23-8. クラス会Ⅰ
「……それでは皆、飲み物は行き渡ったかい?」
「オッケーだよ! 勇太くん!」
「了解した」
人数分のジョッキが机の端まで行き渡り、神谷が椅子から立ち上がる。
「今日は突然の招集にもよらず、集まってくれてありがとう。楽しい夜を過ごそう」
ジョッキを持ち上げる神谷。
皆も掲げると。
「……では、第二軍団戦の勝利と久し振りの再会を祝して――――乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
神谷の音頭で一斉に乾杯。
机の上をジョッキが舞い、盛大にクラス会が始まった。
「ゴクッ、ゴクッ…………」
果汁100%のりんごジュースを呷り、渇いた喉を潤す。
「……くはーッ! うま!!」
「良い飲みっぷりだ。数原君」
「いやー、しっかりお腹空かせて来たからね」
「それは良い。店主にも食事を沢山出してくれと頼んでおいた甲斐がある」
おっ! マジか!
さっすが鉄人クラス委員、抜かりない。
「間もなく食事も揃い始めるだろうし、遠慮なく食べてくれたまえ。」
「おぅ! ……食べ過ぎて皆の分が無くなっちゃうかもな」
「ハハハ、君はそんな大食漢ではなかろう。まずは拳児を超えてから言うのだな」
「あん?」
神谷の幼馴染、【格闘戦士】の強羅が反応した。柔道や空手でぐんぐん試合を勝ち進めるガチムチ格闘男とあって、見た目通り食う量も異常だ。
……アイツを超えるなんて無理です。
「え。勇太、俺も好きなだけ食っていいの?」
「拳児は少し遠慮したまえ。君が本気を出すと王国が飢饉になる」
「そんなには食わねえって!」
「「「「「「ハハハハ!!!」」」」」
と、ここで店員さんが沢山のお皿を持ってやって来た。
「お待たせしました! ポテトフライでーす!」
「「「「「来たあァァ!!!」」」」」
飢える高校生、ミラーボールのように目が輝く。
机に続々と並べられる山盛りポテトフライ、嬉しいケチャップ付き。
しかもソレが4皿もだ!
「熱いので火傷に気を付けてくださいねー!」
「「「「「うおおお!!!」」」」」
湯気が立ち上るホカホカのポテトにテンション爆上げ。
店員さんの注意も何人の耳に入っただろうか。
「ではごゆっくりどうぞー!」
「「「「「ありがとうございまーす!!!」」」」」
店員さんが机から離れるや否や、争奪戦のごとくポテトの山に全員の手が伸びる。
クラス会の本番が始まった。
その後も机には次々とピザやシーザーサラダや鶏唐揚げと料理が運ばれ、机の上には大皿小皿とジョッキが隙間なく並ぶ。
もう置き場所がないほどだ。
……しかし、そこは僕達も現役食べ盛りの高校生。17、18歳の胃袋はまだまだ限界に程遠く、皿がどんどん平らげられていく。
「空いたお皿頂きまーす!」
「「「「「お願いします!」」」」」
「あ、追加でサンドイッチを8つ!」
「あとりんごジュース3つも!」
「かしこまりましたー!」
「おまたせしました! 照り焼きチキンピザが4枚とりんごジュース7です!」
「「おっ!」」
「「「来た来た!」」」
「「「ありがとうございます!」」」
空き皿が回収された――――と思いきや、入れ替わりでまた新しい料理が到着。
ひっきりなしだ。
そんな中で鶏唐揚げをほおばりながら周囲に耳を傾けると、色々な話題がテーブルのそこかしこで繰り広げられている。
『この世界』に来る前の話、来た後の話。仕事の話、プライベートの話。戦闘職の話、非戦闘職の話。笑い話、失敗談。
皆も本当に様々な経験をしてきたんだなぁ……。
――――なんて事を考えていると、背後から声が掛かる。
「おい何黙ってんだよ計介」
「ん?」
ポンポンと肩を叩かれ、振り向くと――――
「……アキ!!」
「よぉ」
僕の一番の大親友、アキが立っていた!
うおおおお! アキ!!
