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24-2. ムシャクシャ

自室のある2階から1階に降り、リビングの扉を開く。



「……おはよう」

「ああ、おはよう。ケースケ」


レースカーテン越しの朝陽に柔らかく照らされたリビング、そのド真ん中に正座で陣取るアーク。

その周りを囲うようにククさん達がゴロゴロ寝転がっていた。


まったりした雰囲気、さながら土曜の朝だ。



「早速ウルフ達に癒されてる」

「フフッ。いいでしょ?」


モフモフに囲まれて幸せそうなアーク。

……うん。いいんじゃない?



「……ところで、シン達は?」

「3人とも朝早くから出ていったわ。行先は……」

「いつも通り?」

「ええ。そうね」


そっか、いつも通りの場所か。

となるとシンはクーゴを連れて一緒に灯台だな。お気に入りの穴場スポットで朝の潮風を浴びてるんだろう。

コースとチェバはフーリエ砂漠で魔物狩り。ソロ狩りの時はあまり街から離れないよう言ってあるし大丈夫なハズ。

ダンは朝市で食べ歩き。育ち盛り食べ盛り、今でも十分良い体格がもっとデカくなるんだろうか。


そしてアークはとろけるような表情で狼達をナデナデ。

……朝から皆、好みや趣味を満喫しているようだ。



「今日はノンビリの日か」

「ええ。一昨日と昨日と4人でしっかり魔物狩りしてきたし、今日はオフ。休養日ってところかしら」

「成程。休養日……」


身体が資本ともいうし、戦闘職たるもの身体を休める時間も大事だよな。

……若干1名ほど、休養日の概念を分かってない戦闘狂魔術師がいるみたいですが。



何はともあれ、それぞれ皆それなりに満足した日々を過ごせているのなら何よりだ。

僕の右肩が完全回復した暁には、また5人で一緒にいっぱい動きたいな。














さて。

朝食をコーンフレークと牛乳でパパッと済ませ、右肩を動かさないよう気を付けながら食器を洗い。

ちょっと一息ついたら、今日の作業開始だ。



「それじゃあアーク、CalcuLegaに居るから。何かあったら呼んで」

「ええ。分かった」


ウルフの毛皮に顔をうずめるアークに一声かければ、くぐもった返事が返ってくる。

ククさんに『あとは頼んだ』と目配せして、ひとり作戦会議室・CalcuLegaに入った。



「えーと……コレか」


徐々に様々な色のファイルが揃い始めた資料棚、その中から取り出したのは水色表紙のファイル。

タイトルは『青鬼 蒐集(しゅうしゅう)資料』。

まだページも少なく厚さのないソレを会議机に置き、席に着いた。




「ふぅー……今日こそは何かいい作戦が思いつけば良いんだけど」











――――療養生活。

シン達との狩りには参加できてないし、そもそも家から出ていないので体力はガタ落ちだ。狩りの腕というか、その辺の勘も鈍っているだろう。


ただ、だからといって暇を持て余しているワケじゃない。

身体を動かすことなくできる事、やらなきゃいけない事がある。




――――青鬼との、リベンジマッチ。


突然の乱入からの訳も分からぬまま僕を一発K.O.した青鬼、やられっ放しで済ませる訳にはいかない。今度は僕がボコボコにぶちのめしてやる番だ。

そして何より……右腕の代わりに持っていかれた、()()を取り戻さなければ。




「『参考書』……」


異世界転移して以降、頼る存在も居場所も何もなかった僕に【演算魔法】という力をくれた存在。

『参考書』があったからこそ、今の僕があると言っても過言じゃない。



ただ……持っていかれた今、その在り処は僕が知る由も無い。

もしかしたらもう、魔王の手に渡ってしまったかも。

もしくはどこかに放り捨てられたかも。

もしくはビリビリに破られて……それか燃やされて灰に……。


嫌な展開は想像しようと思えば幾らでもできるが、今の所在は分からない。

ならば青鬼をブッ倒して聞き出して、奪還してやりゃいいのだ。



だからここ最近は毎日、こうやって作戦を考えている。

青鬼と再び遭遇した時に、どう戦えば絶対に勝てるかを。

(きた)る日のために、青鬼を倒す作戦を。
















ということで、頭を悩ますこと2時間。




「あーダメだーっ!」


僕は椅子にもたれかかり、頭を抱えていた。


蒐集資料ファイルをペラペラ捲ってみたり、ステータスプレートを開いてみたり、あれこれ色々考えたものの……結局コレという案は出ず。

