24-8. 四撃Ⅱ
キシシシシシシシッ!!
「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
薄黄色の砂漠の中、王者といわんばかりの風格で居座るデザート・スコーピオン。
今日の獲物みっけと興奮するヤツに3人が迫る。
「コース、ダン! 奴は左右の鋏脚と尻尾を落とせば無力です!」
「なら尻尾は俺に任せとけ!」
「んじゃ私は左の鋏脚!」
「では残った右鋏脚を頂きます!」
分担が決まり散開。
ダンがスコーピオンの正面に突進。
シンとチェバ◦コースは左右に分かれる。
長剣、鉤爪、大盾、それぞれの武器を手に構える。
キシシッ!!
「おっ、まずは俺からだな!」
スコーピオンが啼く。
と同時、太い尻尾がくねくねと臨戦態勢に入る。
「くうっ……動きが読めねえ」
立ち止まるダン。大盾を尻尾に向けて構える。
幾つもの関節を備えた尻尾。しなるように上下左右を繰り返す。
まるでダンのどこに毒針を突き刺すか選ぶように。
「何より毒針だけは防いで――――
キシッ!!
先を取ったのはスコーピオン。
独り言を呟くダンの頭上めがけて尻尾を伸ばす。
ミサイルのごとく空を駆ける毒針。
「【硬壁Ⅹ】ッ!!」
カキンッ!!!
衝突。
火花が上がり、毒液が散る。
キシシシッ!!!
「ぐぅっ……さっすが強えな」
大盾と毒針が拮抗。
グリグリと毒針を突き立てるスコーピオン。
筋肉の塊ともいえる尻尾、その全力がダンの大盾一点に集中する。
「……力尽くってか」
対するダン、毒針尻尾の強烈な圧力を一身に受ける。
足下が数センチ沈む。
大盾が苦しげに火花を飛ばす。
――――しかし。
こんなところでダンが押し負けるハズがない。
「……あらよッ!」
ふぅっと息を吐くと。
圧しかかる尻尾を押し飛ばすように、大盾をひっくり返した。
「ふんッ!!!」
キシッ!?
投げ飛ばされる毒針尻尾。
ダンから狙いが逸れるばかりか、力尽くが仇となった尻尾はそのまま砂漠に突き刺さる。
毒針はもとより、関節の2つ3つまでもが砂に埋もれた。
キシッ!?
「……無防備だな」
すかさずダン、鐘撞き棒のように大盾を掲げ――――
―――― 一撃。
「おらァ!!!」
尻尾、その関節部に大盾を突き込んだ!!
ぐねりッ!!
ブチブチブチッ!!!
膝カックンはおろか、捻挫のようにポッキリ折れ曲がる尻尾。
外殻越しに響く断裂音。何が起きたかは考えるまでもない。
ギイイイイイィッ!?
「ハハハ! 良い音だぞ!」
激痛を堪えて尻尾を引き抜くスコーピオン。
砂漠から毒針が露わになるも、先端は既にプランプラン状態。
もはや使い物にならなかった。
「うおお! ダンかっこいいじゃん!」
「一丁あがりだぞ!」
「んじゃ、私もカッコイイところ見せちゃうよ!」
続いてチェバ◦コース。
左の鋏脚を潰しにかかる。
キシシシシシシシッ!!!!
「怒ってる怒ってるー!」
尻尾をへし折られて血眼のスコーピオン。
人の1人や2人は容易く挟み切れる、巨大な鋏脚を伸ばす。
バチンッ!!
「うお!」
力強く閉じる鋏脚。
慌ててバックステップで回避。
バチンッ!!
「あぶな!」
立て続けの追撃、サイドステップで躱す。
切っ先がフサフサの尻尾をを掠める。
見ている側からすればヒヤヒヤの連続。
……だが、そこは狼魔獣人と化したチェバ◦コース。フォレストウルフの脚力と視力を得た彼女は、段違いに強さを増していた。
「今ので見えてきた。もー喰らわないもんね!」
キシ…………ッ!
チェバ◦コースの宣言に、歯ぎしりのごとく顔をゆがめるスコーピオン。
更に執拗な鋏脚の連撃を繰り出した。
バチンッ!!
「ほいっと!」
バチンッ!!
「よぃしょ!」
バチンッ!!
「コッチだよ!!」
縦横無尽。
悠々と飛び回り駆け回るチェバ◦コース、一寸たりとも触れさせやしない。
バチンッ!!
バチンッ!!
バチンッ!!
「……いいねいいねー! 身体あったまってきた!」
そして、ウォーミングアップとばかりに鋏脚の嵐にも満足した彼女は。
「そんじゃー今日は……新しいサイキョーわざ・その2! やっちゃうよ!」
鋏脚の見せた僅かな隙に。
「すぅー…………」
スコーピオンを視界に収めて仁王立ち。
深く息を吸い込み。
握った両拳を腰に構え。
真っ青な空へと狼の雄叫びを上げた。
「ウオオ オ オ オ オ オ オ オオォォン!」
キッ……!?
