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24-1. 療養

挿絵(By みてみん)

――――栄光の受勲式と青鬼の惨劇、そして奇跡の復活。

あれから今日で2週間が経った。






「……っ」


仰向けに寝転んだ自室のベッド。

カーテンの隙間から漏れる朝陽。

ベッドから立ち上がり、シャーッとカーテンを開く。


すっきりと晴れ渡った青空、早朝のフーリエ港。

帰ってきた漁船と出向く漁船が港を行き交う。

次々に水揚げされる大量の魚、それを買い求める市民。



フーリエは今日も平和だ。




「ふぅーっ……」


眩しい朝陽を浴びつつ、両腕を伸ばす――――



「痛ててっ」


不意に右肩に走る鈍痛。

しまった、つい右腕に力を入れちゃった……。


コキコキッと骨同士が噛み合っていないような、弱い脱臼のような感覚。

肩サポーター代わりに巻いておいた包帯が若干痛みを抑えてくれるものの、それでも辛いモンは辛い。



「……やっぱり完治まではもう少し掛かるか」


王城の回復魔術師さんの言葉を思い出す。


療養期間は今日で丁度折り返し、残り2週間。

無理せず焦らず過ごそう。






∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵










――――あの後の記憶。

僕がはっきりと憶えているのは『あの事件』から半日後、陽も暮れた受勲式の夜。


王城救護室のベッドからだった。




『……うぅっ』

『うおー! 先生(せんせー)起きたー!』

『わん……ッ!』

『やっと起きたか! おい待ってたんだぞ先生!』

『良かった……本当に良かったです!』


瞼を開くと、待ってましたと言わんばかりに僕の顔を覗き込むいつもの顔ぶれ。コースにチェバ、シン、そしてダンだ。

意識を失っている間、僕を看病してくれていたらしい。


まだ若干意識は朦朧としていたけど、彼らの顔を見た時にはすごくホッとしたよ。






その後、救護室の回復魔術師さんが【診断魔法】で僕の身体をくまなくチェック。

と同時並行で、シン達から一部始終を聞かされた。


あの青鬼をアークが撃退したことに驚き。

シン達が必死に止血してくれたことに感謝し。

それでも血が止まらず命の危機にまで迫ったことに背筋を凍らせ。

そして……アークが立て続けに起こした奇跡に耳を疑った。



『という経緯で今に至る、って感じです』

『成程。……中々信じられない』

『俺もだぞ。正直あの時、もう先生は助からねえと思ってた』

『……失礼ながら私も』

『私も私もー! "あーこれ先生(せんせー)ムリかも"って思った!』


みんな正直で何よりです。



『んまーとにかく、先生(せんせー)無事に起きてホント良かったよねー!』

『間違いねえ!』

『あとはアークが元気に目を覚ましてくれれば……』


隣のベッドに視線を移すと、僕と同じくアークが寝かされていた。

僕を助けるために、貧血で倒れるほどまで血を分けてくれて。

それなのに、寝顔はまるでとても幸せそうな……。


責任感が心を締め付ける。



『……すごく申し訳ない』

『分かるぜ、先生の気持ちは。……でもそこは"ありがとう"って言ってやれよ』

『同意見です。その方がアークの苦労も報われますしね』

『そーそー! なんたって命の恩人だもん!』

『あぁ』


確かに。その通りだ。


感謝しなくちゃ。

命を失わなかった奇跡、右腕を失わずに済んだ奇跡、そして何より……奇跡を起こしたアークに。




後でアークが目覚めたら伝えよう。

声が枯れてでも。何度でも。



――――ありがとう、アーク。

本当に。

本当に。











その後。僕の身体チェックを終えた回復魔術師さんから診断結果を教えてもらった。

僕の身体を診た結果、主な症状は2つとのこと。


1つ目、『中度の貧血』。

コレは大量出血した名残の症状だが、アークからの輸血もあって命の危険性はなし。言われた通りしっかり食って寝たらたちまち回復した。


で、問題の2個目が『右肩の関節ゆるみ』。

アークの奇跡で右腕と肩が繋がった。傷口にフタをするかのごとく出血も止まった。……ただし骨や筋肉までは完璧に繋がらなかったようで、元通りの肩関節を取り戻すまでは時間が必要で。




『で、回復魔術師さん。全快まではどのくらい……?』

『そうですね。……全治、1ヶ月ほどでしょう』


この瞬間、僕の1ヶ月の療養生活が始まったのでした。











それからは毎日、右肩にサポーターのごとく包帯を巻いての療養生活だ。

……あ、でもずっとベッドで寝たままってワケじゃない。『なるべく右腕に力を入れないようにすれば、コップを持ったり本を読んだり箸で鉄火丼を食べたり程度の日常生活はOK』とのご判断を回復魔術師さんから頂けた。

コレは嬉しい。


となると、療養生活を過ごすならやっぱり住み慣れた自宅がいいよなー……。



ということで、受勲式の数日後。

僕達は轟の運転するフーリエ行き輸客馬車に乗り込み、王都を出発。

4日間の長旅を経てフーリエの自宅に帰還した。



『『『『『ただいまー!』』』』』

『『『『『よくぞ戻られた!』』』』』


ガチャリと玄関の扉を開くと、家の中からゾロゾロと出迎えにやってくる子犬姿のウルフ隊。

自宅に居残らせていた留守番組だ。



『クーゴ、皆、お留守番ありがとな。お疲れ様』

『『『『『ハッ!』』』』』

『勇者殿こそ御無事で!』


んー、まぁ無事かと言われると色々あったけど……なにより命を失う事もなく、右腕を失う事もなく皆帰ってこれたもんな。

無事か。

無事だな。


『おぅ。ありがとなクーゴ』

『ハッ!』




そこからは安静に過ごし、今日でやっと1ヶ月の療養期間も折り返し。

こうして今に至っているのだ。











∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝






「うー、腹減ったな」


……さて、そろそろ朝食の時間だ。

リビングに向かおう。

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
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