表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
537/548

24-8. 四撃Ⅱ

キシシシシシシシッ!!

「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」


薄黄色の砂漠の中、王者といわんばかりの風格で居座るデザート・スコーピオン。

今日の獲物みっけと興奮するヤツに3人が迫る。



「コース、ダン! 奴は左右の鋏脚(ハサミ)と尻尾を落とせば無力です!」

「なら尻尾は俺に任せとけ!」

「んじゃ私は左の鋏脚(ハサミ)!」

「では残った右鋏脚(ハサミ)を頂きます!」


分担が決まり散開。

ダンがスコーピオンの正面に突進。

シンとチェバ◦コースは左右に分かれる。


長剣、鉤爪、大盾、それぞれの武器を手に構える。






キシシッ!!

「おっ、まずは俺からだな!」


スコーピオンが啼く。

と同時、太い尻尾がくねくねと臨戦態勢に入る。



「くうっ……動きが読めねえ」


立ち止まるダン。大盾を尻尾に向けて構える。


幾つもの関節を備えた尻尾。しなるように上下左右を繰り返す。

まるでダンのどこに毒針を突き刺すか選ぶように。



「何より毒針だけは防いで――――

キシッ!!


先を取ったのはスコーピオン。


独り言を呟くダンの頭上めがけて尻尾を伸ばす。

ミサイルのごとく空を駆ける毒針。




【硬壁Ⅹ】(ハード・シールド)ッ!!」

カキンッ!!!



衝突。

火花が上がり、毒液が散る。




キシシシッ!!!

「ぐぅっ……さっすが強えな」



大盾と毒針が拮抗。


グリグリと毒針を突き立てるスコーピオン。

筋肉の塊ともいえる尻尾、その全力がダンの大盾一点に集中する。



「……力尽くってか」


対するダン、毒針尻尾の強烈な圧力を一身に受ける。

足下が数センチ沈む。

大盾が苦しげに火花を飛ばす。




――――しかし。

こんなところでダンが押し負けるハズがない。




「……あらよッ!」


ふぅっと息を吐くと。

()しかかる尻尾を押し飛ばすように、大盾をひっくり返した。



「ふんッ!!!」

キシッ!?


投げ飛ばされる毒針尻尾。

ダンから狙いが逸れるばかりか、力尽くが仇となった尻尾はそのまま砂漠に突き刺さる。


毒針はもとより、関節の2つ3つまでもが砂に埋もれた。




キシッ!?

「……無防備だな」


すかさずダン、鐘撞き棒のように大盾を掲げ――――




―――― 一撃。



「おらァ!!!」


尻尾、その関節部に大盾を突き込んだ!!






ぐねりッ!!

ブチブチブチッ!!!



膝カックンはおろか、捻挫のようにポッキリ折れ曲がる尻尾。

外殻越しに響く断裂音。何が起きたかは考えるまでもない。




ギイイイイイィッ!?

「ハハハ! 良い音だぞ!」



激痛を堪えて尻尾を引き抜くスコーピオン。

砂漠から毒針が露わになるも、先端は既にプランプラン状態。

もはや使い物にならなかった。











「うおお! ダンかっこいいじゃん!」

「一丁あがりだぞ!」

「んじゃ、私もカッコイイところ見せちゃうよ!」


続いてチェバ◦コース。

左の鋏脚(ハサミ)を潰しにかかる。



キシシシシシシシッ!!!!

「怒ってる怒ってるー!」


尻尾をへし折られて血眼のスコーピオン。

人の1人や2人は容易く挟み切れる、巨大な鋏脚(ハサミ)を伸ばす。




バチンッ!!

「うお!」


力強く閉じる鋏脚(ハサミ)

慌ててバックステップで回避。



バチンッ!!

「あぶな!」


立て続けの追撃、サイドステップで躱す。

切っ先がフサフサの尻尾をを掠める。


見ている側からすればヒヤヒヤの連続。

……だが、そこは狼魔獣人と化したチェバ◦コース。フォレストウルフの脚力と視力を得た彼女は、段違いに強さを増していた。




「今ので見えてきた。もー喰らわないもんね!」

キシ…………ッ!


チェバ◦コースの宣言に、歯ぎしりのごとく顔をゆがめるスコーピオン。

更に執拗な鋏脚(ハサミ)の連撃を繰り出した。




バチンッ!!

「ほいっと!」

バチンッ!!

「よぃしょ!」

バチンッ!!

「コッチだよ!!」


縦横無尽。

悠々と飛び回り駆け回るチェバ◦コース、一寸たりとも触れさせやしない。



バチンッ!!

バチンッ!!

バチンッ!!

「……いいねいいねー! 身体あったまってきた!」


そして、ウォーミングアップとばかりに鋏脚(ハサミ)の嵐にも満足した彼女は。




「そんじゃー今日は……新しいサイキョーわざ・その2! やっちゃうよ!」


鋏脚(ハサミ)の見せた僅かな隙に。



「すぅー…………」


スコーピオンを視界に収めて仁王立ち。

深く息を吸い込み。

握った両拳を腰に構え。


真っ青な空へと狼の雄叫びを上げた。






「ウオオ オ オ オ オ オ オ オオォォン!」

キッ……!?


