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23-10. 図形と方程式Ⅵ

ガガガガガガガガッ!!!

「ヤバい……ヤバいじゃんか!!」


10mほどの高さから徐々に降下する天井。

頭上から撒き散らされる軋み音と砂埃が焦りと恐怖を一層かき立てる。



「出口は、隠れ場所は、逃げ道は…………」


分かりきってはいるが、グルグルと部屋を見回しても逃げ場隠れ場など無い。窓や扉といった脱出口もあるハズがない。

このままだと僕も黒箱もペシャンコ。



「どうすれば……どうすればっ!」


必死に生き延びる策を考えるが……そもそも、僕に出来る事は初めから一択だった。




=≠=≒≠==≒≒≠=

   最期ノ問題

≠≒=≒=≠≠=≒≠=


焦る僕に向かって、淡々と画面にメッセージを映し出す黒箱。



「……そうだった」


解ければ脱出。解けなければ死。

天井に潰される前に問題を解いて脱出する……それこそが僕に突きつけられた唯一の選択肢だった。



=≠=≒≠==≒≒≠=

    解ケ

≠≒=≒=≠≠=≒≠=



「……分かった」


端的な指示に応えると、黒箱さんのタッチパネルは最期の問題へと移った。











Point⑪

『縦横しかない世界で"暴れ回る点"を手懐けよ』




=≠=≒≠==≒≒≠=

(4,-4)ニ立チ、ワタシヲ置ケ

君トワタシノ中点ガ脱出口ヲ示ス

┏           ┓

 脱出ヲ以ッテ解答トスル

┗           ┛

        

≠≒=≒=≠≠=≒≠=


ガガガガと振動する天井の下、ありったけの集中力を掻き集めて問題文を読み込む。



「つまり……(4,-4)に立って、黒箱を置いて、僕と黒箱との中点を求めれば良いのか」


きっと、この中点の座標にボタンなりレバーなり何か仕掛けが隠されているんだろう。中点とは1:1の内分点、内分点の座標の求め方ならPoint⑤で学習済。これなら直ぐに解けるハズだ。



「……よし。やろう」


天井も徐々に迫っている。時間は無い。

取り掛かろう。






「(4,-4)……ココだな」


問題文のとおり、床の格子模様を数えて(4,-4)の位置に立つ。

壁際ギリギリの点だ。


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┼┼┼┼╂┼●┼┼┼●┼

┼┼┼┼╂●┼┼┼┼┼●

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┼┼┼┼╂●┼┼┼┼┼●

┼┼┼┼╂┼●┼┼┼●┼

┿┿┿┿╋┿┿●●●┿┿

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  \┼╂┼┼┼┼┼┼┼

   \╂┼┼┼★┼┼┼



「で、黒箱さんを床に置く」


膝を曲げ、足下に黒箱さんをコトッと置き。

手を放した――――




「動いた……!」


と同時、氷上滑走のように床をツルツルと動き出す黒箱さん。その姿は正しく平行移動。

……ってか、タイヤも何もついてないのにどうやって動いているんだ……。




「……あっ」


なんて事を考えながらも黒箱さんを眼で追っていると、その動きがピタッと止まった。

僕から見て、丁度フラフープの右端の点。座標で言うと……。


「(7,3)か……」


┼┼┼┼╂┼┼●●●┼┼

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┼┼┼┼╂●┼┼┼┼┼■

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┿┿┿┿╋┿┿●●●┿┿

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  \┼╂┼┼┼┼┼┼┼

   \╂┼┼┼★┼┼┼



となれば、あとは(4,-4)と(7,3)の中点の座標を計算するだけ。ソコに脱出の鍵はある!


「x座標は (4+7)/2 だから……」


俯いてボソボソと呟きながら暗算を行う。

中点のx座標は (4+7)/2 、つまり11/2、小数で表せば5.5。

y座標も同様に計算すれば、 (-4+3)/2 で……-0.5だ!



「つまり答えは……!」


暗算で導き出した答えを整理し、顔を上げると――――




┼┼┼┼╂┼┼●●●┼┼

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┼┼┼┼╂■┼┼┼┼┼●

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┼┼┼┼╂┼●┼┼┼●┼

┿┿┿┿╋┿┿●●●┿┿

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  \┼╂┼┼┼┼┼┼┼

   \╂┼┼┼★┼┼┼


フラフープの右側、(4,6)に居たハズの黒箱が――――居ない。



「…………あっ、居た!」


いや、違う。フラフープの左側、(1,3)だ!

