表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
532/548

24-3-2. 『アーク先生の特別講義① 演算記号3法則Ⅱ』

point③

『演算の記号の"3法則"―2.括り替え』




「結合法則……?」

「そう。交換法則と同じく、+と×にのみ成り立つ性質。それが『結合法則』」


結合法則かぁ。

聞き憶えはあるけど……なんだったっけ。



「正直に言うと……結合法則は、ケースケも知らず知らずのうちに使ってると思うのよね」

「マジ?」

「ええ、さっきの交換法則みたいに。……ちょっと例題で試してみよっか」



するとアークは振り返り、白チョークを走らせる。

黒板に書き記されたのは『 8+9+1 』。至ってシンプルで簡単な数式だ。




「はいケースケ、これ暗算して」

「……」


うわ、シンプルと思いきや地味に面倒だなコレ。

繰り上がりもあるし。



「えー。…………9、1……10……分かった。18」

「正解。やるじゃない」

「数学者舐めんな」


……とか強気言っときながら、実は内心ドキドキでした。

正直まだ暗算には自信ないからな。



「ちなみにケースケ、今どういう順で計算した?」

「ん、それは……先に 9+1=10、あとは8を足して18」

「うんうん。つまり――――こう?」


再び黒板に腕を伸ばし、さっきの数式に何やら書き足すアーク。

黒板の数式が『8+(9+1)』に書き変わる。



「あーそうそう。まさにその順番で」

「どうして? なんで先に9+1からやったの?」

「えっ……」


なんだか凄い剣幕で迫られる。

……何か悪いことしたか僕?



「先生怒らないから正直に」

「えー!」


そう言われるとますます怖くなるじゃんか!

……仕っ方ない、言い訳しよう。




「いやその……本来なら左から順に計算すべきだってのは知ってた。知ってたけど……8+9が面倒でした。むしろ先に9+1=10を片付けた方が計算楽になるので――――

「おめでとう!!」


突如パチパチとアークが拍手を始める。



「……何事?」

「ケースケ、今この瞬間あなたは『結合法則』をマスターしました」


そう言って右手を差し出すアーク。

恐る恐る僕も右手を伸ばすと、机越しに熱い握手を交わされた。


……どうしたアーク。

情緒荒れてない?




「何何何? どういうこと?」

「例題はこれくらいにして、結合法則について説明するわね」


よく分からないが、握った手を離すとアークは落ち着きを取り戻したようで。

再び黒板を向いて白チョークを走らせ、一本の数式を記した。



(a+b)+c = a+(b+c) 、一見なんでもないような等式だ。



「……なんだか当たり前感が凄いけど」

「確かにそうだけど、この式こそが『結合法則』なの。何か気付くかしら?」

「んー」


両辺で違うところと言えば、()の付け方か。

右辺は()で後ろの+から計算させてるし、左辺なんてわざわざ蛇足の()で前の+を強調している。



「……前の+、後ろの+、どっちの+から先に計算してもいいよ』ってこと?」

「その通り。良いじゃない」


そっか。

つまり、さっきの例題『8+9+1』で言えば……本来は8+9からの+1を計算しなきゃいけないところを、9+1からの+8でも構わない、と。



「僕は知らぬ間に結合法則で解いちゃってた、ってワケだな」

「そうね。纏めると、『a+b+c+d+e+…』みたいに+がたくさん並んでいる式では、どの+から計算しても結果は同じ。だから例えば、どのペアを()で()()して先に計算させたとしても結果は変わらない。それが『結合法則』」

