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24-7. 四撃Ⅰ

∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇






場所は変わってフーリエ砂漠。


延々と続く薄黄色の景色の中、真っ直ぐに敷かれた石畳。

王都東門へと繋がる東街道は、今日もフーリエ特産の魚介類を求めて遥々やってきた馬車、満載して王都に向かう馬車が行き交う。



そんな石畳の直線道路から逸れ、砂漠の中につくられた4人分の新しい足跡。



「こうやって先生を交えての魔物狩り、久し振りですね」

「たしかにー」「わんっ!」

「待ってたぞ先生!」

「おぅ。ありがとう」


計介本体に見送られて魔物狩りにやってきたシン・コースとチェバ・ダン、そして僕だ。



ご存知の通り数原計介・本体は療養中なので、残念ながら今日は合同体が出場。影武者かよとシン達には残念がられるかもとは考えていたけど……そんなことなかった。『本物でも合同体でも先生は先生です!』とか、なんだか照れちゃうよね。


コースによると『どっちでもいーよ! どーせ使える機能いっしょだし!』とのこと。

……要は僕の価値って【演算魔法】だけなんですかね。ちょっと心が痛い。

そんでコースの爆弾発言に苦笑しつつもウンウン頷いてたシンとダンも何なんですかね。



【外接円Ⅲ】(サーカムスクライブ)で縛り上げてやろうか。











とまぁ、そんな怖い冗談はさておき。

獲物を捜しつつ4人並んで砂漠を進む。



「歩きづら。……この感覚も懐かしいな」


足を絡めとる不安定な砂地。

地味に無視できない、眩しく輝くサンサン太陽。

いつどこから魔物が現れるか分からない緊張感。


久し振りだ。スリルというか何というか、この感じ悪くない。

やっぱり僕は非戦闘職よりも『戦う数学者』が合ってるのかな。




「さーて。療養後1発目の魔物狩り、最初の獲物は誰かな?」

「どうでしょうかね」


額に手を当てて周囲を見回す。

……魔物の影はまだ無い。


【演算魔法】は準備万端。

腰に差した冒険者のナイフ、いつでも抜ける。

背後の西街道はずいぶん遠くになったし、周囲を気にせず戦える。


……なんだか燃えてきた。




「どこからでも掛かって来い! ……なんちゃって」

「おお、気合い入ってんじゃねえか先生!」

「これは楽しみです」

「んじゃチェバと私もやっちゃうよー!」


僕の気合いに共鳴してか、それとも負けず嫌いが発動したのか。

うちの戦闘狂・コースも砂漠に向かって吠えた。



「おら出てこーい! かかってこいやーッ!」











――――その瞬間。

コースに抱かれていたチェバの耳がピクッと動く。




「っ!? わん!」

「おっ! 来たかなー?」


全身の緑毛を逆立たせるチェバ。

しかしその反応は、コースの叫び声に驚いたものじゃない。




「わんわんッ! わん!」

「おっけおっけー! ウワサどーり!」


砂漠のただ1点に金眼を定めたまま、ひたすら吠えるチェバ。

それを見たコースがニッと笑みを浮かべる。


えっ、噂通り?



「噂通りってどういう――――






コースの意味深発言に尋ねようとした、直後。

チェバの金眼が捉える先――――砂漠がこんもりと盛り上がった。







ズズズズズッ

「「「「っ!?」」」」




地中から音を立てて現れる、巨大な影。


砂を被っていて正体はまだ露わにならない。

それでもひしひしと感じるプレッシャーは、まるで生身でトラックに……いや、それ以上。



「まっ、まさか……」


ダンプカーを横に3台並べたような、体格と重量感。

砂漠で遭遇する、この規模の生物といえば――――ヤツしかいない。



「大当たりですね」

「キタアアアァァァァ!!!」

「一発でご登場じゃねえか!」


興奮するシン達と察しのついた僕に答え合わせをするかのごとく、ヤツが徐々にその正体を露わにする。


全身から流れ落ちる薄黄色の砂、さらされる紫色の外殻。

巨大な顎のように発達した、左右から僕達を狙う鋏脚(ハサミ)

その上から僕達を睨む、3本目の腕とばかりに発達した太い尻尾。

先端には黄緑色の毒液に濡れる毒針。



僕達の進路を塞ぐように、砂漠の蠍――――デザート・スコーピオンが現れた。






「えええぇぇー!」


まさかの今日1発目が砂漠のボス級魔物という。

病み上がりにコイツは重すぎるだろって!



