23-12. 図形と方程式Ⅳ
少しずつ受勲式本番も近付き、受勲式まであと3日。
午前9:00。
いつも通り王城の食堂で朝食を頂いた僕達は、今朝のメニューも美味しかったと満足しながら自室へと帰ってきました。
「ふぅー……」
自室に入り、ベッドに腰掛けてボーっとする。
食後の休憩だ。
チュンチュン
「……ん?」
カーテンの開いた窓から外を眺めてみれば、2羽の雀が窓の手摺に遊びに来ていた。
嘴をパクパクさせながら手摺を左右に動き回っている。
「……何してんだろ」
何かを探しているような素振りだけど……何を考えてるんだろうな。
けどまぁ、残念ながら僕の国語は壊滅的なのでこういう時の雀の心情を問われても分かりません。ましてや人間の心情さえもサッパリだ。
……けどまぁ、なんだか朝からノホホンと癒されたので良しとしよう。
平和で何よりです。
その後もしばらく窓際に留まる雀をボンヤリ眺めていると、コンコンと扉がノックされた。
「ケースケ様、いらっしゃいますでしょうか」
「あ、はい居まーす!」
「お手紙が届いておりますのでお持ちしました」
「今行きます!」
扉の先に居たのは王城の使用人さん、どうやら僕宛の手紙が届いたとのこと。
僕に手紙が来るなんて、誰から何の用だろう。
そんな事を考えながらも使用人さんから手紙を受け取ると……封筒には『神谷』と差出人の名前が書かれていた。
「神谷……。あぁ、成程」
そういえば神谷との用があった。前々から誘われていたサシの夕食会だ。
『準備出来たら連絡する』って言ってたし、その案内に違いない。
「さてさてー」
胸を躍らせつつ、椅子に座って封筒を開封。
三つ折りの手紙を開いた。
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数原君
神谷勇太
夕食会のご案内
拝啓 新緑の候、数原君におかれましてはますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
さて、先日申し上げていた食事会の件につきまして、以下のとおり開催することとしました。至近でのお知らせとなり大変申し訳ございませんが、ご参集くださいますよう何卒お願い申し上げます。
敬具
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「……相変わらず堅苦しいなおい」
手紙を開いた途端、文章を読まずにも伝わる鋼のような文面。
そして書き出しの『拝啓』。思わず笑ってしまった。
同級生に送る手紙のレベルじゃないというか、神谷らしさ全開というか。
まぁソレは置いといて、ココまでは前置き。大事なのはここからだ。
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記
・とき 受勲式2日前、18:30
・ところ 居酒屋 箱髭(王都東地区)
なお、シン様・コース様・ダン様・アーク様も大歓迎です。お誘い合わせの上、皆様でお越し下さい。
以上
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「……成程」
受勲式2日前、つまり明日の夜6時に集合とのことだ。
神谷が選んだお店、居酒屋・箱髭ってのは……聞いた事ある、ってか1度行ったな。大衆感溢れる居心地の良いお店だったと憶えてるぞ。
ナイスチョイスじゃんか神谷、流石は我らの誇る鉄人クラス委員さんです。
「……ん?」
あと、気になったのが最後の一文。
神谷は『サシで食事』って言ってたけど……皆で行っていいの? 気変わりしたのかな。
まぁ、2人で食事よりは大人数の方が盛り上がるし、折角なので皆で突撃してしまおうか。
「さてー……」
明日の夕食会の件はいいとして、次の考え事だ。
今日は何をしようかー。
昨日はシン達と皆で狩りに出向き、それなりに魔物狩りで身体を動かした。てな訳で今日は休息日としたんだけど……それにしては暇だ。
「んー……」
神谷の手紙を封筒に戻し、机の上に投げ置く――――
その時、机上のある物と目が合った。
「……ん」
ソレは四角くて。
厚みがあって。
青くて。
そして、そこそこ重さのある――――本。
「参考書……」
そう。他でもなく数学の参考書だった。
一昨日に勉強したそのまんま、ページが開きっぱなしの参考書に……僕の視線は引き付けられてしまっていた。
