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23-1. 受勲

――――午前8時50分。



王城4階、廊下。

朝陽に照らされた赤い絨毯。

その一番奥に聳える、このティマクス王城の中でで最も大きな扉――――謁見の間。



「さて……もう直ぐだ」


左右に兵士が控える大扉を前に、期待と緊張の表情を浮かべた僕達5人と1匹が並び立っていた。




「……ついに来たのね。この日が」

「あー早く始まんないかなー!」

「わんわんッ!」

「信じられませんよ。こんな辺境の子供が、まさか国王様に謁見だなんて」

「村のジイさまが知ったら卒倒すんぞ!」


そう。ついに今日は受勲式当日!

王都で過ごした数日間もあっという間に過ぎ、とうとうこの瞬間がやってきたのだ!



「このドアのあっち側にはもう国王様いんのー?」

「ええ。きっとわたし達を待ってくれてるわ」

「うう……相手は国王様、粗相をしでかさないか心配です」

「そんな頭抱える必要ねえぞ! シンらしくいつも通り振舞っときゃいいんだ」

「ダンの言う通りだな。大丈夫だって、それこそ急に長剣を抜いて国王に突きつけたりしなければ」

「絶対しませんから!?」


腰に差した長剣の柄を押さえてシンが叫ぶ。

……あ、そうそう。今日のドレスコードは『狩りに出掛けるいつものスタイル』。どうも国王様が「戦う英雄達の姿を見たい」らしく、僕はいつも通りの白衣を羽織った姿。コースは水色のローブだ。

戦闘職の3人なんてそれぞれ長剣・大盾・銀槍まで携えたフル装備です。


晴れ着を着たりおめかししたりも悪くないけど、やっぱりコッチの方が着慣れてて落ち着くよね。






「勇者様方、あと10分です」

「「「「「はい」」」」」


扉の横に控える兵士が懐時計を見ながら告げる。

受勲式は9時スタート、早めに準備してきたのもあって本番まではまだ余裕がある。



……それにしても10分もあるのか。結構長いな。

変な事を考えて僕にまで折角だからこの2週間を振り返りながら時間を潰してみようか。




∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝




思えば、この受勲式本番を迎えるまで色々あったよな。


僕達が『受勲式やるから来てね』との手紙を受け取ったのが僅か2週間ちょい前。

そこからゴーゴ・ナーゴ・クーゴが裏切って、逆に奴らを二重スパイに仕立て上げて、フーリエ灯台で夜な夜なスパイ合戦して、からのククさん達に乗って王都へ急行して、それから第二軍団戦。

第二軍団戦では狼魔獣人チェバ◦コースが爆誕したり、久し振りの同級生と共闘したり、【恒等Ⅱ】(アイデンティティ)が中々なチート性能を見せたりと、皆で協力してなんとか王都全滅の危機を免れたんだった。