というか――――フラフープに沿ってグルグルと動き回ってるじゃんか!




「待て待て! 動くなよ黒箱さん!」


動いたら黒箱さんの座標が分からないじゃんか! そんなんでどうやって中点の座標を求めろって言うんだよ!



「止まれって! 止まれっての!」


なんとか制止するが……僕の声に全く耳を貸さない黒箱さん。焦る僕を煽るかのように、フラフープ沿いに何度も何度も円を描き続ける。




「クソッ、駄目だ…………」


止まってくれなきゃ、中点の座標を求められない……。

その間にも天井はガガガガと下降を続け、部屋の高さは半分ほどまで迫っている。



「クソッ、どうすれば……っ!」


このままじゃ押し潰されて死……。

マズい! マズいぞ!




ヤバいヤバいヤバいヤバい――――











――――あっ、そうか。



「そうだそうだ」


コレ、わざわざ黒箱さんに止まってもらう必要なかったな。

勘違いしてた。

黒箱さんがフラフープ沿いを、『 (x-4)²+(y-3)²=9 』上を回っているという事が分かれば十分だったんだよ。


ソレさえ分かっていれば――――



「中点の『軌跡』が求められるから」






∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇



軌跡――――それは、とある『動く点』が動いた()()()()()()()()()()()()()だ。


今までに解いた問題では、点は全部止まっていた。2点間の距離を求める時も、線対称な点を求める時も、点と直線の距離を求める時も。

だから、点の居場所を『座標』で表すことが出来た。


しかし、今回は動き回っている。動き回っているから点の居場所を『座標』では表せない。

では、どうやって点の居場所を表現するか?



――――そんな時には、『点の動く道筋』で表せばいい。


動き回る点をじっと見続けて、点がどんな動きをするかを眺める。線状だったり、円状だったり、はたまた放物線状だったり。


座標の代わりに、道筋で点の居場所を表す。

それこそが『軌跡』なのだ。




√√√√√√√√√√






だからつまり……この問題は、『中点の座標』を求めるんじゃなかった。


「『中点の軌跡』を求める問題だ」











Point⑫

『縦横しかない世界に"軌跡"を灯せ』




中点の軌跡を求める、ソレさえ分かれば後は早い。

天井も刻々と近づいているし、すぐ取り掛かろう。




「まずは黒箱と中点の座標……適当でいっか。黒箱を(X,Y)、中点を(x,y)にしよう」


こうやって文字を置くと、図形的な条件から3本の連立方程式を立てられる。


第一に『 (X-4)²+(Y-3)²=9 』。黒箱がフラフープの円上を動く、という軌跡の方程式だ。

第二に『 x=(4+X)/2 』。僕と黒箱の座標から求めた、中点のx座標だ。

第三に『 y=(-4+Y)/2) 』。同様にy座標だ。



「となると……次は3本の方程式からXとYを消去すれば良いな」


そうすれば、残されるのはxとy。ソレこそが中点(x,y)の動く軌跡の方程式となるのだ。



では、この3本の連立方程式を解こう。

第二・第三の方程式を次のように式変形する。

 X=2x-4

 Y=2y+4

出来た式を第一の方程式に代入、XとYを消去する。あとは式を計算して整理するだけだ。

 {(2x-4)-4}² + {(2y+4)-3}² =9

 (2x-8)² + (2y+1)² = 9    ←( )を外して計算

 4(x-4)² + 4(y+½)² = 9   ←( )内を2で因数分解

 (x-4)² + (y+½)² = 9/4   ←両辺を4で除算

 (x-4)² + (y+½)² = (3/2)²



「……できた」


そして、計算結果が出た。

中点(x,y)が動くのは、方程式『 (x-4)²+(y+½)²=(3/2)² 』を満たす所。つまり――――




「中点の軌跡は――――半径3/2、中心(4,-½)の円!」


そしてコレこそが脱出口だ!!

