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23-9. 食事会

受勲式当日まで、あと2日。

夕方の18:20。


人通りの減った夕暮れの王都東門通りを、お腹を空かせた5人と1匹が歩いていた。



「うおー! ご飯だご飯! いっぱい食べるぞー!」

「わんッ!」

「私も食べます!」

「俺も!」


もちろん僕達です。


今夜は待ちに待った神谷お誘いの夕食会だ!


神谷とは数日前の対第二軍団戦で共闘したけど、それまではご無沙汰していた。

色々心配をかけたハズだし、この機会にいっちょ『僕も結構頑張ってるよ』って姿を見せてあげようか。



「僕達の土産話も色々貯まってるし。何から神谷に話そうかなー」

「私もカミヤさんにはご恩がありますし。沢山お話がしたいです!」


あぁ、そっか。シンにとっちゃ神谷は剣術の師匠だもんな。

テイラー迷宮(ダンジョン)合宿のかたわら、シンが神谷から教わった『突き』。その時手に入れた【強突】こそが、今やシンの必殺の一撃になっている。



「へえ。そんなに仲が良いのね、シンとカミヤさん」

「はい! カミヤさん直伝の【強突】、今も欠かさず鍛えているとご報告して……それにいつか一度、お手合わせを願いたいものです!」

「おおーカッコいー!」

「いいじゃない!」


師匠と弟子対決か。悪くない。

……そうなったら僕はどっちを応援しようかな。



「……けどよおシン、危ねえから居酒屋ん中では剣は抜くなよ」

「しませんって。ダンは私を何だと思ってるんですか……」

「そーそー! まちがっても人間はヤッちゃダメだよー!」

「しませんから!」


いやそれ普通に殺人です。絶対やめてね。



「私が人を殺める訳ないじゃないですか! ……戦闘狂(コース)はともかく」

失礼(しつれー)な! 私だって人間はヤんないもん!」

「本当ですか?」

「……うん」


なんだその微妙な返答は!? キッパリ答えてくれよ!

意味深すぎるじゃんか。



「……けどまぁ、もしシンが暴れたりコースが暴れたりした時には頼んだぞ。ダン」

「居酒屋の他のお客さんを守ってね」

「任せとけ! 市民の平和は俺が守るぞ!」


おぉぉ、さすが大盾使い。

頼もしいです。






とまぁ、そんな話をしているうちに気付けば目的地はすぐソコ。

暗くなり始めた通りに灯る『居酒屋 箱髭』の看板が見えてきた。



「見えてきました!」

「あそこが例のお店ね」

「ねーねー先生(せんせー)、お店の前に誰か立ってる!」

「……あっ、本当だ」


コースの言う通り、彼は店の入口で本に目を落としながら佇んでいた。


看板の光に反射する銀縁の眼鏡。

ピシッと決めた髪。

腰に提げた鞘入りの刀。

そして全身に纏った、光り輝く優等生のオーラ……間違いない。



「来たな、数原君!」

「おぅ。神谷!」


我らが誇る鉄人クラス委員、神谷だ!