その後も同級生と再会して。同窓会して。『図形と方程式』勉強して。そして昨日のバリーの大捕り物して。


たった2週間でこんなにも立て続けのイベントがあった訳だ。

けっこう大変だったけど……そこそこ楽しかったよ。




≧≧≧≧≧≧≧≧≧≧






「勇者様方、あと1分を切りました」

「「「「「はい」」」」」


おっと、気付けば良い具合に時間が潰れていた。

本番は間近だ。




「まもなく扉を開きます。……皆様、御準備の程は」

「「「「「大丈夫です」」」」」


5人揃って頷く。

心配性のシンも覚悟を決めたのか、力強く頷いていた。


……よし。

それじゃあ、行こうか――――受勲式。




「お願いします」

「「ハッ!」」


そう合図を送ると、左右2人の兵士は大扉に手を掛けた。




「ケースケ・カズハラ様御一行の御謁見ェェェン!!」


王城中に響く兵士の声。

軋み音を上げる大扉。

隙間から差し込む、眩しいくらいの光。



――――受勲式が始まった。











厳粛な雰囲気に包まれた、大広間。

床全面の赤絨毯、壁や天井いっぱいに施された装飾、色とりどりのステンドグラス……まるで西洋の教会のよう。


大広間の左にはズラリと並ぶ、きらびやかなドレスやスーツに身を包んだ……王国貴族。

同じく右には、黒スーツを纏って僕達を見定めるような堅い表情の……大臣と領主。



「(あっ、トラスホームさんだー!)」

「(本当です。手を振って下さってますね)」

「(なあアーク。あの人ってテイラー領主の……)」

「(そう。わたしの……お父様)」


そんな中の見知った顔に小さく会釈を返しつつ、視線を正面に向けると……3段ほど高くなった上に並ぶ、玉座。

堂々と座る国王と王妃、そして王女が僕達を温かく見つめていた。




「(……行くよ皆)」


コース達だけに聞こえるよう小さく呟き、足並みを揃えて謁見の間に足を踏み入れる。


1歩、2歩、3歩、4歩、5歩……段差の下で立ち止まり。

片膝をついてしゃがむと、ゆっくり顔を上げた。











「……数原計介、国王様のご招待を受けて仲間と共に参上しました」

「うむ。カズハラ・ケースケ殿、そしてその仲間の皆々。此度は我が招待に、よくぞ遥々お越し下さった」

「「「「ハッ!」」」」



国王の低くて深い声。

まるで腹の底まで震わせる大太鼓のような、重さを感じる。




「今回、招待したのは他でもない。国民を、財産を、そして王国を幾度となく救ってくれたカズハラ殿、そして皆々への感謝と労い……これを現国王の私、マーガン・ティマクスが代表して示すものである」

「「「「ハッ!」」」」


感謝と労いって……なんだか照れちゃうな。




「カズハラ殿の功績は決して容易くはなく……もはや、ティマクス王国の建国史にないと言っても過言ではない。それだけの苦労も重ねてきたであろう。その努力と結果に勲章を授けたい」

「「「「ハッ!」」」」


……勲章かぁ。どんな物が貰えるんだろう。

メダルかバッジか、もしくは盾とか?

いずれにしても、フーリエの作戦会議室CalcuLegaに飾ったらカッコよさそうだな。夢が膨らむ。




「……と、その前にまず功績披露としよう。この場に居る貴族、領主の中にはカズハラ殿の功績を把握せぬ者も居るやもしれぬ。トラスホーム、今一度読み上げよ」

「ハッ」


すると、国王の呼出を受けたトラスホームさんが左側からヒョイと飛び出す。

懐から手紙を取り出すと、僕達を見てニッコリと微笑みながら誇らしげに読み上げた。




「ご紹介に預かりました、フーリエ領主のトラスホーム・フーリエです。僭越ながらケースケ様方の功績を披露させて頂きます。

(ひとつ)。王都にて、エメラルドウルフの討伐。

 (ふたつ)。港町・フーリエにて、第三軍団と名乗る魔王軍の殲滅。

 三。港町・フーリエにて、サファイアホエールの討伐。

 四。王都にて、第二軍団と名乗る魔王軍の殲滅」


トラスホームの言葉を聞きつつ、また色々と思い出す。

……そういえばあったよな、エメラルドウルフ討伐。『草原の首領(ドン)』とか呼ばれていたみたいだけど、チャチャっと倒しちゃったんだっけ。

フーリエ包囲事件の第三軍団戦も今となっちゃ懐かしい。大暴れする赤鬼の討伐は大変だったけど、当時敵だったウルフ隊は今じゃ味方。出会いとは不思議なモンです。

そしてサファイアホエール討伐に数日前の第二軍団戦、あれは本当にギリギリだった。【正弦波Ⅲ】サインウェーブ・ファンクション【恒等】(アイデンティティ)が何よりも強かったよ。