「……やるか」
と同時に、今日の僕のやる事は決まった。
「さてと」
そうと決まれば、早速数学の勉強に取り掛かろう。
部屋の照明を点け、手元を明るくする。
改めて椅子に座り直して机と対面。
参考書・計算用紙・ペンは一昨日のまま机の上に設置済。準備オッケーだ。
「やる単元も分かってるからな」
今日のやる単元はわざわざ目次を見なくても分かる。『図形と方程式(その2)』、前回の続きだ。
開きっぱなしだったこの見開きから1枚ページを捲れば、もうソコは『図形と方程式(その2)』の解説ページが広がっている。
2回にわたる『図形と方程式』、ここからが折返し後半戦だ。
「よし……行きますか」
小さく呟いて気持ちを入れ、解説ページに進んだ。
●図形と方程式(その2)
〜前回までのあらすじ〜
ふと気がつくと、僕は見知らぬ白い立方体形状の部屋に閉じ込められていた。扉も窓もなく脱出の手立ては見つからないが……気になるのは部屋に置かれた『黒箱』。続々と数学の謎解きを出題してくる『黒箱』、コレに答えれば脱出への道が見えてくるんだろうか……。
部屋からの脱出を試みるため、部屋に描かれたx-y座標を駆使して黒箱の問題に答え続ける僕。
突然鋼鉄の板が天井から降ってきて部屋を二分したり、ソレに巻き込まれて黒箱がギロチンよろしく二分されたりとハプニングもあったが……それでも僕は黒箱の言う通りに問題を解き続けた――――
ガガガガッ
「動いた……!」
問題を解き終えると、部屋を切り分けていた鋼鉄の板が軋む。
まるで元いた天井に戻っていくかのように、ゆっくりと上がっていく。
「……あっちに何かあるのか?」
板の裾から徐々に見えてくる、二分された部屋の向こう側。
もしかしたら……今の間に、何か部屋に変化が起きていたりして?
そんな期待を抱きつつも、やがて僕の身長ほどまで板が上昇すると部屋の全容が見えてきた。
「……フラフープ?」
部屋の向こう側にあったのは、格子模様の床に放り出された黒箱の片割れと……壁に立て掛けられた黒いフラフープ。
しかも巨大。よく見るサイズとはかけ離れた、直径数メートルものの大道芸人サイズだ。
「……何だアレ。超大きいな」
圧倒的な存在感に、引かれるようにフラフープに近寄る――――
=≠=≒≠==≒≒≠=
待テ
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
「……ッ!?」
ピコッと切り替わる黒箱の画面、僕に何かを訴えかける。
何だ? また何かが襲って……? それともあのフラフープは罠……!?
あらゆる可能性に身構える。
「何だ? どうした黒箱!?」
神経を尖らせつつも黒箱の画面を見つめると……表示が変わった。
=≠=≒≠==≒≒≠=
フラフープノ前ニマズ
コノ箱ヲ元ニ戻セ
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
「……あっ、はい」
どうやら『待て』は、フラフープより先にギロチンされた黒箱自身からなんとかしてくれのことだった。
……嫉妬されちゃったかな。ごめんね黒箱。
「済まん済まん。……コレだな」
若干機嫌を損ねてしまった黒箱に謝りつつ、切断された黒箱の片割れを拾い上げる。
……けど、コレどうやって直すんだろう。見たところ外側を覆うパネルから内側の配線から基板から全部スッパリ切断されちゃってるし。
切断面を向かい合わせて直ったら楽なんだけど、こんな精密機器じゃそんな簡単にいくハズが――――
「……うお」
まさかの簡単だった。
磁石のように切断面がピタッと吸い付き、切断されたとは思えない見た目に。まるで元通りだ。
=≠=≒≠==≒≒≠=
直ッタ
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
……どうやらコレで良いみたいです。
よかったよかった。
=≠=≒≠==≒≒≠=
アリガト
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
からの感謝の意。
……いえいえ。どういたしまして。
=≠=≒≠==≒≒≠=
フラフープヲ持テ
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
そして急に命令口調。
……ツンデレなのかな?