「おいコース! 『噂通り』ってどういう事だよ!」

「んとねー。実は昨日ギルドで『この辺でスコーピオンが大量発生(たいりょーはっせー)してる』って聞いたの!」

「だからよお、折角だから『腕試しに一丁やるか!』って戦うことにしたんだぞ!」

「先生が療養されていた3週間、けっこう私達特訓しましたからね」

「マジかー……」


元からスコーピオン狙いだったとか聞いてないってー。

あと腕試しがボス級魔物って。感覚バグってるよ。


とはいえ、スコーピオンが相手だからって動揺する僕ではないのだ。

スコーピオンとの戦績は2戦2勝だし、右肩は別に壊したって構わない。どうせ合同体だし。

それに……何といったって僕には【演算魔法】がある。




「仕っ方ないなぁ。……【冪乗術Ⅶ】(パワー)・all8 for ens.(アンサンブル・)CalcuLega (カルキュリーガ)!」

「……来ました。ありがとうございます!」

「ああ、この感じ! 待ってたぞ!」

「うおおおおおみなぎるーッ!」


久し振りの【冪乗術Ⅶ】(パワー)。ついでにCalcuLegaのメンバー全員に一斉同時付与だ。

3週間ぶりのステータス強化にシン達も息巻いている。



先生(せんせー)あと合成も!」

「わんッ!」

「はいはい。【合成Ⅲ】(コンポジション)――チェバ+コース!」


続けて合成魔法を発動。

コースの身体にチェバが吸い込まれ、外観に変化が生じる。

黒の狼耳、緑のフサフサ尻尾、鋭い犬歯と鉤爪、そして金の獣眼――――狼魔獣人、チェバ◦コースの出来上がりだ。




「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!!」

「へっ、いつ見てもカッコいいじゃねえか」

「まるで別人のような……惚れ惚れしちゃいます」


力強い雄叫びをあげるチェバ◦コース。

その左右にシンとダンが立ち並び、スコーピオンと正対する。



キシシシシシシシッ!!!


対する紫サソリ、ずっしりと居座って僕達を睨む。

毒々しさをひしひしと感じさせる紫色の甲殻は、砂漠の薄黄色と相まって存在感が一層際立つ。

獲物を見つけた興奮が、カチカチと打ち鳴らす鋏脚(ハサミ)からありありと伝わる。



「『俺らを早く喰おう』ってか。甘ぇぞ!」

「こういうのも何ですが……私達、相当強くなりましたから」

「後悔させたげる!」


紫サソリの威圧にも3人は臆することなく。

彼らは高らかに予告した。






「「「今から『四撃』でブッ倒す!!!」」」






……えっ!?

たった四撃で!?このスコーピオンを!?



先生(せんせい)見ててね!」

「私達、けっこう成長しましたから!」

「見逃すんじゃねえぞ!!」

「えっ、ちょ四撃って――――

「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」


僕に尋ねる隙も与えず、彼らは一言それぞれ言い残すと。

スコーピオンめがけて駆け出してしまった。



「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」




……全く。僕がちょっと足踏みしている間にまた一層頼もしくなっちゃって。


それじゃあ見せてもらおうか。

昔の僕達も相当に苦戦したスコーピオンを、わずか四撃でブッ倒しちゃう姿を。

シン、チェバ◦コース、ダン、特訓の成果を。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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