夢中で中点の軌跡へと駆け寄り、床にへばりついて脱出口を探した。



「……何かある!!」


よーく床を見てみると、中心点(4,-½)を囲むように薄っすらと円が引かれていた。格子模様につられて目には入らなかったけど……触ってみると明らかに凹凸があった。

しかも、床をコンコンと叩いて返ってくる音は明らかに空洞。



中点の軌跡が示した円、()()()()()()()()いる。

確定だ。




ソレが分かれば、すべき事は1つ。

自然と身体は動いた。



「行っけェェェ!!!」


すぐさま立ち上がり、右足に力を籠めて思いっきり踏み抜いた。
















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┿┿┿┿╋┿┿   ┿┿

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   \╂┼┼┼★┼┼┼






スポッ!

「開いた!!!」




円形の蓋が抜け、真っ白な密室だった部屋に空いた1つの穴。

その穴からは眩しいほどの光が穴から差し込み、部屋中を覆い尽くした。


ここに飛び込めば脱出できる!




「……痛っ!」


と、頭を襲う鈍い痛み。

そのまま僕を押し潰すかのように脳天を押さえつけられる。



「……天井が!!」


ついに下降を続ける天井が僕の身長までも到達していた。

余裕はもう無い。


……けど、この部屋に思い残すことも無い。




「僕の勝ちだ」


そう一言呟き、希望の光の中へと飛び込ん――――











おっと、ちょっと待て待て。

1個だけ思い残すことがあった。




「お前も一緒に行くぞ」


動き回る黒箱を、右手でグワッと掴み上げると。




「脱出だァァァ!!!」



今度こそ――――黒箱と一緒に、希望の光へと飛び込んだ。


























「お疲れさま、ケースケ。よく頑張ったね」






「……はっ!?」


参考書を読み終えたと同時、タイミングを狙ったかのように背後から声が掛かった。




「あ、アーク!?」


視線を参考書から背後に向ければ、そこにはアークが立っていた。

……全然気づかなかった。ってか、アークが部屋に入ってきたことすら知らなかったんだけど。



「いつから部屋に居たんだよ……」

「うーん、10分くらいかな?」

「……マジ?」

「ええ。ケースケを呼ぼうと何回ノックしても返事が無くって……試しにドアを開けてみたら、鍵が掛かってなくて。そのままこっそり失礼しちゃった」


……そこまでされても気付かなかった僕自身が恐ろしい。



「まあ、ケースケ相当熱心に勉強してたもんね。わたしの物音に気付かないくらい集中してたのかしら」

「……ごめん、全然気が付かなかった」

「いえいえ。勉強に集中できるなら何よりだしね」


確かに思いっきり『図形と方程式の脱出劇』に読み耽っていたし。

もともと僕自身は集中力の無い方だけど、今日はかなり集中していたんだろう。きっと。








あぁ、そうそう。1つ、アーク達に伝えることがあったんだ。

折角だし今ここでアークに話しておこう。



「アーク、ちょっと聞きたいんだけど」

「何?」

「明日の夜、空いてる? 神谷から『5人で是非来て』ってお誘いされてて」


話の内容は、さっき神谷から届いた手紙の件。

明日の夜に開かれる神谷プレゼンツの夕食会だ。



「いいじゃない! 行く!」

「オッケー。分かった」


やっぱり僕と神谷のサシ食事会も悪くないけど、やっぱり人数は多い方が話も広がるし楽しいもんな。



「ちなみにこれ、シン・コース・ダンの3人には伝えてあるの?」

「いや、まだ」

「それなら今から伝えてくるわ。……ケースケはまだ勉強の続き、あるんでしょ?」

「おぅ」


そうそう、まだ残ってるんだよね。毎回恒例・最後のとっておき、お楽しみの練習問題だ。

ここはアークのお言葉に甘える事にしよう。



「それじゃシン達によろしく。明日の18:30、居酒屋『箱髭』って」

「分かったわ。任せて」


そうお願いすると、アークは部屋を出ていった。






「いやはや……まさか背後に立たれていたとは」


いつからアークが背後に立ってたのかは謎だけど、まぁいいや。



とにかく『図形と方程式』の解説ページは終了したワケだし、残すは練習問題A、Bの全20問。

全部解いてマスターして、ついでに新たな【演算魔法】も手に入れちゃいますか!

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
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小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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[良い点] 動く点P問題出ましたね〜。 私はこの問題が苦手でいつも、点P止まりやがれ〜!と心の中で叫んでいましたが、脱出までのストーリーも面白くて良かったです! ……ほんと、この小説にもっと早く出会い…
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