5-5. 激突
物凄い勢いで王都へと迫る1万のウッドディアー。
その群勢が接近し————
————その時が来た。
「撃てーーーーっ!!!」
「【加法術Ⅲ】・INT30!」
「【火線Ⅷ】!」
「【風弾Ⅳ】!」
「【礫岩射Ⅱ】!」
「【光線Ⅵ】!」
「【氷放射Ⅹ】!」
「【暴風射Ⅰ】!」
「【炎射Ⅴ】!」
「【土線Ⅶ】!」
「【光射Ⅸ】!」
「【水線Ⅲ】!」
モードさんの掛け声の直後、外壁の目の前まで迫った魔物の群勢に魔法の嵐が襲いかかる。
真っ赤に燃え上がるレーザー。
景色を歪ませながら飛ぶ空気の弾。
散弾のように撒き散らされる大量の岩。
魔物へと一直線に向かう白い光の筋。
空気中の水分をも凍らせながら進む極寒の帯。
内部に凄まじい竜巻を閉じ込めた透明な球。
火を噴きつつ扇状に広がる赤い錐。
鉄を思わせる硬質な外見をした土のワイヤー。
何者をも貫き通さんと直進する眩い光の線。
そして、僕の横から飛び出す水のレーザー。
それらが今、魔物の群勢へと————
激突した。
腹の底を揺さぶるような途轍もない轟音が僕らの耳に魔法の直撃を伝える。
それと同時、魔法斉射の威力を立ち込める土煙が示す。
コロコロと飛散物が落下する音と共に、魔物の呻き声が混ざる。
魔法斉射の結果を見んと、土煙が晴れるのを黙って待つ魔術師。
「やった?」
その沈黙の中、コースが呟く。
周囲の魔術師の皆さんがコースの方を向く。
……まさかのフラグ爆立ちである。
「コース、そういうのは絶対に言っちゃいけないぞ」
「えー、なんで?」
「フラグだから」
この世界にフラグっていう概念があるか分からないけど。
「分かったー、先生」
そう言うコース。
でもね、君の顔には『ナニソレ?』って書いてあるよ。
適当に返事しただろ。絶対に分かってない————
「あ、あれ見て!」
そんな事を考えていると、ある魔術師が群勢のいた所を指差してそう叫ぶ。
皆がそこを見ると、まさに土煙が晴れる所だった。
そこにあった物は、燃えた大地、凍った草、数々のクレーター。
そして…………まぁまぁな数の魔物が倒れていた。
「【探知魔法】の結果、報告します! 只今の魔法斉射による討伐数、2000! 敵の残り約8000です!」
討伐数2000。
初老の門番が予想した数の下限じゃないか。
決して悪くない出来だが、良いとも言えない。
斉射の結果は微妙だった。
コースの先程の発言はフラグ回収してしまったのか?
それとも折れた上でこの結果なのか?
……まぁいいや。
どうやら見た所、斉射で倒したのは群勢の前面だけであり、それより後ろは攻撃を免れたようだ。
「魔法部隊、攻撃を続けてくれ! 支援部隊はMPポーションの配布を頼む!」
モードさんの指示が飛ぶ。
それと同時、意外と倒せていない現状を見て思考を止めていた魔術師達がハッと我に帰り、魔法が再び飛び始めた。
支援部隊も、沢山のMPポーションを持って階段を上がり始めた。
よし、僕らもやるか。
リュックからMPポーションを取り出しつつ、コースに話しかける。
「コース、まだまだ行けるかい?」
「うん! 全然余裕だよ、先生!」
「よし、じゃあ僕は相手の弱体化を進めていくから、どんどん撃破を続けてくれ! ……ゴクッ、ゴクッ」
「はい! よっしゃ、行っくよー!」
よし、MPの補充完了。
魔法斉射の直前にコースに【加法術Ⅲ】・INT30を掛けていたからな。
しかしやっぱり、【加法術Ⅲ】のMP消費量が馬鹿にならない。30加算するのにMP30使うとか、なかなかハードだ。
さて、それは良いとしてデバフを行っていこう。
「【解析】、【減法術Ⅰ】・MND10! 【解析】、【減法術Ⅰ】・MND10! 【解析】、【減法術Ⅰ】・MND10! …………ゴクッ、ゴクッ」
「【水線Ⅲ】!」
僕がデバフを掛けた魔物をコースの【水線Ⅲ】が一度に貫く。
うん、さすがバフとデバフを両方使ってるだけの事はある。アッサリだ。
でもやっぱりMPの消費が洒落ならんなー……。
なんとか消費量減らすなり、MP上限を上げるなり出来ないだろうか。
今のMPポーション依存のジリ貧状態はなんとか脱したいが。
「あら、貴女の【水線Ⅲ】、中々の威力ね! レーザー自体はその細さなのに、3体も貫通するなんて」
「ありがとうございます! 先生のお陰なんです!」
MPポーションを飲みながらコースの倒した3体の死体を見ていると、どうやらコースが例の魔術師のお姉さんに話し掛けられているようだ。
「先生、ね……その白衣のお方が?」
「そうなんです!」
そう言って僕に抱きついてくるコース。
え、今MPポーション飲んでる所なん————
「ゴグッ……ゴボッ、ゴフッ、ゲフッ」
おい!
危うくMPポーションで溺れる所だったじゃないか!
「おぅ、褒められて嬉しいのは分かるけど僕を溺死させるのは止めてくれ、コース」
「先生ごめんなさいっ」
「まぁ、次から気を付けような」
「貴方がこの子の先生なのね。あのレーザーの細さであの威力、もし良かったら私にそのタネをご教授頂きたいのだけれど?」
「えーと…………」
えー、見知らぬ他人に【演算魔法】を教えるの嫌だな。色々面倒になりそ————
『こういう切羽詰まった状況なら誰とでも協力しなきゃならないってのが分かるようになるさ』
ふと、初老の門番の言葉が頭に蘇る。
あぁ、そうだった。
今は交戦中、隠しておきたいとか言っている場合じゃ無いな。
「……僕のバフ魔法ですね。僕は系統魔法を使えない分、こうやって貢献しようと思いまして。もし良かったら、お掛けしましょうか?」
「あら、そうなのね。それは助かるわぁ! じゃあ、よろしくお願いしようかしら」
「分かりました。では……【解析】」
ピッ
「あら、勝手に私のステータスプレートが……」
「あぁ、すみません。僕が出させてもらいました」
「そうだったのね。……えーと、お願いした私が言うのもなんだけど、他人のステータスプレートを見る時には一声掛けると良いわよ?」
「あ、これは失礼しましたっ!」
「いえ、私なら大丈夫よ。さ、続けて頂戴」
そうか、確かにプライベートな内容だもんな。
そういうマナーがあるんだろう。
他人に【解析】を掛ける時には、次から気を付けよう。
そういえば、最近は【加法術Ⅲ】や【減法術Ⅰ】のステータス加減算もだいぶ慣れてきた。なので【解析】でステータスを見なくとも『ATKに+30』と思い浮かべるだけで出来るようになってきたんだよね。
しかし、【解析】が不要でもつい癖で使ってしまうんだよなー……。
まぁ、それは置いといて。
さて、お姉さんのステータスプレートは…