白紙だったメモ用紙には箇条書きで案が幾つも書き並んでいるものの、その尽くがバツ印で上書きされている。



「マトモに戦う事すらできないじゃんか!」


こんな状況に陥っているのも、すべて奴の持つ能力が厄介すぎるせい。

アイツは――――『()()()()』持ちだからだ。




……あの時、僕は確実にバリアを張った。奴を向こう側に引き離した。にもかかわらず、奴は僕の右腕をもぎ取られた。

それにアーク曰く、僕が倒れた後もう一度青鬼はバリアの向こう側に転移したらしく。

極め付けは最後のセリフ、『【神出鬼没】(テレポート)』と唱えて姿が消えたそうな。


ここまで分かれば、まず『【神出鬼没】(テレポート)』は瞬間移動の魔法だと見て間違いないだろう。逆にそうじゃなければ説明できない。



「瞬間移動持ちとか……チートじゃんか…………」


思わず弱音が零れる。


……ん、僕が言えた立場かって? 知らねえよ!

チートを以ってしても倒せないんじゃ、相手も確実にチートだろうよ。




「【演算魔法】でも勝てる道が見えないしなー……」


ステータスプレートを開き、もう今日何度目かの【演算魔法】の魔法一覧を表示する。




===【演算魔法】========

【加法術Ⅵ】(アディション)   【減法術Ⅴ】(サブトラクション)

【乗法術Ⅷ】(マルチプリケーション)   【除法術Ⅵ】(ディビジョン)

【冪乗術Ⅶ】(パワー)   【冪根術Ⅶ】(ルート)

【合同Ⅷ】(コングルーエンス)    【相似Ⅶ】(シミラリティ)

【代入Ⅱ】サブスティテューション    【消去Ⅲ】(エリミネーション)

【合成Ⅲ】(コンポジション)    【一次直線Ⅶ】リニア・ファンクション

【二次曲線Ⅳ】パラボリック・ファンクション  【正弦波Ⅲ】サインウェーブ・ファンクション

【定義域Ⅸ】(ドメイン)   【対称Ⅱ】(シンメトリー)

【条件付確率演算Ⅶ】コンディショナル・プロバビリティ

【判別Ⅵ】(ディスクリミナント)    【因数分解Ⅶ】ファクタライゼーション

【展開Ⅶ】(エクスパンジョン)    【共有Ⅶ】(コモン)

【見取Ⅳ】(スケッチ)    【真偽判定Ⅳ】(ジャッジメント)

【乱数Ⅹ】(アトランダム)    【三角交換Ⅱ】(トリ・コミュテート)

【外接円Ⅲ】(サーカムスクライブ)   【内接円Ⅱ】(インスクライブ)

【恒等Ⅱ】(アイデンティティ)    【軌跡Ⅱ】(ローカス)

【集合】(アンサンブル)     【解析】(アナライズ)

【求解】(ソルブ)     【暗唱】(デクラメーション)

【状態操作Ⅷ】ステータス・オペレーション

===========



……『いつの間にか増え過ぎてない?』っていう指摘は置いといて、この中から太刀打ちできそうな魔法をピックアップしてみる。



【合同Ⅷ】(コングルーエンス)で人海戦術?

――アリ。使い方にもよるが、結局何人居ようと屠られて終わりな気がしなくもない。


【冪乗術Ⅶ】(パワー)【冪根術Ⅶ】(ルート)の圧倒的パワープレイ?

――攻撃が当たれば一撃だ。瞬間移動相手に当てられれば。


【消去Ⅲ】(エリミネーション)で透明化して虚を突く?

――割といい線行きそう。だが瞬間移動で距離を取られたら追いつけない。


【外接円Ⅲ】(サーカムスクライブ)で手足を縛る?

――奴の攻撃は抑えられそうだけど、手足縛ったままでも瞬間移動されたら追いつけない。



「ん-……どれももうちょっと足りないんだよな」


良さげに見えて、実はどれもあと1歩足りない。

要は瞬間移動で距離を取られたらお終い、根本的な解決になっていないのだ。






「あー……どうすれば…………ッ!」


身体を動かせないストレスといい、青鬼との戦い方が見いだせないストレスといい。

心にムシャクシャが溜まる。



やり場のない感情に髪をボサボサと掻き乱す――――










ガチャッ!

「っ!?」


ガチャリと勢いよく開け放たれた扉。



「困ってるみたいじゃない」

「……アーク!?」


入ってきたのは、さっきのとろけた表情とは程遠く。

頼もしさに満ち溢れたアークだった。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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