大太鼓のように腹の底から轟く雄叫び。
スコーピオンもビビッて委縮したのか体がこわばる。
しかし、それは飽くまで副作用。
本来の目的は、足し合わせでも掛け合わせでもなく……チェバの鉤爪とコースの【水系統魔法】を冪き合わせる、『サイキョーわざ』のコールだった。
「……スコーピオンの外殻、ほんっと硬いんだよね」
握った両手を開く。
掌の中心、そこからしぶきを上げて水が湧き出す。
「普通じゃ関節狙わなきゃ倒せないんだけど……」
溢れんばかりの水は、意思を持ったように掌の上を渦巻き。
指先から伸びる鉤爪へと、絡みつくように覆うと。
「コレなら外殻ごといける!!!」
都合10本、両手に『水の鉤爪』を形成した。
「いっくよー!!」
確信。
ニヤリと笑ったチェバ◦コースが砂を蹴り出す。
一気に距離が詰まる、鋏脚と鉤爪。
やっと体の硬直から復帰したスコーピオン、応戦しようと鋏脚を突き出すが……チェバ◦コースの突撃には間に合わず――――
――――二撃。
「ブッタ切る!!!」
水を纏った10本の鉤爪が、鋏脚を守る外殻に喰らいついた!!!
「うらあアア ア ア ア ア アアアァァ!!!」
キキッギギギイイイイ!!!
スコーピオンが悲鳴をあげる。
あまりの硬さに、鉤爪では傷をつけることすら困難なハズの外殻。
だが今回は、鉤爪を潤わせる水が潤滑剤の役割をなし。
まるでスルスルとファスナーを開くかのように、外殻を難なくカチ割った。
「まだまだアアァ!!」
外殻を突破してしまえば残るは柔らかい内部のみ。
ズブズブと腕までも突っ込むチェバ◦コース。溢れ出る返り血も気にせず鉤爪でザクザクと肉を断ち進め……。
ズウゥゥゥン!!
「おっしゃー! ザマーみろ!!!」
キッ……キシシッ……ッ!!!
ついに腱や筋肉を失った鋏脚は、その自重さえも支えられなくなり。
動きを止めた。
尻尾、右鋏脚と立て続けに武器を失ったデザート・スコーピオン。
痛みと苦痛に悶える、その隙をシンは逃さなかった。
「……まさかあの外殻ごと破るとは。お見事です」
チェバ◦コースの戦う様子を見て呟くシン。
うんうんと頷きつつ、長剣を両手に構えると。
「……では私も」
鋏脚を見据えて叫んだ。
「その鋏脚も頂きます!!」
キシッ!!?
シンの声に反応するスコーピオン。
どこだどこだと眼をギョロギョロ左右に動かし、必死にシンの姿を捜す。
……が、見当たらない。
それもそのハズだ。
「ココですよ」
シンは今、空中にいるのだから。
右鋏脚めがけ、重力に倣って下降の真っ最中なのだから。
シンが足下を見下ろせば、カタパルトのように自身を投げ上げたダンと大盾。
一仕事終えてヤッホーと手を振るチェバ◦コース。
ジッと戦いを傍観する僕。
驚きを隠せないスコーピオン。
そして、着地点には横たわる右鋏脚。
「外殻……普通の突きや斬撃じゃ、威力不足で弾かれちゃいます」
携えた長剣、その柄に両手を掛け。
剣先を真下に向けると。
「けど……発見しましたよ。私でも突破する方法を!!!」
下向きに加速する身体、その勢いを長剣に込めて――――
――――三撃。
「【強突Ⅸ】ォォ!」
右鋏脚の外殻に長剣を突き刺した!!!
ズブリッ!!!
「これでどうですか!!!」
ギギギギシシシシヤアアアアアアア!!!
吸い込まれるかのように外殻を突き破る長剣。
鍔元のギリギリまで刃身が差し込まれる。
ビクビクッ!!!
「……やりました!!」
と同時、数度大きくビクリと跳ねる右鋏脚。
神経をザックリと断ち切ったようだった。
左右鋏脚と尻尾の毒針と自慢の武器を失ったスコーピオン。
砂漠の魔物の頂点に立つ奴も、うちの戦闘職を前にしては敵わなかった。
そんな痛みと苦しみに苛まれるスコーピオンの顔面に、3人が集う。
「トドメだぞ」
「誰が刺しますか?」
「私やる!」
「おう。んじゃ任せた」
「苦しまないようにスパッとしてあげてください」
「りょうかいっ!」
――――そして、四撃。
フーリエ砂漠に1匹の狼魔獣人の遠吠えがこだました。
「……マジか」
……いやー、凄い。
凄いモノを見てしまった。
まさか、あのデザートスコーピオンを本当にたった四撃で。しかも最後のトドメを除けば実質三撃とか。
恐ろしやだ。恐ろしやだよ本当に。
何より驚いたのは、皆それぞれ新しい技を編み出して戦っていたところだ。
【冪乗術Ⅶ】のステータス⁸があるとはいえ……僕が少し足踏みしている間にシンもコースもダンもしっかり成長しているんだ。
実感させられた。
「コレは……マズいな」
マズい。置いてかれる。
このままじゃ。
彼らに負けないくらい、僕も強くならなくちゃ。
頑張ろ。
「……現場からは以上です。計介」
『オッケー。ありがとう計介』
√√√√√√√√√√