「久し振り! 会いたかったよー」
「そこまで久し振りでもねぇわ。CalcuLegaにもお邪魔したし、結構会ってんだろ」
そう言いながら、空席になっていた隣の椅子に座るアキ。
「……まぁとにかく計介、元気そうで何よりだぜ」
「おかげ様で」
「神谷からも聞いたが……この前もまた一暴れしてたみてぇだな」
あー、第二軍団戦のことね。
「シンくんやらアークさん達と一緒に相当チャンチャンバラバラやったとか」
「やったやった。……とはいえ、僕は後衛なんでそこまで活躍してないけど」
「いいんだよ、【演算魔法】の支援部隊は後衛で。つーかそもそも俺ら非戦闘職だろうが」
「確かに」
「無理すんじゃねぇよ全く……」
すると、僅かな沈黙を挟んで――――アキは笑顔を真剣な表情に切り替えた。
「……だがまぁ、聞いたぜ。お前らが戦ってくれなきゃ、俺達は軒並み眠り殺されてたって」
「あぁ」
軍団長・ギガモスがバラ撒いた死鱗粉【虫の息】だ。
アレは本当にギリギリだった。もし狼魔獣人チェバ◦コースの『メグミの雨』が無かったら、って考えると今でも身震いする。
「お前達が戦ってくれたお陰で、今の俺達も王都も在るって訳か……」
「まぁ」
「……今までクソほどお前を救う側だったのに、まさかお前に救われる時が来るとはな」
そして、アキは恥ずかしそうに俯いた。
「…………助かったぜ、計介。ありがとな」
下を見つめたまま呟くアキ。
僕と目を合わせてはくれなかった……けど、気持ちはしっかり伝わったよ。
「いえいえ」
やれやれ。うちのアキさんは素直じゃないんだから。
「……俺はお前のモンじゃねぇッつーの!」
「なんで分かるんだよ!」
それからもアキと仲良く食事と会話を楽しんでいると。
「いやー……まさか、異世界転移した先でクラス会を開くなんてな」
「俺もだ。2日前くらい前? に急に決まったもんだからビックリだぜ」
「そうだったんだ――――
アキの話に頷きつつ、りんごジュースのジョッキに口をつけようとした矢先……背後から乱入者が現れた。
「数原くん秋内くん! お邪魔するのデス!」
「急に出てきてメンゴメンゴ」
「ん゛っ!?」
噴き出しそうになるのを必死で耐えつつ振り返ると……そこには2人の同士が。
「おぉ、加冶くん! 轟!」
「お疲れ様なのデス!」
「おつカレーライス!」
【鍛冶職人】の老け顔オッサン高校生・加冶くん、それと【輸客商人】のポッチャリ乗り物博士さん・轟くんだ。
僕とアキ含め、非戦闘職の4人が揃った。
「いやー、こうやって非戦闘職の面々が集結するだなんて珍しいのデス!」
「それな。しかも王都でとか」
「確かに」
アキは出張が多くて割と王都には居ないらしいし、轟くんも馬車で王都⇔フーリエを往復している。僕と加冶くんに至ってはフーリエ拠点組、そもそも王都に居ない。
その加冶くんも今回はどうやら鍛冶工房の納品で王都に来ていたみたいだし、凄いタイミングだ。
「なんつー確率の低さ。凄ぇ事も起こるモンだ」
「間違いなくレア。スーパーレアだわ」
「計介お前本当ゲーム好きだよな」
「きっとドクターイエローもビックリの低確率なのデス!」
「んだそりゃ。轟にしか分かんねぇよ」
「インド人もビックリですな」
「加冶は相変わらず古ぃんだよなぁ」
個性の強いメンバーにツッコミの集中砲火で応戦するアキ。
……かくいうアキもなんだかんだで楽しそうだ。
「ヨッシャー! 今晩は非戦闘職組で楽しむのデス!」
「……悪くねぇ。楽しもうぜ!」
「イエーイ!」
「トゥギャザーしようぜ!」
「「「古い!」」」
――――と、非戦闘職の4人で盛り上がっていると。
「エイチ・イー・ワイ!」
同級生の談笑に紛れ、テーブルの奥の方からとある男子の声が聞こえてきた。
「エイチ・イー・ワイ! エイチ・イー・ワイ!」
段々と近づいてくる声。
「エイチ・イー・ワイ! エイチ・イー・ワイ!」
そして、耳に届く声が明瞭に聞こえてきた時……声は、僕達の背後で止まった。
「エイチ・イー・ワイッ!」
僕達が振り返ると、そこには――――
「hey!」
「「「「お……お前は!」」」」
髪は長く、染め上げた金髪。
その上に被る、黒のキャップ。
焦げ茶色に色の入った眼鏡。
身に纏った、目がチカチカするようなブルー、イエロー、ピンクの服。
そして、語尾に合わせて突き出す手には特徴的な三本指。
「ozk! 急遽ォ 参上ォ 俺登場ォ!」
「おぉ! 君も来ていたのデスね!」
「ナウいヤング! イカしてるー!」
「そういやお前、全然見てなかったじゃねぇか」
「超久し振りじゃんか!」
非戦闘職の4人の中にズケズケと入ってくる彼。
……だが、僕達が断る気はない。断る理由もない。
なぜならば――――彼も僕達と同類項だからだ。
「plz! 俺も同じィ 仲間同士ィ 輪に入れて欲しィ!」
「待ってたぜ」
「モチロンなのデス!」
「「「「「小作くん!」」」」
個性派揃いの非戦闘職組の輪が、また1人個性の強い男を取り込む。
「thx! 俺も非戦闘職ゥ 小作ゥ よろしくゥ!」
5人目の非戦闘職。
うちのクラスのラッパーにして【魔具職人】の小作くんが輪に加わった!
……どうやらコレはまた面白い事になりそうだ。