「ほぉー……。これが同じく『a×b×c×d×e』でも成り立つってコトか」

「そう!」


成程な。

確かに、-や÷では結合法則が成り立たない。仮に『8-4-2』で結合法則を試すと上手くいかないし。

やはり+と×のみが持つ特別な性質なんだろう。



「……で、コレがアークの持ってる2個目の【演算魔法】、【結合Ⅰ】(アソシエーション)だと」

「ええ。これが無かったらケースケの腕は元通りにならなかったし、傷口も塞げなかったわね」


そうそう。【結合Ⅰ】(アソシエーション)こそが僕のブチ取られた右腕をくっつけた張本人……もとい張本魔法だ。

法則名にあやかった能力は間違いなくチート性能で確定だろう。



おかげ様で僕も助かりました。【演算魔法】、いつもありがとう。











point④

『演算の記号の"3法則"―3.振り分け』




「じゃあさ、アーク。1つ閃いたことがあるんだけど」

「ん? 何でも質問して」


白衣に付いたチョーク粉をパッパッと払うアーク。

その手が止まったところで1つ尋ねてみた。



「アークさ。前に【演算魔法】を全部で3個手に入れた、って言ってたじゃんか」

「ええ」

「もしかして……3個目も同じく、この単元の出身者なのか?」

「おっ、さすがケースケ。分かってるじゃない」


おっ。予想通りだ。



【分配Ⅰ】ディストリビューションだっけ。アークの血を分けてもらったっていう」

「そうそう。あれ結構しんどかったのよ?」


あの時は本当に助かりました。

感謝してもしきれないです。



「で、【分配Ⅰ】ディストリビューションとなると……交換法則、結合法則ときて『分配法則』とか?」

「なーんだ、『分配法則』は知ってたのね。なら説明は不要かしら」

「あ、いや、……分配法則教えてください」

「ずこーっ」



……アークの『ずこーっ』、ちょっと可愛かった。






「で、最後の『分配法則』だけど……これは正直、ケースケの持ってる【展開Ⅶ】(エクスパンジョン)そのものかな」

「ほぅ」

「先に答えを言うと、分配法則とは『+×のペアならば、a×(b+c)=a×b+a×c という形に展開できる』ってこと」

「うんうん」


想像以上に展開そのものだった。



「ただ、分配法則については2個ほど注意点があって」

「おぅ」

「まず1点目。分配法則は+×のペアの他、-×のペアも成り立つ」


おっ!

交換法則と結合法則で迫害され続けた(減算)も遂にスポットライトを浴びられたようだ!



「という事は、もしや÷にも?」

「……いえ。残念ながら」











point⑤

『左分配法則と右分配法則』




「ウソじゃーん!」


日の目を見れなかった÷、残念ながら(減算)の波に乗れず。



「でも、完全に分配法則が成り立たない訳じゃなくて。これが2個目の注意点なんだけど、÷は『半分だけ』成り立つの」

「半分?」

「そう。厳密に言うと、+÷と-÷のペアは『右分配法則』だけ成り立つの。÷cを右から振り分ける、 (a±b)÷c = a÷c±b÷c 、って感じかな」

「あぁー」


右分配は成立して左分配は成立しない、なんだか不思議だけど……確かにその通りになるんだよな。

試しに左分配の a÷(b+c) を計算してみると、(b+c)が丸ごと分母に入っちゃって分配できないのだ。



「へぇー。面白い」

「そうよね」

「『分配法則』なんて当然成り立つだろと思いきや、÷の左分配みたいなイレギュラーが現れるし。……なんか勉強した感が凄い」

「……そう言ってくれるとわたしも嬉しいな」


ポロっと呟いた本音。

それを聞いたアークの顔は、こころなしか紅潮していた。















という事で、これで本日の勉強はお終い。

黒板の文字を消し、アークが白衣を脱ぐ。



「以上が演算記号に関する3法則。交換、結合、そして分配法則ね。理解できた?」

「勿論ですとも」


さすが元・領主家のご令嬢だ。教え方が上手なのもあってスンナリ頭に入ったよ。

むしろアーク先生に色々教えて欲しいな、なんて。



「フフッ、安心したわ。……これで『全然分からない』とか言われたら責任が取れないもんね。勝手に参考書を【交換Ⅰ】(コミュテーション)に出しちゃった事の」

「あー」


その件を気にしてたのか。



「気にしないでくれよ。ってか、逆に参考書を【交換Ⅰ】(コミュテーション)に出してくれなきゃ僕死んでたし」

「……確かに」

「感謝こそすれ、怒りなんてしないさ。そんなんで文句言ったらアキに殺される」

「アキさん(笑)」

「だからさ、アーク。……その代わりと言っちゃなんだけど――――これからも数学、教えてください」

「ええ。もちろん」


そう頷くアークの表情は、詰まっていた何かが取れたようにスッキリしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