……こうしてみると、僕達って割と頑張ってたんだな。

我ながらしみじみ感じてしまった。




「これらはいずれも、ケースケ様方が僅か5人で打ち倒した、もしくは戦勝に大きく貢献したものになります。……以上」

「うむ。有難うトラスホーム、下がってよい」

「ハッ」


そして読み上げを終えたトラスホームさんが、手紙を懐にしまって列の中に戻ると。

謁見の間じゅうの視線は国王に移った。



「この通り、彼らは多大な功績を残した。もはや災害ともいえる特大魔物の難をはらい、攻勢極まりつつある魔王軍の襲撃を退けた、この結果は勲章を授けるに相応しい。……貴族院、領主、大臣、異議あらば今唱えよ」


チラチラと謁見の間を見回し、出席者と目を合わせる国王。

口は開く者は誰ひとり居なかった。






「宜しい。では予定通り、勲章授与を執り行おう」

「「「「「ハッ」」」」」


国王が一度玉座に座り直し、低い声で宣言する。



さて、ついにやってきました。

受勲の瞬間だ。





「ステータスプレートを開かれよ」


……えっ、ステータスプレートを? 使うの? 今ここで?

聞き間違えたのかと疑いつつも、とりあえずステータスプレートを開いてみる。



「(なぁアーク、ステータスプレート出せばいいの?)」

「(そう。ケースケは知らないかもだけど、勲章はわたし達のステータスプレートに刻み込まれるの)」


えっ、あ、そうだったんだ。知らなかった。

『CalcuLegaに飾る』という夢は颯爽と潰えてしまったけど……まぁいっか。




そして、片膝をついた僕達の前には5枚のステータスプレートが並んだ。




「「「「「…………」」」」」



静かだった謁見の間が、更に静けさを増す。


物音の1つでも許されないかのような、厳粛な空気。

唾をのむ音、心拍音すらも謁見の間に響きかねない静寂に、自然と緊張感を覚える。




その静寂を破って――――国王は、受勲の儀を執り行った。










「……カズハラ・ケースケ。シン・セイグェン。コース・ヨーグェン。ダン・セーセッツ。そしてアーク・テイラー。其方達の挙げた功績を認め、国王マーガン・ティマクスの名に於いて【護国守従御勲章】ごこくしゅじゅうのごくんしょうを授与する」






国王が文言を唱えた……その直後、僕達のステータスプレートに変化が。

白文字で表示されるSkill欄、そこに新たな項目が追加されたのだ。



===Status========

数原計介 17歳 男 Lv.14

(ジョブ):数学者 状態:普通

HP  88/88

MP  81/81

ATK 4

DEF 20

INT 27

MND 25

===Skill========

【自動通訳】【MP回復強化Ⅲ】

【演算魔法】【護国守従御勲章】ごこくしゅじゅうのごくんしょう

===========




へぇ、護国守従の御勲章かぁ。

なんか変わった名前だな。


ごこくしゅじゅうのごくんしょう……。

ごこくしゅじゅう……ごくんしょう……。

ごっくしじゅうご……くんしょう?!



まぁいいや。

読み方はともかく漢字で書いた字面は凄くカッコいいしね。


コレが『この世界』で頑張った証……大事にしよう。




「ケースケ殿、皆、問題なくステータスプレートに刻み込まれただろうか?」

「「「「「ハッ!」」」」」

「ならば良し。……受勲式は以上である。下がって良い」

「「「「「ハッ!!!」」」」」




こうして、僕達の受勲式は終わったのでした。















さてと。


受勲式も終え、『この世界』での功績が認められた証の勲章も手に入れた。これからもこの調子でどんな魔物も、どんな魔王軍もブッ倒して行くぞ。待ってろ魔王!




現在の服装は、麻の服に白衣。

重要物(キーアイテム)は、数学の参考書。

(ジョブ)は、数学者。


目的は魔王の討伐。




準備は整った。さぁ、行きますか!

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更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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