大太鼓のように腹の底から轟く雄叫び。

スコーピオンもビビッて委縮したのか体がこわばる。



しかし、それは飽くまで副作用。

本来の目的は、足し合わせでも掛け合わせでもなく……チェバの鉤爪とコースの【水系統魔法】を冪き合わせる、『サイキョーわざ』のコールだった。




「……スコーピオンの外殻、ほんっと硬いんだよね」


握った両手を開く。

掌の中心、そこからしぶきを上げて水が湧き出す。




「普通じゃ関節狙わなきゃ倒せないんだけど……」


溢れんばかりの水は、意思を持ったように掌の上を渦巻き。

指先から伸びる鉤爪へと、絡みつくように覆うと。




「コレなら外殻ごといける!!!」


都合10本、両手に『水の鉤爪』を形成した。






「いっくよー!!」


確信。

ニヤリと笑ったチェバ◦コースが砂を蹴り出す。




一気に距離が詰まる、鋏脚(ハサミ)と鉤爪。


やっと体の硬直から復帰したスコーピオン、応戦しようと鋏脚(ハサミ)を突き出すが……チェバ◦コースの突撃には間に合わず――――






――――二撃。






「ブッタ切る!!!」


水を纏った10本の鉤爪が、鋏脚(ハサミ)を守る外殻に喰らいついた!!!




「うらあアア ア ア ア ア アアアァァ!!!」

キキッギギギイイイイ!!!



スコーピオンが悲鳴をあげる。


あまりの硬さに、鉤爪では傷をつけることすら困難なハズの外殻。

だが今回は、鉤爪を潤わせる水が潤滑剤の役割をなし。


まるでスルスルとファスナーを開くかのように、外殻を難なくカチ割った。




「まだまだアアァ!!」


外殻を突破してしまえば残るは柔らかい内部のみ。

ズブズブと腕までも突っ込むチェバ◦コース。溢れ出る返り血も気にせず鉤爪でザクザクと肉を断ち進め……。




ズウゥゥゥン!!

「おっしゃー! ザマーみろ!!!」

キッ……キシシッ……ッ!!!


ついに腱や筋肉を失った鋏脚(ハサミ)は、その自重さえも支えられなくなり。

動きを止めた。











尻尾、右鋏脚(ハサミ)と立て続けに武器を失ったデザート・スコーピオン。

痛みと苦痛に悶える、その隙をシンは逃さなかった。



「……まさかあの外殻ごと破るとは。お見事です」


チェバ◦コースの戦う様子を見て呟くシン。

うんうんと頷きつつ、長剣を両手に構えると。



「……では私も」


鋏脚(ハサミ)を見据えて叫んだ。




「その鋏脚(ハサミ)も頂きます!!」

キシッ!!?


シンの声に反応するスコーピオン。

どこだどこだと眼をギョロギョロ左右に動かし、必死にシンの姿を捜す。


……が、見当たらない。




それもそのハズだ。




()()ですよ」


シンは今、空中にいるのだから。

鋏脚(ハサミ)めがけ、重力に倣って下降の真っ最中なのだから。



シンが足下を見下ろせば、カタパルトのように自身を投げ上げたダンと大盾。

一仕事終えてヤッホーと手を振るチェバ◦コース。

ジッと戦いを傍観する僕。

驚きを隠せないスコーピオン。


そして、着地点には横たわる右鋏脚(ハサミ)



「外殻……普通の突きや斬撃じゃ、威力不足で弾かれちゃいます」


携えた長剣、その柄に両手を掛け。

剣先を真下に向けると。





「けど……発見しましたよ。私でも突破する方法を!!!」


下向きに加速する身体、その勢いを長剣に込めて――――






――――三撃。






【強突Ⅸ】(ストロング・スラスト)ォォ!」


鋏脚(ハサミ)の外殻に長剣を突き刺した!!!





ズブリッ!!!

「これでどうですか!!!」

ギギギギシシシシヤアアアアアアア!!!



吸い込まれるかのように外殻を突き破る長剣。

鍔元のギリギリまで刃身が差し込まれる。



ビクビクッ!!!

「……やりました!!」


と同時、数度大きくビクリと跳ねる右鋏脚(ハサミ)

神経をザックリと断ち切ったようだった。






左右鋏脚(ハサミ)と尻尾の毒針と自慢の武器を失ったスコーピオン。

砂漠の魔物の頂点に立つ奴も、うちの戦闘職を前にしては敵わなかった。


そんな痛みと苦しみに苛まれるスコーピオンの顔面に、3人が集う。



「トドメだぞ」

「誰が刺しますか?」

「私やる!」

「おう。んじゃ任せた」

「苦しまないようにスパッとしてあげてください」

「りょうかいっ!」



――――そして、四撃。

フーリエ砂漠に1匹の狼魔獣人の遠吠えがこだました。
















「……マジか」


……いやー、凄い。

凄いモノを見てしまった。


まさか、あのデザートスコーピオンを本当にたった四撃で。しかも最後のトドメを除けば実質三撃とか。

恐ろしやだ。恐ろしやだよ本当に。



何より驚いたのは、皆それぞれ新しい技を編み出して戦っていたところだ。

【冪乗術Ⅶ】(パワー)のステータス⁸があるとはいえ……僕が少し足踏みしている間にシンもコースもダンもしっかり成長しているんだ。

実感させられた。




「コレは……マズいな」


マズい。置いてかれる。

このままじゃ。


彼らに負けないくらい、僕も強くならなくちゃ。






頑張ろ。











「……現場からは以上です。計介(本体)

『オッケー。ありがとう計介(合同体)



√√√√√√√√√√

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