まぁいいや。
とりあえず問題を解かなきゃ先には進めないんだし、黒箱様のいう通りに動こう。
Point⑦
『縦横しかない世界に"曲線美"を創造せよ』
「フラフープ持ったよ。で、どうすんの?」
黒箱に言われた通りに左手でフラフープを持ち上げ、右手の黒箱に問いかける。
……結構重い。
=≠=≒≠==≒≒≠=
原点ニ立テ
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
両手でフープと黒箱を持ったまま、原点に移動した。
=≠=≒≠==≒≒≠=
投ゲ置ケ
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
フープをポイッと投げ置いた。
=≠=≒≠==≒≒≠=
完璧
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
褒められた。
ありがとうございます。
で、床に広がるx-y平面の現状はこんな感じになったぞ。
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「随分デカいな」
黒い真ん丸のフラフープが内側で原点を囲っているような形だ。
黒箱曰く、フラフープの置き方はコレで完璧らしい。
――――すると、ココで黒箱が次の問題を映し出した。
=≠=≒≠==≒≒≠=
フラフープガ示ス円ノ方程式ハ
┏ ┓
┗ ┛
消 確
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
「円を方程式で示せ、か」
今度の問題は直線の方程式じゃなく、『円の方程式』とのこと。まさにフラフープそのものな問題だ。
解答欄がキー入力から手書きスタイルになっているけど……まぁ解ければ一緒だ。
それじゃあ、解いて行こう。
「えーと、円の方程式は…………」
――――直線という図形がx-y平面上では『y=ax+b』という方程式で表せたように、円という図形にも方程式が存在する。その基本となるテンプレートがこれだ。
『x²+y² = r²』
2乗と2乗の和が2乗と、シンプルなこの方程式。実はコレ1本で『原点を中心に半径rの円』という意味を表現できる。
Point①で学んだ三平方の定理『(2点間の距離) = √x²+y²』から、(2点間の距離)を半径 r に書き換えて両辺2乗すれば導き出せるのだ――――
「……つまり、このテンプレートを使って方程式を作ると…………」
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┿●┿┿╋┿┿●┿┿┿┿
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┼┼●┼╂┼●┼┼┼┼┼
┼┼┼●●●┼┼┼┼┼┼
┼┼┼┼╂┼┼┼┼┼┼┼
このフラフープは中心が原点(0,0)で、x軸とy軸とは±3の位置で交差している。
という事は、半径3。
「あとはコレをさっきのテンプレートの式に代入すればオッケーだから……」
頭の中に円の方程式のテンプレートを呼び出す。
右辺のrに半径 r=3 を代入して、2乗を計算する。
作った答えを、黒箱のタッチパネルに指で書き写す。
「……イコール、9、よし。確定!」
そして、最後に確定ボタンをタップした。
=≠=≒≠==≒≒≠=
フラフープガ示ス円ノ方程式ハ
┏ ┓
x²+y² = 9 正解
┗ ┛
消 確
≠≒=≒=≠≠=≒≠=
ピンポン
「よしっ!」
画面に『正解』の文字が現れ、正解のサウンドが流れる。
……一発正解、調子良いぞ。
今ならどんな問題でも解ける気がする!
「よしよし。黒箱、早速次の問題を――――
――――と、少し浮かれていると。
見覚えのある黒箱のメッセージに……僕は、鳥肌を立たせた。
=≠=≒≠==≒≒≠=
上ヲ見ヨ
≠≒=≒=≠≠=≒≠=