「スマンスマン。待った?」

「いや。……寧ろ、今日君達を呼び出したのは私だ。私が君達を待たねば礼儀を欠かす」

「相変わらず硬派だねー」


さすがは古風なお家の息子さんだ。



「……にしてもだ、数原君。君がまさか18時半丁度、遅刻せずに来るとは驚きだ」

「でしょ。数学者舐めんな」

「頭でも打ったのかい?」

「黙っとけ」


ちゃんと僕だって成長してるんです。

……心配性でせっかちのシンにケツを叩かれまくってたのは秘密だけど。



「カミヤさん! また会えて嬉しいです!」

「おお、シン君。私も嬉しいよ」


抱きつかんばかりの勢いで神谷に駆け寄るシン。

……まるで伯父さんと甥っ子みたいだ。



「剣の鍛錬はどうかい?」

「順調です! カミヤさんのお陰様で!」

「ハハッ、何よりだ。……ダン君とコースさんも元気にしていたかい?」

(ちょー)ー元気!」

「勿論だぞ!」

「うむ、良かった」


すると、神谷の視線は僕……の隣に立つアークへ。



「それと……アークさん、でしたか?」

「ええ。よろしくね」

「此方こそ何卒(なにとぞ)。数原君がお世話になっていたようで、感謝申し上げます」

「いえいえ、わたしの方こそ。ケースケが居たから……」

「後で様々、お話をお聞かせ願いたい」

「ええ。わたしも色々教えてほしいしね」


シン達とは異なり、神谷もアークも大人の挨拶。まるで伯父さん伯母さんを見てるみたいだ。

……まぁそれもそうだよね。かたや厳格な家系の子息、かたや領主のご令嬢だし。











とまぁ、一通り挨拶を終えれば早速食事会だ。

僕ももうお腹が減ってきたしな。



「さて数原君、立ち話もなんだし中へ入ろうか。待たせているし」

「おぅ」


神谷を先頭に暖簾を潜り、威勢の良いお出迎えを受ける。



「「「いらっしゃいませ!」」」

「何名様で?」

「予約していた神谷と申します」

「ありがとうございます! 準備できてますので一番奥の席どうぞ!」


忙しなく動く店員さんとすれ違いながら通路を進む。

レジ前を通り、カウンター席の横を左に曲がる。



「受勲式も近づいて忙しいだろうに、わざわざ時間を作ってくれてありがとう。感謝するよ」

「いえいえ」


こちらこそご飯に誘ってくれて嬉しいよ。




「……でだ、数原君。実は、先に君に1つ謝らねばならない事がある」

「ん?」


厨房の角を右に曲がりながら、神谷が振り返る。



「謝る事?」

「ああ。……元々私と君達だけの食事会だった筈が、どこからか嗅ぎつけた奴が居てな。どうしてもと言うから、押し負けて急遽参加させることとしたのだよ」

「ほぅ」

「予め数原君に許可を取るべきだったが、事後報告となったこと申し訳なく思っている。……良いだろうか?」


ハハハッ、全く。

考え過ぎだよ。



「ダメな訳ないじゃんか」

「……済まない。ありがとう」

「いえいえ、皆でワイワイご飯食べよう。……で、飛び入り参加者とは一体?」

「それは席に着くまでの秘密だ」

「成程」


……誰だろうかな、飛び入り参加者って。



頑固で有名な神谷が押し負ける相手というと……幼馴染トリオの可合と強羅かな?

神谷も可合・強羅が相手じゃ簡単には断れないハズ。本命だ。


しかし対抗馬で僕一番の大親友・アキも捨てがたい。アキ居ると良いな。アキなら来てくれてるハズ。アキに久し振りに会いたい。


で、小穴は轟くん。輸客馬車で何かとお世話になってるし、ワンチャン居るかも。

大穴は……加冶くんで(笑)。




「数原君。この柱を右に曲がった先が予約席だ」

「おぅ」


っと、飛び入り参加者ダービーの予想が出揃ったところで結果発表だ!

さーて、誰が居るかな――――











「おっ来た! 数原くん!」

「待ってたぜ!」

「おっ、可合! 強羅!」


真っ先に目に入ったのは、やはり神谷の幼馴染・可合と強羅。

本命が当たった。




「数原くん定刻到着なのデス!」

「轟くん居たんだ!」


続いて目に入るポッチャリ馬車運転士の轟くん。

小穴も当たった。




「ちゃんと集合時間に着くなんて。驚きモモの木山椒の木ですね!」

「お前フーリエに居たんじゃなかったのかよ。……そして古い!」


からのオッサン高校生鍛冶職人も発見。

まさかの大穴も当たってしまった。






「……5分前集合ッつってんだろうが。遅ぇよ計介」

「アキ!!!」


そして、茶髪茶眼の男の子も発見。

やっぱりアキもいた! 嬉しい!!






――――いや、それだけじゃない。


「「「「数原お疲れー!」」」」

「「「「久し振りー!」」」」


他にも盾本、長田、矢野口、森、火村、草津、飼塚、呼川……いっぱいいる。


4人掛けのテーブルを5台6台と連結し、所狭しと椅子を並べて座る彼ら。

あと6箇所の空席を設けて、僕達を待ってくれていた。




「……神谷」

「何だい」

「まさかコレ……異世界転移してきた同級生が揃っちゃったの?」

「その通り。ほぼ全員だ」

「まさかコレ、食事会じゃなくて――――クラス会になっちゃった!?」

「その通り! 私達が異世界転移して以来……初めてのクラス会だ!!!」

「「「「「イエーイ!!!」」」」」





どうやら今晩は楽しくなりそうだ。


想像していたより何倍も、いや何乗も。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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