング・ブレード)!!!」

「ぎぢぁ――――


左右に真っ二つに斬り分けた瞬間には、既にその体はフェードアウト。

次のミミズクが頭上から飛び掛かってきます。




「しねよ」

「あああぁぁあああああ【強斬Ⅹ】(あああぁぁああああ)!!!」

「ずぐび――――











そうして、ついに私が発狂して頭がおかしくなったとき。






「しねよ」

「……へっ?」



ふと気づくと、灯台の天辺に居たハズのミミズクは。

弱々しく握られた、長剣の上に止まっていました。




「ふんっ」

「なっ……何を」


止まっていた長剣を、両脚で強く握るミミズク。




バッキィィィン!!!

「う、そ……」


刀身が粉砕。

鍔と柄を残して、跡形もなく消滅。




「そっ……そん、な……」


追いつかない脳の処理。

もはや得物を失ったことへの反応すらも出来ません。






「とどめ」

「…………っ」


そして、無音の羽ばたきと共に私の顔面に接近するミミズク。

私の眼球が最後に捉えたのは……パックリと開いたミミズクの嘴と、その中に広がる深淵でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